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組織を強くし、大軍を退けたイスラム新リーダーの「エモい結束」とは

胸アツ戦略図鑑 逆転の戦いから学ぶビジネス教養
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十字軍の遠征とは、西洋で起こった宗教対立がきっかけの大戦争です。十字軍は多くの軍勢で遠征に臨みましたが、イスラム側との戦いに破れ、結果的に大失敗に終わってしまいます。

イスラム側は、なぜ大軍を退けられたのでしょうか。それには「エモい結束」があったとされています。

この記事では、現在にも大きな遺恨を残している十字軍の遠征を、戦略がテーマのビジネス書「胸アツ戦略図鑑 逆転の戦いから学ぶビジネス書」よりご紹介します。ぜひ最後まで読んで、バラバラだった組織を結束させた手腕を知り、ビジネスや人間関係に活かしてみてください。

異教徒から聖地をとりかえすための戦い

聖地エルサレムの奪還からはじまった十字軍の遠征をみていきましょう。

大成功となった第1回十字軍遠征

日本で鎌倉幕府が始まるか始まらないかくらいの頃、中世の地中海世界では、ビザンツ帝国が君臨していました。
しかし、イスラム圏で生まれたセルジューク朝に苦しめられることになります。セルジューク朝の勢いは凄まじく、キリスト教の聖地エルサレムも奪われてしまいました

ビザンツ帝国の皇帝はヨーロッパ中にSOSを送りました。「同じキリスト教を信じる仲間たち!力を貸してくれ!」と。

このSOSに、キリスト教世界のトップであるローマ教皇が反応します。「聖地エルサレムを異教徒から取り戻そう!」と、各国に大号令をかけたのです。

ヨーロッパ諸国は異教徒から聖地を取り返すという大義に燃えます。胸に十字の印をつけた「十字軍」は、1096年、セルジューク朝の領土へと遠征しました。

このときのセルジューク朝は内紛が起きており、十字軍以外からも侵攻されている状態でした。また、もうひとつの強大なイスラム王朝であるファーティマ朝ともまとまることができない状態。この状況にもたすけられ、十字軍は物資不足に苦しめられつつも、エルサレムの攻略に成功。

エルサレム王国を含む4つの十字軍国家を建国し、大成功をおさめました。

大失敗となった第2回十字軍遠征

かつて栄華を誇ったセルジューク朝は衰退。しかしセルジューク朝の軍人であるザンギーが、十字軍と戦うべくザンギー朝を建国しました。

1144年、ザンギー朝により十字軍の建国した都市であるエデッサが陥落。キリスト国家は衝撃を受けました。

ところが、むしろ大盛り上がりとなります。神学者たちが「もう1度十字軍の結成を!」と呼びかけると、第1回十字軍をはるかに上回る熱狂を見せました。

フランス国王ルイ7世と、神聖ローマ皇帝コンラート3世が国王として初の十字軍を組織します。ほかにもテンプル騎士団やヨハネ騎士団といった騎士団が参加。第2回十字軍は期待度が上がりにあがり、「激アツ」の状態です。

しかし、この遠征は大失敗。何も成果がないまま撤退を余儀なくされます。

遠征の目的が政治的な思惑によって各国バラバラだったこと、ビザンツ帝国の皇帝が代替わりしていたことが原因のようです。

一報で、イスラム側はこの戦いで大きな勢いをつけました

新リーダーとしてあらわれたサラディンが、アイユーブ朝を建国します。サラディンは、キリスト教との戦いを「聖戦(ジハード)」と定義しました。これは、十字軍と同様にこの戦いを「宗教戦争」と見なしたということです。

これにより、イスラム側の結束力が高まりました。いままでは内紛などもあり、争いごとが多かったイスラム側ですが、「宗教戦争」になったことにより、全員の敵がキリスト教であることが認識されたのです。

たとえると、それまで個々で勝手なプレーをしていたスポーツ強豪校の選手たちが、「ライバル校を倒す!」という共通の目的を持ったようなことです。

これによりイスラム世界は1つにまとまります。テンプル・ヨハネ騎士団など強力な軍を倒し、エルサレム王国を攻略。聖地の侵攻に成功したのです。

最強の王たちが集った第3回十字軍の大苦戦

熱狂的に盛り上がった第2回十字軍遠征の大失敗。聖地エルサレムの陥落。焦ったローマ教皇はただちに十字軍の再結成を呼びかけました

絶対に失敗できない大一番に集まったのは、神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世(赤髭王)・フランス王フィリップ2世(尊厳王)・イングランド王リチャード1世(獅子心王)など。当時の「ヨーロッパオールスター軍団」です。

人々の期待が集まりますが、第3回十字軍遠征も大苦戦

遠征中、フリードリヒ1世が川で溺れて事故死すると、パニックになり気落ちした神聖ローマ帝国軍は大半が帰国してしまいます。

残るフィリップ2世とリチャード1世は、イスラム勢力に奪われた都市を奪還しました。しかし、遠征以前から非常に仲が悪かったフランスとイングランドの対立が表面化し、フィリップ2世も帰国することに。

イングランドのリチャード1世のみが残されました。

絶望的な状況のなか、リチャード1世は単独でサラディンと1年以上の死闘を繰り広げます。そして両者ともに疲弊し、休戦条約を結ぶことになりました

イスラムと十字軍のその後

休戦条約を結んだ第3回十字軍遠征のその後をみていきましょう。

イスラム世界の英雄

サラディンは軍人として高い能力を誇るだけでなく、イスラムとキリスト教徒の双方から慈悲高い高潔な人物だと評価されています。

サラディンはエルサレムを譲りはしませんでしたが、キリスト教とイスラム教徒の双方に聖地巡礼を認めたからです。またエルサレムのキリスト教徒も保護しています。

反対に第1回十字軍はエルサレム王国を建国したときに、イスラム教徒の通行を認めるどころか虐殺して回ったという話もあるほどです。

サラディンは現代でもイスラム世界の英雄として知られています。

十字軍の敗北

第3回十字軍の撤退後も大規模な十字軍の派遣がありました。しかしイスラム勢力は強大さを増していき、十字軍は劣勢になっていきます。

イスラム世界でも、アイユーブ朝はサラディンの死後に衰退。新たにマムルーク朝が成立して勢力を拡大していきます。

エルサレム王国は、このマムルーク朝によって滅亡し、十字軍は完全に敗北しました。

まとめ

バラバラの勢力をひとつにまとめたサラディン。利害の一致ではまとまらなくても「宗教戦争」という名目でまとまり、相手を苦しめました

決して利害では表せられない、「エモい結束」が、結果的に大きな力になったのです。このことから、利害関係だけで行動するのではなく、ときには感情に訴えかけることも、人間関係では大切になるといえるでしょう。

戦略がテーマのビジネス書「胸アツ戦略図鑑 逆転の戦いから学ぶビジネス書」では、古代から現代に至るまでに起きた戦いの戦略を多数紹介しています。先人たちの生み出した戦略やその生きた道筋を知り、不安を勇気に変えるためにも、ぜひ本書を手に取ってみてください。


胸アツ戦略図鑑 逆転の戦いから学ぶビジネス教養 著者 齊藤颯人/監修 本郷和人・本村凌二

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