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ゴールを疑う! 生き残る営業になるために必要なたった1つのこと/向井俊介@Shun_Mukai0718

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SPINやMEDDICなどのテクニックよりも大切な、現代に求められる営業マインドとは。IT業界で20年間、中小企業から大企業までB2Bセールス領域に従事してきた向井俊介氏が、これからの時代に営業で成果を出すために重要なポイントについて語ります。

営業活動の原理原則

広義の営業活動

広義の意味で、営業活動とは継続的に利益を創出する活動です。つまり会社はみな営業活動をしていることになります。ビジネスサイドは売上を上げて利益を稼ごうとするし、コーポレイトサイドは業務を効率化させてコストを削減することで利益を上げる。つまり、営業職のみなさんは「営業活動をしている方たちに営業をしている」という大前提を忘れてはいけません。

現場に行けば行くほど、「目の前の業務をなんとかしたい」という話になります。よりミス無く、効率的に。人の手を介さずに、ペーパーレスで。ここ最近のIT業界、特にSaaSと呼ばれる企業ではそういう業務を改善しますとファーストメッセージに掲げマーケティングもしているし、営業もしています。現場の人と話をすればするほど「この業務がこんな簡単になります」という話になる。けれど、業務を改善することは利益を創出するための手段であり、手段にばかりに話を持っていくと売れないという話を今日はしていきます。みなさんのお客さん全員が、利益を創出するために業務をしているという大前提を忘れないでください。みなさんの売り物や営業活動が、買い手の利益に貢献できないといけません。

営業職による営業活動とは

「営業職による」営業活動の原理原則とは何か。1つは、約束した日までに、約束した金額で、確実に受注するということです。もう1つは、約束した日までに、お金を回収すること。経理の人が請求書を出してくれて、お客さんから入金があったら、会計の人でクローズされ管理されていることに慣れている人は、この原理原則を腹の中に改めて落としておいてください。なぜなら、営業職の営業活動とは、売上を伸ばすことで利益を創出することだからです。利益とは、お金です。注文書が何百枚あってもお金が入ってこなかったら、利益になりません。だからお金の回収は、営業の大事な活動です。この2つがワンセットです。これが営業職の営業活動の原理原則です。

つまり、営業は受注とお金の回収に付随すること全部が仕事です。これが昨今、The Model型による「分業」になっています。分業が是になっていて、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、ファイナンスとチームが別れている。役割が分担されていること自体はわるくないのですが、分業という概念だとそれぞれの職務領域をやればいいという状態になりがちなので、衝突や歪みの問題が起きています。たとえばインサイドセールスとったアポイントに対し、フィールドセールスは「もっといいアポとってくれよ」となり、インサイドセールスは「パスしたんだから決めてよ」という他責思考が発生してしまいます。そこで営業として具体的にどうしていくことが大事かというと、職務領域に閉ざすのではなく、営業活動全てを自分ごと化することです。僕がマネジメントをしていて苦労した部分でもあります。

会社の活動は、利益を出すことです。利益を出し続けることで、社員の昇級やインセンティブに還元できます。フィールドセールスからすると、マーケとインサイドが効率的・機能的に動いてくれればくれるほど、自分のところにいいパスが入ってくるようになる。ホットリードばかりになる。そのためには自分が一番お客さんの情報を持っているのだから、マーケやインサイドに自分からフィードバックを持っていく。自分の仕事は営業活動なのだと思っていないとできないことです。一連の営業活動全てを自分ごと化できるかということが大事です。ですが、残念ながらほとんどの営業はそれを意識せずに、それぞれのKPIをもとに来るものをさばくだけになってしまっている。その姿勢では、この先の営業としての市場価値は上がらないのではと思います。

営業活動の落とし穴

落とし穴① 課題

営業に求められる能力についてお話する前に、ほとんどの営業が直面する3つの落とし穴についてお話します。

まず、1つ目の落とし穴は課題です。営業活動をするなかで、まず言われるのが「課題の確認」です。けれど、“課題”と“問題”の違い、“ゴール”と“ニーズ”の違いを正しく理解できているでしょうか。

すべからくどの事業会社もゴールを持っています。上図のTo Beという部分です。具体的にどう取り組みをしますとか、達成しますとか、こういう事業を立ち上げますとか、これくらいの利益を出しますとか。このゴールを裏返した「達成できていない状況」が問題です。問題は状態です。

ゴールを達成できていないという問題に対して、営業がまずしないといけないのは、 As Isの確認です。「あなた方は今その問題を解決するために、何をしていますか」「何をしようとしているんですか」「それはなぜですか」ということを確認しないといけません。As Isを確認したうえで、では何をしたらいいのかというギャップの部分が課題なのです。

ほとんど営業がこの違いを認識できていません。問題を聞いたときに、それを課題だと思い込んでしまうから、すぐに解決するスイッチが入って、商品を売りにいってしまう。As Isを確認し、あぶりだした課題の裏返しがニーズです。ニーズとゴール、問題と課題は違うことを概念として頭に叩き込んでおく必要があります。

落とし穴② ヒアリング

問題と課題を混同しているのは、お客さんも同じです。ですから、問題と課題の言葉の定義が曖昧なまま売り手と買い手が会話をしています。こんな状態で、うまくいくわけがありません。

なので、みなさんは少なくとも課題と問題は違うとわかったうえで、お客さんはそれを混同しているという視点で話をしていかないと、お客さんのなかでは課題だと思っていても、実は違うことに永遠に気が付くことができません。その状態ではみなさんが提案したものが経済合理的に本当にいいものなのか、会社の事業として目指しているところにアプローチできるものなのかが、お客さんとして判断ができず、結果売れません。

お客さん側で課題が自覚できていないという前提がどうして成り立つのか。それはもしお客さん側で課題が言語化できていて、あと何段上がればゴールが達成できるのかという明確なニーズを持っていたら、解決のためにベンダーにリーチしにいくはずだからです。つまり、このご時世ならみなさんのホームページを見たりして、何らか問い合わせが入ってくるはずです。そうなっていないということは、お客さんのなかで課題がわかっていないか、優先順位がすごく低いかのどちらかです。なので、課題をわからせてあげつつ優先順位を上げにいく必要があります。

昔はそんなことをする必要がありませんでした。僕がITの業界に入った20年前はデジタイゼーション(Digitization)の時代、つまりITに置き換えることで生産性をあげることを目的としたものでした。パソコンがようやく1人1台配布され、メールアドレスが個人に割り振られはじめた時代です。世の中全体がどんどんIT化していこうという時代だったので、業界を問わず買い手側が何をしたらいいのかが明確だったのです。加えて検索すれば情報が出てくるという仕組みもなかったので、お付き合いのある企業の担当営業の人に「こんなことやりたいんだけど何かできる?」などと相談して商売が始まっていました。よってこの時代は会食や接待、足繁く通う、という活動によって築かれるリレーションがアドバンテージを生んでいました。今の時代、僕くらいの世代の人がマネージャーになっている企業も多いと思いますが、自分が若かりし頃にやったことが正しいと思い、メンバーに言ってしまいがちです。けれど今は「ヒアリングすれば課題がわかる」という時代ではありません。

ですから「ヒアリング」という言葉は落とし穴です。聞いても出てこないことを聞こうとしているから、ものすごくロスが多い。わかりやすい課題なんて無いという前提に立たないといけません。

ちなみに、20年前によく言われていたのが「課題解決型営業(ソリューションセールス)」という営業のしかたです。お客さんが課題を明確に認識しているという前提で、ヒアリングをして課題を解決する営業モデルです。そこからだいぶ進んで、2015年ぐらいに「チャレンジャーセールスモデル」というのが出ました。このモデルはTo BeとAs Isのギャップを営業が議論しながら、もしくは質問を投げかけながら顕在化させていくセールスだと定義されています。IT業界でも話題になりました。

そこから6年経っています。チャレンジャーセールスの時代は、ゴールをお客さんが知っているという前提がありました。ゴールはお客さんが立てたものだからです。けれどそのゴールを疑うというのが、これからの営業だと僕は考えています。この変化が激しい時代、外部環境や競争環境が大きく変化するなか、お客さんが考えているゴールが確からしいと思うことのほうが不自然ではないでしょうか。

落とし穴③ 決裁者

多くの営業は「決裁者」「意思決定者」の首を縦にふらせにいきます。ところがこの人たちをラスボスとして活動していると、最後の最後にひっくり返るという、3つ目の落とし穴が待っています。EB(Economic Buyer)という存在です。全ての会社に存在します。「決裁者」「意思決定者」が持っていなくて、EBしか持ち得ない権利が拒否権です。これが「決裁者」「意思決定者」を押さえるだけでは不十分な理由です。

営業はなによりもEBを押さえないといけません。全ての案件においてEBをグリップできているかは見直すことを強くおすすめしますし、今後の営業活動でもEBを念頭に置いて活動してほしいと思います。ここ数年トレンドとなっているスタートアップの場合、一概には言えませんがEBは社長ではなく投資家だと思って活動した方がいいです。上場企業の場合は、人ではなくて役員会議がEBとなります。

つまり、営業が解決しなければいけないのは、EBの課題なのです。決裁者にヒアリングしても課題をはき違えることになります。営業としてEBのゴールを確認しないといけないし、それを裏返してEBは何に困っているのかを推測するなり、人から聞くなり、直接聞くなり、あるいは事実や公開情報から考えたりして、EBの困りごとってこれだよねということを自分のなかで持っておかないと会話ができません。ここが一番のポイントです。なるべく小コストで最短で受注に辿り着くためには、EBの課題を一番に意識して活動しなければいけません。