占い師が考える、「この世界の仕組み」と「不思議」
占い師として活動を続けていると、不思議なことに他の占い師や霊能者さんと仲良くなることが多いです。いわゆるスピリチュアル的なお仕事をしている人たちの間で、流派や信じる神様が違っても、全員が口を揃えて言うことがあります。
それは「開運したければ、掃除をしなさい」ということ。
これは私の周りにいる霊能者だけではなく、スピリチュアル本を読み漁っても、ビジネス書を読み漁っても、どちらにも必ずといっていいくらい出てくるのが「掃除の大切さ」です。
神道では「穢れを祓う」ことが重視され、仏教では修行僧が修行の一環として掃除をし、キリスト教の修道院でも清掃は重要な日課とされています。なぜ、これほどまでに世界中の宗教や思想が「掃除」を重視するのでしょうか?
目次
なぜ人は掃除が嫌いなのか
まず、根本的な問いから始めましょう。なぜ、多くの人は掃除が嫌いなのでしょうか?「面倒くさいから」「時間がないから」確かにそれも理由の一つだと思います。しかし、もっと深いレベルで考えると、私たちが掃除を嫌う本質的な理由は「汚いものに触りたくない」という感情にあります。
では、なぜ私たちは「汚いもの」を嫌うのでしょうか?
これは単なる好みの問題ではありません。人類の進化の過程で、私たちのDNAに深く刻み込まれた生存戦略なんです。
人類史を振り返ってみます。私たちの祖先は、洞窟で暮らしていた時代から、常に感染症という脅威と戦ってきました。人類が文明を獲得した後も、ペスト、コレラ、天然痘、これらの病気はどれも不衛生な環境から広がり、人口の大部分を死に至らしめました。
このような環境で生き延びた人々は、「汚れを避ける」という本能を強く持っていた人たちです。腐った食べ物の臭いに嫌悪感を抱き、排泄物から距離を取り、傷口を清潔に保とうとする。こうした行動が、感染症から身を守る最も有効な手段だったのです。つまり、「汚いものを避けたい」という感情は、数十万年にわたる人類の進化の中で磨かれた、極めて合理的な生存本能なのです。
私たちが掃除を嫌うのは、怠惰だからではありません。むしろ、「汚れ」に近づくことで感染症のリスクが高まるかもしれないという、遺伝子レベルでの警告システムが作動しているからです。
掃除という行為の本質
ここまで読んで、「じゃあ、掃除しなくていいんじゃないか」と思った方もいるかもしれません。しかし、話はここからが本題です。掃除とは、本質的に「嫌なものにあえて触れる行為」です。私たちのDNAが「避けろ!」と叫んでいるものに、意図的に近づいていく行為なのです。
そして、実際に掃除をしてみると、ほとんどの場合、こう感じます。
「あれ、案外大したことないな」 「意外とできるじゃん、自分」
この瞬間、私たちの脳ではメチャクチャすごいことが起きています。
掃除をすることで、自分が心地よく感じる安全な領域の外へ、一歩踏み出す経験をしているのです。そして、この「怖いと思っていたことが、実際にはそれほど怖くなかった」という経験が、脳の神経回路に新しいパターンを刻み込みます。神経科学の研究によれば、人間の脳は経験によって物理的に変化します。これを神経可塑性と呼びます。つまり、「案外大したことない」「意外とできるじゃん」という経験を繰り返すことで、その経験に対応する神経回路が強化され、発火しやすくなるのです。
掃除を習慣化すると、安全圏の外に踏み出すための神経回路が強化され、日常生活の中で「ちょっと怖いけど、やってみるか」という姿勢が自然と身につくようになります。
新しい仕事のオファーが来たとき。
気になる人に声をかけようと思ったとき。
起業や転職を考えたとき。
こうした場面で、「案外大したことないかもしれない」「意外とできるかもしれない」という神経回路が発火し、行動を後押ししてくれるのです。これこそが、掃除が開運につながる最大のメカニズムなのだと思います。
この世界は「運ゲー」だからこそ試行回数が大事
ここで少し残酷な真実をお伝えしなければなりません。
この世界は、圧倒的に「運ゲー」なのです。
「は? 努力は報われるって言ったじゃん!」という声が聞こえてきそうですが、落ち着いてください。努力が無駄だと言っているわけではありません。ただ、努力だけでは足りないという話なのです。
これは私の感覚的な話ではなく、ちゃんとした研究で証明されています。2022年、イタリアの研究者アレサンドラ・プルキーノ氏は「才能」と「運」どちらが成功に重要かをコンピューターシミュレーションで数学的に検証したのですが、結果は衝撃的でした。
最も成功した人々は、「運良くチャンスに多く出会った」という、ただそれだけでした。才能はほとんど関係ありませんでした。
福本伸行先生の『賭博黙示録カイジ』を読んだことがある人ならわかると思いますが、あの作品で繰り返し描かれるのは「勝負に出続けることの重要性」です。Eカードにしろ、チンチロにしろ、カイジは何度も何度も絶望的な勝負に挑みます。そして、ほとんどの勝負で負けます。でも、たった一度の勝利が、それまでの負けを全部チャラにして、さらに大きなリターンをもたらすんです。
才能があっても、そもそも勝負の場に立たなければ意味がない。逆に、才能が平凡でも、何度も何度も挑戦し続ければ、そのうち「当たり」を引く可能性は確実に上がっていくわけです。
掃除も同じです。排水溝のヌメヌメした髪の毛の塊を素手で取れる勇敢な人間は、恐怖に対する耐性が強く、ここぞというときに大事な一歩を踏み出せるんです。
つまり、掃除は単なる家事ではなく、「苦手なものにあえて向き合うことによって、人生の試行回数を増やすための脳トレ」だということです。
開運の本質とは、運を引き寄せるといった神秘的なものではなく、「運に出会う確率を高める」という極めて合理的なアプローチです。掃除によって「案外大したことない」「意外とできるじゃん」の神経回路が強化されると、日常生活の中で自然とチャレンジの回数が増えていく。これこそが、掃除と開運の科学的なつながりです。
散らかった部屋は集中力を奪う
掃除と開運のメカニズムは、心理的な側面だけではありません。物理的な環境が私たちの認知能力に与える影響も、科学的に実証されています。
プリンストン大学の神経科学研究所が行った研究で、視界に入る物の量が多いほど、脳の情報処理能力が低下することが明らかになっています。
私たちの脳は、視界に入るすべての情報を無意識のうちに処理しようとします。机の上に書類が散乱していれば、それぞれの書類が何なのか、重要なものかどうか、後で処理する必要があるのか。こうした判断を、意識しないレベルで常に行っているのです。これを「認知負荷」と呼びます。
部屋が散らかっていると、この認知負荷が常に高い状態が続きます。すると、本来集中すべきタスクに使えるはずの脳のリソースが、周囲の視覚情報の処理に奪われてしまうのです。実際、同じ作業を「整理整頓された部屋」と「散らかった部屋」で行ってもらう実験では、整理整頓された環境の方が明らかにパフォーマンスが高く、作業時間も短く、ミスも少ないという結果が出ています。
さらに、ハーバード大学の研究では、散らかった環境にいると、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増加することも示されています。慢性的に高いコルチゾールレベルは、記憶力の低下、免疫機能の低下、さらには抑うつ状態を引き起こす可能性があるそうです。
つまり、掃除をして部屋を整えるということは、単に見た目が良くなるというだけではなく、脳の認知機能を最適化し、ストレスを軽減し、結果として判断力や創造力を高めるという、極めて実践的な開運法ともいえます。
「1年ルール」で人生を軽くする
掃除と並んで重要なのが、「捨てる」という行為です。私がクライアントの方々にお伝えしている最もシンプルで効果的なルールがあります。それが「1年間触らなかったものは捨てる」というルールです。
「でも、いつか使うかもしれないし…」
この「いつか」は、ほとんどの場合、永遠に訪れません。
行動経済学の研究によれば、人間は「損失回避バイアス」という心理的傾向を持っています。これは、「何かを得る喜び」よりも「何かを失う痛み」の方を強く感じるという傾向です。そのため、私たちは客観的には不要なものでも、捨てるという行為に強い抵抗を感じてしまうのです。
しかし、考えてみてください。1年間、一度も手に取らなかったもの。それは本当に、あなたの人生に必要なものでしょうか?
むしろ、そうした「使わないもの」が視界に入り続けることで、前述の認知負荷が高まり、あなたの集中力や判断力を奪っているかもしれません。使わないものの代表格は本、Blu-ray、洋服です。1年間読まなかった本、観なかったBlu-ray、着なかった服は捨てましょう。
「捨てる」ということは、単に物を減らすということではありません。それは、「自分にとって本当に大切なものは何か」を見極める訓練でもあるのです。



