私が著者になるまで

「皮や種は捨てるもの」という思い込みを捨てることで生まれた、食材まるごとおいしく食べるためのレシピ/小嶋絵美

#私が著者になるまで

ふだんの料理では使わず、生ごみとして捨ててしまっている野菜や果物の皮や種。これらを捨てずにもう1品つくろう!という新たな提案をするのが、管理栄養士の小嶋絵美さんによる『捨てないレシピ 皮も種も、無駄なく使ってもう1品』(サンクチュアリ出版)です。「捨てている部分を使って、本当においしく食べられるのか?」という課題を解決するべく、何百回もの試作が行われたそう。その制作過程について、小嶋さんにお聞きました。

この記事は書籍『 捨てないレシピ 皮も種も、無駄なく使ってもう1品 』の関連コラムです。

出版につながった「1週間、種も皮も捨てないチャレンジ」

(聞き手)編集担当の松永さんが、「燃えるごみの日基準で毎日の献立を考えている=生ごみに縛られて生きている」と感じていたことから企画が始まったという本書。「いつも捨てている部分にも栄養がある。それらを余すところなく食べれば、ごみも減るし、健康にもいい。お財布にもやさしい」というコンセプトをうまく表現できる著者として白羽の矢が立ったのが、小嶋さんだったそうですね。

(小嶋)過去に似たような切り口でWeb記事を書いたことがあって、それを見てお声がけいただきました。その記事は「1週間、種も皮も捨てないチャレンジ」という内容で、「これは絶対、世の中のためになる!」と思って書いたのですが……この取り組み、実はその後、挫折しているんです。一緒に暮らしている家族に「これは食べたくない」って言われたりして。「みんなに喜ばれないなら、続けるのは難しい」とブレーキがかかり、頭の中では課題視をしつつも、いったん離れていました。

(聞き手)それが回り回って出版という形に結びつきました。

(小嶋)出版の話を聞いたとき、はじめは半信半疑でした。「本当に私で大丈夫?」って(笑)。

(聞き手)管理栄養士というお仕事をされる中で、「いずれ出版したい」という気持ちはあったんですか?

(小嶋)出版への憧れは、若い頃のほうが強かったです。「本を出すのはなかなか手が届かない、めちゃくちゃすごいこと」みたいな。でも、書籍関係のアシスタントや栄養価計算、監修などに携わる機会が増え、そこで本づくりの裏側を知ってからは、「仕事のひとつ」という捉え方になりました。縁があれば、もしかしたらそういう機会もあるのかな、そのときは挑戦したみたいな、と。

(聞き手)憧れていた頃にイメージしていたのは、いわゆるレシピ本……?

(小嶋)はい。でも、実際にはだいぶ変わったコンセプトになりましたね。「私が出版するのは、(一般的なレシピ本ではなく)これ(『捨てないレシピ』)なんだ……!」と、なんだか不思議な気持ちです(笑)。

 

 

(聞き手)そもそも、管理栄養士を目指したきっかけは?

(小嶋)小学校4〜5年生の頃から、家でよく料理をする子どもだったんです。カレーをつくってみたり、りんごのマフィンをつくってみたり。でも、その頃は料理と将来の仕事は結びついていなくて、猫が好きだったので獣医になろうと考えていました。でも、獣医さんのお仕事を知るなかで、動物が好きだからこそ、命と向き合うのが辛い……という気持ちになってしまい、断念。

そして、その頃流行っていた『13歳のハローワーク』で管理栄養士という仕事の魅力を知りました。学校では家庭科や理科が得意で、料理も好きだったので、自分とマッチしているのではないかと。

(聞き手)大学へ行って資格を取った後、栄養士として保育園に勤務されたそうですね。

(小嶋)保育園では食育への興味も湧きました。たとえば、『パンのみみくん』という絵本を読んでからパンの耳を使ったおやつを出すと、子どもの食いつきが違う。それから、「お肉を食べると筋肉になるんだよ」というお話をすると、食への意識が明らかに変わるんです。その素直さには驚かされましたね。

保育園栄養士としては計4年間勤めましたが、私がもともと多趣味なこともあり、いろいろなお仕事に挑戦したくなって退職しました。

(聞き手)その後はフリーの管理栄養士として活動されていたのですか?

(小嶋)退職後は興味のあったお菓子づくりの仕事などをしていたのですが、「せっかく資格も持っているんだし」と調べてみると、けっこうたくさんの求人が出ていることを知って。業務委託で栄養指導をしたり、記事を書いたりして、気づいたら管理栄養士としての仕事が多くなっていた感じです。

(聞き手)本書のあとがきには、「祖母や母から教わった食べ方や、これまでの食習慣も大きく反映されている」という記述があります。子どもの頃、料理はお祖母さまやお母さまから教わっていたのですか?

(小嶋)祖母と母は仕事で忙しかったので手取り足取り教わったということはなく、見て覚えたり、自分で好きにつくったりしていただけなのですが。たとえば、本書にも載せた「だいこんの葉としらすのふりかけ」は、小さい頃から母がよくつくってくれた“捨てないレシピ”に影響を受けていますね。「だいこんの葉はふりかけにすると一番おいしい!」と母がいつも言っていたこともあり、だいこんの葉のレシピを考えるときには、真っ先に思い浮かびました。

企画の成功を確信した「たまねぎ皮茶のミルクティー」

(聞き手)本書の中で、特に思い入れのある、おすすめのレシピを教えてください。

(小嶋)「たまねぎ皮茶のミルクティー」ですね。「たまねぎ皮茶」は、節約やヘルシー関連の記事などでよく見かける定番のレシピ。私も、先ほど話した「1週間チャレンジ」のときに試したのですが、あまりおいしく感じられなくて……。

私のように苦手な人にでも飲みやすくしたいと考え、牛乳やはちみつで甘みを加えてみたんです。そうしたら、たまねぎの苦味が紅茶のようなおいしさになって。苦手な人でもおいしく飲めるレシピが生まれました。実はこれ、本書の数あるレシピの中でも最初に考案したものなのですが、この成功で編集担当の松永さんも「イケる」という手応えを感じてくれたそうです。

(聞き手)他には?

(小嶋)すいかの果肉を種ごとミキサーにかけ、アサイーボウル風に仕上げた「すいかヨーグルトボウル」もお気に入りです。アサイーは流行っていますが、とても高価なものですよね。すいかはアサイーに比べるとずいぶん安いので、ぜひ流行ってほしい(笑)

 

 

(聞き手)ピンク色の見た目もかわいいですよね。それにしても、すいかの種まで食べられるなんて驚きです。皮まで食べるレシピもあります。そもそも、食べられないものではないのですか?

(小嶋)いわゆる「じゃがいもの芽」のように毒があるもの以外は、基本的にはすべて食べられます。

(聞き手)すいかの皮や種はもちろん、たまねぎの皮やピーマンの種、だいこんの葉っぱも、「これは捨てるものだから」と何も考えずに捨てていました……。よく考えたら、食べられるものなのに捨ててるって、もったいないこと。

(小嶋)長年の思い込みですよね。私たちがいかに先入観にとらわれているか。本書の執筆中も、「さといもの皮のパリパリチップス」を置いていたら、子どもが「おいしそう」って言って食べ出して。まさか、いつもは捨てているさといもの皮だとは思っていなかったでしょう(笑)。

ピーマンの種なんかも、そのまま調理すると意外と気づかれないものです。「それ、実はいつもは捨ててる種なんだ、皮なんだ」って言わずに、食卓にそっと出すと生活に取り入れやすいかもしれませんね。言って種明かしをしたい気持ちはグッと我慢して。

食材集めに奔走し、数百のレシピを試作

(聞き手)執筆で苦労された点は?

(小嶋)なんと言っても食材集めですね。野菜やフルーツには旬があるので、揃えるのはなかなか難しかったです。たとえば、昨年9月の企画スタート時、とうもろこしはすでに旬の時期をすぎていたので、イラストのモデル用に皮やひげまで新鮮でキレイに写るものを探すのは大変でした。にんじんやだいこんの葉も旬以外はなかなか出回らないので、知り合いの生産者さんのツテを辿って、ようやく手に入れて。

あとは、鶏ガラスープを取るために、鶏の骨を集めたりもしましたね。夜な夜な鶏料理にして、少しずつ冷凍庫に溜めていました。

(聞き手)その光景を思い浮かべると、けっこうすごいですね(笑)。試作は全部ご自宅でされていたんですか?

(小嶋)はい。仕事柄、これまでにも家で試作をすることはあったのですが、ここまでのボリュームなのは初めてで。数百はつくったと思いますが、本当に大変でした。

家族には食べてもらうだけじゃなくて、たくさん協力してもらいました。週末には子どもを連れて外出してもらって、試作に専念させてもらったりとか。

(聞き手)調理を手伝ってもらうのではなく、いなくなってくれることが協力なんですね(笑)。そうしたご家族の協力の結果、掲載レシピ数はなんと190! 本当にすごいボリュームですよね。

(小嶋)「ここの部分を使うレシピもあったほうがいいんじゃないか」「こういう色味も欲しい」とどんどん加えていったら、ここまでの数になってしまいました。

(聞き手)廃棄率の表記や、栄養素に関する説明など、「見た目」や「おいしさ」以外の要素も充実していますよね。たとえば、ブロッコリーには「ゆでるよりも蒸したり、電子レンジで調理したりすると栄養素を保てます」という説明があります。

(小嶋)廃棄率の算出には苦労しましたが、そこは管理栄養士としてこだわった部分でもあります。栄養素の話や、それぞれの食材に合った調理法についても詳しく書こうと心がけていました。

(聞き手)本を出版するという初めての経験を終え、今後の展望は?

(小嶋)今は燃え尽きた感があるのですが……(笑)。これからは「捨てないレシピ」に関するお仕事依頼も増えるかもしれません。本の広報のためにも、それを頑張っていきたいです。

また、私生活でも「捨てないレシピ」をライフワークとして、積極的に発信したいと思っています。種も皮も食べるというのは「ハードルが高い」と感じる方もいるかもしれないけど、「誰にでもできるよ、簡単だよ」ということを、もっと伝えていきたいですね。

 

 

この記事は書籍『 捨てないレシピ 皮も種も、無駄なく使ってもう1品 』の関連コラムです。