青森県の自然豊かな町で暮らす、田村余一さん・ゆにさん・たいちくんファミリー。手造りの平屋に住み、電気・ガス・水道は契約せず、野菜を栽培したり地域で御用聞きの仕事をしたりして生活しています。今回は、著書『都会を出て田舎で0円生活はじめました』の発売記念トークイベントの模様を紹介。イベントで語られた田村家のリアルな日常とは?
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田村家が自給自足生活を送るワケ
田舎暮らしに憧れる人は多いですが、実際に田舎へ移住して、ましてや自給自足生活まで始められる人はひと握り。青森出身の余一さんは、一度は青森市内でいろんな仕事を経験したものの、自分の人生にずっとしっくりきていなかったと言います。
「僕はフリーターだったので、就職して働いている人よりはしがらみが少なかったと思いますが、それでもストレスはありました。仕事先で出会う大人はみんな『飯を食うためにはお金を稼がないと』と言っていたけど、僕の実家は兼業農家で、親父は大工だったから、『わざわざお金を稼いで遠回りしなくても、食べるものも住む家も自分で作れたら早いのに。誰にも頭を下げず自由に生きられるのに』と思っていましたね」(余一さん)
思い詰めた末に、富士山で命を断とうとまでした余一さんでしたが、紆余曲折を経て自給自足生活をスタート。「自分の時間を自分の人生に注ぎ込んで生きるほうが、濃い人生になる気がしたんです」と当時を振り返ります。
SNSでお嫁さんを募集! ゆにさんとの出会い
妻のゆにさんとの出会いは、なんとSNSでのお嫁さん募集。自給自足生活をともにする人生のパートナーをSNSで募るとは、なかなかのハイブリッド…!
「いいことも悪いことも全部書きました。こういう人生を送りたいというビジョンから、過去の恋愛での失敗、経済力はないけどそれ以外の力はある、みたいなことまで(笑)。ありがたいことに全国から20人くらい応募してくれたので、会う前にメールでいろんな話をして、お互いにフィットするかを確認したんですが…嫁さんの返信のボリュームはダントツでした。僕が10送ったら10以上の返信が来るんです。2往復くらいで嫁さんひとりに決めて、青森に一度来てもらいました」(余一さん)
「余一さんのSNSを見て、いいチャンスだと思いました。自分がぼんやりと進みたいと思っていた人生をすでに実践していて素敵だなと思ったし、ちょうど結婚を考えていたタイミングでもあったので。だから『勝ち取ってやる!』という意気込みで応募(笑)。メールでは私の知らないことをたくさん教えてくれて、もし今回選ばれなくても青森に引っ越して田舎暮らしを始めようと思っていたほど、気持ちが高まっていましたね」(ゆにさん)
青森で初めて会った日、会話がほとんどなく内心不安だったという余一さん。でもゆにさんは、事前にメールで話していたのでとくに話題がなく、青森の新鮮な空気を満喫していただけだったとか(笑)。東京で再び暮らす選択肢は、このときにはもうなかったそうです。
息抜きや娯楽は? 子育ての方針は? 田村家の日常
入籍の翌年にたいちくんが生まれ、3人家族になった田村家。薪割りや草刈り、畑仕事、家の修繕…とやることが山積みの田舎暮らしですが、リラックスする時間はあるのでしょうか。
「毎朝のコーヒータイムがリラックスできる時間。僕が御用聞きの仕事に出ている間に嫁さんは畑で作業したりと、日中は一緒にいることがあまりないので、コーヒーを飲みながらその日の予定を共有し合っています。3人で出かけることもありますよ。週1で近所の天然温泉に行ったり、街でちょっとしたものを買ったり、たまに外食したり」(余一さん)
遊園地や映画館、ゲームなど、いわゆる娯楽が恋しくなることは…?
「僕の場合、日常が娯楽を兼ねているんですよね。御用聞きの仕事でも家の仕事でも、前より上手にやろうと意識して常にチャレンジしているので、刺激があっておもしろい。日常で怪我をすることもしょっちゅうですが、そういうのも刺激のひとつだと思っています。休日に娯楽を求める人は、日常に刺激が足りないのかも。現代の都市は、みんな意識せずとも安全に暮らせるようにつくられているので、街暮らしはどうしても五感への刺激が少なくなります。自然の風を浴びたり、自分で意識してなにかを選んでみたりするだけでも、日常がより豊かになるのではないでしょうか」(余一さん)
「私も、野菜をつくることが仕事であり最高の息抜きです!」(ゆにさん)
3歳のたいちくんは今日が初めての東京。エスカレーターを急いで駆け上がっていく人を見て、普段の日常にはない光景に驚いていたそう。
「私たち夫婦が選んだ今の暮らしを子どもに無理強いするつもりはありません。この家を卒業するときが来たら、進みたい道を進んでほしいです。それまでは私たちがこの暮らしで得た経験を伝えることが親としての役割。そうやって子育てを終えるのが理想です」(ゆにさん)
「いろんなことを経験させたほうが人としての幅が広がると思っています。我が家では毎日いろんなサバイバル技術を使うので、社会に出てひとり暮らしも難なくできるし、災害にも強くなるはず。親との会話だけだとボキャブラリーが制限されると思い、僕の仕事中はYouTubeを見せたりもしています。あとはもうとにかく健康で、体に悪いことはしないでほしいですね」(余一さん)
最後は後腐れなくこの世を去りたい
イベントでは、書籍でも紹介されている「クロモジ」の葉を使った手作りハーブティが振る舞われました。クロモジは田村家の裏の林に自生している木で、アロマオイルの原料にもなる爽やかな香りが特徴。
「ハーブ栽培は、都会で簡単に自給自足感を味わえるのでおすすめ。ベランダや南向きの窓にプランターを置いて、若葉の時期からちょこちょこ摘み取ると、「このやろう!」と反発してどんどん伸びてきます。熱湯を注いでハーブティにすれば、ノーコストでお茶が飲めるし癒されますよ」(余一さん)
食べるものも住む家も自作し、お金に頼らず、若い頃に思い描いていた理想の生活を実現している余一さん。最終的にはどんな人生を目指しているのか、人生観を改めて聞いてみました。
「最後は後腐れなくこの世を去りたい。家も含めて作ったものは全部土に還したいと思っています。価値がゼロになった家を処分しようとすると、数百万円かかるのでマイナスでしかない。その分うちは壁にカビが生えれば分解されるから、多少カビが生えても『自然に還れる家なんだな』とポジティブに考えています(笑)。富士山で死のうと思ったときもあったけど、今は死のうと考える暇がないくらい毎日忙しくて充実しています」(余一さん)
最後に、『都会を出て田舎で0円生活はじめました』をどんな人に読んでほしいか、おふたりからメッセージをいただきました。
「お金を稼ぐためにストレスを抱えていたり、体の調子が悪いのに無理して働いていたり、今の人生にしっくりきていない人や悩んでいる人に読んでほしいです。家で採れた野菜をその場で料理して食べるだけでも僕たちは幸せ。生きている喜びに満ちあふれています。この暮らしを強要するわけじゃないけど、『こういう生き方がある』『人生の選択肢はたくさんある』ということを知ってもらえたら嬉しいです」(余一さん)
「環境問題をはじめ暗いニュースが多い昨今。未来のことを考えて不安を抱えている人も多いと思います。この本では、私たちの暮らしを紹介しながら、ポジティブになれるワードをたくさん散りばめました。未来に希望を持ってもらえる1冊になったと思っています」(ゆにさん)
参加者や書店員のみなさんから田村家に質問!
【Q.正直、この生活が嫌になるときはない?】
「生活が嫌になったことはないけど、夏野菜の苗に水をやり忘れて全滅させてしまったときは、自分が情けなくて号泣しました(笑)。野菜はタイミングを逃すと次が1年後になってしまうので」(ゆにさん)
「あのときは、とうとうこの生活が嫌になったかと冷や冷やしました…。僕は、ひとりで独学で家を建てていたとき。『誰のためにこんなにがんばっているんだっけ』と嫌になって2か月くらい作業を中断して、なんとか前向きになろうと『フォレスト・ガンプ』を観たり(笑)。愚痴をこぼせる相手がいることも大事だなぁと思いました」(余一さん)
【Q.夫婦仲良く過ごすコツは?】
「僕たちは人生の目標や理想の生き方が大まかに合っているので、日々の細かいことはあまり気にならないですね。夫婦でどんな生き方をしたいか話し合うことは大事かもしれません。でも、御用聞きの仕事が忙しくて子育てを嫁さんに任せっぱなしにしてしまっていたときは大喧嘩に…。今は、どっちが息子の面倒を見るかを曜日で決めて、揉めないようにしています」(余一さん)
「相手にやってもらおうという気持ちでいるとストレスが増えますよね。余一さんがずっと外にいて家のことをやってくれずイライラしたときもありましたが、もう諦めて自分で階段を作ったりしました(笑)。最終的には自分ひとりでも生きられるスキルを身につけたいと思っているので、今は何事も自分でやるくらいの気持ちでいます」(ゆにさん)
【Q.田村家で作業のお手伝いをしたい!】
「研修生を年中募集しています。ごはんの煮炊き、農作業、廃材建築などを手伝ってもらいながら、我が家の自給自足生活を体験できるプログラムです。募集情報は田村家のサイト『うちみる』で! ぜひリアルな田舎暮らしにチャレンジしてみてください」(余一さん)