ハチ飼育員の日記 7月のある日

周囲の嘲笑や無関心に耐えても…肝心のハチはきてくれなかった。途方にくれる飼育員。そのとき一本の電話が…「文京区社会福祉協議会と申します。そちらで計画されている養蜂のことですが…」苦情? 中止? いよいよ屋上ハチミツ(新展開編)へ!

知らない人がほとんどだと思うが、
会社のホームページには、
noteと連動した特設ページがあり、
この日記は、毎月1回の連載ということになっている。

つくづく(なんと無計画な)と思う。

都会の古ビルの屋上に、
ぽーんと置いた巣箱に、
本当にハチが喜んでやってくるとでも思っていたのか。

やってこなかった。

次にハチがやってくるチャンスは1年後だ。

なにが「屋上みつばち」だ。

ハチがいないのに、
あと1年間も
「屋上みつばち 毎月1回の連載」
なんて、
一体どうやって継続すればいいのか?

どうやってもたせればいいのか?

ブツブツ独り言が多くなった
私のことを不憫に思ったのか、
会社のメンバーが
連載のネタとなりそうないくつかのアイディアをくれた。

「イメージキャラクターの名前を募集するのはどうかな?」

いい。

それは盛り上がりそう。

でも
ハチはいない。
キャラクターもいない。

のに、

まあ、

否定しても仕方ない。

自分で描いてみるか。

破り捨てた。

次。

「地下イベントで、ハチミツ試食会はどうか?」

というアイディアもあった。

それは、なんとなく良さそうだ。

たくさんの人にあらためて
国産ハチミツの味を知ってもらって、
「自分たちのハチミツを!」というムードを高める。
ハチを飼ったことはないが、
飼育員はハチミツが大好きだ。
トーストに塗ろうか。
レモンと一緒にジュースにしたいかも。
ヨーグルトに入れてもおいしいねって、
楽しそう。

…んー

でもよくよく考えると、

「自分たちで飼育したハチから採れた特別なハチミツ」
というわけでもないのに、
大人たちが地下室に集まって、
ペロペロ、ペロペロ
市販のハチミツを舐める会
というのも
かなり盛り上がりに欠けるのではないだろうか。

あーどうしよう。
ウジウジしちゃう。

あと1年間、連載のネタどうしよう

どうしよう

どうしよう

どうしよう

もう考えるのやーめ…

というタイミングで

一本の電話が鳴ったのである。

正確には会社の電話が鳴ったとき、
取材中だった私はデスクにいなかった。

電話を取ったスタッフから、
メールで
「文京区の社会福祉協議会の方からお電話ありました」
と知らされたのである。

その文面を見た瞬間、

(あー連載どころじゃないわ)

と思った。

「屋上でミツバチを育てる」
なんて吹聴しているもんだから、
きっと近隣住民から苦情が入って、
地域的にややこしいことになっているのだろう。

地域&福祉 vs 新参者&迷惑

頭の中に、単純な図式が浮かぶ。

折返しの電話番号をプッシュする指は重い。

でも大丈夫。

謝る準備はできている。

まだ、なにもはじまってはいないじゃないか。

謝って済むくらいなら、いくらでも頭を下げよう。

【なんの知識も経験もなく、都会でハチを捕まえて育てられるだろう
なんていう自分の認識の甘さに深く反省いたします。
もう二度とこのようなことがないよう、日々精進いたします。】

心の中で謝意を言葉にしてみたら、
なんか急にほっとした。

もしかしたら、
このプロジェクトを開始したときから、
私は見えない誰かに、謝罪し続けていたのかもしれない。

<思いつきで行動するな>

先生から、両親から、先輩から
これまでの人生の中で、そう何度も何度も注意されてきた。

なぜか?

人様にご迷惑をかけるからである。

飼育員には、仕事も家庭もある。
もう人様に迷惑をかけていい立場ではない。

「そちらで、養蜂? を計画しているそうですね。お間違いないですか?」

「はい、間違いありません。私がやりました」

「それも屋上を使って」

「まったく人騒がせな話です。迷惑防止条例とかそういうのでしょうね。本当に魔が差したとでもいいましょうか」

「巣箱は1箱? 2箱?」

「巣箱の数によって罪の重さが変わるというなら、1箱と言いたいところですが、ざんねんながら2箱です。でも幸い、どっちの巣箱にもハチは入っていません。そういう問題じゃないことは重々承知しています。でも“未遂”という考え方もありますよね?」

「よろしければ、いっしょにやりませんか?」

「まずは謝罪にご同行いただけるということですよね。すぐにでも動きたいのですが、とはいえ私も勤め人の身ですので、日程を都合していただけると助かります。いまスケジュール帳を出しますので…って、いまなんていいました?」

「いま、文京区民の地域交流の場として、“養蜂”はどうかという計画があがってまして、たまたまインターネットで検索していたら、御社のホームページの“屋上みつばち”という記事を発見したんです。民間企業と一緒に取り組むことができたらいいな、と考えておりまして」

なんと。

そんな。

うれしくて吐きそうや。

…というわけで、

行ってまいりました。

…つづきはまた近々。

飼育員 橋本圭右