「人前で話すのが怖い」「うまくスピーチできない」と悩んでいる方。自分はあがり症だから……とあきらめていませんか? 話し方はトレーニング次第で誰でも高めることができます。フリーアナウンサーの五戸美樹によるレッスンで、そのコツを掴みましょう!
目次
トークは習えばうまくなる!
人前でもプライベートでも、輝ける話し方とは
私は新卒でニッポン放送に入社し、2015年からフリーアナウンサーとして活動しています。アナウンサー歴はちょうど10年目。普段はアイドルや声優、一般の方向けに話し方レッスンを実施していますが、今日はその特別バージョンとして、トークイベント形式のレッスンを行うことになりました。
トークって、日本では習う機会が少ないですよね。欧米では小学生の頃から、自分の思いを人前で話す練習をするのですが、日本の学校では音読のほうが多いと思います。
今でこそ原稿を見なくても喋れる私ですが、新人の頃はものすごく下手でした。放送が始まる前は「あれを喋ろう」といろいろ考えているのに、いざ始まると頭が真っ白になってしまって、初めての放送では泣いてしまったくらい(苦笑)。それをどうにかしようと先輩に研修をしてもらったり、ボイストレーニングを受けたりするうちに、徐々にきちんと喋れるようになっていきました。トークは、ピアノや水泳と同じで、習えばある程度うまくなれる分野なんです。
私のように話し方教室を行っているアナウンサーの方は多いですが、アナウンスの技術を磨くこととトークレッスンは少し違います。たとえばアナウンサーは、「ら抜き言葉」を使ってはいけないといったように、正しい日本語で話すことを教わります。それをそのまま教える教室もありますが、「ら抜き言葉」でも意味は十分伝わるし、汚い言葉というわけではありません。普段話している言葉で人前に立てることがベストなのでは?と私は思うので、それを重視した実践的なレッスンで、人前でもそれ以外のシーンでも輝ける話し方をお伝えしていけたらと思います。
人前でうまく話すコツ
人前でのトークというと、会議、プレゼン、朝礼、面接などがありますが、そういったシーンでうまく話すコツとはなんでしょうか。
私のおすすめは、まず「別人にならないこと」。日本人は真面目で丁寧なので、何事も型にはめなければいけないと思いがち。たとえば会社の社長やアイドルは、人前に立つと普段とは違う声や言葉遣いになったりしますよね。でも、そういう話し方はいつもの自分ではないのでスムーズに出てきません。人前だからといって別人になる必要はなく、普段上司や先輩に敬語で話しているときと同じように「自然に話すこと」が大切なんです。
では、人前で別人にならず自然に話すにはどうすればいいのか。答えは「自然を演じること」。そんなこと言われてもどうやって…という感じですよね(笑)。その方法をお伝えしていきます。
自然を演じるカギは「話し言葉」
人前で話すための原稿を用意するとき、どんな文章で書いていますか? 実はここに重要なカギがあります。
日本語は、世界で最も難しいという学者もいるほど難易度の高い言語。私は大学で日本語学を勉強していたのですが、やればやるほど難しさを感じていました。
日本語の特徴のひとつに、「書き言葉」と「話し言葉」が大きく違うという点があります。書き言葉はシンプル。「○月○日イベント開催」というように単語だけでも伝わります。が、それをそのまま口にすると、不自然で冷たい印象がありますよね。一方、人が話している言葉をそのまま文章に起こすと、ものすごく長くまどろっこしくなります。
書き言葉と話し言葉では、使う単語も違ってきます。たとえば「本日当店にて〜〜」という文章が話し言葉になると、「今日はこちらのお店で〜〜」に変わったりしますよね。
文章の中に同じ言葉が何度も出てくると気になりますが、トークの中だとそんなに気になりません。むしろ大事なことは2〜3度繰り返したほうが効果的だったりします。また、書き言葉では「テレビドラマ『○○○(タイトル)』」というように修飾語が頭につきますが、話し言葉だと「『○○○』というテレビドラマ」というように後ろにつけてもわかりやすくなります。
なにが言いたいかというと、トーク原稿は書き言葉ではなく、話し言葉で準備しましょう!ということ。私も新人の頃は原稿をすべて書き言葉で書いていましたが、どうしても棒読みになってしまって、まるで朗読。自然とはいえない話し方でした。
いきなり話し言葉で原稿を書くのは難しいので、まずは書き言葉でまとめた文章を話し言葉に書き換える練習から。たとえば「今日はサンクチュアリ出版のおすすめの書籍を紹介します」という文章なら、「今日はですね、『サンクチュアリ出版』のおすすめの本を紹介しちゃいます」という感じで、言い回しや強調したい部分などを書き換えていきます。実際に声に出して自然に聞こえるかどうか試しながら、自分らしい話し言葉を探ってみてください。
プレゼン時のパワーポイントなどは、話に集中してもらうために少ない文章量でまとめることが多いと思います。それを印刷したものに話したい内容を書き込むのもおすすめ。どのタイミングで資料を見てもらうかなど、プレゼンの流れを把握しながら話すことができます。
表情や抑揚で感情を伝える
日本語は、ハイコンテクスト言語という分類をよくされます。コンテクスト(context)とは「文脈」という意味。文脈を超えてニュアンスで伝えても、意味が伝わることが多い言語ということです。
わかりやすいのは「大丈夫」という言葉。コンビニで「お箸はいりますか?」と聞かれたときの「大丈夫です」は、No thank you。「このあと時間大丈夫?」の「大丈夫です」はOK、「体調悪いの?」の「大丈夫です」はI’m fineですよね。
「一緒にご飯は食べにいきました」という文章を見ると、「ご飯には行ったけどそんなに仲良くないのかな」と感じませんか? でも、笑顔で「一緒にご飯は食べにいきました!」と話すのを聞けば、印象が変わってきます。
ラジオではなんの問題もなかったトークが、Webニュースになって炎上することがよくあるのですが、それはトークがそのまま文章になることで実際の意味や雰囲気が伝わらなくなってしまうから。絵文字ではなく句点で終わっているLINEがなんだか冷たく感じるように、書き言葉では細かいニュアンスを伝えにくいのです。話すときに誤解を受けないようにするには、表情や抑揚で感情を表現することが大事です。
私は上柳昌彦さんというアナウンサーをとても尊敬していて、今でもラジオ番組をよく聴いてはお手本にしています。『radiko』という無料サービスを使えば、過去の放送も遡って聴くことができますので、興味のある方はぜひ聴いてみてください。
トークを磨けば人間関係もうまくいく!
プライベートでのトークで大切なこと
では、プライベートでのトークで輝くためには、なにを心がけるといいのでしょうか。人前もプライベートも基本的な部分は変わりません。一方的に話すのではなく質問を挟んだり、柔らかい表情を意識したり。多少の言い間違いはあってもいいし、ジェスチャーをあえて入れる必要もありません。
一方で、違う点もいくつかあります。私が考える人前トークとプライベートトークとの違いは、こんな感じです。
たとえば「謙虚さ」。人前で話すときにあまりにも謙虚だと自信がなく見えてしまいますが、プライベートでは自信満々より少し謙虚なほうが、日本人の間では好感が持たれやすいです。「照れ」もプライベートでは多少あっても構いませんが、人前ではあまりないほうがいいですね。たまに人前で歌を歌わないといけないときがあるのですが、照れると場がしらけるので、苦手ながらも堂々と歌うようにしています。
そして「丁寧さ」。人前では過剰な丁寧さは必要ありません。「〜〜します」をなんでも「〜〜させていただきます」と言ってしまうと、くどくてそれしか耳につかなくなります。私はプライベートだからこそ相手に対する丁寧さを大切にしています。とくにLINEなどは勘違いをされやすいので、「了解です」ではなく「お気遣いいただきありがとうございます、承知しました」と返したりしていますね。
話すときの目線に関しては、ちょっとしたコツがあります。プレゼンや講義では、いちばん後ろで聞いている人が退屈になりがちなので、後ろの人を見ながら話すのがおすすめ。原稿に「ここで後ろを見る」と書いてしまうのもいいでしょう。プライベートでは目を合わせて話すのが丁寧とされていますが、目が合うと緊張してしまう人は、目より少し下の鼻あたりを見てみてください。近すぎない距離感であれば、それでも目が合っているように見えます。
語彙力を高めるとトークが豊かに
「アンガーマネジメント」という言葉をご存知ですか? アメリカで生まれた心理療法プログラムで、日本アンガーマネジメント協会では、「怒って(=アンガー)」「後悔しないこと(=マネジメントの意訳)」と定義しています。怒りは誰にでもある感情。怒ること自体が問題なのではなく、怒りの感情と上手に付き合っていくことが大切だという考え方です。
自分の感情をうまくコントロールするには、日頃から語彙力を高めておくことも大事。たとえば「怒る」にしても、「激怒」「憤り」「ムッとする」「キレる」「腸が煮えくり返る」などいろんな言葉がありますよね。感情をきちんと言葉にできると、トークがより豊かにスムーズになりますし、自分の怒りの度合いも客観的に計れるようになります。
語彙力を高めるトレーニングとして、景色などの写真を見て感想をできるだけたくさん考えてみるという方法があります。ほかにも、テレビや本で「これ使いたい!」と思う言葉に出会ったら、メモしておいて実際に使ってみるのもおすすめ。
「うざい」「やばい」などの汚い言葉は、極力使わない方向に持っていきましょう。気持ちいい音の響きではないので、たいていの人は聞いていて嫌な気持ちになってしまいます。
トークスキル向上のためのボイストレーニング
生まれ持った声を見つけて磨く!
最後にボイストレーニングについてもお話しします。ボイストレーニングとは、「オーセンティックボイス(=本物の声)」を見つけて、それを磨くこと。無理に高い声や低い声をつくる必要はなく、もともと持っている声を活かして磨いていくことが大事です。
実際に声を出す前に、まず行うのが顔筋トレーニング。口もとにはたくさんの筋が集まってきているので、顎に当てた手をこめかみにかけてグッと引き上げて、よじれた筋膜を戻す「筋膜リリース」をします。
そのあとは、口を大きく開いて発声練習。アナウンサーは必ずやる練習なので、ぜひ試してみてください! 慣れるまではゆっくりと、慣れてきたら少し早口にしてみるのも効果的。口を動かすだけでも筋トレになるので、恥ずかしければ小声でも大丈夫です。
(画像提供:iStock.com/jeffbergen)
五戸美樹(ごのへみき) フリーアナウンサー・トークレッスン講師。 1986年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部日本語日本文学コース卒業。 2009年、(株)ニッポン放送にアナウンサーとして入社。 『三宅裕司のサンデーハッピーパラダイス』『古坂大魔王 ツギコレ』などを担当。 2015年、フリーアナウンサーとして、エイベックス・マネジメント(株)に所属。 契約満了後の2017年秋よりフリーランス。 現在はJ-WAVE『GROOVE LINE』、AbemaRADIOレギュラー、日刊スポーツWEBコラム『ごのへのごろく』連載中。 トークを教える講師も務め、400件以上のイベント司会やラジオアナウンサーの経験から培ったトークスキルをアイドル、アーティスト、声優などに教えている。 テレビ朝日アスク講師。「ストアカ」にて話し方教室開講。 プレゼントーク、コミュニケーション研修など、企業研修・講演も行う。 著書に『人前で輝く!話し方』(自由国民社)がある。 【Twitter】https://twitter.com/miki_gonohe 【Blog】https://ameblo.jp/miki-gonohe/
サンクチュアリ出版に遊びにきませんか?
サンクチュアリ出版では
毎日、楽しすぎるイベントを開催しています!
http://www.sanctuarybooks.jp/eventblog/