私たちには意思があり、意思があって動いている。でも、意思じゃないものも私たちを動かしている。私たちを動かしている“モチベーション”とは一体なにか?スタンフォード大をはじめとする各研究機関で行われた、「人の心理と行動」に関する実験をご紹介します。
目次
なぜ私たちは「やりたいこと」を選べないのか?
こんな実験があります。
被験者をAチーム、Bチームに分けて、
こんなイメージをしてもらいます。
あなたはアルバイトでためたお金でなにか買い物をしようと、
街を歩いています。
すると、ずっと買いたいと思っていたビデオが、
特別セールで14ドル99セントになっていました。
Aチームに次の質問をします。
①このビデオを買う
②このビデオを買わない
結果
①「ビデオを買う」を選んだ人 75%
②「ビデオを買わない」を選んだ人 25%
「買う」「買わない」という二者択一だと、
ほとんどの人が「買う」を選びました。
そして、Bチームには次の質問をします。
①このビデオを買う
②このビデオを買わず、14ドル99セントで「別のものを買う」
結果はどうなったでしょうか?
①「買う」を選んだ人は55%に減りました。
②「別のものを買う」を選んだ人は45%に増えました。
つまり「他のものに使ってもいい」という選択肢が与えられただけで、
半分近くのひとが「別のものを買う」を選んだのです。
(参考 イェール大学 行動経済学者シェーン・フレデリックの実験)
ぼくが面白いと思うのは、
ここに「行動を先送りするメカニズム」が隠れているんじゃないか、
と仮定できることです。
実験では、
「買うか」「買わないか」であれば
75%のひとが「購入する」と答えたはずなのに、
「別のものを買うか?」と聞かれたら、
55%に減りました。
これはどういうことでしょうか?
「別のものも買えますよ」とアドバイスされただけで、
20%もの人が
「買う」という選択ができなくなってしまったのです。
私たちの毎日も同じことでしょう。
「やりたい」「やらなきゃ」と思うことがあっても
「他のことをやってもいい」ことに気がついてしまうと、
急に「やる」という選択をしにくくなるものです。
たった1つの選択でさえ、
5人に1人が脱落するわけですから、
日常において数え切れないほどの選択をする私たち(1日に1万回ともいわれる)は、
いとも簡単に望むものから遠ざかっているのではないでしょうか。
ここで行動しなくてもいい。
他の行動に、時間・エネルギー・お金を使うことができる。
そんな状況は、自由で便利にも感じられますが、
選択肢を増やすことは、
のぞむことから遠ざかる原因にもなるのです。
選択に関するある研究によれば、
「私たちのストレスの多くは、つねに多くの選択肢にさらされていることが原因だ」
と述べられています。
やりたいことが目の前にあるのに、
「もっと他にできることがあるかも」
「もっと別のことに使った方が賢いかも」
と考えることによって、
「選ぶ」ことを先延ばししてしまう。
そんな風にして、
“目の前にある欲しいものを選ばない”というのは、とてもストレスだというのです。
いつもモチベーションが高い人と、
なかなかモチベーションが上がらない人との差は、
ここにも存在するような気がいたします。
モチベーションの上がらない人は、目の前にやることがあっても、“別のことがもっとやりたいかもしれない”と見送りやすい。
モチベーションの高い人は、目の前にあることをただ選ぶだけです。
結果的に、前者はストレスをため、後者は充実します。
この「小さな差の積み重ね」が、結果として大きな差を生むのではないでしょうか。
なぜ私たちは一度やると決めたことを続けられないのか?
続いてご紹介するのはこんな実験です。
ダイエット中の人たちを集めて
3チームに分けました。
監督者の指示により
Aチームは、何も食べない。
Bチームは、カロリー高めのお菓子を少量食べる。
Cチームは、カロリー高めのお菓子を満腹まで食べる。
その後、しばらくして食べ物が用意された別の会場で、
それぞれのチームの人たちが、どれだけ食べるかを観察する。
すると…
最も食べたのは、
満腹になっていたはずの「Cチーム」で、
最も食べなかったのは、
何も食べていない「Aチーム」だった。
(参考 ピーター・ハーマンたちの実験)
なぜこんなことが起きたのでしょうか?
「ダイエットをがんばっている」人が、
「お菓子をたくさん食べる」という行為をしてしまったことによって
「もういい!」となげやりになってしまったからでしょう。
結果的に我慢が効かなくなり、暴飲暴食をしてしまいました。
一方で、何も食べなかった人は、
「ダイエットに成功している」という
自尊心を保つことができているので、
空腹でも別会場で自制心を働かせることができました。
だから、つねに自分を厳しく律するべきだ!
と、言いたいわけでは決してありません。
「つねに厳しく自分を律する」ことは現実的には難しい。
この実験のように、自分の意思に反してペースが乱されることは、日常の中では頻繁に起こりうるからです。
ここでお伝えしたいのは、
「私たちは誰だって、意思の強さとは関係なく、自分で決めたペースが乱れると、なげやりになりやすい」ということです。
みなさまも経験はありませんか?
ダイエット、英語の勉強、ストレッチ、日記、トイレ掃除…
がんばろうと思って続けていたのに、一回たまたま“できなかった日”があった。
しかしそのたった一回の“できなかった日”のせいで、急にモチベーションを落としてしまったことが。
私たちはそんなとき、自分に失望して、自分は意思が弱いんだ、だから続けられないんだと、放り出してしまうことがありますが、その多くはきっと勘違いで、ただ単純に「やろう」と思っているペースが乱れたことで、投げ出したくなったという、人間の標準的なメカニズムが働いただけなのだけではないでしょうか。
だから一度くらいできなくても、ぜんぜん気にするべきではありません。
ペースが乱れることは普通なことだし、
ペースが乱れると、嫌な気持ちになるのも普通なこと。
ただ「再開する」という選択をすればいいのです。
そして何度中断しても、「再開する」という選択を続けられる人が、
結果的に継続力となって身につくものなのではないでしょうか。
いかがでしたでしょうか。
モチベーションは
私たちをどこに動かそうとしているのか?
私、池田貴将の新刊『図解モチベーション大百科』では、
スタンフォード大学、ハーバード大学、ペンシルベニア大学
などでおこなわれた100の行動・心理実験を紹介しています。
興味のあるかたは、ぜひ一度手に取ってみてください。