今日からここで連載をさせていただくウーマンラッシュアワーという漫才コンビの村本大輔と言います。
僕は2024年の2月からニューヨークに活動の拠点を移し、マンハッタンに住み、英語で、毎晩コメディクラブでネタをやってまわってる。
英語でというと聞こえがいいが、日本語で書いたものをChatGPTで英語にしてもらい、それを丸暗記して話している。高校も卒業していないので40歳でbe動詞を覚えたレベルだ。
そんな僕のニューヨークでの生活をここに書き、少しでも僕のことを知ってもらおうと連載を受けることになった。
目次
右のキンタマが腫れている
今日話すのは、ニューヨークで初めて病気になった話だ。
まあ基本的に僕は何もかもズボラで、いい加減。
今回アメリカに住むにあたって、本来一番最初に入っておかないといけないはずの保険に入ってなかった。まあ過信ってやつだ。
僕は日本にいた時、ほとんど病院に行ってこなかった。
コロナが蔓延した時も、コロナにかかることもなく、健康保険料をしっかり払ってたのに、一切病院にかからないから、風邪をひいた時は、宝くじの当たりを引いたように、やった!病院使える!!ぐらいのレベルだった。
だから、どうせ、アメリカでも病気しないだろうと、なめていた。
ところが日本に一時帰国し、ニューヨークに戻ってきたら翌日、汗がすごい。熱がでてる。 寒気もする。そして右のキンタマが、少し大きく腫れている。
「これは風邪だ」と思った。こんなものは寝てれば治るぐらいのものだった。
しかし、翌日、熱はより強くなり、息をするのも歩くのも困難になった。
しかも、その夜に一度だけ血尿が出た。
ちょうどシカゴの友人夫婦が遊びにきていて、彼女が病院に行こうと言ってきた。
僕が寝てれば治るというと、彼女のお父さんは一度の血尿で、病院に行ったら膀胱の癌だったらしく、血尿は怖い、一応、近くの診療所に行こうと、彼女が、病院に着いてきてくれることになった。
最初に話した通り、僕の英語のレベルは中学一年生レベルだ。
病院に行って具体的に症状を伝えることはもちろん、問診票すら記入することができない。シカゴの友人が全部やってくれた。
そして、僕はアメリカの保険に未加入だった。
なので、診療所で医者に会うだけで、診てもらうだけで、日本円で約3万円かかるといわれた。
自分のだらしさなのツケがきた。保険に入るなんて、海外では基本の基本だ。 おれなら大丈夫、と舐めてかかったせいで医者に会うだけで3万円。
奥からやる気のなさそうな女医が無愛想にでてきて、自分の症状を全て通訳してもらう。
検尿し、ここからはズボンを脱がないといけないのでシカゴの友人には出て行ってもらい、下半身裸の僕は椅子に座らされ、ゴム手袋をした医者が僕のタマを、揉んだり引っ張ったり、「痛い?これはどう?いまのは?」なんて聞かれながらタマを触られ、しばらくしたら、
「これ、私にもわからないから、ER(緊急病院)で超音波検査をして、みてもらう。玉が腫れてるんだけど、それが、もしかしたらタマがねじれてる可能性がある」
と言われた。
ネットで調べたらタマが捻れる病気があるらしく、
「6時間以上放置すると、タマが死ぬ可能性がでてくる」
と書いていた。
これはやばいと、ちょうどこの日から大寒波が来たニューヨーク、大雪の中、Uber(タクシー)を呼び、ERを目指した。
いくらかかるのか
到着し、またシカゴの友人に問診票を書いてもらい、待合室で待ってる時、ふと、「保険なしでERで超音波検査?いくらだろう?」と思って調べたら、ChatGPTで5000ドルかかった人もいる、と教えてくれた。日本円で60万円だ。
まじか、保険なしの超音波検査、そんなにいくの?!
念のため、受付でこれぐらいかかる?って聞いたらそれはわからないという。いやなんなんだ、病院てのは、なんで自分たちの金額がわからないんだ!
美容室で「ヘッドスパ60分いくらですか?」「やってみないとんかんないっすねえ」、マクドナルドで「ポテトのLいくら?」「揚げてみないとわかんないっすね〜」とはならない。 なんで病院は「だいたい」すらも教えてくれないんだ。
とにかく僕は万が一、タマの手術だとしたら、そこから手術費、入院費、それを考えたら、明日の早朝、日本に帰って日本で治療を受けた方が、値段は絶対に安いと思った。実際すぐに航空券を調べたら往復20万円だった。
だったら、日本に戻った方がいい、と、友達に伝えると、シカゴの友人が「お願い!いますぐに検査受けて!万が一のことがあったらどうするの」と、彼女のお父さんは膀胱癌になったからなのか、彼女は、日本に戻る途中で万が一のことがあったらどうする、と。そんなお金のことなんか気にせず、いまここで受けてくれ、お金なら貸すし、返さなくてもいいから、と言ってきた。
流石にそんなことはできない。
しかし、この金額で受けるようなレベルでもないような気がする。
僕はニューヨークの友達に連絡し、この話を相談したら、
「ニューヨークの診療所はめんどくさい時にERにいかそうとする。そこは緊急病院。万が一の本当にやばい人しか行かない。あと高額過ぎて、そんなところにおそらく行くレベルではない。
ニューヨークの医者に抗生物質をくれと言ってもらえばいい。ニューヨークの医者は本当に困ってて抗生物質を欲しがってる患者に、それを断ることはできない」
と言ってきたので、それならばと、また診療所に行った。
受付でまた問診票を書いたら、もうデータが回ってるみたいで
「あなた、何時間が前に違う診療所にきたわよね?そこでERに行けって言われた?」
と言われた。
咄嗟に「え、それ俺じゃないけど」と嘘をついたが見破られていて、
「それあなたよね、先生は同じ診断しかしないから、みてもらっても無駄よ。またERに行けって言われて3万円とられるだけよ」
と言われた。
でもニューヨークの友達に言われた、「医者は抗生物質くれと頼み込まれたら断ることはできない」というのを信じて、同じ診断でもいいから先生に合わせて欲しいとお願いし、中に入れてもらった。
しばらくしたら、ジョーカーの彼女(ハーレークイーン)みたいな派手目な女医が現れ、どうせ同じ診断だけどいいの?と言われた。もちろん、みて欲しい、と伝えた。
僕はまた検尿をさせられ、ズボンを脱がされ、タマを揉まれた。やはりERにいって超音波検査をうけろ、と言われた。
僕は全て話した。
「実は保険に入ってなくて、超音波検査は高すぎる。おそらく、抗生物質だけで治ると思う。抗生物質をくれないか」
と伝えたが、
「あなたの病気がなんなのかわからないのに抗生物質を渡すわけにはいかない。わたしの医師免許にもかかわるからだめだ」
と言われた。
シカゴの友人にお願いして、ここは引き下がらずお願いして、と言い、彼女が先生に交渉してくれた。
しばらくすると、シカゴの友達が笑いだし、まじで?!みたいなことを言ってる。先生も、まじよ、みたいなことで話が盛り上がってる。
なんの話だろうと聞いたら、
シカゴの友達が、
「先生が言うには、ERの請求書が後から来るから踏み倒せばいいわ。みんなやってるから大丈夫。ビザの信用スコアとかにも傷もつかない、大丈夫」
と言っていると。
それをまさか医者が勧めてくるのが驚いた。しかし、さすがに踏み倒すのは気が引ける。
しかしこの医者が言うには、
「本当に彼のタマはねじれてる可能性がある、もし、このままねじれていたならば6時間以内に手術しないと、片方のタマが死ぬ可能性がでている」
と言われた。
タマ 手術費 アメリカ 保険なし
で、調べたら、ChatGPTは「過去に330万円以上かかった人がいます」と教えてくれた。
さすがにその金額は高すぎる、日本に帰るというと、シカゴの友人が、お金は大丈夫、こっちでなんとかするから、検査を受けて、と言われた。
こんなに自分の体のことを気にしてくれるなんてなんて嬉しい。
たしかに、タマがなくなってしまったら、子供もできにくくなるのか。
子供が欲しいとかは考えたことはなかったが、それは子供ができる可能性があったからだ。
タマがなくなり、できるという選択肢はなくなるかもしれないと思った時、まだ見ぬ僕の子供はお父さん似かな、お母さん似かな、もし、いますぐに病院にいき、タマを治してもらえるなら、それはいつか出会うかもしれない、僕の子供を助けることになる、と。
僕はERに行くことにした。
ER(緊急救命室)へ
またさっきのERにタクシーで戻り、受付で問診票を書く。
さっき値段が高いと逃げ帰ったER、タマを手術する覚悟はできた。
名前を呼ばれ、部屋に通され、患者様の浴衣みたいなの着せられ、ベットに乗せられた。そして、今日三度目の検尿。もう出ないと思ってるんだけどあのカップを下に持って開くと自然と尿は出る。
ベットに車輪がついていて、僕は屈強な男の看護師によって、ベットごと、検査の部屋に連れて行かれた。
道中、ERの患者さんたちと目が合う。
みんな、最後の人が行く病院なだけあって、死んだ目をしている。
僕を見送る目が、次会うことはないだろう、の目をしている。
超音波検査室に連れてかれ、またズボンを脱がされ、たまに透明のジェルみたいなのを塗られ、タマを機械でぬるぬると触り続ける。妊婦さんのお腹にやるあれだ。30分ほどか、また部屋に戻り結果を待つ。
しばらくしたら、白い巨塔のごとき歩き方で医者が来て、険しい顔で、お付きの人は外に出て欲しいと言ってきた。シカゴの友人は外に出され、医者が英語で何か質問している。
英語がわからないからシカゴの友人を呼んできて欲しいと言ったら、とてもプライベートな話だ、と、やはり追い出された。
医者が翻訳機を持ってきて、英語で何か語り出した。
僕はタマの手術の話か、もしくはガンだったらどうしよう、と胸騒ぎがする。
電波が悪かったのか翻訳機の調子がおかしいのか、少したって、聞いたことのない言葉が聞こえてきて
医者が
「あ、ごめんなさい、これウクライナ語になってたわ」
と、もう一度、声を吹き込んだ。
また機械がゆっくり読み込み、僕に言った。
「アナタハ セイビョウデスカ?」
そして続け様に
「ヨゴレタテデ マスターベーション シテイマセンカ??」
僕はNo!と言った。
一応、タマを手術することはないと言われた、一安心だ、性病検査もやっとくとのこと。最後にけつに注射を打ち、これで大丈夫と言われた。
よかった、いや、ちょっと待て、先生が言うには、ただ、右のタマが腫れただけだと。
ええ、、そんなの最初の診療所の時に分からなかったの!?
この60万の検査なんだったの!?
危なかった。僕はただタマが腫れていると言うだけで、飛行機に乗って、日本に戻るところだった。
日本に戻って、またタマだけ触られて、ただタマが腫れてて抗生物質もらうだけのやつのために日本に戻ってきた馬鹿野郎だと思われるところだった。
後日、請求書が来た。
5000ドルどころか、超音波検査800ドル、そしてマイナス600ドルと書かれていた。600ドルマイナスの理由を調べたら、ニューヨークのERでは保険に入ってない人のために特別な割引があると。それは普通に保険に入ってる人が支払う額より安くなる場合があると書いてた。
さすがニューヨーク…。何もかもめちゃくちゃ高いが、貧困の人たちを救済するシステムも同じく、すごい。そして医者が「踏み倒せばいいのよ」というのも。
病気になってでしか感じられないニューヨークを感じることができた。
村本大輔 コメディアン。ウーマンラッシュアワー。 1980年生まれ。福井県出身。2008年中川パラダイスと漫才コンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。漫才コンクール、NHK上方漫才コンテスト、THE MANZAIなどで優勝。Abema TVのMCとしてニュース報道に関わったことをきっかけに、政治・社会問題を取り上げた漫才をつくりはじめる。自身の考えをストレートかつスピーディーに届ける独演会が話題となり、舞台での活動が軸となっていく。2024年2月からニューヨークに拠点を移し、スタンダップコメディアンとして日々ステージに立つ。 Instagram:@muramotodaisuke1125 Voicy:https://voicy.jp/channel/820839