村本大輔のニューヨークの日常コラム WTF

知ること

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#村本大輔のニューヨークの日常コラム WTF

ウーマンラッシュアワーという漫才コンビの村本大輔と言います。
僕は2024年の2月からニューヨークに活動の拠点を移し、マンハッタンに住み、英語で、毎晩コメディクラブでネタをやってまわってる。
英語でというと聞こえがいいが、日本語で書いたものをChatGPTで英語にしてもらいそれを丸暗記して話している。高校も卒業していないので40歳でbe動詞を覚えたレベルだ。
そんな僕のニューヨークでの生活をここに書き、少しでも僕のことを知ってもらおうと連載を受けることになった。

なぜネタにするのか

おれが水俣に行ったり、沖縄に行ったりして、水俣病のことや沖縄の基地問題をネタにすると
「やっぱり村本さんは直接現場に行って当事者の声を聞くからジャーナリストみたいよね」

と言われることがあるけど、正直、勉強しに、その土地に行くことなんかない。
そんなわけがない。勉強しにいくとか、絶対嫌だ。

でもなぜ、それをネタにするか。

それはたまたま縁あってその土地に行き、たまたま縁あってそこでその人と知り合い、そこで話したことが自分の怒りになって舞台でコメディになってるだけで、一度も「水俣病をネタにしたいから水俣にいこう」なんて頭のおかしなことを考えたことはない。

全ては縁があって、おれのところにその言葉がやってくる。

北海道で、いつも前説をやってくれるのはアイヌの芸人たちだ。

もちろん「北海道だからアイヌの芸人を前説に使えば面白いんじゃないか」なんて考えたことはなく、彼らがいいやつで、一緒にいて楽しく、彼らのネタが成長していくのを見るのが好きだから、北海道のライブは一緒にまわってる。

彼らが”アイヌ”という自分のルーツを使い、笑いをとる姿が好きなんだ。

それは同時に、おれはニューヨークで、自分のルーツをどうやって自分なりに笑いに変えようとも考えさせられる。

そして彼らと話す時間は、”アイヌ”という人たちを全く知らなかった僕にとってはとても新鮮で、時に胸をグサグサ刺されるような気持ちにもなる。

「アイヌという人たちを全く知らなかった、おれにとって」と言ったが、それを言うと「そんなことも知らないのかよ、アイヌというのは北海道の先住民族で」みたいな話を持ち出すバカがいるから説明するけど、おれがこの場合指している「知る」というのは「教科書に書いているそれ」ではない。その中の、誰かのなにか、という話だ。わかる?

北海道のアイヌ差別

前に俺が、「アイヌの知り合いができた。彼はすごいよね」という話をしたら、一人のアイヌの男が言った。

「彼は北海道出身のアイヌではない。東京の方で育った。北海道で子供時代を過ごしたアイヌと、北海道以外でその時を過ごしたアイヌとでは違う」と。

彼が言うには、北海道はアイヌ差別がすごくて、それは今も続いているという。

おれが、北海道のいろんな街に行った時に「アイヌ差別あった?」と地元の人に聞くと、
「うちの街にはアイヌはいなかったから、そんなのなかったよ」という人たちがいた。

そんなことをアイヌの友達に話すと「ほとんどが自分がアイヌであるということを隠していた。アイヌということがバレるといじめの対象になるから」と。

沖縄の人たちや在日コリアンの人たちは、アイヌの人たちと同じくマイノリティだが、それとはちがう。

沖縄の人は沖縄県があり、同じルーツに囲まれてる。
在日コリアンも朝鮮学校などがあったり、仲間がいる。
アイヌの人たちは広い北海道において、クラスの中でも少数。

沖縄の人たちや、在日コリアンは、闘争することによって自分たちを守ってきたが、
アイヌの人たちは隠すことによって自分の身を守ってきたという。

それこそ北海道では、子供たちはバカな親の影響で「あそこの家、アイヌだぞ」「あいつアイヌらしいよ」「お前アイヌっぽいな」というような言葉を日常で使うやつがいる。

すると、それを聞いたアイヌの子供たちは、怖くなり、アイヌであるということを隠す。

同級生が家に遊びに来れば、リビングに親が作る熊の木彫りなどが置かれているので、友達をリビングには通さず自分の部屋に行ったり、時には自分がアイヌであるということを憎み、お母さんが作ってくれる大好きなアイヌ料理などを嫌いになることでアイヌという自分を否定した人もいた。

帯広にアイヌの友達がいて、彼女がドキュメンタリーになってた。

その内容は、

子供の頃、同じアイヌの同級生が、アイヌであるということでいじめに遭っていて、その彼と仲良かったけど、仲良くすると自分もアイヌだとバレていじめられるから彼とは距離をとった。そして大人になってからそれを彼に正直に話して謝る。

という話。

そんな事実がたくさんあるのに「北海道にアイヌ差別はなかった」という人たちもいた。

アイヌの人たちは他の日本人と比べて、体毛が濃いという。

おれの友達の鹿児島や、沖縄の友達も同じように濃いんだけど、北海道の中にいて、少数でいじめの対象となった彼らは、大人になったら100万円ぐらいかけて脱毛すると聞いた。

「毛がないのがいい」という価値観で、誰かが暴力にあう。

そのアイヌの彼は言った。

「子供時代をそうやって過ごしてきた北海道のアイヌと、北海道以外で育ったアイヌとでは違う」

悲しいけど、仲間意識は”痛みで繋がってる”と。

今回、北海道に行って、縁あって、その言葉がおれのところにやってきた。

それはおれにとって教科書に載ってない「知る」を知ること。


村本大輔
コメディアン。ウーマンラッシュアワー。
1980年生まれ。福井県出身。2008年中川パラダイスと漫才コンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。漫才コンクール、NHK上方漫才コンテスト、THE MANZAIなどで優勝。
Abema TVのMCとしてニュース報道に関わったことをきっかけに、政治・社会問題を取り上げた漫才をつくりはじめる。自身の考えをストレートかつスピーディーに届ける独演会が話題となり、舞台での活動が軸となっていく。2024年2月からニューヨークに拠点を移し、スタンダップコメディアンとして日々ステージに立つ。

Instagram:@muramotodaisuke1125
Voicy:https://voicy.jp/channel/820839