村本大輔のニューヨークの日常コラム WTF

アメリカ人てやつは

#連載エッセイ
#村本大輔のニューヨークの日常コラム WTF

ウーマンラッシュアワーという漫才コンビの村本大輔と言います。
僕は2024年の2月からニューヨークに活動の拠点を移し、マンハッタンに住み、英語で、毎晩コメディクラブでネタをやってまわってる。
英語でというと聞こえがいいが、日本語で書いたものをChatGPTで英語にしてもらいそれを丸暗記して話している。高校も卒業していないので40歳でbe動詞を覚えたレベルだ。
そんな僕のニューヨークでの生活をここに書き、少しでも僕のことを知ってもらおうと連載を受けることになった。

エリックという男

今、僕はニューヨークでの仕事がほとんどないので、出稼ぎとして定期的に日本に戻り、ライブを日本全国で開催し、ニューヨークでの生活の資金を集めている。

初日は沖縄からスタートだ。沖縄は宮古島、那覇、名護、読谷、それらをまわる。

沖縄には日本にある米軍基地の7割が密集してて、米軍ヘリの墜落事故や、米兵の犯罪も絶えない。
そして日米地位協定という協定で日本で彼らを裁けず、そのまま泣き寝入りする沖縄県民がたくさんいる。

だから日本に戻って沖縄でライブをやる意味が僕にはあって、ツアーの始まりは沖縄からスタートだ。

今回は、ニューヨークで仲良しのコメディアン、エリックが、おれの日本の出稼ぎライブに合わせて自分も日本に行くといい、付いてきた。

エリックというのは、変なやつで、歳は50歳ぐらい。消防士として働いてて、時々こうやって1週間ぐらいの休みを取り、世界中を旅してる。

特に日本が好きみたいで、日本には何度も来ている。

しかし不思議なことに、彼は基本、ホテルから出ない。この前、日本に来た時は、1週間ほぼホテルにいた。

ホテルは基本、ハイアットに泊まる。ハイアットで朝食のバイキングをガッツリ食べ、あとは一日中何も食べない。

おれが寿司やラーメンに誘っても、ホテルの朝食バイキング食べたから必要ないと言って断る。寺や、東京タワーや、観光地をまわるわけでもなく、彼はずっとホテルにいる。

何しに来たんだ、と思うんだけど、彼はそれが好きらしい。

そしてコメディアンとしての彼のジョークは、ど下ネタか、めちゃくちゃブラックジョークだ。

大人のおもちゃの名前が、5分間のネタの中に50回ぐらい出てくる。

手首のリストカットのやり方とステーキの切り方の違い、というネタもあって、ほぼ誰も笑わないのに、本人は楽しそうにこれらのジョークばかりやってる。

そんなエリックが今回、沖縄のおれのライブの前説をやりたいと言ってきた。

お客さん日本人ばかりだから、英語はほとんどわからないよ、と伝えたけど、ジェスチャーとか、そんなのでなんとかなるから大丈夫だ、と言ってきた。

まあ、そんなにやりたいならと、彼を沖縄の名護のライブで前説をやらせてあげることにした。

おれも自国以外でネタをやる大変さを知ってる。

彼も日本で日本人を笑わせたいなんて、大した気概じゃないか、と、彼に前説をやらせてあげることにした。

沖縄での再会

ニューヨークで普段一緒にいる彼と、沖縄の名護で会うなんて、なんとも嬉しい再会だ。

ライブ開始時間、彼は行ってくるよ、と、舞台に飛び出していった。

そしてまさかの、やつは、一文字の日本語も使わず、5分間、全て英語で、ゆっくり話すという感じでもなく、アメリカでやってるままの英語で、しかも「アナル」という下品な言葉を連呼し出した。

あの野郎! せっかく集まってくれた名護の人たちの前で、まじか、と血の気がひいたんだけど、発音が良すぎて「エネル」と言い、お客さんたちは、みな口々に「エネルってなにかしら?」「エネル?」「誰か知ってる?エネル」「なんか可愛い言葉ね、エネルって」と、アナルだとも知らず、客席の沖縄県民もエネルを連呼し出した。

結局、ひと笑いもとらず、一文字の日本語も使わないまま、舞台を降りた。

こいつはさすが、アメリカ人だなと思った。

普通は、日本人ばかりのライブにでるなら、「こんにちわ」「ありがとう」ぐらいの日本語は覚えてくるもんだ。韓国俳優の「アナタガチュキダカラ〜」なんて立派なもんだ。

そんなこと一切なく、たとえ英語が理解できたとしても、誰しもが引くアナルネタを平気でやる。

この太々しさは、日米地位協定で守られてるからだろうか。

どうせアメリカにすぐ帰るからやりたい放題だ。泣き寝入りするしかないのか。

お笑いで失敗することを、日本ではすべるという。英語ではBOMB(爆弾)という。

あの夜はエリックというコメディアンによって、沖縄にたくさんの爆弾が落とされた。
やつの口こそ、辺野古の土砂で埋め立てたかった。


村本大輔
コメディアン。ウーマンラッシュアワー。
1980年生まれ。福井県出身。2008年中川パラダイスと漫才コンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。漫才コンクール、NHK上方漫才コンテスト、THE MANZAIなどで優勝。
Abema TVのMCとしてニュース報道に関わったことをきっかけに、政治・社会問題を取り上げた漫才をつくりはじめる。自身の考えをストレートかつスピーディーに届ける独演会が話題となり、舞台での活動が軸となっていく。2024年2月からニューヨークに拠点を移し、スタンダップコメディアンとして日々ステージに立つ。

Instagram:@muramotodaisuke1125
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