ウーマンラッシュアワーという漫才コンビの村本大輔と言います。
僕は2024年の2月からニューヨークに活動の拠点を移し、マンハッタンに住み、英語で、毎晩コメディクラブでネタをやってまわってる。
英語でというと聞こえがいいが、日本語で書いたものをChatGPTで英語にしてもらいそれを丸暗記して話している。高校も卒業していないので40歳でbe動詞を覚えたレベルだ。
そんな僕のニューヨークでの生活をここに書き、少しでも僕のことを知ってもらおうと連載を受けることになった。
目次
気をつかうこと
ニューヨークに住んで約1年、年の4分の1は日本で出稼ぎで帰っているので、まるまる1年ではないんだけど、ニューヨークに住めば住むほど、より自分の日本人としての好きではないところが強くなってきてる気がする。
例えば、気をつかうこと。
この国に来て、日本よりも気をつかうことが多くなったような気がする。
こっちではタクシーよりUberを使うことが多いんだけど、Uberに乗ってる時、僕はよっぽど寒くない限り、窓は開けたい。
だからいつも
「窓開けていい??今日の天気が大好きなんだ」
ってドライバーに伝えて、窓を開ける。
多分、普通は「窓を開けていい?」だけだと思う。わざわざ「天気がいいから」とは言わなくていいと思う。
しかし、アメリカの人たちは香水がとても臭かったり、体臭が強かったり、彼らの匂いが強い時がある。
だから、もし彼らがそれを気にしていたとしたら、僕の窓開けていい?の一言で「俺の香水のせいかな、体臭のせいかなぁ」って自分自身のせいだと思わせたくないから、僕は「天気がいいから窓開けていい?」と聞く。
友達にその話をしたら多分彼らは気にしてないと思う、と言われた。多分、そうだと思う。
でも、もし気にしていたら、一言、天気がいいから、って足すぐらいいいと思うから一言足す。無駄な一言なんだけど、気にしてしまう。
多分、日本にいた時、本当に車内が臭かった時があったから、その名残で、窓を開ける時、相手をなるべく傷つけないように、その言葉を足すくせができたんだろうが、とにかくニューヨークでは、誰も気にしてないのに、自分だけ相手が気にしてるかも、と気にしてしまってる。
ブレスユー
こっちの人たちは、誰かがくしゃみをすると
「ブレスユー」(Bless you)と返す。
お大事に、的な意味らしいんだけど、この前、ジムにスチームサウナがあって、そのサウナに入っていた時のこと。
その時、サウナ室は満室で、アメリカのそれは、もうドラゴンボールの孫悟空のような体をしたスーパーマッチョたちが、ひしめき合っていた。
その中で、ひょろっとしてるくせに腹だけ出てる地獄の餓鬼のような僕が真ん中にポツン。
その瞬間、くしゃみが出そうになった。
しかし、もしここでくしゃみをしたらみんながブレスユーと言うかもしれない。言うかもしれないし言わないかもしれない。とにかく、どっちが分からない。
どっちかわからないけど、なんか、すごく、ブレスユーと言わせてしまったら申し訳ない気持ちになってきて、くしゃみをこらえた。
しかし、こらえればこらえるほど、鼻のあたりが痛くなっていき、オナラみたいなもので、よりくしゃみが膨らんでいくのがわかった。蓄積され、大爆発の気配だ。
僕はあれよあれよと膨らんでいく力に耐えきれず、大爆発のようなくしゃみをしてしまった。
すると、室内にひしめき合った全マッチョたちが一斉に低いトーンで
「ブレスユー」
と言った。
なんの笑いも無しで真顔で。
僕はタオルで顔を隠した。なんか、申し訳なさと、笑いが込み上げてきて。
彼らからしたら当たり前なんだろうけど、おれからすればまさか、ここで、ブレスユーが、しかもみんなから来るなんて。
それから、サウナでくしゃみが出る時は、外に逃げてくしゃみだけして、また戻っている。
そこまで気にしなくてもいいだろうに、なんかブレスユーを言わせるのが申し訳ない。
本音と建前
日本にいるときより、より、人に気をつかうようになった。
それはやはり、よそ様の国にお邪魔してると言う気持ちからなんだろうか。
でも実は誰も気にしていないことを気にしてるんだから、無駄な気なんだよな。自分の問題。
改めて自分が変だと思う。
こんなに気をつかうのに、アメリカでタブーとされてるイスラエル批判を舞台でやったり、結構、物議を醸すネタをやってるってのは、どっちが本当の自分だろうとは思うんだけど、舞台の上が一番、気をつかわず自由なんだろう。
舞台の下が、必要以上に気をつかって自分でいられなくなってるのかも。
本音は舞台の上、あとは建前で生きてる。
建前で生きるから、舞台に上がって本音で生きたいのか、どっちだろう。
村本大輔 コメディアン。ウーマンラッシュアワー。 1980年生まれ。福井県出身。2008年中川パラダイスと漫才コンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。漫才コンクール、NHK上方漫才コンテスト、THE MANZAIなどで優勝。 Abema TVのMCとしてニュース報道に関わったことをきっかけに、政治・社会問題を取り上げた漫才をつくりはじめる。自身の考えをストレートかつスピーディーに届ける独演会が話題となり、舞台での活動が軸となっていく。2024年2月からニューヨークに拠点を移し、スタンダップコメディアンとして日々ステージに立つ。 Instagram:@muramotodaisuke1125 Voicy:https://voicy.jp/channel/820839