村本大輔のニューヨークの日常コラム WTF

加担しない

#連載エッセイ
#村本大輔のニューヨークの日常コラム WTF

ウーマンラッシュアワーという漫才コンビの村本大輔と言います。
僕は2024年の2月からニューヨークに活動の拠点を移し、マンハッタンに住み、英語で、毎晩コメディクラブでネタをやってまわってる。
英語でというと聞こえがいいが、日本語で書いたものをChatGPTで英語にしてもらいそれを丸暗記して話している。高校も卒業していないので40歳でbe動詞を覚えたレベルだ。
そんな僕のニューヨークでの生活をここに書き、少しでも僕のことを知ってもらおうと連載を受けることになった。

日本のテレビ番組と無知

アイヌの友達が北海道にいて、彼女がインスタのストーリーで「水曜日のダウンタウン 不快」だけ書いてたから「どうしたの?」って聞いたら、あまり自分の口から言いたくなさそ
うだったので調べたら、
水曜日のダウンタウンという若者に人気の番組があって、その企画でインディアンスという若手の漫才コンビにドッキリを仕掛けるというもので、

要は彼らに

「ネイティブインディアンの団体から”インディアンス”みたいな名前を使わないでくれという抗議があって、名前を改名して欲しい」

というもの。

そういえば、ネットニュースでインディアンス改名みたいなものが上がってて、Twitterでそのあと調べたら、笑ったとか、好感度上がったとか、そんなようなコメントが並んでいた。

アイヌの彼女が悲しかったのは、“ネイティブインディアンの抗議”をネタとして番組が使ったということなんだろうと思った。

先日、アメリカに住む日本人の友人から「もうテレビ出ないの?」と聞かれた事を思い出した。だから何だよ、と。

何年か前に日本テレビの「スッキリ」という、極楽とんぼというお笑いタレントの加藤さんが司会の番組で、アイヌのドキュメンタリーを紹介するコーナーがあった。

毎回映画を紹介し、その番組にちなんだ一発ギャグを、脳みそ夫という芸人が作って、映画の紹介前にやるんだけど、そこで「あ、犬」というダジャレを言った。

その場は、スタッフも司会者もみんな「くだらねぇなー笑」みたいな事で笑ってたんだけど、「あ、犬」というのは、北海道で、昔、アイヌの人たちを侮辱する時に使われていた差別用語で、番組はバッシングを受け、謝罪に追い込まれた。

今回の水曜日のダウンタウンのような日本で一番視聴率を取るお笑い番組、そしてスッキリという朝の高視聴率番組、そして司会者の加藤さんは北海道出身なのに、それを知らず一緒になって笑う。

無知なスタッフと無知な芸人と無知な視聴者の村。

批判をされてもおそらく彼らは「好きなことができない息苦しい社会になったな」ぐらいにしか思っていない。

函館のBARで隣になった白人の男と以前、たまたま話すことがあった。

彼は日本に住んで長い。彼は日本のテレビが一番自由だと言った。

なんで?と聞いたら、誰もそれを批判されるものだと知らないから、芸人もそれをやり、スタッフもそんなのを作り、後で批判されてから謝る。だから一旦、外に流れる。

アメリカでは、みんな教育を受けてるから、放送前に絶対アウトだろって放送させてくれないし芸人も言わない、と。

でも、おれもあのままテレビの世界にいたら、何も知らずに、同じような事をやっていたかもしれない。

同じ仲間と同じ時間を繰り返すと世界は狭くなる。

前に、東京代官山のカフェのテラスでコーヒーを飲んでたら、一人のおじさんがグラスの水でガラガラうがいをして、テラスの庭にペッと吐いた。

それが彼の仲間の世界では普通なんだろう。

道で唾を吐く人だって、地べたに座る人だって、同じ人ばかりといると、それが当たり前になり、それをおかしいと言ってくれる人がいない

先住民族を知らない日本人

日本の先住民族は北海道はアイヌ、沖縄は琉球民族だ。

アメリカではコロンブスの日という祝日?があるんだけど、先住民族の日という名前に変わった。

アメリカ大陸に来て先住民族を大虐殺したコロンブスを讃えるのはおかしいと。

そしてネイティブアメリカンもindigenous people(インディジュネス)と呼ばれている。芸人もちゃんとそう呼ぶ。

この前、ニュージーランドの議場でニュージーランドの先住民族マオリ族の議員さんが、自分たちを差別するような法案が通りそうになり、マオリ族の魂の叫びの踊り「ハカ」を踊った。

その動画が世界中で拡散されていて、涙を流す人たちもたくさんいた。

その動画をインスタでシェアしたら、日本人の若い女性から「爆笑」って返信が来た。
彼女は背景などを知らずただ顔芸のように見えたんだろう。

アメリカ人にそれを話したら、信じられないと言ってひいていた。

しかし彼女は悪くない。

日本人自体が沖縄や北海道をあとから奪ったから、その土地に昔から住んでる先住民族のことを知らないし、学校でもそんなに学んでない。

でも、彼らは今もいて、先住民族の権利を取り戻すために戦ってる

アイヌの人たちもそうだ。

彼らは葛藤してきた。だから軽いドッキリ企画で、それが雑に使われたことに、そんなに無知なんだというショックもあったんだろう。

アメリカの芸人は、もちろんいろいろいるけど絶対にやらない。アウトだと思ってる。でも、アウトだと思ってて敢えてやる奴もいる。敢えて、だ。

水曜日のダウンタウンは無知で、やった感じがする。

そしてスッキリでアイヌの人を取り上げたドキュメンタリー、その番組は、ひとりのアイヌの女性が、アメリカのセミノール族という先住民の人たちを訪れ、自分のルーツに誇りを持つという事を学ぶドキュメンタリー。

これを書いてて気づいたんだけど、その不快だと投稿した友達のアイヌの女性は、その女性だった。

彼女も思ったんだろう。日本の高視聴率のお笑い番組の意識の低さを。

おれはますます、このような日本のテレビにでて加担したくないと思った。


村本大輔
コメディアン。ウーマンラッシュアワー。
1980年生まれ。福井県出身。2008年中川パラダイスと漫才コンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。漫才コンクール、NHK上方漫才コンテスト、THE MANZAIなどで優勝。
Abema TVのMCとしてニュース報道に関わったことをきっかけに、政治・社会問題を取り上げた漫才をつくりはじめる。自身の考えをストレートかつスピーディーに届ける独演会が話題となり、舞台での活動が軸となっていく。2024年2月からニューヨークに拠点を移し、スタンダップコメディアンとして日々ステージに立つ。

Instagram:@muramotodaisuke1125
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