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気負わなくていい、自分らしいミニマリズムの見つけ方/赤城あきら(@akira_akagi)

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歴2年のミニマリストが、「持たない暮らし」の実体験を、失敗談も赤裸々にぶっちゃけます。「○○は捨てろ」「○○はするな」という強要は一切ナシ、気負わずにできる「自分らしいミニマリズム」のススメ。自分と向き合うきっかけがほしい人も必読です。

ミニマリスト=「自分にとっての必要最小限」を理解した人

「ミニマリズム」という言葉に対していろいろなイメージがあると思いますが、そもそもの定義は「完成度を追求するために、装飾的趣向を凝らすのではなく、むしろそれを必要最小限まで省略する表現スタイル」のこと。

例としてよく挙がるものに、Apple社のロゴがあります。スティーブ・ジョブズも、考えることを減らすために、毎日同じ服を着ていたことで知られていますね。また、近年人気のブルーボトルコーヒーは、どの店舗も壁に青いロゴがあるミニマルなデザインで統一されています。

僕の見解をお話しすると、ミニマリストとは、「自分にとっての必要最小限」を理解した人のこと。枕詞に「自分にとっての」と入れていますが、家族構成や居住エリア、収入、価値観などは人それぞれ違いますから、完全に一致することはありません。ですから、「ミニマリストがこれを持っていたらおかしい」ということはないし、逆に、「ミニマリストこうあるべき」という方向に振れすぎてモノを減らしまくるのも、疲れてしまうと思います。

まず大切なのは取捨選択するプロセス、つまり「自分の生活の中で何が必要で、何がいらないか」を理解することです。今までやっていたことや持っていたモノをなくすと、余白ができます。その余白を純粋に楽しんでもいいし、仕事や、自分がやりたいことに充ててもいい。そこは自分次第です。

上がっていく「幸せ」のボーダーライン

比較に必要な「考える」プロセス

僕は仕事柄、医師とお話しする機会が多いのですが、脳神経内科医、心療内科医のみなさんが口を揃えておっしゃるのが「幸せの“ボーダーライン”が上がっている」ということです。他人の暮らしや思考、価値観がとめどなく流れてくる世の中になり、無意識のうちに比較する人が増えています。

そもそも、人間の脳は、比較しないと価値を測れない仕組みになっています。いろんな場面で目にする平均値や偏差値、中央値といった値も、「たくさん人がいるなかで、自分がどの位置か」を数値として感覚で認識するためのもの。ガジェットが好きな人なら、A社とB社の製品を当然のようにスペック比較して価値を測るでしょう。これは、人が脳の仕組みとして生まれ持ったものなのです。

人間の性として、「いい比較」と「悪い比較」があります。「この人みたいになりたい」、「追いつけるように、追い越せるようにがんばろう」という憧れの感情は「いい比較」です。しかし、そこに「考える」プロセスがないと、虚無を感じてしまうことになります。たとえば、憧れのAさんがパソコンをおすすめしていたとしても、職種や用途が違えば、それが自分にも最適な製品とは限りません。実はタブレットとか折りたたみスマホのほうが自分にはフィットする可能性もあります。

情報発信者が言っている“解答”や“ヒント”をただ受け取るのではなく、「なぜそれを選んだのか」という“判断基準”や“理由”に目を向けるほうが、有意義でミスマッチも少なくなります。ですから、「この人みたいになりたい」と思ったら、その人のパーソナルな部分に触れたり、想像でいいから、「どうしてそういう行動をしたのか」などと考えたりするフェーズが必要です。

そのうえで、そうした抽象的な考えと、「自分に当てはめるならどうなるか」という具体的な考えを行き来して、自分なりの答えを出しましょう。いろいろな情報に触れた上で、具体と抽象を行き来しながら、「自分で考える」ことがいちばん大切です。

持たない暮らしのよかったこと

「ミニマル思考」は応用が効く

「どこに自分の時間や考え方を寄せるか」、「自分には何が必要で、不要か」を落とし込んで考えることで、自分と向き合うことがクセになります。以前の僕は大ざっぱで、人から言われたことを「はい、はい」とすぐにやって後悔することも多かったのですが、ミニマル思考を応用し、「僕だったらどうするか」をしっかり考えるようになると、「ここは必要だけど、ここはいらないな」などと判断がつくようになりました。

自分で考えるようになると、うまくいかなかった場合も、「こうしたらうまくいかないんだ」という積み重ねになるので、どんな結果でも、ある程度の納得感が得られるようになりました。このように、ミニマル思考はモノだけでなく、思考、習慣などいろいろなところに波及して、土台になっていきます。

「土俵」から「自分の意志」で降りることができる。

「持てない」のではなく、「持たない」と自分で決めることがけっこう大切です。すごくいいモノがあったとして、「手が届かない」と考えるよりも、「自分の生活にはいらないんじゃないか」と考えたほうが納得感がありますよね。 結果的に自分の肯定感を高めることにもつながります。

たとえば腕時計。高価な腕時計は「成功」の象徴みたいなところがありますし、スマートウォッチだと機能的な側面での勝負になります。でも、そんな青天井のところへ勝負しにいくよりも、「僕は別軸で行きますわ」と思ったほうが気が楽になるし、自分の気持ちも上がります。

出費や忘れ物が減る

今の暮らしに満足しているし、工夫も重ねてきているので、普段の生活の中で激しい出費はそんなにありません。また、モノの選び方を定番化・固定化し、基本的にはカバン1つのなかにすべて入っているので、忘れ物も減りました。

出費が減るというのは、不労所得を得ることと同義です。「何もしないで1万円がどんどん入ってくる仕組みをつくる」のは大変ですが、「出費を減らして1万円ずつ貯まっていく」なら、自分の考え方を少し変えればできます。お金を貯めたいと思ったら、このようなやり方もいいのではないでしょうか。そして、出費や忘れ物が減ると時間も増えますから、やりたいこと、夢に充てることも可能です。

持たない暮らしの難しかったところ

ひとりで時間だけがあると、孤独を感じる

独身で家族がいなかったり、夢や特にやりたいことがない人は注意が必要です。バンバン捨ててしまって何もなくなると、けっこう危ないです。僕はギリギリ大丈夫でしたが、うつになった知り合いも何人かいます。気分を上げてくれるモノやコトまで捨てる必要はないと思いますのでご注意を。

特定の印象を持たれやすい

どうやら世間的には、ミニマリストは「冷たい・怖い」というイメージが少なからずあるようで、特定の印象を持たれがちです。そもそも「ミニマリストです」と名乗る必要はないと思います。僕の場合は、表現スタイルのひとつでもあるためSNSでも公言していますが、名乗ることで重荷に感じている人も周りには多いです。

一方で、ミニマリストであることは逆手にも取れます。たとえば、デザインを頼むとき、散らかった部屋の人と、すっきりした小洒落た部屋の人、どちらに頼みたくなるでしょうか。持ち物や雰囲気は、人の印象を大きく左右します。

僕が意識しているのは「別軸で加点を狙う」こと。今は特にリモートワークで、部屋の様子が見えやすい。そのとき、小ぎれいにしていたり、整理整頓されていたりすると、「けっこうマメなのかな。じゃあお願いしてみようかな」という、きっかけになります。自分に資格や実績がなくとも、別軸で信頼を得ることができるのです。

手放しすぎて不便になることがある

僕の場合、冷蔵庫を捨てて1〜2年は順調でしたが、コロナ禍で外食ができなくなり、再び買い直さなければいけなくなりました。このように、自分を取り巻く環境は変化し続けるので、柔軟性はあったほうがいいと思います。

肌着を10枚から3枚に減らしたのも失敗でした。捨てる瞬間は、前の自分とは違った自分になれるような大きな喜びがありますが、その興奮からさめて冷静になると、仕事が忙しいときは洗濯が間に合わないことに気づく。これは極端すぎる例ですね。

会社を辞めて後悔した側面もあります。独立し、ひとりで仕事をしている今も楽しいですが、切磋琢磨したり、一緒にアイデアを出し合ったりする同僚がいたらもっとよかったなという気持ちもあります。あとは、彼女からの手紙を捨ててしまったことで、それが別れの原因になったことも(笑)。形として残すことに価値を感じる人もいるということですね。

振り返ってみて思うのは、ミニマリストには「意思決定の練習」という側面があるということ。今は昔と比べてなんでも選べるし、未知のものがあちこちにたくさん転がっています。それらについて「どういう軸で選んだら失敗しないか」という経験を蓄積していく。最終的に、モノに傾けられる気持ちの総量には限界があるので、たくさん持つのではなく、「いろいろ試して、これを選んだ」というプロセスのトレーニングにもいいのではないかと思います。

ミニマリストのモノ選び

「機能性」と「美しさ」の、いい塩梅を探す

次に、僕がモノを選ぶ時の基準についてお話しします。たとえば、長年使っているお気に入りのノートは、表紙に世界地図の刺繍がされているもの。なんとなく「こだわったモノを持っている」ことが相手に伝わるのではないかと思って選んでいます。

モノや装いから伝わる情報量は多いです。その人の写真や雰囲気は、直接会話をする以上に伝わる何かがあります。他の人からの見え方を考えると、特に若いうちは、“いいモノ”を持っていることが大事。自分が選んだモノが「人からどう見られるか」に関わると思うと、一つひとつのモノ選びは慎重になります。

僕のモノの選び方には2つの軸があって、ひとつは機能性です。言い換えると「楽にしてくれるもの」。洋服なら乾きやすく、アイロンがいらないもの。カバンなら2wayで、取り出しやすいもの。

2つ目は、美しさ。基本的には無駄がなくてシュッとしているものが好きなのですが、そのなかで、趣というか、「一風変わった」「ほかじゃなかなか出せない味がある」ものを探すのが趣味でもあります。

難儀なのが、機能性と美しさが比例しないこと。機能性は足していくものであるのに対して、美しさはそぎ落とすなかで生み出されていくもの。この相反するなかでいい塩梅を探していくのが、いいトレーニングにもなっています。

2年半くらい使っているカバンは、見た目重視で選んだマザーハウスの革製リュック。アウトドアブランドのリュックに機能性では劣りますが、カジュアルにも仕事にも使えるので気に入っています。

モノ選びは自己紹介にもなる

照明などの部屋に置くアイテムは、実用性だけでなく、インテリアにもなるものを選んでいます。特に、今はリモートワークで部屋の様子が見える機会も多いので、目を惹くような変わったものがあると、会話の糸口になることもあります。

財布は、名刺入れみたいな見た目の、めちゃめちゃ薄いタイプを使っています。蔵前の職人さんがつくったもので、熱でくっつけているので縫い目がほとんどなく、壊れにくいので長く使えます。

長く使えるもの、何にでも組み合わせやすいものを選んでいつも使っていると、愛着もわいてきます。そして、モノ選びはかんたんな自己紹介にもなります。「あのカバンの人ですよね」といってもらえるようになるのは、うれしいことです。

医学的に証明されている「脳の仕組み」

価値観に正解はないけど、種類はある

脳について少しお話しをします。脳はラクをしたがる器官です。というのも、ブドウ糖を脳にばかり使うと体の他の器官に行き渡らなくなってしまうので、なるべく省エネするようにできています。

僕は脱衣所にスキンケアのグッズを置いているのですが、それは「ここはクリームを塗って保湿をする場所」と脳に記憶させるため。「場所」と「行動」を紐付けると、体が勝手に動くようになるのです。行動だけでなく、感情やにおいも当てはまります。言い換えると、脳は経験を元に勝手に答えを出すのです。

一方、脳は絶対的な判断が苦手です。たとえば家電を買うときは、他の製品と価格や機能を比較します。仕事や暮らし、自分の現状などを知るときも、知り合いや他人と自分とを比べて、相対的な今の位置を理解しますよね。逆に、脳は「アタリ」をつけることに関しては優秀です。うまくいったパターン、うまくいかなかったパターンを振り返って、「次はこうすればうまくいくんじゃないか」と想像を働かせるのには優れています。

では、「相対的にしか理解できない」ことを踏まえたうえで、何を選んだらよいのでしょうか。ひとつめは、自分の足りないところ、うまくいかなかったことに目を向けて、「これではいけない」とバネにするパターン。2つめは、純粋に「ぐぬぬ……」と悔しがるパターン。

そして、3つめが「軸」をズラすこと。「価値観に正解はないけど、種類はある」という話しです。収入や持ち物、肩書きといった社会的ステータスを重視する「地位重視」、人柄、地域、親族などのコミュニティ、横のつながりを大切にする「人格重視」、それから最近多いのが、自分が一生かけてやりたい趣味や生きがいに情熱を燃やす「趣味重視」——このように、世の中にはさまざまな価値観があり、何を大切にするかは人それぞれです。

所属するコミュニティによって、重視されるものは違ってきます。上昇志向のない人が、周りがみんなガツガツした会社にいたらツライと思います。また、地域交流にまったく興味のない人が「一緒にやろう」と誘われても、「時間の無駄だ」としか思えないでしょう。

人が集まると必ず、そこにはどういうタイプの人が多いか、ある種の分かれ方をします。自分とコミュニティとの間のギャップが大きいと苦しいというのは、僕も実体験を通して感じてきました。そのときに自分がやってきたのは、割り切って考えを変えるか、所属するコミュニティを変えること。その場にとどまって「自分のほうがいけないのかな?」と神経をすり減らすより、「自分はこういうことがやりたい」ということを受け入れてくれる場所に身を移したほうが賢明だと思います。

ミニマリストが手放さなかったモノ

紙の本とノート、スマホ、TPO、そして遊び心

モノ選びや価値観、考え方について話してきましたが、結局、何に気持ちや時間を充てて、代わりに何を減らすか、というのは本当に人それぞれです。そのなかで、僕が手放さなかったのは紙の本とノートです。考えをまとめたり、頭の中で断続的に続いている思考を外に出したりするときには、紙のほうが僕には合っていました。

それからスマホですね。仕事をするうえで絶対に必要ですし、行き過ぎたデジタルデトックスは難しいと思います。寝るときにはサイレントモードを利用するなど、うまい具合に付き合っています。

それと、TPOも大事にしています。どんなときも「自分はこういうスタイルだ」と筋を通すこともかっこいいと思いますが、円滑に物事を進めるには「時と場合」という考えも必要。できる限り持ち物を減らしながらも、プライベートでも仕事でも使えるバッグや服を選ぶようにしています。あとは、遊び心ですね。まじめ一辺倒よりも、笑えたり、おちゃめだったりするほうが好きなので。

2018年にミニマリストというライフスタイルを知り、紆余曲折してきましたが、何を残して何を手放すか、その答えは自分の中にしかない——つまり「自分で考えるのが大事」ということをつくづく実感した2年間でした。自分と向き合うきっかけにもなり、ミニマリストなってよかったと心から思っています。




赤城あきら/あかぎあきら

こだわりぬいたアイテムだけ、少数持ちたいミニマリスト。
出身地は同人誌とぬいぐるみがあふれる汚部屋。

医療系メディア・コンサルティングの会社から、2019年に独立。
現在は4つのクリニックで事務長をしている個人事業主。

(けれど同僚がいないのはやっぱり寂しいので、隙あらば会社に戻ろうかと悩んでいる。)