ハチ飼育員の日記 4月某日

分蜂シーズンがやってきた。女王蜂が巣分かれをして、新しい巣を見定める時期だ。チャンスは約1ヵ月。その期間に捕獲できないと、来年まで待たなければならない。なんとしても捕まえたい。「居酒屋お決まりですか?」「カラオケいかがですか?」そんな気持ちで花の季節、根津を舞い飛ぶハチたちを見守る。

4月某日。快晴。
飼育員を名乗っているが、まだなにも飼育していない。

営業部長が毎日のように
「ハチ、来ないっすね」
と声をかけてくる。

たしかにハチは来ない。来る気配もない。それは事実です。
しかし、もし数多の自己啓発書が説く法則にならうとするならば、

「ハチ、来ないっすね」
と毎日言い続けることによって
“ハチが来ないという現実”を引き寄せてしまっているんじゃないだろうか。

今後、社内でハチの噂をするときは

「ハチ、来ている」
「ハチを迎える準備はできている」

でお願いしたい。

先日こんなニュースがあった。

女王バチには、巣に新しい女王バチが生まれると、群れを連れて新居探しに出るという習性がある。これを「分蜂」という。
このニュースは、物件探し中のハチが一時休憩していた場所が、たまたま繁華街だったという話である。
ハチに興味がない人にとっては、きっと恐ろしい光景だったに違いない。

だがハチの来訪を熱望する我々としては、「歓迎 ようこそサンクチュアリ出版の屋上へ」という横断幕を持って迎えにいきたいほどだ。

九州では分蜂がはじまっている。

私が出社できなかった日、総務の人に巣箱の撮影をお願いした。
ハチの巣箱にはあいかわらず変化はないが、総務の赤嶺さんは几帳面な方だった。角度という角度から、巣箱のありのままの姿をとらえてくれた。

それをグラビア風にお届けしたい。

黙りこむキミ、振り回される僕

待っているのはハチ? それとも……

ガツガツ系じゃないよ。でも今日だけ……特別

そんなに近づかないで

この世界から、キミ以外いなくなればいいのに

はい。

ハチがきてくれないと、報告できることはなにもない。巣箱の存在自体、忘れてしまいそうだ。今朝などは、はちみつを塗ったトーストを食べ終えて、そのお皿を片付けるころになってようやく思い出す始末だ。

公園や学校の花壇では、春の花が咲き始めている。
もう少し暖かくなれば、ハチを見かけるようになるかもしれない。

サンクチュアリ出版の屋上が、
彼らにとっての穴場物件になることを祈って。

飼育員 橋本圭右