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企業に求められ、令和時代に伸びるYouTuberとは/和田洋祐×酒井祥正

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競争が激化するYouTuber業界。そんな荒波を生き抜くのに必要なのは、影響力のあるYouTuberとなり、インフルエンサーとして企業と共生していくこと。これからの時代に本当に役に立つ、YouTubeの最新情報をお伝えします!

最近伸びているYouTuberの傾向

「人生を変える」生き方系、「癒やされ共感できる」低刺激系

酒井
最近は、「ミニマリスト」という単語を使う人が増えているのを感じます。ちょっと昔に「人生がときめく片付けの魔法」の近藤麻理恵さんとか、断捨離ブームとかがありましたが、本質的には断捨離がブームなのではなく、断捨離をして人生を変えたいということなんだと思うんです。何かしら人生を変えたいから動画を見る

見ているのは女性が多いらしいですね。話を聞くと、部屋を片付けると運気が上がる、お金が手に入る、人生が明るくなるという人もいる。「自己啓発としてのミニマリスト」というのが注目されているわけです。

もうひとつはLGBTQですね。たとえば『エルビアンTV』はレズビアンカップルの日常を追ったもの。テレビではマツコ・デラックスさん、ミッツ・マングローブさんなどが活躍していますが、YouTubeにも「LGBTQです」とオープンにしている人が出てきている。LGBTQの人がそれを見て「ああ、私と同じ人がいるんだ」と勇気をもらうこともあれば、普通の人が「こういう生き方もあるんだ」と思うこともある。

ボイストレーナーの『しらスタ』さんも、ここ3カ月で登録者数が30万人以上も一気に増えた人気YouTuber。メインの内容はボイトレなのですが、ちょこちょこおねえキャラを入れてくる。昔だったら隠さなくちゃいけなかったことが、公にできるようになってきているんですね。

和田
いろいろな生き方を表現できるのがYouTubeですね。僕が注目しているのは日常系、自分の中では低刺激系と呼んでいる分野が顕著に伸びてきています。代表的なのは『inliving.』さん。日常風景を写しているもので、今24万人ぐらいの登録者がいます。特に何かが起きるわけではないけれど、それが不思議な魅力になっているんですね。

『inliving.』さんは“ちょっとオシャレな日常”という感じですが、『まみむめもちお』さんは“ただ普通の暮らし”をアップして、それが共感を得ています。たっちゃんねるさんの「冴えないおっさんの休日」というシリーズが人気ですが、普通のおじさんが休日にどこか行ってビールを飲んだり食べたりしているという動画だったりします。このチャンネルも、11万人以上の登録者がいて、再生回数も多い。

このように、今は、特に何かが起きるわけでもない動画が好んで見られている傾向があります。YouTubeは、最初は過激なものや、刺激の強いものが好まれていましたが、その反動で、そういうのに疲れている人や、癒しを求めている人が、“キラキラしてもいない自分”と重ね合わせることができるような動画が伸び始めているのを感じますね。

どんなYouTuberがうまくいく?

「やりたいことがある」からYouTuberになった人

酒井
やっぱり、最初からやりたいことが明確な人ですよね。「これをやりたいからYouTubeを始めました」という人。『はじめまして松尾です』は、誰でも日常で思いつくくだらないことをオリジナル発明品を使って実験してくれています。まだ再生回数は伸びていないけど、僕は好きなんだな。彼みたいなことをやりたいけれど、僕にはその才能がない。だから、彼を見ると嫉妬します。卑怯だなと思うのが『南極おじさん』。実際の南極観測員の方が配信しているので、勝てないですよね。イッテQよりもリアル(笑)。

「自分を表現する場を探して、選んだのがYouTubeだった」という人は、向上心もあるし、ファンも獲得しやすいですよね。見ていても好感が持てます。逆に、なんとなく「YouTuberになろう」と始めちゃった人は浅い

和田
酒井さんと同意です。まずは「何かやりたい」という情熱が根っこにあること、それにプラスするなら、他のYouTuberと違うポジションを取れている、つまり差別化できている人は強いですね。

元美容部員の方がやっている『和田さん。チャンネル』は、去年ぐらいから始めてすでに80万人を突破しました。美容系のYouTuberは数多くいますが、どちらかと言うと世界観や、その人のライフスタイルを見せる側面が強い人が多い。その点、和田さんは化粧の技術を伝えるスキルが卓越しているんですよね。彼女が意図してそうしたのかはわかりませんが、実際に役立つわかりやすい動画を配信することで、これまでの人と違ったポジションを取ることができた。

酒井
『和田さん。チャンネル』の例もそうですが、2018年ぐらいから、プロがYouTubeに入ってきて、専門的なことを発信している流れを感じます。

たとえば経営者だと、開始から7カ月で10万人を突破した『マコなり社長』は、「仕事が遅い人がやってはいけない1つのこと」「あなたの仕事がつまんない理由」といったテーマで再生数を伸ばしています。実は、こういうテーマはみんなが狙っているんだけど、なかなか伸びないんです。その中でも伸ばすことができているというのは、やっぱりトークがうまくて、惹きつける力があるんだろうなと思います。

YouTuberを始めたい人へのアドバイス

広告収益が目的なら、やめたほうがいい

酒井
やりたいことがないなら、絶対にやめたほうがいい。「とりあえずYouTuberになろう」は無理です。表現したい何かがあって、それを発信する場としてブログやツイッターやインスタ、その中にあるのがYouTubeなんです。人によってはTikTokのほうがめちゃくちゃ伸びるかもしれないし。だから、「広告収益を目的に始める」という人はやめておきましょう。国内に40万ぐらいチャンネルがあって、収益が出ているのは1割しかありません

あとは市場分析かな。同じジャンルで伸びている人を見て、その理由を分析できることが大事です。

和田
まずは、やろうとしているジャンルの動画をひたすら見ることですね。伸びている人から伸びていない人まで、とにかく見まくる。伸びている人に関しては、なぜ伸びているのかをしっかり考えるのが必須です。

酒井
チャンネル運営って、会社だったり、商品をつくるのに似ている部分があります。集客して、お金を生み出す可能性があるという意味では、マーケティングですよね。自分の商品がどうやったらほしい人に届けることができるのか、きちんと考えてやらないときついだろうなという感じはあります。

和田
この前、「企業の人から30代以上の女性YouTuberが足りないと言われた。もっとみんなYouTuberやってよ」といった内容をツイートしたら少しバズったんですけど。そのときにちょいちょいいただいたのが、「ニーズがあるならやりたいです」という声。この「ニーズがあるなら」というのが僕は気になっちゃって……。
そもそも自分にやりたいことがあって発信していく中で、結果的に「この人ならいいプロモーションになりそうだ」と企業からのオファーが来るわけで。この順番が逆で、ニーズありきでいくと続けるのが大変だと思います。

ちなみに書評動画など文学系の内容を配信している『文学YouTuberベル』さんは、最初のうちしばらくはオールジャンルでやっていましたが、途中から分野を絞って今このスタイルに落ち着いています。そういうパターンもあるので、動画をアップするのが好きという人なら、とりあえず上げてみて、その中で自分の分野を見つけていくというやり方もあります。

YouTuberをやる上でいちばん大切なことは?

人のことを悪く言わない、そして継続し続けること

酒井
人のことを悪く言わないことですね。よそを下げて自分を上げることをしない。攻撃すると、視聴者もあまり気分が良くないし、同業者からも絡まれる。そして、攻撃すればするほど、それが好きな人が集まってきます。たとえば、「こんなカレーダメだよね」って言うと、それに反応して「このカレーどうですか?」「ダメだ」というコメントが集まってくる。このやりとりで得た登録者ってまったく意味がないんです。

美容系のメイクでも、「これまで使っていたものはこうなんです」はアリ。でも、特定のメーカーや商品を落とすのはダメ。見ている企業側は「ウチもこうされるのかな」と考えますから。あとは、今までメイクの動画を上げていた人が、急に“物申す系”の動画を上げるのもNG。きれいな海に墨が落ちたみたいで、「この人はこんなことも言うんだ」と思われてしまいます。

和田
いちばん大切なのは、継続し続けること。なんで継続できるかというと、そこに情熱、好きという気持ちがあるからですよね。

今後YouTuberで伸びる人

自分だけのポジションを取ることを意識する

和田
ゲーム実況や美容系、エンタメ系のように、すでに大きなジャンルに関しては、うまいポジションを取ることを意識できる人が伸びると思います。たとえばゲーム実況なら、女性というだけで数が少ない。それに社会人、声がかわいいとか、なんでもいいからちょっとしたポジションを取れるだけで全然違います。
美容系なら、30代、40代というだけでも独自になる。あとは属性だけでなく、何が好きとか、キャラ的なものとか。自分が好きなことのベースにプラスして、周りを見て「ここだったらイケる」というものを見つけられる人が伸びるでしょうね。

一方、ニッチなジャンル、たとえば先ほど例に出した文学とかは、そもそもやっている人がほとんどいないので、自分がそこを開拓していく必要があります。そういうのをおもしろいと思える人は、新しいジャンルをつくっていく人になるかもしれません。

酒井
ゴールを決めている人ですね。YouTuberを始めるとみんな広告収益を目指しがちですが、先ほども言った通り、収益が出ているのは実際には1割。顔出しができなければ、その時点でだいぶ絞られてきます。

でも、今は広告以外でも収益が上げられます。投げ銭機能の「スーパーチャット」で、1回の配信で5万円を稼いでいる人もいるし、視聴者に月額料金を払ってもらう「メンバーシップ」という仕組みもあります。人気が出れば、商品をつくったり売ったりもすることもできます。もちろん、YouTubeは仕事への集客にも使えますし、使い方でいろいろなマネタイズがあります。

企業案件とは?

YouTuberを起用したインフルエンサーマーケティング

和田
企業案件とは、YouTuberを起用して、商品や企業のプロモーションをしましょうという活動のことです。YouTuberは登録者が何万人、何十万人といてとても影響力があるので、その人に商品を宣伝してもらうことによって、実際の購入につなげるというわけです。今いろいろな業界から注目されている手法で、YouTuberタイアップとも言います。

インフルエンサーマーケテイングは以前からあって、もともとはブロガーに商品のことを書いてもらっていたのが最初ですよね。インスタグラマー、ツイッターと来て、今はYouTuberがいちばん伸びている状況です。

酒井
企業案件は受けた方がいいのでしょうか?

和田
企業案件は、YouTuberにとっていちばん大事なものというわけではありません。大事なのはチャンネルの成長や、視聴者により喜んでもらったり、自分のブランド価値が上がったりすること。そういったところにプラスになるのであれば、受けた方がいいと思います。

ジャンルで言うとゲーム系、特にスマホゲームが多いですね。いちばん多い『荒野行動』は動画数がずば抜けていて、YouTuberと一緒に2500本ぐらい動画をつくっています。

今伸びているのはコスメ、スキンケアグッズ、サロン、サプリメントなどの美容系で、実施している企業数でいうとゲームを上回っています。他にもアプリ、食品系、おもちゃ、家電やPCまわり、旅行、教育関連など、いろいろなジャンルがあります。

どんなYouTuberを必要としている?

訴求したい内容に合ったYouTuberを求めている

和田
企業としては「こんな人に訴求したい」というターゲットがあって、そこにちゃんと合うYouTuberなのかどうかを見ます。知名度があれば誰でもいいわけではありません。たとえば美容コスメで20代後半以降がターゲットの商品であれば、その層が見ているチャンネルを探します。

探すときは、もちろん登録者数や平均再生回数も見ますが、日頃どんな動画を上げて、どんな反応があるか、コメントの質なども見ます。コメントが同じ数だけついていても、内容が全然違うことがある。そのYouTuberのことを「かわいー」と褒めているコメントと、「この商品が良いものだとわかりました」というコメントでは、全然違いますよね。

事務所所属とフリー、どっちが企業案件に向いている?

事務所所属のほうがやりとりはスムーズ

和田
依頼する企業側としては、事務所に入っている人の方が、事務所側とやりとりするので仕事としてやりやすいという面はあります。

無所属の方だと、たとえば学生の方もいるので、ビジネス的な前提がわからないのは仕方がありませんが、言われたことをちゃんとしなかったり、連絡が途絶えたりするというのでは、企業としてリスクがあります。ただ、無所属の方には費用が安いというメリットもあります。

YouTuber側から考えると、企業とのやりとりに問題なければ無所属のままで、案件が増えて煩雑になってきたら、事務所に入るのもメリットがあると思います。というのも、無所属の方に、いきなり大手企業から直接連絡が来ることはまずありません。事務所に入っていれば、大きな案件が来る可能性もあるし、企画のところを事務所側で詰めてもらえるので、動画づくりに集中できます。ただし、入ったお金の何割かは事務所に持っていかれますから、そのバランスを考えてどうするかという話ですね。

こんな企業の案件は受けちゃダメ

企業とYouTuber、お互いに利益のある関係性が理想

和田
ちらほら聞くのが、一斉メールで雑に振られてくる案件がけっこう多いという話。キッズチャンネルに育毛剤の案件メールが来たという話には笑ってしまいました(笑)。

「無料で商品をあげるから、動画を上げといて」というのもよくあります。自分のチャンネルのためになるのならやったほうがいいと思いますが、雑な振り方をする企業と付き合う必要はないと思います。

広告主側の利益だけじゃダメなんです。お金の面だけでなく、たとえば「視聴者も喜んでくれそう、やってみたい案件だった」など、YouTuberにとってもプラスになる案件でないとダメだと思います。誰をマッチングして、どういう企画にするのか、そこの部分で「自分のことを考えてくれてるな」という依頼だったら、検討してみてもいいと思います。

酒井
YouTuberマーケティングは、リストや視聴数など強いものを持っているから、どうしてもYouTuberが強いんです。1年、2年かけ、何十本、何百本と動画を上げて築いてきた場所、いわば自分というプラットフォームを、企業側は利用しようとしているわけですから。もっと強気でもいいと思います

これから企業が必要とするジャンル

顔出しOKの親子、カップル、ファミリーYouTuberにチャンス

和田
美容系はむちゃくちゃ求められています。数が少ない30代、40代以上の女性だけでなく、20代も企業からのニーズが多過ぎてまかないきれない状況です。あとは、家族向けの商品が紹介できる、親子で出てくれるYouTuberも求められています。

酒井
あとは、カップルやファミリーが全員で顔出しできると強いですよね。ホテル、恋人の聖地、ロープウェーなど、家族やカップルで来ることを想定している場所の紹介なんかいくらでもありますから。夫婦で行って「どう? 今日は楽しいね」という会話が聞けると、ファンとしてはうれしいし、「行こうかな」と思える。

和田
掛け合いが生まれると単純におもしろくなりますよね。個人のYouTuberさんでも、マネージャーが声だけ出るとか、誰かと一緒に出てもらうこともあります。

酒井

あとは食べ物系ですよね。おいしい商品があっても、その発信の仕方がわかっていない飲食メーカーが多い。だからこそ、YouTuberとタイアップして、おいしそうに食べるというのはいい。食べ物はおいしく撮らなきゃいけないからこそ、これまでの動画の実績が評価されて「この人ならこんなふうに撮ってくれる」というのもあると思います。

(画像提供:iStock.com/Alexey Emelyanov)


和田洋祐
YouTubeデータベース「kamui tracker」やYouTube総合情報サイト「かむなび」を運営する企業のマーケター。YouTubeやインフルエンサーマーケティングへの知見を活かし、会社外でもイベント登壇やアドバイザーなどを務める。個人事業主を経て2018年より現職。

酒井祥正
YouTube「動画集客チャンネル」を運営し、これまでに多くのYouTuberの成長をサポート。東京・大阪・名古屋などでYouTuberオフ会を開催し、のべ300人以上が参加。YouTube公認ビデオコントリビューターとしても活動中。


サンクチュアリ出版ではほぼ毎日、すごい人を呼んでトークイベントを開催しています。
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