カフェ「しくじり」へようこそ

第10話 集中できないときは◯◯儀式が効く

#連載エッセイ
#カフェ「しくじり」へようこそ

ここはカフェ「しくじり」。一見さんお断りの会員制だ。
ここでの通貨はしくじり。客がしくじり経験談を披露し、それに応じてマスターは飲み物や酒を振る舞う。
マスターは注意欠如・多動症(ADHD)の傾向を持ち、過去に多くのしくじりを重ねてきた。しかしある工夫で乗り越えてきた不思議な経歴の持ち主。会員のために今日もカフェのカウンターに立つ。
そんな奇妙なカフェのお話。

(カラン、コロン〜♪ カラン、コロン〜♪)

りんだ 「おはようございまーす」

小鳥遊 「おやおや、りんださん。カフェしくじりのモーニングへようこそ」

りんだ 「朝の時間も、営業されてたんですね」

小鳥遊 「ええ、りんださんこそ、よくお気づきで」

りんだ 「今日は“たまたま”モヤモヤすることがあったので、散歩でもしながらスッキリしようかなと思って。それで、“たまたま”通りかかったんです。しくじりがあったとは言っていませんよ?」

小鳥遊 「フフフ。では、りんださんのモヤモヤなしくじり、じっくり聞かせていただきますね」

****

りんだ 「わたし注意散漫で、ぜんぜん集中力が続かないんです」

小鳥遊 「ほうほう」

りんだ 「とくに最近、在宅ワークが長引いて、家での仕事に飽きてきたっていうか……」

小鳥遊 「あ〜〜、そうですよね。最近はそういったお声もたくさん聞きます」

りんだ 「集中できる時もあるんですが、ムラがあるというか。電話かかってきたり、スマホに通知がくるとすぐ目がいっちゃって。さっきまでやってたことを忘れちゃうこともあるんです」

小鳥遊 「家で仕事していても、集中力が妨げられることって結構ありますよね。私も経験あります。羽織を着て大きなしゃもじを持った男性が夕食を見せろと突然訪ねてきたり。そうそう、上司からのメッセージを届けにきた伝書鳩が勢いあまって窓にぶつかってきたこともありました」

りんだ 「……。小鳥遊(たかなし)さん、いったいどんな会社で働いてたんですか!?」

小鳥遊 「ハハハ、ちょっとした国家機密を取り扱う会社で。普通の伝達方法は使えない感じだったんですよ」

りんだ 「だからって伝書鳩???」

小鳥遊 「身バレが怖いのでこの話はこの辺にして……集中力が続かないっていう話でしたよね?」

りんだ 「そうでした。最近、やらなきゃいけないことがかなり溜まってるのに、仕事が少ない時より、はかどらないんですよ」

小鳥遊 「それでちょっと、息抜きに散歩でもしようと思ったわけですね」

りんだ 「はい、そうなんです」

小鳥遊 「りんださん、いい線いってますね」

りんだ 「え、本当ですか!?」

小鳥遊 「さすが、我がカフェしくじりの常連プレミアム会員!!」

りんだ 「いつのまにプレミアムになってたんですか!?」

小鳥遊 「いつも言っているように、しくじりのレベルがかなりのものなので…..しくじりポイントが溜まって確実にランクアップしてるんですよ」

りんだ 「いつのまに。。。今回も嬉しいようなそうでないような」

小鳥遊 「そんなりんださんに、今日はカフェモーニングらしいメニューをお出ししましょう」

りんだ 「わーーい! わたし社会人になったら、仕事前に早めにカフェに行って優雅な時間を過ごすの夢だったんですよ。できるOL感でるじゃないですか」

小鳥遊 「フフフ、それは夢がかなって良かったですね。少々お待ちくださいね」

****

小鳥遊 「はい、お待たせしました。こちらがカフェしくじり人気モーニングメニューです」

りんだ 「いただきまーす! ってこれ、ただの紙きれじゃないですか!?」

小鳥遊 「ええ、これがいいと他のお客様にはもっぱらの評判です。紙を開いて読んでみてください」

りんだ 「『本当のメニューはこのお題をクリアしないと食べられません。次のことに取り組んでください』って、なんですかこれ??」

小鳥遊 「運動会の借り物競争を思い出してみてください。紙に書かれているお題をクリアしないと、私がこれから作る本当のモーニングメニューが食べられません」

りんだ 「なるほど。運動会は大好きでした! こういうのは任せてくださいっ。 えーっとお題は……っと」

紙にはこんなことが書かれていた。


・外に出て5回深呼吸せよ
・肩と首をストレッチせよ
・5分間瞑想せよ
・カバンの中を整理せよ
・今気になっていることを紙に書き出せ


小鳥遊 「フフフ。さてわたしは本当のメニューを準備しましょうかね」

****

すべてのお題を終えて、席に着くりんだ。

小鳥遊 「いかがでしたか、りんださん」

りんだ 「お題に書かれている通り、外にでて深呼吸を5回して、首と肩のストレッチをして、ベンチで5分瞑想して、カバンの中身を整理して、今気になっていることを紙に書き出してみたんですが……」

小鳥遊 「おーすばらしい、すべて見事に全部こなされましたね」

りんだ 「気持ち的にスッキリしたし、頭が整理された感じになりました」

小鳥遊 「フフフ、良かったです。仕上げにこちらのコーヒーと卵サンドをどうぞ。これが特製モーニングメニューです」

りんだ 「ありがとうございます。あんなにさっきまでモヤモヤしてたのに、不思議な感覚です」

小鳥遊 「私も会社員時代は全然集中できなくて困り果ててたんです。でも、いまりんださんにやっていただいたことを毎朝やってから会社に行くようにしたら、かなり解決したんですよ」

りんだ 「へーそうなんですか!」

小鳥遊 「はい。りんださんの様子が私と似ていたので、もしかしたら同じルーティンが合うのかもなーと思って提供させていただきました」

りんだ 「とても良かったです」

小鳥遊 「こうやって自分なりのルーティン儀式を見つけることが、集中力を安定して保つ秘訣です。人によって自分にあうルーティン儀式は違うので、りんださんも他にいろいろ試されてみるといいと思いますよ」

りんだ 「なるほど〜」

小鳥遊ちょっと環境を変えてみるのもよいです。何なら毎朝このカフェでコーヒーを飲むのをルーティン儀式の一つに加えてくださってもいいですよ」

りんだ 「いいかもしれない。今日、早く起きてみたんですが結構気持ちがよくて」

小鳥遊 「りんださんもきっと朝型なんですね。人によって集中できるタイミングは違うので、うまく集中できないときは『やるタイミング』を変えることも大事です」

りんだ 「あーーそうかー。わたし朝の方が集中できるのに、夜遅くまでダラダラやっちゃって、結局進まない。そんな状況に陥っていたのかも」

小鳥遊 「フフフ、気づきがあって良かったです」

りんだ 「ありがとうございます、小鳥遊さん。ではわたし、仕事行ってきますね。ちょっと会社行くの憂鬱だったんですが少し心が軽くなりました」

小鳥遊 「そうですか。それは何よりです」

りんだ 「いってきまーす!!!」

小鳥遊 「あ、りんださん。仕事カバンをお忘れですよ…!! りんださーーん!!!」

****

勢いよく出て行ったりんだになんとか追いついて仕事カバンを渡して見送ったあと、マスターはスマホを取り出し、日課の店じまいツイートをしました。


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