絵が描けなくてもOK!マンガ原作者になる方法とは?

マンガ原作者だからこそ求められるものとは?

#連載エッセイ
#絵が描けなくてもOK!マンガ原作者になる方法とは?

編集者の好みを掴んで、それに合った企画書を持ち込む

北原さんは、編集部に持ち込む際の企画をどのようにして考えていますか。

私の場合、編集部に電話して知らない編集者に持ち込みをしたような経験はほとんどなくて、編集者との付き合いの中で企画を見てもらうことが多いんです。そのため、まずは雑談の中から、編集者の嗜好や自分との共通項を探るようにしています。今まで手掛けた作品などの話をうかがいながら、その編集さんの好みや考え方を掴むようにしているんです。
たとえば、連載デビューを担当してくれた編集さんは『家栽の人』(植物を愛する家庭裁判所判事を主人公にしたマンガ)の担当者でした。お話をすると、ミステリーにも造詣が深いことがわかりましたので、“自然”と“ミステリー”を組み合わせたら、この編集さんは興味を示してくれるんじゃないかと思ったんですね。
そこで出した企画が、法医昆虫学に詳しい鑑識官が、昆虫に関連した事件を解決する『昆虫鑑識官ファーブル』です。これが私の連載デビュー作になりました。
ちなみに、企画書を提出するときは、自分の場合、1本だけということは基本的にはありません。少なくとも2~3本、一番多いときは10本の企画書を用意したこともありました。
企画書に入れる主な内容は「仮タイトル」「企画の概要」「登場人物表」「1話目の詳細なプロット」「2話以降の簡単なプロット」です。
あまりたくさん企画を出すと、編集さんの負担になることもあります。だから、忙しい編集さんには「企画の概要」を読むだけでもその作品の狙いがわかってもらえるように心がけています。

10本もの企画書を一度に持ち込むってすごいですね!

私の場合、創作を志してから世に出るまでが長かったんですよ。小学2年のとき、マンガ家を目指したんですが、高校で絵に挫折して脚本やマンガ原作の世界に移ったんです。
マンガ家を目指し始めた頃からずっと創作のネタは探し続けていて、連載デビューが32歳なので、25年分の企画のストックがあるわけです。もっとも、題材が古くなって使えないものもたくさんありますので、デビュー後もアンテナを高く張るように心がけ、企画は常に考え続けています。
なので、編集さんに「何かありませんか?」と聞かれたときに、数多く出せるんです。まだまだ世に出ていない企画は山のようにありますよ。

おすすめの勉強法は好きな読み切りマンガをとことん研究すること

デビューするためにおすすめの勉強法はありますか?

シナリオを学ぶには、映画やドラマのシナリオを写経してみるのがおすすめです。けれど、映画やドラマと違って、マンガの原作シナリオが出版されることはほとんどありませんから、すでに世に出ているマンガを読みながら、シナリオにするとどうなるのか、自分なりに書いてみるのもいいかもしれませんね。

選ぶマンガは読み切りあるいは1話完結型の連作ものの一篇が良いと思います。
マンガ原作者志望の方の中には、いきなり大長編を書きたがる方も多いですが、実績のない人が最初から長編の企画を通すのは難しいことですし、エンドマークまで打たないと、作劇の勉強にもなりません。
まずは、読み切る形での作品づくりを心がけてみてはどうでしょうか。

ちなみに、ジャンプをはじめとする集英社の作品の多くは、まずは読み切りが掲載されて、アンケートで人気が取れれば連載へのGOサインが出ます。
1話目が良ければ、同じキャラクターで2話目、3話目と書いていけば自然と連載になりますから、まずは1話目をしっかりつくることが大切です。いきなり長いストーリーを想定して、「5話目から面白くなるんです!」というのでは企画は通りません。1話目から面白さが伝わるようでないと。

“マンガは1話目が重要”とはよく言われることですよね。魅力あるマンガにするために、1話目に入れ込まないといけない要素は何でしょうか。

そうですね……。まずは世界観やキャラクターの魅力でしょうか。これらが1話目で、しっかり読者に伝わることが大切です。
だから、読み切りマンガで、どれだけ世界観を表現できて、キャラクターを立てられて、オチをつけられるか、練習しておくといいと思います。

ただ、実際のところは、デビューするよりも書き続けていくほうがずっと難しいんですよ。デビューを目指す気概はもちろん必要ですが、デビューすることをゴールにしてはいけないと思いますね。デビューはスタートに過ぎなくて、その後、仕事として長く書きつづけることが大切なわけですから。

額に飾られた写真は、手塚治虫先生と握手する、中学生時代の北原さん。この写真とサイン色紙を見ると、当時を思い出し、初心にかえることができるという。

“ホームランか三振か”よりも “必ずバットにボールを当てる”原作者を目指す
確かに、その通りですね。北原さんは今年(2024年)で連載デビューして20年目を迎えられましたが、長く続けていくコツをお教えいただけますか。

作品の良し悪しももちろん大事なんですが、まずは、仕事を任せられやすいマンガ原作者になることじゃないでしょうか。志望者の方は、とかくホームランを目指しがちです。もちろんそれは目指すべきなんですが、“ホームランか三振か”という原作者には、編集者は仕事を任せづらかったりするんですよね。「少なくとも三振はない」「必ずバットにボールを当てて一塁に出るぞ」という原作者の方が、安心して仕事を任せやすいと思うんです。

というのも、編集者は、ゼロからものをつくるのは難しいけれども、“6割”“7割”のものを“9割”に引き上げるのは得意という方が多いんです
もちろん、“6割”のものを“9割”に上げるためには、編集者として打ち合わせをして、フィードバックをうまく反映させられなくてはなりません。そのうえで、編集者の意図をしっかりくみ取って、自分なりの味付けを加えられればベターですね。

また、マンガ原作に限らずどんな仕事も、結局は“人間関係”だと思っていますので、編集者さんとの出会いは大切にしています。一度できたパイプが途切れないように、年賀状は必ず出すようにしています。
いま、年賀状文化が廃れてきていますけど、自分をアピールする手段としてあんな良いツールはありません。
いきなり編集さんにメールすると、ちょっと構えられてしまう可能性もありますが、年賀状で新年の挨拶をするのは自然なことですから。
年賀状に「また、何かあったときにお願いします」と一言添えておけば、連絡をくれる編集さんもいますし。
「誰か原作者いないかな」と編集さんが困ったときに、自分という存在を思い出してもらえるかどうかも、長く続けていくためには重要なことだと思います。

年賀状を出さなくなって数年経つため、耳が痛い話です。来年は私も年賀状を出します!

最後に、皆さんにお聞きしているのですが、健康法をお教えいただけますか。

肉体的な健康はもちろんですが、私は、精神面の健康を保つことも、長く続けるためには大切だと思っています。
何かとストレスがたまる仕事なので、自分が没頭できるものを持つようにするといいのではないでしょうか。私の場合は“ハロプロ(ハロー!プロジェクト)”の推し活ですかね。
スポーツでもいいし、一人カラオケでもいいですし、プラモづくりとか料理でもいい。無心になれるものがあると、ストレス発散につながると思いますよ。

ゲスト
北原雅紀(きたはら・まさき)さん
マンガ原作者。
『ランジェリー・リリィ』、『ショパンの事件譜』、『真夜中のこじか』、『玄米せんせいの弁当箱』、『ジキルとハイドと裁判員』、『昆虫鑑識官ファーブル』(以上、すべて小学館)、『あいどるDays』(集英社)、『プロメテオ』(講談社)、『キルマイセルフ』(秋田書店ヤンチャンWEB)、『ママ友は静かに笑う』(ビーグリー)、『不倫処刑』、『悪役令嬢は服飾スキルでバッドエンドを回避する』(以上、COMICエトワール)など多数。
X(旧Twitter)@KEY_TAHALER

聞き手
西島ユタカ(にしじま・ゆたか)
マンガ原作者
縦スクロールマンガ原作に『スクールカーストは逆転する~この美貌で復讐のターン~』(小学館)、マンガ監修に書籍『マンガで読む 学校であった怖い話 絶望教室』(池田書店)、マンガシナリオに書籍『コミック版 やってはいけない老後対策』(小学館)、マンガ原作にWEB『なにわコイン娘〜仮想通貨にツーカーになろう〜』(小学館)など多数。
X(旧Twitter)@toyoko_t

(画像提供:iStock.com/Oleg Lyfar)