私が著者になるまで

「幸せな暮らし」と向き合うことが、家づくりそのもの 一級建築士YouTuberげげ

#私が著者になるまで

一級建築士、YouTuber、起業家、カフェオーナー……多彩な顔を持つげげさんですが、その人生を紐解いていくと、あらゆる活動の根幹は、「幸せな暮らし」というキーワードでつながっていました。著書『後悔しない家づくりのすべて』(サンクチュアリ出版)には、家づくりというライフイベントを通じ、人生をより幸せにするために必要な心構えや知識がわかりやすく綴られています。大手ハウスメーカーでの葛藤、そして父の死。さまざまな経験を経て掴んだ、家づくりの本質とは――。

(聞き手・國天俊治)

大手ハウスメーカーで知った、家づくりの実態

聞き手
げげさんって、ユニークなお名前ですね。もしかして、さだまさしさんの小説『解夏(げげ)』から?
そうです(きっぱり)。
げげ
聞き手
(そうなの!? 軽い冗談のつもりで言ったら、当たってしまった)
もう20年近く前の本なのに、よくわかりましたね。
げげ
聞き手
はは……ゆ、有名ですから……。それより、YouTubeが好評ですね。チャンネル登録数は7万人を突破し、建築系チャンネルの中でも存在感を放っています。
本当にありがたいですね。出版のお話も、YouTubeがあったからこそです。実は以前から、書籍化のお話をいくつかいただいていたのですが、自分にはまだ早いんじゃないかという感覚があり、お断りしてきました。
げげ
聞き手
そうなんですか。ではなぜ今回、出版を決めたのでしょう。
一番の理由は、お声がけいただいた編集者の吉田さんが、ほぼリアルタイムで家づくりを経験していたことです。ご本人が、家づくりという人生の節目を迎え、迷い、悩んでいる渦中にありました。もし一緒に本づくりができれば、きっと同じように思い悩む人々の心に寄り添った、有意義な1冊になるだろうと感じたのが大きかったです。
げげ
聞き手
なるほど。
YouTubeも、家づくりで壁に当たっている人に対して、少しでも役立つコンテンツになることを意識してつくってきました。人生でもっとも大きな買い物といえる家づくりで失敗し、不幸になってしまう人をひとりでも減らしたい。そんな思いで情報発信をしています。
げげ
聞き手
素晴らしいスタンスですが、どうしてそのような思いを抱くようになったのでしょう。
振り返れば、新卒で入社した積水ハウスという会社での経験が原点かもしれません。建築士として数々の個人宅の設計を手掛ける中で、施主の方々の切実な思いに触れ、家を建てるというのが人生においてどれほど大きな出来事なのか、肌で感じてきました。
げげ
聞き手
その職場で、家づくりを後悔している人の様子も、たくさん見てきたと……。
その通りです。例え自分の案件ではなくとも、建築後に入る悲壮なクレームを見ると本当に胸が痛くなりましたし、自分が携わった家でも、納得いただけないこともあり……悩みました。理想の家とは何なのか。自分が目指すべき家づくりとは、何なのかと。
げげ
聞き手
そうして悩み、たどり着いた答えを、YouTubeや今回の書籍で発信しているわけですね。
もちろんそれが原風景ではあるんですが、「たどり着いた答え」は、それ以外の私の人生のさまざまな要素とも、分かちがたくつながっていると、今は感じています。
げげ

収入や安定がすべてではないのかもしれない

聞き手
子ども時代の経験で、今につながっていると思われることはありますか。
小学校5年生のとき、両親が家を建てたのですが、新居が通学路の途中にあったので、毎日のようにそこに遊びに行き、大工さんと親しく話をしたのを覚えています。何もないところからどんどん建物が大きくなっていくのは驚きでしたし、両親が楽しそうに打ち合わせをしているのも印象的で、そのポジティブなイメージが残っていたのはあるかもしれません。
げげ
聞き手
本格的に建築の道を志したのは、いつからでしょう?
大学です。とはいえ建築家になろうという強い思いがあったわけではなく、理系でありつつ絵や模型づくりといった美術的な分野にも興味があり、両立できるものは建築だろうということで選びました。
げげ
聞き手
大学ではどんな勉強をしましたか。
生活科学部・居住環境学科という学科で、住宅や福祉施設を始めとした比較的小規模な建物を専門に学びました。勉強はとても楽しかったですし、模型づくりや絵も得意でしたから、自分に合っていると思いました。
げげ
聞き手
特に印象深かったことはなんでしょう?
教授であった建築家の竹原義二先生が、自らの作品であり自邸でもある「101番目の家」に、学生を招待してくれたことです。先生は自然素材、特に木材を愛する建築家で、構造材・仕上げ材含めて数十種類の木材を使っていたのですが、その素材の色や雰囲気の組み合わせ自体がインテリアとなり、本当に美しい内外装でした。
げげ
聞き手
竹原先生といえば、有名な住宅建築家ですね。
はい。銘木という「自分が好きなもの」に囲まれて生活することで豊かな時間を過ごされていると肌で感じ、住宅建築の素晴らしさ、そして奥深さを知ったのが、ひとつの転機だったと思います。
げげ
聞き手
就職先に積水ハウスを選んだのはなぜですか。
正直、ブランドです(笑)。この頃はめちゃくちゃ安定志向で、独立など考えたこともありませんでした。住宅設計という仕事自体も楽しくて、やりがいがありました。
げげ
聞き手
そこからどのような経緯で、独立へと舵を切ったのでしょう。
仕事にも慣れ、バリバリとやっていましたが、ある日ふと、「毎日が同じことの繰り返しだな……」と思ったんです。それで周りの先輩を見ると、やはり同じ業務の繰り返しの中で、すごく忙しく働いています。その姿に、10年先の自分が重なって見え、果たして人生これでいいのか、と疑問が湧きました。収入や安定がすべてではないのかもしれない、と。
げげ
聞き手
とはいえ、それで実際に退職するというのは、思い切った決断でしたね。
……それだけではないんです。実はこの時期に、父を亡くしていまして。そこで価値観ががらっと変わり、独立へと向かったんです。
げげ

一生幸せに暮らせる家こそが、理想の家

父は公務員でしたが、職場の人間関係がきっかけでうつ病になり、最後は自ら命を絶ちました。母は最初、心配をかけまいと父の病気を息子の私たちに伝えていませんでしたが、それを私に打ち明けてから1週間後に、父は帰らぬ人となりました。
げげ
聞き手
……。
父はいつも前向きな人で、うつ病になるなんてまったく信じられなかった。ましてや自死など、想像を絶する話で……。足元が崩れ落ちるような衝撃を受けました。そして、深い混乱と悲しみのあとで、「人生は、いつ何が起こるか本当にわからない、後悔する生き方だけはしたくない」と強く思ったんです。
げげ
聞き手
大変な経験でしたね……。
それで、遺品である財布に、ラミネート加工された紙が入っていて、そこに言葉が書かれていたんです。父が肌身離さず持っていたかった言葉……。それが、さだまさしさんの『解夏』の一節であり「喜びの中に哀しみの種はまかれ、絶望の底に希望は芽吹く」という言葉だったんです。
げげ
聞き手
今のお名前は、お父さんの心とともにあるのですね。
はい。この一節は、結局は幸せとは何かを問いかけるものだと私は感じました。そこから自分の人生において、「幸せ」がキーワードとなりました。
げげ
聞き手
家づくりにおいても、「住む人の幸せ」をベースに考えるようになったのですね。
その通りです。理想の家とは、そこで暮らす人々が豊かな人生を送ることができるものである。住まい手が一生幸せに暮らせる家をつくるため、あらゆるサポートをする。それこそが、自分のやるべきことだ。そんな答えにたどり着いたのです。
げげ
聞き手
そうしてご自身の生き方に対する考え方も変わったと。
ええ。気持ちの変化としては、新たなチャレンジをするのが怖くなくなりました。独立後、空き家をリノベーションしてつくったカフェを経営したり、古民家を飲食店に改装したりと、未経験の事業をいくつも手掛けてきました。YouTubeも、そして書籍もそんなチャレンジの中のひとつであり、ひとりの建築家として「幸せに暮らすための家づくり」という軸だけはぶらさずに、発信を続けてきたつもりです。
げげ
聞き手
現在は、工務店やビルダーのコンサルティングも手掛けていらっしゃいますね。
はい、YouTubeで発信した内容に共感していただいた方々からのご依頼で、新たなモデルハウスのコンセプトメイクや、商品開発などのアドバイスをしています。これからもさまざまな方面で、私なりの「幸せな家」のあり方を提案していきたいです。
げげ

<語り手=げげ/取材・文=國天俊治>

げげ ⾦⾕尚⼤(かなたになおひろ)
一級建築士YouTuber

⼀級建築⼠事務所げげ代表。1990年⽣まれ。兵庫県出⾝。
大学卒業後、新卒で積水ハウスに⼊社。6年で100棟以上の住宅・店舗設計を経験後、独⽴。
「住まいの満⾜度を上げ、豊かな⼈⽣を送る⼈を増やす」をミッションに、
新しい時代の常識にとらわれない家づくりを提案している。
「後悔しない家づくり」の仕組みを、誰にでもわかるようにルール化したYouTubeが話題。

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