私が著者になるまで

町工場からロケットを打ち上げた社長が語る 閉塞感を打ち破る「夢のかなえ方」 植松努

北海道・赤平市にある植松電機。代表取締役の植松努さんは、リサイクル用マグネットを製造する小さな町工場から出発して、「宇宙開発」という長年の夢を実現しました。ドラマ化された『下町ロケット』を彷彿とさせる半生を、著書『好奇心を“天職”に変える 空想教室』(サンクチュアリ出版)に綴った植松努さん。2004年のTED×Sapporoでは、さまざまな壁を乗り越えて夢をかなえた自らの体験をスピーチし、大反響を呼びました。現在、同社ではマグネット事業の傍ら、ロケットや小型の人工衛星、微小重力の実験などの宇宙開発、さらに全国各地の小中学校で講演やロケット教室なども進めています。閉塞感を感じる現代で、自らの夢を現実のものにするにはどうすればいいのか。植松さんに聞いてみました。

<聞き手・澤田聡子>

「どうせ無理」の呪いをはね返す

聞き手
民間企業の宇宙開発のニュースをよく聞くようになりました。業界としては、今はどんな感じなんですか?
僕らの会社が「宇宙開発」を始めてから、だいたい16年くらい経っています。その間に2回くらいバブルがありましたけど、当時のベンチャーはほとんど姿を消しましたね。
植松さん
聞き手
北海道にも宇宙開発のスタートアップ企業が続々と誕生していますが、その先駆者は植松さんですね。
いや~、実は今、「3度目のバブル」かなという気がしています。中にはとても壮大で現実的でない計画に、投資としてお金が動いているものもありますね。でもそういうバブルに巻き込まれたらアウトだな~と思うので、うちは粛々とやっています。
植松さん
聞き手
本業はもともと、リサイクルに使用するマグネットの開発と製造なんですよね。主力のマグネット製造で稼いで、自己資金で宇宙開発を進める、よそからの投資は受けない、というのが植松さんのポリシーなんでしょうか。
誰かにお金を出してもらうと、その人の意見も聞かないとダメでしょう?(笑) 「いつまでに成果を」という期日も発生しますしね。締め切りがあると無理するから、失敗するんですよ。僕らはとにかく「安全第一」! 自己資金でマイペースにやっていくのが、一番だと思っています。
植松さん
聞き手
マグネット事業、宇宙開発のほかにも、植松さんは、子どもたちへの教育プロジェクトにも力を入れてらっしゃいますね。北海道にある自社で修学旅行生を受け入れて、モデルロケット教室をされていますよね。
ありがたいことに、修学旅行に私の本を持ってきて「サインしてほしい」と言われることがあるんですよ。中学生くらいの子が持ってきてくれる本はだいたい『好奇心を“天職”に変える 空想教室』ですね。
植松さん
聞き手
ご自身の体験を綴った著書は何冊も出されていますけど、『空想教室』は特に若い世代に響くんでしょうね。本では周りの大人たちからの「どうせ無理」という言葉が呪いになって、子どもたちが夢をあきらめてしまうと書かれていましたね。
学校は、教科にかかわりのないことは評価しないことが多いと思います。だから、どんなに得意なことや好きなことがあっても「五教科に関係なかったら意味がない」んですよ。テストの点がこんなに悪いのに、そんなことやっている暇ないでしょう! 勉強しなさい! と、言われてしまう。
植松さん
聞き手
うーん。私も小1の子どもがいますが、耳が痛いです…。
そういうコントロールをしてくる人たちから我が子を守るには、親がいかに子どもの優れたところを見いだすか、それを伸ばす努力をするか、ということに尽きます。親まで一緒になって、成績表を見ながら文句を言っていると、子どもは本当に萎縮してしまう。僕もね、昔は通知表を前にして母さんに怒られてきたわけですよ。「落ち着きが足りません!」「忘れ物が多い!」とかね(笑)
植松さん
聞き手
ついつい悪いところが、先に口をついて出てしまいますよね…。
僕にだってほかに「いいところ」がたくさんあったはずなんだけど、そこは一切評価されない。悪いところだけ指摘されるのは、ものすごく苦しかったですね。
植松さん
聞き手
子どものときに親にされて嫌だったことを、なぜ、自分の子どもに繰り返しちゃうんでしょう。
子どもの成績だけじゃないね。部活のシゴキだったり、会社のパワハラだったり、本当は自分がやられて嫌だったことのはずなんですよ。自分のところでやめないから、いつまでも「濃縮連鎖」していくんですね。
植松さん
聞き手
子どもの通知表をもらったら、とにかく良いところから見つけて、褒めるようにしたいと思います…!
通知表も点数が良かったことを単純に褒めるんじゃなくて、「どうしてよかったんだろうね」ということを一緒に考えるのが大事です。国語の成績がよかったのなら、「普段から本をたくさん読んでいるからかな」とかね。
植松さん
聞き手
努力の過程を褒めるということですね。
点数だけ褒めてしまうのはよくない。「点さえ取れればいいや」と思って、最終的にカンニングするようになってしまうかもしれない(笑)
植松さん

理不尽を突破するのが「思考力」

 

聞き手
小・中学校の先生方を前に講演されることも多いと思うんですが、植松さんが日本の学校教育を見ていて感じることはありますか。
もうね。ホント困ったなあって思うのが、「なんで、何十年もおんなじことやっているんだろう」ってこと。
植松さん
聞き手
確かに自分が通っていた昭和の時代から、公立の学校の雰囲気って変わっていません。
変わる努力をしていない。一番怖いのは「前例主義」なんですよ。「今までこうやってやってきたから、同じようにしないといけない」という感覚です。
植松さん
聞き手
私たち自身というか、日本人全体にも言えることですね。
あとは厳しすぎるルールや締め付けが、子どもの「考える力」を奪うんじゃないかと思いますね。
植松さん
聞き手
幼稚園・保育園では伸び伸びとやっていても、小学校に入ると急にみんな同じことをするのが求められますもんね。もし、学校の先生が厳しくて、個性を否定するようなタイプだったら、どうすればいいんでしょう?
相性というか、そういう「当たり外れ」は、どこに行ってもあると思うので、親子で「アタリを探す努力」をすればいいんじゃないかな。「この人から学びたい」という人に、どんどん接触させていく。学校以外にも社会はあって、素敵な大人はたくさんいることを知るチャンスを作るのが、親の役目だと思います。
植松さん
聞き手
「社会に出たら必ずある“理不尽”を、学校でも経験しておくほうがいいんだ」と主張する人もいますよね。
…何をバカなことを!と思います。ときには、理不尽に耐えなければいけないこともあるとは思うんですよ。でもね、耐えているだけでは心が壊れてしまう。最も重要なことは理不尽に耐える力じゃなくて、それを突破する力だと思いますね。
植松さん
聞き手
社会全体が「ガマンすべきだ」という風潮になっていることもありますね。
納得いかないときは耐えるんじゃなくて、そこから離れたり、問題を改善したりする努力をすればいい。大人は「理不尽に耐えること」ではなくて、対処法や生き延びる方法を、子どもたちに教えてほしい。
植松さん

知識と経験が「自信」につながる

聞き手
失敗したときにかける「だったら、こうしてみたら?」というひと言も、ご著書を読んだときに印象的でした。子どもが失敗しそうだとついつい先回りして口出ししてしまって…。
「だったら、こうしてみたら?」っていうのは、「近い未来の予測」なんですよ。大人は経験値があるので、子どもが何かを試そうとしていても「あ、これは失敗しそうだな」というのが分かるわけです。そういうときに「失敗をさせない」のではなくて、「どうやったらこの失敗を乗り越えられるかな」と考えればいい。この「近い未来の予測」こそ、「思考」なんです。
植松さん
聞き手
「失敗したくない」という気持ちが大きすぎると、不安になりますね。
そう。「失敗したらどうしよう?」と不安になるのは、近い未来を予測できていないからなんですね。その逆で、「失敗したらきっとこうなるな。だったら、こうすればいいんじゃないかな」と思えることが「自信」につながります。
植松さん
聞き手
なるほど。予測して対処を考えておけば、不安が減らせるんですね。
この「近い未来を予測する」ために必要なことが、「知識」と「経験」。これが多いほど「予測」の精度も上がります。親子で一緒にたくさんの知識と経験が得られるように、努力したいですよね。これは「教えられたことを覚える」だけでは身に付きません。疑問に感じたことを、自分で調べる修練をしていくのが肝心です。
植松さん
聞き手
「親子で一緒に」ということがポイントなんですね。
うちのばあちゃんは、家の中に虫が入ってきても「きゃー!」って叫ばなかったんですよ。「これ、なんていう虫なんだろう」って、まずは僕に尋ねる。気になるので、僕は図鑑を広げるわけです。「どうやらこれらしい」と分かったら、ばあちゃんは「よく分かったね!」と褒めてくれた。それがきっと、僕の中で「分からないものに出合って、自分で調べるのが楽しい」という感覚の土台となったと思います。
植松さん

ライト兄弟、エジソン…偉人たちに力をもらった

聞き手
「子どものころから一度も本を捨てたことがない」というのは本当なんですか?
もうね、僕は「断捨離」不可能な人間だから、ストレージを増やす方向で生きています(笑)。北海道、広いしね。
植松さん
聞き手
いくらでも本棚が置けますね。
一つだけ重要なことは、「捨てられるような本は買わない」ことですね。だから、雑誌って買ったことないんです。マンガも単行本でしか買わないし、ずーっと取っておく。社長室に本棚の一部を置いているんですけど、見た人はみんな驚きますね。そして、本のラインアップを見て「あれ? これって、小学校時代のスイッチがオンのままでしょ?」って言うんです(笑)
植松さん
聞き手
「小学生スイッチ」がずっとオン(笑)
そう。本業にかかわるパワーショベルの専門書の横に、クワガタムシや化石、マンガなどがごちゃ混ぜで並んでいる。小学校時代に読んだ本もそのまま置いてあるので、読み返したりしますよ。
植松さん
聞き手
小学生のときに買った本を読んで、何か新しい発見があったりするんですか?
最近読み返して驚いた本は、これです(実物を見せてくれながら)。はるか昔に、学研が出した潜水艦の本。古今東西の潜水艦がものすごい密度で紹介されているんですよ。
植松さん
聞き手
小学生向けとは思えない、専門的な感じですね。
専門用語の嵐なんですけど、ぜんぶ振り仮名が振ってある。海中探索の開発のために潜水艦を調べていたら、小学校時代の本に自分が求めていた資料があったので、びっくりしました。昔の本は、子ども向けでも現役の研究者が書いていたりして、情報量がびっしりで中身が濃いんですよね。
植松さん
聞き手
小学6年のときに卒業文集で書いた夢が「自分で作った潜水艦で、世界の海を旅したい」だったと、本にもありました。そのころ愛読していた本がずっと本棚にあるんですね。それが今のお仕事につながっているのも、すごい。
今でも役に立つことがあるので、絶対に捨てられません。
植松さん
聞き手
小学生のころはエジソンやライト兄弟など、偉人の伝記がお好きだったんですよね。
周りの大人たちが「お前にはできない」「どうせ無理だよ」という呪いの言葉をかけてくるなかで、伝記に出てくる主人公たちは試行錯誤しながらチャレンジすれば、成功することを教えてくれた。そんな偉人たちを心の支えにしてきました。
植松さん
聞き手
ほかは、どういう伝記が好きだったんですか。
『ファーブル昆虫記』ですね。「疑問を感じたとき、それを確かめる方法」がたくさん書いてあったから。「この虫はどうしてこういう生態なんだろう、それを確かめるにはこういう比較実験をしてみたらいい」みたいなね。最も基本的な科学的思考ですよね。
植松さん
聞き手
小さいころは「伝記マンガ」をよく読んでいましたけど、大人になってからはあまり読まなくなりました。
成長してから、大人向けの伝記を読んでみると、新たな発見があるんですよ。ライト兄弟やエジソンの伝記を読んでいると、僕が会社を作ったときや特許を取るときと重なる部分がありましたね。大人向け伝記は今にも通じるリアルな話が満載で面白い。
植松さん
聞き手
子ども向けの伝記は、割と「美談」が多いですもんね。
エジソンがすごいのは「発明の資金を得るために、お金を稼ぐ努力をした」というところです。「お金がないから実験できない」ではなくて。
植松さん
聞き手
経営者としての植松さんの考えとも似ていますね。安定して稼げる事業で稼いで、新しい投資に回す資金を作るという。
他人のお金に依存していると、それこそ『鬼滅の刃』じゃないですけど、生殺与奪の権利を他人に委ねることになってしまいますから。
植松さん

「夢」はたくさんあったほうがいい

 

聞き手
閉塞感や停滞を感じることも多い現代ですが、大人も子どももどのように夢を持てばいいでしょうか。
夢は一つだけでなく、たくさん持っていたほうがいいですね。企業が「多角化」するのなら、個人も「多機能」であるべきだと思うんです。現代では一つの産業の寿命がうんと短くなっているので、そこに全力投球したところでもつのはたった10年くらいなんです。だったら時代を先読みして、自分の能力を次々に転換していくことが大事。
植松さん
聞き手
時代に合った能力を身につけていくには、どういう努力をすればいいでしょう。
企業を経営していて、一番恐ろしい言葉は「食ってくためにはしょうがない」という言葉です。これを使ったら、間違いなく企業は「暗黒面」に落ちていく。企業だけでなく、個人も「食ってくためにはしょうがない」人が増えていますよね。単価の安い長時間労働で、余暇もなく疲弊していく…。個人の生産性を上げるために必要なのは「学び」です。だからこそ、一番投資すべきなのは「自分」なんです。
植松さん
聞き手
子どもだけでなく、大人も「学び続ける」ことが必要なんですね。
お金と時間を、いかに自分の知識と経験を増やすために使っていくのか、ということですね。そうすると人生は豊かになる。
植松さん
聞き手
最後に植松さんの「新たな夢」をお聞きしたいです。
2009年にスタートした「ARCプロジェクト」の延長線上にある夢なんですが、「一つの街を作りたい」ということですね。
植松さん
聞き手
「住むためのコストを10分の1、食べるためのコストを10分の1、学ぶためのコストを0にする」というプロジェクトですよね。工業団地の土地13万平方メートルを購入して実験しているという。
そう。せっかく稼いだ自分たちのお金は一体どこに消えていくんだろう?と考えたとき、日本では「住宅ローン」と「子どもの教育費」が大きな負担となっています。“住宅”については、「壊れない、省エネルギーの家」の基礎実験が終わったので、これから敷地に建てていく予定です。
植松さん
聞き手
日本の住宅は、ローンを払い終わったらだいたい価値がなくなってしまいますもんね。すごく高い買い物です。
“食べるもの”に関しては、働き手が足りない農業や漁業をいかにして、少ない労力でやっていくか。農業機械などの省力化と自動化の研究を進めています。“教育”のほうは、今年(2021年)から、新しい人材育成をする専門学校を始動します。最先端の技術を使って、社会の問題を解決する能力を身につける学校です。これから大事なのは、様々な問題を放っておかないハート(優しさ)だと思います。この新しい専門学校プロジェクトでは、どうやって「優しさ」を教育によって伸ばすのか、にチャレンジします。
それから今ね、大学生のときに僕らと一緒に宇宙開発の実験や研究にかかわった子たちが続々と起業して、赤平に帰ってきているんですよ。
植松さん
聞き手
素晴らしいですね。それぞれの夢を持った優秀な人材が集ってくるというのが。
彼らの工場を僕の持つ敷地に建てているんです。「人手が足りない」とぼやくので、「うちの専門学校の生徒、採用してよ」って言っています。その前段階となるインターンシップや学校での授業も、彼らに手伝ってもらおうと思っています。食、住まい、教育ときて、「僕が作りたい街」っていうのは、従来の問題点を改善した実験的な街なんですよね。
植松さん
聞き手
壮大なプロジェクトですよね。
ある程度、クローズなところで規制を廃して「試し放題」という環境を作れば、おそらくそこからさまざまな新技術が生まれてくるはずなんですよ。
植松さん
聞き手
聞いていて、ワクワクします! 植松さんの次の夢の実現が楽しみです。

 

<語り手=植松努/取材・文=澤田聡子>



植松電器 代表取締役
植松努(うえまつ・つとむ)

1966年北海道芦別市生まれ。幼少期から「紙飛行機」が好きで、宇宙に憧れを持つ。大学では流体力学を学び、卒業後に入社した企業では航空機設計を手がける。94年に北海道へ戻り、父が経営する植松電器に入社。カムイ式ロケットの研究を進めていた北海道大学大学院の永田教授との出会いをきっかけに宇宙開発に着手し、2006年にカムイスペースワークスを設立。『好奇心を“天職”に変える 空想教室』(サンクチュアリ出版)をはじめ、『NASAより宇宙に近い町工場』(ディスカバー・トゥウェンティワン)、『何をやっても続かない自分を変える あきらめない練習』(大和書房)など著書多数。
澤田聡子(さわだ・さとこ)

マネー誌、女性誌などの編集を経て、2013年よりフリーランスに。「最新のお金リテラシーが身に付く! 得するWOMAN講座」を日経WOMANで連載中。猫派、ビール党。

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