100点は目指さない。金髪アフロの精神科医が教える心のケア/井上智介

最近、心から笑えていますか? 心身のストレスを無視して仕事をがんばり続けると、うつや精神疾患を引き起こしてしまいます。車に車検があるのと同じように、人間の心と脳にも定期的なメンテナンスが必要です。メンタルヘルスの疑問に井上医師が答えます!

「ラフドクター」として活動するようになったワケ

悶々としていた医学生時代、精神科医時代

僕のモットーは「Rough & Laugh」。100点は目指さず大雑把に、笑いながら生きていくことの大切さを伝えています。普段は病院で精神科医として働きながら、複数の企業の産業医としても活動しています。

僕は兵庫県生まれ。小・中・高と成績もよく、田舎だったのでチヤホヤされながら育ちました。ところが、進学を志望した島根大学医学部には2浪でなんとか入学。医学部なら珍しくないと思われるかもしれませんが、僕の大学の医学部では現役入学が6割、1浪入学が3割。年下の先輩がいたり、新入生歓迎会で「お前もうお酒飲めるやん!」といじられたり、今までにないダメ感を味わいながら学生時代を過ごしました。

大学卒業後は2年間の研修医を終了して、最初は精神科医として病院に勤務していました。当然ですが仕事のメインは「治療」。完治を目指して日々患者さんと向き合っていました。

ですが、全然うまくいかなかった。なかなか完治しないんです。患者さん本人ももちろんそう感じているのですが、今さら病院や主治医を変えるのも…となかば慢性的な通院になってしまい、お互いにどことなくギクシャク。自分の腕が未熟だったのは百も承知だったので、優秀な先生に話を聞いてみたりもしましたが、似たり寄ったりのケースがほとんどで臨床としてものすごく成功している方には出会えませんでした。

医療界では、どんな病気にも治療方針が存在します。だからこそ全国で同じ治療が受けられます。でも精神疾患は、同じ病名であっても個人の背景や敏感度によって症状の出方が違います。また、精神科は受診のハードルが高く症状が悪化してから受診する人が多いため、そもそも完治が難しいともいえますし、なかには不必要な薬が処方されているケースも。「治療ってなんだろう…」といくら考えてみても、答えは出ませんでした。

産業医を経験して見えてきたこと

あるとき、知り合いの産業医の先生のサポートで、生まれて初めて「会社」に仕事をしに行きました。会社で治療や薬の処方はできないため、メインは治療ではなく「予防」。病気にならないようにする、病気にかかっている人を悪化させない、というのが仕事です。

その経験が僕のターニングポイントとなりました。いろんな社員の方の悩みを聞くのですが、話をしてもらうだけでも表情がイキイキとしてきたり、「話してスッキリした」と言ってくれたりする。それだけでも十分に効果があるなと思えてきたんです。それまではいかに100点満点の治療をするかで頭がいっぱいでしたが、ようやく僕なりの治療の土台が見えてきた気がしました。

そんな自分自身の経験や、社員の方の話を聞いて感じたのが、仕事・人間関係・プライベート…どの分野でも100点を目指してがんばっている人が多いということ。でもなかなか結果が出ず、理想と現実のギャップに悩んでいる人が多いということです。

人間が狩をしていた時代は、獣が襲ってきたら逃げる、といった一瞬の負荷で済みました。しかし現代人が抱えるギャップは、一瞬で解決できるものではない。寝ても覚めてもギャップと戦わなければならず、慢性的に心に負荷がかかることになってしまうのです。そのストレスを解消していく行為が「セルフケア」。音楽を聴く、スポーツをするという次元ではなく、根本的に自分自身をお手入れすることが大切です。

疲れた心と脳を癒すセルフケア

セルフケアはどんなときに必要?

車やパソコンやスマホのメンテナンスには敏感なのに、自分自身のお手入れには無頓着な人が多いです。忙しくて余裕がなかったり、方法がわからなかったり、そもそもセルフケアをしなければいけないことも知らなかったり。学校でも教えてくれません。

では、どんなときにセルフケアが必要なのでしょうか? 「仕事ができているからまだ大丈夫」「外に出られるからまだ大丈夫」と思っている人も多いかもしれませんが、ポイントはそこではないんです。

セルフケアが必要なのは、「食べる」「寝る」「遊ぶ」のどれかにズレを感じたとき。

「食べる」
■今まで好きだったものやお店をおいしいと感じない
■空腹なのに食べる気が起きず、食事量が少ない
■今まで3食きちんと食べていたのに、空腹を感じない
■薄味が好きだったのにしょっぱいものがほしくなるなど、味の好みが変わった

「寝る」
■寝つきが悪い
■睡眠時間は変わらないのに、目覚めがスッキリしない
■よく寝た感じがしない
■途中で起きて、すぐに眠れない

「遊ぶ」
■今まで好きだった趣味が楽しめない、飽きてきた
■なにをしてもつまらない
■時間はつぶせるが、満足感がない

こんな変化を感じたら、今までの元気な自分から少しずつズレてきているということ。心身のSOSのサインです。「無理してがんばる」という日本人の美徳がありますが、それはまったくの間違い。このSOSを無視して乗り越えようとした人をたくさん見てきましたが、いずれも成功してはいません。

セルフケアはどうやってする?

ストレスと戦うのは脳です。脳は部品のように取り替えることはできませんから、ストレスを抱えて「食べる」「寝る」「遊ぶ」にズレが生じ始めたら、脳を休めることが大事です。

最近、マインドフルネスや認知行動療法という言葉をよく耳にしますよね。ひと昔前は、精神科の話はどこか閉鎖的で世間が知ることはあまりありませんでしたが、近年はテレビやネットを通じて広く知られるようになってきて、とてもいいことだと思っています。科学的に効果が認められているものも多くあります。

一方で、これらに共通すること。それは、「面倒」「続かない」…。

マインドフルネスや認知行動療法をいざ実践しようとすると、けっこう大変です。それで挫折してしまうとなおさら、「先生がせっかくすすめてくれたのにできなかった」「私にはもう打つ手がないのでは」と自己嫌悪に陥ります。これはまさに、先ほどもお伝えした「100点を目指している」からこその悪循環。

セルフケアの第一歩は、スキルを身につけることではなく、「目標を下げる」こと。そして、「途中で脱落してもいい」という考えを持つことです。

たとえば、週5日ジョギングをすることを目標にしたとします。運動は脳を休めてストレスを軽減するために有効な方法のひとつなので、ジョギング自体はいいと思います。大事なのは、週5日を義務にしないこと。6割の週3日に目標を下げてしまいます。さらに、毎週達成しなくてもいい。週1日や週0日のときがあってもいいんです。

100点満点をとる必要はない。60点でいい。まずはその考え方を大切にしてほしいと思います。

「60点」の考え方のコツ

常に人と比較してしまうときは…

この場合、100点満点の対応とは、人と比較しないこと。自信を持って自分らしく生きることですね。でも、それができるならとっくにやっています(笑)。

人と比べてしまうのは仕方がないこと。人間とはそういう生きものです。だから、比較すること自体は全然悪くないと僕は思います。ただし、比較する相手にも自分と同じように苦労や悩みがあるということを、忘れてはいけません。自分だけが劣等感に苦しんでいるのではなく、相手もまた他人にはわからない苦しみを抱えているんです。そのことを思い出すだけでも、気持ちが少し楽になると思います。

いつ完治するのか不安なときは…

「いつ治るんですか?」と患者さんに聞かれたことは何度もあります。僕自身、100点満点の治療を目指していたときは、返答に苦しみました。

でも今は、「完治」よりも「寛解」、「寛解」よりも「少しでも発作が減る」ことを、患者さんと一緒に目指すようにしています。「医者なら治せよ」という声ももちろんあると思いますが、それでもまずは、「少しでも発作が減った」自分自身を褒めてあげることが大事だと思っています。たとえば、最初は半年だった休職期間が、2回目は3カ月になったとしたら。2回休職してしまったことを責めるのではなく、半年から3カ月に縮んだことを褒めてあげてほしいのです。

病気の自分が嫌い。元気なときの自分が好き。それは当たり前です。でも、そう思いすぎて治らないことに焦るよりも、疾患を抱えていることをひっくるめて自分自身だと思ったほうが何倍も楽。癌のある人はダメな人でしょうか? そんなことは絶対にないはずです。精神疾患も同じで、まずは自分で自分を肯定すること。疾患を憎むのではなく、それを含めてどう生きるかを考えていくほうが心が楽になります。

「◯◯すべき」と考えてしまうときは…

社会人なんだからこうすべき。妻なんだからこうすべき。「べき思考」の怖いところは、他人にも強要してしまうところです。自分の「べき」から外れている人を見ると許せず、やがては人間関係に摩擦が生じてしまいます。

「べき思考」にとらわれると、たいていの場合は「◯◯すべきなのに◯◯が足りない」と思い込んで苦しくなる傾向にあります。でも、なにかが不足しているわけではありません。育ってきた環境や常識など、「べき思考」の原因となっている荷物を抱え込みすぎているのです。

「◯◯すべき」という義務感にとらわれたら、「◯◯だったらいいのになぁ」という希望にすり替えてみてください。叶わないことも多いのが希望ですから、思いどおりにならなくても自分の中で納得できるようになります。

人間関係に悩んだときは…

仕事には人間関係がつきものです。医療界もチーム医療が原則。医師、看護師、ケースワーカー、心理士など、いろんな人と連携して進めていきます。

ただ、すべての人と円滑な関係性を築くのは無理なこと。僕も以前は「嫌われたくない」という思いが強くありましたが、やっぱりどこかで歪みが生じたり、納得いかないことが出てきたりしました。

苦手な人、合わない人は必ずいます。その人と無理に密な関係を築く必要はありません。「好かれたら出世できる」といった損得勘定は捨てて、自分の素直な気持ちを大事にしましょう。相手に過度な期待をし、無理に変えようとしたり論破しようとしたりすることもおすすめしません。余計なエネルギーを使うだけで、誰も幸せにならないからです。「仕事だけのつながり」と割り切って、逃げる。それは決して悪いことではないんです。

40点の失敗こそが、人生の余裕をつくる

100点を目指すと、満点をとることばかりにとらわれ、とれなかったときに自分を責めてしまいます。また、仮に100点をとれたらどうなるでしょうか。その次も100点を目指さなければ自分を許すことができなくなります。まわりから見れば十分100点なのに、自分ではいつまでも気づけないというケースもあるでしょう。

だからこそ僕は、60点でいいと強く言いたい。僕自身、いろんな壁にぶつかってマイナスの経験をたくさんしてきましたが、今思えばすべてがプラスになっています。そのマイナスの経験があるからこそ、「自分ってそのような人間」って思えますから、たとえまた失敗しても自分で自分を許せるという余裕もできました。40点の失敗こそが、人生の余裕をつくる。そんな思いで自分の心と向き合ってほしいと思います。

(画像提供:iStock.com/PeopleImages)
井上智介(いのうえともすけ)<ラフドクター>
兵庫県出身 島根大学医学部卒



現在、精神科医でありながら、産業医としても複数の会社と契約を行い、多くの人の心をほぐし続けている。
100点を目指すたくさんの苦しむ人を見てきたからこそ、「笑い=最強の治療」を信念に、【ラフな60点合格の人生を送ること】の大切さを提唱している。

そのラフな人生をおくるヒントとして発信される、心が疲れた人と目線を合わせた温かい言葉が届くTwitterやブログは人気を博している。
また、産業医として有名企業を相手に、ド派手ルックスからは想像できない精巧かつ大胆なセミナーやイベントを多数開催してきた実績を持ち、ラフで心に余裕を持った生き方を発信し続けている。
ポリシーは【大雑把に笑っていきていこーよ!】

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