Jam 私が著者になるまで

たった1日で4万いいねを獲得した、『パフェねこ』誕生秘話/Jam

#私が著者になるまで

Twitterで大人気の『パフェねこ』は、日常で起こる人間関係の悩みを描いたマンガシリーズ。作者Jamさんの体験をもとに描かれるマンガの数々は、「気持ちがラクになる」と話題だ。実は、このシリーズが生まれた背景には、ある意外な出来事があった。

『パフェねこ』の生みの親、Jamさんの素顔

「Twitterで話題になって、本も出版させていただいて、昔からの知り合いには『マンガ家に転身したの?』なんてよく言われる。でも、今も本業は続けています」

そう語るJamさんの本業とは、ゲームグラフィックデザイナー。子供の頃から絵が好きで、夢は絵描きだったというJamさん。大学で美術コースには進んでいたものの、ほぼ独学で絵のスキルを身につけ、大手ゲーム会社に就職した。数々の有名タイトルの制作に携わり、チームでものづくりを進めるおもしろさにも目覚め、充実した会社員時代を過ごしていた。

だが一方で、同僚たちのスキルの高さに自信をなくすことも多々あったという。

「もともとは人物を描くのが大好きだったんですが、会社から『人物は向いていないから背景を担当して』と言われて。まわりを見渡すとみんな信じられないほど上手だし、うまくて当然の環境だったので、自信はいつもありませんでした。自分なりに前向きにがんばってはいましたけどね」

約16年在籍し、社内でつくりたいタイトルをつくり尽くしたJamさんは、会社を飛び出す決意をする。一度は異業種も経験したが、長年携わったゲーム業界に戻り、フリーランスのゲームデザイナーとして独立した。

日本を襲ったある出来事が、『パフェねこ』を生んだ

「前の会社を辞めたいちばんの理由は、あるプロジェクトの頓挫でした。コスプレイヤーなど若い人たちのためのSNSを立ち上げようというプロジェクトで、それを機に私は第一線から退いて応援する側に行こうと思っていたんです。でもそれがストップしたことで、自分が本当にやりたいことをもう一度考えてみようと思うようになって」

フリーのゲームデザイナーとして働くかたわら、自分の絵をTwitterで発信するようになったJamさん。動物や自然を描いた緻密なペン画をはじめ、大好きだった人気ねこキャラクターのマンガシリーズもアップし、フォロワーは急増した。

フリーになって数年が経った頃、ある自然災害が日本を襲った。2016年4月に発生した熊本地震である。実はこれが『パフェねこ』シリーズ誕生のきっかけとなった。

「東日本大震災のときは、自分にできることをしたいと思いながらも、なにか発信して叩かれるのが怖くてできなかった。だから今回は勇気を出して発信しようと思ったんです。私のTwitterやWebサイトを楽しみにしてくれている方も熊本にいらっしゃったので、どうにかして元気づけたいと」

そうしてTwitterにアップしたのが、『パフェねこ』のねこが主役の4コママンガだった。東日本大震災の際、知人のイベント会社がイベントを自粛した末に倒産してしまった出来事を受けて、「日本を元気にするためにも自粛はやめよう」というJamさんなりの思いを綴ったマンガである。反響は想像以上に大きいものだった。

被災地からも届いた、「気持ちがラクになった」という声

その数日後、2つ目のマンガをアップしたJamさん。それが、『パフェねこ』の愛称の由来にもなったマンガだった。

相手の何気ない言葉に傷ついた主人公のねこが、友達に相談の電話をする。するとその友達が言うのだ。「いやいや気にしすぎだって! 多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ」と。アップするやいなや1日で4万いいねを獲得。現在では6万いいね&リツイートという超話題作となった。これはJamさんにあった実際の出来事を描いたものだという。

「最初に友達がそう言ったときは『パフェって!(笑)』と思ったんですけど、あとからじわじわ心に染みてきて…。『そうか、相手はそれほど真剣に考えていないんだ。私もこんなに気にするのはやめよう』と素直に思えたんです」

このマンガをきっかけに、「気持ちがラクになった」「続きが見たい」という声が続出。熊本のファンの中には、避難所生活でスマホの充電が十分にできないにもかかわらず、読んでくれた方が何人もいたという。まだ2つしか発表していないのに「本にならないんですか?」と聞かれたり、ライブハウスではマンガを印刷して壁に貼ってくれたりと、嬉しい反響がたくさんあった。

「このとき初めて、本を出したいと思いました。たとえスマホが見れない環境にいても、本があれば元気を出してもらうことができるから」

そんな中、サンクチュアリ出版から出版のオファーを受ける。偶然にも、以前Jamさんが出会った大切な1冊の本もまた、サンクチュアリ出版から出ていたものだった。

「あとがきにも書きましたが、その本は私が作品の方向性に迷っていたときに出会った本。『星の王子さま』のバンド・デシネ版(フランスコミック版)でした。これを読んで、絵と文章を両立させるアイデアを思いついたんです。しかもこの本を手がけた方が、今回の私の本の編集を担当してくださった方の恩師だったようで、不思議なご縁を感じずにはいられませんでした」

自信のなさは、ときに相手を否定することに繋がる

運命とも呼べる縁があり、初の著書『多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。』を出版したJamさん。表題作はTwitterで話題になったマンガを書籍用に描き直したものだが、掲載マンガの多くは今回の出版に向けて描き下ろしたものだという。

「私が実際に悩んでいたことや、知り合いから相談された話をベースにして描きました。キャラクターは特徴がないほうが感情移入してもらいやすいので、できるだけシンプルに記号的にしています」

たとえば、『人から褒められても、素直に受け取れない』という章がある。これはJamさんの悩みを描いた作品だ。Jamさんは悩みを人に相談できず、自分で抱え込んで消化しようとしてしまうタイプ。自信がなかなか持てず、自分なりに納得して出した作品であっても、世の中に出たあとに人と比べて自信を失うことが多かったという。

あるミュージシャンのCDのジャケットデザインを担当していたJamさんだったが、毎回自分のデザインに自信が持てずにいたJamさんに向かって、彼の放った言葉が衝撃的だった。「過剰な謙遜をするのは、褒めてくれた人に『お前は見る目がない』と言っているのと同じ。そんなときは『ありがとう』でいいんじゃない?」。謙遜のしすぎは相手に対して失礼だったのだと気づき、まさに目から鱗だったという。

「自信を持ちすぎて天狗になるのもちょっと違う。フリーで仕事をしているとなおさらそう思います。だから、『相手のために自信を持つ』と考えるといいんじゃないかな。そうすれば、過剰に謙遜することも天狗になることもなく、バランスよく生きられる。彼の言葉がきっかけでそう思うようになりました」

現代人特有の、SNSでのモヤモヤ

この本には、SNSが原因のモヤモヤについて描かれたマンガが多く掲載されている。四六時中SNSで誰かと繋がっている現代人にとって、「あるある!」「わかる!」と共感してしまう内容ばかりだ。

「SNSがなかった時代は、今よりも個人のプライバシーがありました。その分『人は人、自分は自分』と割り切れる部分も大きかった。現代は、誰もが自分を自由にオープンにできる代わりに、思うようにいかないことも増えましたよね」

現在3万人近くのTwitterフォロワーを抱えるJamさんも、フォロワーが増えるにつれてSNSならではのトラブルを経験するようになったという。

「不特定多数の方が見てくださっているので、中には心ないコメントをする人もいます。一度、ダイレクトメッセージに真面目に返信してしまったことがあったのですが、そうしたら変に絡まれて…。それ以来、悪意のあるコメントは気にしないようにしています。あと、知人から教わった回避策としては、フォロワーさん全員に見えるコメント欄で『ありがとうございます!』『勉強させていただきます!』と返すのも有効なのだとか。するともうなにも言ってこなくなるし、アカウント自体を消して逃げてしまう人も多いそうですよ」

Twitterで絡まれにくくなるコツも紹介していただいた。

「あと、これも教わったことなんですが、私のTwitterはずっと作品をアップしているわけじゃなくて、世間話や気になっていることなどを気ままにツイートしています。こうやって所々に関係ないことを挟むと、作品や主張に対して変に絡んでくる人も減るよと教わって、実際に減りました」

自分の悩みを客観視できるような場所を提供したい

絵と文章が好バランスで構成された『パフェねこ』本。文章を読むのが苦手でも、疲れているときでも、ゆるく読めて心がすっと軽くなる1冊だ。Jamさんの狙いはまさにここにある。

「ハードルの高い本にはしたくなかったんです。心が疲れているときって、本格的な心理学の本は買いにくいですよね。『人に見られたらどうしよう』とか、中身を読んで『本当に病気なのかもしれない』とか思ったり。でもマンガ仕立てだったら手に取りやすいし、『ねこがかわいいから買った』って言い訳もできる。書店でもコミックの棚に置いていただけるようにお願いしました。もし自己啓発の棚に置いてあっても、『これ、ねこ啓発だから大丈夫!』と言いたい(笑)」

今では自分の好きなことが70〜80%できているというJamさん。今後はマンガやペン画の仕事をもっと増やしていきたいとのこと。

「ペン画は、描きたいものが降ってこないと描けません。クリアな気持ちとまとまった時間があるときに限られてしまいます。なにか心に突っかかることがあるときは、マンガが向いているんですよ。描いているうちに自分の中で答えが出て、モヤモヤが晴れることもよくあります。マンガとペン画、どっちもバランスよく続けていきたいです」

マンガを描いていて見つけた自分なりの答えは、あえて作中には描かないようにしているという。人から相談を受けているうちに自分の考えが整理されるのと同じように、マンガを読んでいるうちに自分の悩みを客観視して考えられるような、そんな場所を提供できたらとJamさんは語る。

最後に、この本を手に取ってくれた方や悩みを抱えている方へ、エールのメッセージをいただいた。

「悩みがちな人は、真面目な人。真剣に考えすぎるとループから抜け出せなくなるので、なんでもいいから楽しいことを見つけて、そっちに没頭することが大事だと思います。そのためにも、ぜひ自分の好きなことを追求してください。昔、尊敬するフリーデザイナーに『どうやって仕事を取っているんですか?』と聞いたら、『好きなことだけやっている。そうしたら好きな仕事が入ってくるようになった』と言われて、なるほどと思いました。一歩踏み出すには不安もありますが、自分がなにを好きかがわからなくなるほうが辛いですから」

「フリーになって9年、運でやってきた」。そう言い切るJamさんは、紛れもなく「好きなこと」を追求して道が拓けた一人。『パフェねこ』シリーズをはじめ、今後の活動から目が離せない。


Jam

ゲームグラフィックデザイナー。イラストレーター。漫画家。
日常で起こる人間関係の悩みを描いたマンガ「パフェねこシリーズ」がTwitterで累計50万以上リツイートされるほど話題になる。

多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。 Jam(著)・名越康文(監修)

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