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フリーランスの悩みは「時間をデザイン」すれば、すべて解決する

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フリーランスとして25年のキャリアを持ち、「習慣家」としても知られるブックデザイナー・井上新八さん(以下、しんぱちさん)。

年間200冊の本のデザインを手がけながら、毎日1冊の読書、ランニング、筋トレなど、70個以上のルーティンを欠かさず続けているといいます。

このたび、新刊『時間のデザイン』の刊行を記念して、ライター・めつぎほたるとのトークイベントを開催。会場には、フリーランスの働き方や習慣術に興味を持つ多くの方々が集まり、満員となりました。

本記事では、イベントの模様を振り返りながら、しんぱちさんが語った「フリーランスとして生き抜くための時間のデザイン」についてご紹介します。

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この記事は書籍『 時間のデザイン 』の関連コラムです。

フリーランス歴25年目。仕事が頼まれにくくなる「年齢の壁」を乗り越えるために実践した「小さなステップ」と「大きな飛躍」

めつぎ:
フリーランス歴25年のしんぱちさんですが、ここまで活躍してこられた秘訣は何でしたか?

しんぱちさん:
う〜ん、正直なところ活躍してきたという実感はなくて(笑)。自分ではずっとしょぼいままだと思っているんです。しょぼいから、会社を立ち上げたり、チームを作るわけでもなくずっと一人で働いてきました。

めつぎ:
いやいや!会場の皆さんも「そんなことない!」という空気が漂っていますよ!

しんぱちさん:
本当ですよ(笑)。でも、しょぼいままでいいんです。何者かになりたいという願望はなくて、食いっぱぐれないためにできることをしてきました。

そのなかで、年齢を重ねてもフリーランスとして生き残っていくために大切にしてきたのは、「小さなステップ」と「大きな飛躍」を交互に続けることですかね。

めつぎ:
「小さなステップ」と「大きな飛躍」とは、具体的にどんなことをされたのでしょうか?

しんぱちさん:
「小さなステップ」は日常的な習慣や改善のことです。仕事ってうまくいかないことの連続なんですよ。仕事の数が増えれば増えるほど、トラブルの数が増えていく。

今日「最悪だ!」と思うようなことが起きても1ヶ月後、1年後には「あれくらい苦しんでた自分は生ぬるかったな」と思うくらい、もっと最悪なことが起きる(笑)。

だから、まずはどんな状況でも疲弊せずに仕事を続けられるよう、トラブル回避の方法や自分を守るための小さな改善を積み重ねていく「小さなステップ」を設計してきました。

めつぎ:
小さな習慣が自分自身を守ってくれるんですね。

しんぱちさん:
一方で「大きな飛躍」は、書籍の執筆のように普段以上に頑張らなければいけない挑戦のことです。

フリーランスって年齢の壁が大きくて、若い人のほうが体力もあって頑張れるし、仕事も頼まれやすい。僕は今50代なのですが、30代のときは40代の壁が怖かったし、40代のときは50代の壁が怖かったんですよね。

めつぎ:
私もフリーランスで働いているので、その不安はとてもよくわかります…。

しんぱちさん:
そんな不安に対抗するために、40代からnoteを書き始めたり、自分の中で風を起こすための習慣を少しずつ積み重ねてきました。

そして、40代最後の年には自分のなかでの「大きな飛躍」として、一冊目の書籍『続ける思考』を書いたんです。本を書くためには普段よりめちゃくちゃ頑張らなきゃいけないのですが、それがこうして2冊目の本を書くことに繋がり、たくさんの取材を受ける機会にもなった。

そんな「大きな飛躍」に定期的に取り組むことで、その経験や成果は年齢の壁を乗り越えるための自分へのバトンタッチになるんです。フリーランスのみなさんは、ぜひ「小さなステップ」と「大きな飛躍」を自分を成長させるステップアップの仕組みとして意識してみてほしいです。

そして、今回はフリーランス25年目という節目に、新たな「大きな飛躍」として、これまで取り組んできたことをすべて振り返ろうと思って書いたのが、今回刊行した『時間のデザイン』です。

ベテランになっても仕事は辛い。でも、辛くない仕事はつまらない

めつぎ:
ちょっと気になったのですが、25年間ブックデザイナーを続けてきたしんぱちさんでも、仕事は大変なものですか?

しんぱちさん:
そりゃあ、仕事はやればやるほど辛くなりますよ。長年続ければ楽になれると思ったら大間違いです。

めつぎ:
ええ!てっきり少しくらい楽になれるものかと……。これからフリーランスを目指されている方には悲報ですね(笑)。

しんぱちさん:
う〜ん。でも、辛くならない仕事はあんまり面白くないかもしれないですね。

めつぎ:
どういうことでしょう?辛いから面白いんですか?

しんぱちさん:
楽なことばかりやっていたら、確実に行き詰まりますから。辛いというのは、成長している証拠。ハードルの高い仕事に対して、自分の力不足を感じるから辛い。

でもそんな自分を改善して乗り越えるから、もっと面白い仕事ができるようになるんです。だから、辛くない仕事は最終的に面白くなくなると思いますよ。

めつぎ:
その視点はありませんでした。

しんぱちさん:
僕もブックデザイナーとして経験が浅かったときは、仕事が増えてきて正直「ちょろいな」と思った瞬間がありました。

めつぎ:
しんぱさんにもそんな時期が……!

しんぱちさん:
はい。当時は自分の実力をちゃんと把握できていなかったから、自分ができていると思い込んでいたんです。だから、ちょろいと思っていた。

でも、自分や他の人の作品を見比べていくうちに成果物への解像度が上がって、見事に鼻っ柱を折られました(笑)。「俺、全然ダメじゃん」って。

フリーランスに限らず、年齢や経験年数が上がるにつれ、仕事で求められるレベルが上がっていきます。自分のステージが変化するのに合わせて、仕事の質を上げていかないといずれ頼んではもらえなくなる。

辛い仕事を乗り越えながら、ステップアップを重ねていくことが面白い仕事に繋がるし、フリーランスとして食いっぱぐれない条件とも言えるんじゃないかな。

長く続けるコツは「非効率」と「簡単に上手くならない」こと

めつぎ:
最近、世の中ではコスパやタイパが重視されるなかで、『時間のデザイン』を読むと、しんぱちさんは意外にもあまり重視されていないことに驚きました。

しんぱちさん:
タイパやコスパはまったく考えてないですね(笑)。むしろ、いかに効率悪くできるかを考えています。例えば1つのデザインを考えるのに、最低でも2週間はほしいんです。

必ず打ち合わせの翌日に1案作って、1〜2日空けてから見直す。また手を入れて、新しいものを作って……。

めつぎ:
すごい……!なぜそこまで時間をかけるんですか?

しんぱちさん:
これは時間をあけて、違う自分でその仕事に向き合うための仕組みなんです。1つのデザインに対して、複数の視点で向き合える。

単純に早く終わらせることだけを考えると非効率に見えますが、「いいもの」を作るためには、むしろこの非効率さが必要なんですよね。

ただし、全てに時間をかけているわけではありません。雑用は徹底的に効率化するようにしています。

効率化してできた時間で、本質的な仕事、成果が求められる仕事に関してはとことん時間をかける。この線引きは絶対に譲れないことですね。

めつぎ:
効率化する仕事と、あえて非効率にする仕事をきっちり線引きしているんですね。

しんぱちさん:
そうですね。あえて回り道をすることで、新しい発見があったり、思わぬアイデアが生まれたり。25年続けてこられたのも、この「非効率」のおかげかもしれません。効率化を追求すると、どんどん視野が狭くなっていくし、挑戦する余地がなくなってしまう気がします。

あとは、物事をうまくなりすぎないようにするのも大事。すぐにうまくなると途端につまらなくなってしまうので、僕はあえて「なかなかうまくならない方法」を探すんです。

結局、長く続けられる仕事って、常に新鮮で挑戦できる要素が必要だと思うんですよ。だから僕は意図的に「非効率」を選びつづけてきました。

フリーランスの悩みは「時間をデザイン」すれば、すべて解決する

めつぎ:
ここまでお話を聞いていると、しんぱちさんの教える時間のデザインには、フリーランスが成長しながら、長く働きつづけるための秘訣が詰まっているように感じました。

改めてしんぱちさんは、フリーランスが時間のデザインを実践することでどんな価値を発揮すると思いますか?

しんぱちさん:
時間のデザインができるようになれば、フリーランスの悩みはすべて解決するんじゃないかな。

フリーランスのように常にたくさんの仕事をこなしながら、次の仕事ももらえるようにするには持続可能な働き方とステップアップの仕組みが必要だと思うんです。とはいえ、仕事が忙しくなるといつの間にか忙殺されて、自分を見失ってしまう。

だから、たくさん仕事をこなしながらも、必要な挑戦をしたり、自分のやりたいことを続けるための時間を自分の力で生み出さなきゃいけません。そのために必要なのが習慣化。でも、なかなか身につけるのが難しいですよね。

そこで、僕が具体的にどんな習慣化を実践してきたかを『時間のデザイン』にすべて書きました。

めつぎ:
習慣化をすると、日常生活が単調になって、つまらなくなるんじゃないかという意見もありますよね。しんぱちさんはどうお考えですか?

しんぱちさん:
少なくとも僕は、毎日同じルーティンを続けるからこそ、自分や周囲の小さな変化に気がつけるようになることが習慣化の醍醐味だと思っていますね。

だからこそ、大事なのは意識して規則的に続けることです。すぐに効果が出るわけではありませんが、意識して少しずつ自分に負荷をかけることを繰り返していけば、必ず変化が見えてきます。

意味がありそうなことも、無駄だと思うようなこともあまり気にせず、とことん続けていけば毎日の小さな変化に気がつくきっかけになり、人生がもっと面白くなる。それがこの本で伝えたかったことの1つです。

めつぎ:
ありがとうございます!最後に書籍に興味を持った方にメッセージをお願いします。

しんぱちさん:
この本を一番読んでもらいたいのは、フリーランスを始めたばかりの方や、すでにフリーランスとして働きながらも、今後のキャリアに悩んでいる方です。

そんな方に向けて、僕が25年間食いっぱぐれないように続けてきた生存戦略をまとめたので、ぜひヒントとして受け取ってもらいたい。そして、自分にぴったりの時間のデザインができるようカスタマイズしていってもらえたら嬉しいです。

メール即レスのコツは?習慣化できなかったことは?会場のみなさんと質疑応答タイム

イベントの最後には、会場のみなさんからしんぱちさんへの質問を募集しました。

質問①
フリーランスになってから、趣味や息抜きの時間を心から楽しめなくなりました。楽しんでいると「こんなことをしていていいんだろうか」と罪悪感を覚えるようになったんです。しんぱちさんにもそんな時期はありましたか?

しんぱちさん:
う〜ん、楽しいことをやる時間は確保しておいたほうがいいと思いますよ。どんどん忙しくなると何もできなくなるので、罪悪感を持たずに楽しんでください。そういう時間を過ごさないと、身体を壊します。

それでも「仕事をしなきゃ」と思うなら、趣味や休憩の時間に「レストタイム」など名前をつけてタスク化するのがオススメです。15分くらいの短い時間に設定して、ルーティンの一部として組み込むのが効果的。

また、15分と言いながらもついつい30分、1時間と延長しがちなので、遊ぶ時間の次にやることを決めておくと、必要以上にダラダラしなくて済みます。

質問②
しんぱちさんがもしこれから知識や経験がゼロの状態でブックデザイナーを目指すとしたら、最初にどんなことから始めますか?

しんぱちさん:
ゼロには戻れないから、難しい質問ですね(笑)。でも、やっぱり「真似をすること」と「たくさん作ること」でしょうか。

仕事の質を高めていくためには、量をこなすことが大切です。とはいえ、最初は知識も技術もないから量を作ることすら難しいんですよね。

そこで、僕の場合は他のデザインを真似していました。デザインを始めたてのとき、まず本屋などに行って「かっこいいな」と思うデザインを見つけたら、買わずにじっくり観察していました。そして、十分頭に叩き込めたら、家に帰って今やってる仕事のなかでそのデザインを真似してみる。

真似すると言っても、やり方がわからないから似ても似つかないものが完成します。だからパクリにはならない(笑)。でも、その積み重ねのおかげで僕のデザインの原型ができていきました。下手でもいいから、とにかく真似をして試作品や失敗作を大量に作っていくことが大事なんじゃないかな。

質問③
書籍の中で「メールを鬼速で返している」と語っていましたが、作業中にメールの通知が来ると集中が途切れませんか?

しんぱちさん:
もちろん途切れます!なので、集中してやりたい仕事はメールが来ない朝の5時〜9時くらいまでに済ませるようにしました。

逆に午後の時間を連絡に対応する時間にしているので、届いたメールをひたすら打ち返しています。

これまで集中のためにメールの通知をオフにしたこともないですし、もし午前中に緊急対応の連絡が来たとしたら、たとえ集中が途切れたとしても最優先で取り掛かることもありますよ。

イレギュラーも想定しつつ、誰にも邪魔されずに仕事に向き合う時間を作ることが時間のデザインだと思っていますね。

質問④
習慣化しようと思っても自分のルールを守れなかったり、ついダラダラしてしまったときにリカバリーになる考え方や心の持ちようがあれば教えてください。

しんぱちさん:
僕は基本的に何に対しても執着がないので、できなかったことに対しても何とも思いません。取材を受けたとき、よく「続けられなかった習慣はありますか?」と聞かれるのですが、正直一つも覚えていないんです。本当はたくさんあるはずなんですけど、全部忘れちゃう。

そもそも、できなかったからリカバリーしようと思うのはよくないですね。例えば、昨日できなかったことを今日は倍の量やろうと思うと、負担が増えてやめる原因になるんです。やれなかったときは仕方がないと思ってください。

僕も1日15分だけと決めていたゲームを3時間やっちゃったときもあります(笑)。でも、仕方がないと思う。リカバリーばかりを考え始めると人は病んでしまいますから、諦めも肝心です。

『時間のデザイン』
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イベント動画はこちらから
https://www.sanctuarybooks.jp/event_doga_shop/detail.html?id=789

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この記事は書籍『 時間のデザイン 』の関連コラムです。