数ある育児系YouTubeの中でも、説得力のある言葉と、どこまでもママに寄り添う姿勢で絶大な人気を博す【12人産んだ】助産師HISAKOさん。このほど上梓した『5万組を子育て支援して見つけた しない育児』(サンクチュアリ出版)は、これまでに発信してきたHISAKOさんの育児エッセンスが余すところなく詰まった、集大成とも言える本です。ママたちのために20年以上にわたって発信を続けてきた彼女の、ルーツとその原動力に迫ります。
「助産師学校24時」×幸せな産婦人科の光景=助産師への道
本日は、HISAKOさんのルーツ的な部分に少し迫らせていただきたいと思います。助産師としてあまりにも有名なHISAKOさんですが、そもそも、どうして助産師を志したのですか?
もともと子ども好きではあったのですが、高校生の頃、テレビでたまたま「助産師学校24時」みたいなドキュメンタリー番組を見て。病院は、悲しい出来事が起きることも多い場所なのに、産婦人科だけは「おめでとうございます」という言葉が飛び交っている。 “命の誕生の現場”の光景を見て、助産師という職業に興味を持つようになりました。
一方、実は私、17歳まで生理がなかったんです。陸上部でかなりハードにやっていたので、そのプレッシャーとかもあったのかな。親に産婦人科に連れて行かれて、そこで初めて「私は女性で、いつか赤ちゃんを産むかもしれないんだ」ということを意識しました。「あなた、このままだと赤ちゃん産めないよ」なんて言われましたが……その後12人も産むことになるなんて、人生わからんもんよね(笑)。
助産師さんって、出産に関する経験がないとなかなか知る機会のない職業ですよね。しかも、高校生の頃にそういうご経験もあって。まさに邂逅ですね。
そのとき、待合室には妊婦さんや赤ちゃんを抱いたお母さんもたくさんいて。幸せそうな光景を見て、「やっぱり、自分の進むべき道はこれや」と確信しました。しかし、進路先として助産師の専門学校について調べてみると、倍率はなんと30倍。そこで、小児科にも興味があったことから、まずは短大に入り看護師となりました。
小児科に勤務し始めてしばらく経つと、夜勤の合間に、助産師学校へ入るための試験勉強を始めました。新人のくせに、休憩時間に先輩とのコミュニケーションも取らず……21歳の私、生意気よね(笑)。陰口も相当叩かれました。師長に、「助産師は命を預かる大変な仕事。あなたに務まるの? もし試験に落ちたらこの病棟に残るつもり?」と聞かれて、「絶対に受かります」と啖呵を切ったことも。
(絶句)。若き日のHISAKOさん、トガりまくりですね……! 結果はどうだったんですか?
6校受けて、名古屋の1校だけ合格しました。しかし、この1年がまぁキツかった。実習に入ると、担当の妊婦さんのお産が始まったらすぐに駆けつけなければいけないんです。ポケベルに「03(お産)」と入ったらその合図。少しでも遅れたら「何してたの!?」と叱責されるので、まったく気が休まりませんでした。とにかく、病棟と寮とコンビニの行き来しかない生活。お風呂に入る暇もなくて、「あなた臭い!」と怒られたこともあります……理不尽ですよね(笑)。
「こんなしんどい生活、この先に何かハッピーなことがないとがんばれない……」と思った私は、卒業と同時に、当時おつきあいしていた彼と結婚。今思うと、つらいことから目を背けるために、結婚に逃げていただけなのですが……。ほどなく授かった第1子は残念ながら流産。その後、助産師として病院に勤務しながら、年子で3人産みました。
ご自身がママになったことで、助産師の仕事に活きる部分も多かったのではないですか?
いや、組織の中にいる助産師として伝えるべきことと、1人の先輩ママとして伝えたいこととの間に、どんどん溝ができていきました。ママたちの悩みに対して、「(病院の方針として)こうしてください」と話すけど、それでは彼女たちが救われないこともわかる。しんどかったですね。「もっと自由な形で、私がやりたい助産師の姿を目指したい」と考えた私は、組織を離れることを決めました。
そこから5人目を産むまでは専業主婦だったんですよね。食事も完璧に手づくりし、ママ友づきあいにも精を出していた、と『しない育児』にも書かれています。
はい。その一方で、いつか自分の手で理想の助産院を開きたいという夢があったので、「知識を廃らせてはいけない」という思いがあって。医学雑誌を定期購入して、最先端の医療知識を常に頭に入れ続けるようにしていました。「誰に、どこから突かれても完璧に答えられるようにしておこう」と。
複数の子どもを抱えながら、勉強も怠らない……すごいバイタリティです。
学生の頃からなんですが、私、要領がいいんです。手の抜きどころがわかるというか。子どもの数が増えてくると、上の子が戦力になってくれたりもしましたしね。
「ママに寄り添い、ママを安心させてあげたい」
そして、5人目出産後、地元の市の新生児訪問や妊婦教室の仕事を始めました。病院勤務時代の悔しさや、自分が母親になった経験を活かして、とにかくママたちの心に寄り添うことを意識していましたね。すると、次第にママさんたちの間でクチコミが広がり、「ぜひHISAKOさんに来てほしい」という依頼が殺到するようになって。
そうなると、他の訪問助産師さんから「お母さんたちに一体何を伝えてるの?」「私たちがやりづらい」などと煙たがれるようになってしまって。組織に迷惑をかけてはいけないと思い、訪問指導の仕事は辞めて「助産院ばぶばぶ」の開設に踏み切りました。
それだけ指名が入るほどのクチコミが広がったのは、なぜだと思いますか?
特に初めての子育てって不安だらけで、「こんなささいなこと、聞いてええんかな?」というようなことで悩んでばかりですよね。そういう、公的な場では聞きづらいこともどんどん聞いてもらって、とにかくママが安心できる状態にしてあげようと考えていました。
そして、その悩みに対して、「どうしてそれが起きているのか、今後どうなっていくのか」を示す。分析、アセスメントですね。たとえば「赤ちゃんが唸るんですけど、これって大丈夫なんですか?」という悩みに対して、「最近急激に体重増えてない? 大きくなろうとするのが、唸りという形で出てるんやね」と。「時期的なものだから、気にしなくていいですよ」で片付けられるのとは大きく違うでしょ。
ただ「大丈夫」と言われるよりも、科学的、かつHISAKOさんの経験にも裏づけられた事実を言ってもらうことで、ママさんたちも腑に落ちますよね。医学知識を常にアップデートしていたという専業主婦時代からの努力も活きています。
「助産院ばぶばぶ」は、お産をメインにするのではなく、産後のママたちが救われる場所にしようと決めていました。それまでの助産師の仕事で感じていた、「病院や行政では足りていない部分」を担うイメージ。おっぱいケアが中心でしたが、ただ会話を楽しみに来られる方も多くて、ママさんたちに求められていた部分を提供できたと思います。
コミュニティサイトの運営、徹夜でメール返信
「ブログでの発信歴20年」とよくおっしゃっていますが、ブログでの発信を始めたのもその頃ですか?
いや、発信自体を始めたのはそれよりも前。2001年、3人目がお腹にいる頃かな、当時は育児サイトとかもまだほとんどなかったんだけど、唯一あった「ベビカム」というサイトの掲示板コーナーで、妊婦さんやママさんの質問にどんどん答えてました。
無償で、勝手に(笑)。いずれ開業も考えていたので、その練習にもなるかと思って。そこでけっこう人気も出てきたので、自分でコミュニティサイト「ばぶばぶ王国」を立ち上げました。今でいう、オンラインサロンのようなものですね。
2001年……ようやくインターネットが普及し始めた頃? mixiすらまだないですよね?
そうですね。私はパソコン関係は全然ダメなのですが、当時の夫がそういうのが得意分野だったので全部やってもらって。「ベビカム」の人たちが流れてきて、かなり盛り上がりました。サイトの名前をもじって、みんな「今日もばぶりに来たよ」とか言って(笑)。年に1回、みんなでホテルに泊まってオフ会も開催しました。
多いときは100人ぐらい集まった年もあったかな? ホテルの広い部屋を借りてハイハイレースしたり。ママたちがそうやって集まれる場がなかなかない時代だったので、みんな喜んでくださって。いい思い出です。そして今、その頃のママさんたちの孫が産まれ始めています。
そう。実は「助産院ばぶばぶ」も、このサイトの名前から来てるんです。「ばぶばぶ」って、よくよく考えたらふざけた名前だけど……もう後に引けなくてね(笑)。助産院が軌道に乗ると、サイト運営との両立が難しくなってきて、「ばぶばぶ王国」は閉鎖。ブログでの発信は続けつつ、助産院での対面支援に舵を切りました。
ただ、ホームページからのメール相談だけは受け付けていて。せっかく私のことを探し当てて頼ってくれている人を無視することはできないから、睡眠時間を削って夜な夜な返信していました。
無償で(笑)。私、儲けのこととかあんまり考えられないんですよ。これは昔からなんやけど、自分がどんなにしんどくても、「報酬はいらない、相手が幸せになってくれるならそれでいい」って思ってしまうんです。でも、「やりたい気持ちはわかるけど、このやり方ではダメでしょ」と止めてくれたのが、当時の仕事相手で、今の夫のMARKです。
現在はYouTubeでの発信がメインとなっていますが、YouTubeへの挑戦を勧めてくれたのもMARKさん?
言ってみれば、助産院に来てくれるママは、情報を得る力や、診察料を払えるお金もある人たちです。でも、本当に助けが必要なのって、お金もなく、家から出ることもできないママたちなんじゃないか――っていう気持ちがずっとあった。メールでの無料相談を受けていたのもそういう気持ちからだったのですが、自分で身にしみてわかったとおり、無料だと成り立たないわけで。
ではどうしたらいいかと悩んでいた私に、MARKが提案してくれたのがYouTubeでした。いまどき、スマホはみんな持っているし、何より無料で情報提供ができる。対面だと1日に数十人が限界だけど、動画なら一度で何万人にも拡散することができる。とはいっても、当初は「ユーチューブって何?」状態だったので、MARKがひとりで2年ぐらいかけて研究してくれました。
「怖いものなし」――すべてをさらけ出すYouTubeで人気に
今では登録者数50万人を超える人気チャンネルになりました。YouTubeには、ブログなどでの発信とは違った影響力があると思いますが、怖さを感じることはなかったですか?
YouTubeにチャレンジする話が持ち上がったのは、ちょうど離婚の荒波を乗り越えたところで。離婚で、人からさんざん叩かれて、噂されて……というのを経験した後だったから、もう怖いものが何もなかったんです。“カッコいい自分”に執着する気持ちもなくなっていたし。30代の頃は、まだ「みんなの模範でなければ」みたいな気持ちもあったのよね。“助産師のHISAKOさん”として、演じていた部分もあったというか。
それが、離婚騒動により全部吹っ切れて、「もう、弱いところもみんな見したるわ。全部持ってけ」みたいな……なんて言ってるけど、炎上したときは相当落ち込みましたけどね。反省して、「こんなにしんどいことがあるんやな」と思い知りました。人生、まだまだ修行中ですわ。
これまでにブログやYouTubeで発信してきたHISAKOさんのメソッドがぎゅっと詰まった『しない育児』が発売になりました。この本に込めた思いを教えてください。
普通、育児本って「こういうことをするといいよ」ということが書かれていますよね。でも、この本は「しなくていい」ことが書かれています。「これもしんでいい、これもしんでいい」が、なんと100個。育児の合間に読んで、ぜひ肩の力を抜いてほしいですね。
見開きで、文章部分の右ページを読まなくても、左ページだけ見ればポイントがわかるようになっているのもいいですよね。
普段は動画での発信が多い私ですが、書籍という形でメッセージをまとめられたのはうれしいです。「動画だと聞き流せるのがいい」と言われることがありますが、それはそれで動画の利点である一方、その場限りというか、情報が流れていってしまう傾向もあって。演者として話している私も、「ああ、あの表現はもっとこう言えばよかった」と思うこともあります。
その点、目から入ってくるテキストだと、心に深く定着しますよね。私も、勢いも必要な動画とは違って、今回は一言一句、吟味して書きました。出産直後だと文字を読むのは難しいかもしれませんが、落ち着いたら、少しずつでいいから読んでもらえたらうれしいです。一度YouTubeで触れた情報も、テキストで読むことでさらに深く響くはず。気になるところに印をつけたり、何度も読み返したりできるのも、書籍の醍醐味だと思います。
育児にとどまらず、“一人の女性としての人生のあり方”を発信していきたいですね。私がこれまでに学んできたことを、若いママさんたちに伝えたい。私の経験が、未来ある彼女たちが失敗しないためのストッパーになればうれしいです。そのための媒体がYouTubeなのか、ブログなのか、書籍なのかはわかりませんが、思いついたままにいろいろ試しながら、これからも発信を続けていきたいです。
<取材・文 中田千秋>
助産師HISAKO
1974年生まれ。看護師・助産師資格取得後、総合病院、産婦人科クリニック勤務を経て2006年大阪市阿倍野に「助産院ばぶばぶ」開設。同院での母乳育児支援・育児相談を中心に、大阪市育児支援訪問・妊婦教室を15年にわたり担当。
政府や自治体依頼による講演活動や、日本全国の幼小中高校、大学、各発達段階に合わせた教育現場における出張授業「いのちの授業(性教育授業)」を展開。
毎日更新のブログは子育てバイブルとして1日5万人以上が愛読。
プライベートでは1998年から2020年の間に12児を出産。2020年沖縄県うるま市に移住、助産院移転。
YouTube『【12人産んだ】助産師HISAKOの子育てチャンネル』を配信中(登録者数約50万人/2023年6月現在)。
◎YouTube 12人産んだ助産師HISAKOの子育てチャンネル
https://youtube.com/channel/UCgLt6RS5cHmL6i15sbu2kGw
◎公式ブログ
https://blog.babu-babu.org/
HISAKO
定価:1,300円(税込1,430円)
「してあげなきゃ」の呪縛から、救われるママ続々!
5万組以上の出産・育児に寄り添い、 自身も12人の母である助産師HISAKOが 育児で「実はしなくていいこと」とその理由を解説します