私が著者になるまで

歴史愛が高じて、テレビ出演に著書出版! 25歳歴史ライターの予想外な人生 齊藤颯人

#私が著者になるまで

このたび初の著書『胸アツ戦略図鑑 逆転の戦いから学ぶビジネス教養』(サンクチュアリ出版)を出版した齊藤颯人さん。大学在学中からライター活動を始め、そのまま就職せず新卒フリーライターに。子どものころから大好きだった歴史を武器に、次々とチャンスをつかんできました。そんな齊藤さんが歩んできた“予想外”な道のりを、今回の出版エピソードとともにお届けします。

歴史上の「胸アツな戦略」からビジネスのヒントを探る

聞き手
本、読ませていただきました! 歴史上の戦いのなかから「胸アツな戦略」をとりあげて、現代のビジネスパーソンに役立つヒントを探る。おもしろいコンセプトですね。
ありがとうございます。歴史上の人物からビジネススキルを学ぶようなビジネス書はこれまでにもあるんですが、「胸アツな戦略」にフォーカスした本というのは新しいと思います。
齊藤
聞き手
「胸アツ」と謳っているだけあって、どの戦略もドラマティック。登場人物にふりがなや注釈が書かれていたり、わかりやすいたとえがあったりして、歴史が苦手な私でも小説を読んでいる感覚でスラスラ読めました。
歴史にあまり興味のない方にこそ読んでほしいと思って執筆したので、そう言ってもらえて嬉しいです! 一般の方に響く内容かどうかを編集の松本さん・大川さんと一緒に検討しつつ、僕がおもしろいと思うポイントもうまく入れられるように工夫しました。
ビジネス教養だけでなく歴史について本格的に学べる点も特徴。歴史研究というのは日々進歩していて、これまで常識だと考えられていた説が覆ることも多いんです。そうした最新の説や常識とは別の説をできるだけ盛り込み、歴史学者の先生方にも監修していただいて信頼性を高めました。
齊藤
聞き手
1章目の「桶狭間の戦い」(1560年)も、私が習ったこととはちょっと違うような……。
織田信長と今川義元の「桶狭間の戦い」は、これまでは信長の奇襲作戦と言われていました。兵4万5,000の義元軍に兵2,000の信長軍が勝利したのは、休憩中の義元軍を奇襲したからだと。でも近年の研究では、「とりあえず正面から攻撃したら勝っちゃった」説が浮上しているんです。
齊藤
聞き手
「とりあえず」「勝っちゃった」……歴史の授業ではなかなか聞かないワード(笑)。
ですよね(笑)。僕はこの説を聞いて、これまでの説よりおもしろいじゃん、と思ったんです。「少人数で大人数を打ち負かす」話って、ちょっと手垢がついている感じがありますけど、「少人数でもあえて勢いで攻め込んで大軍を倒した」と聞くと、潔すぎて逆に胸アツだなって。
研究成果がアップデートされていくことによって、違った角度のおもしろさが生まれることはけっこうあるので、そうした視点も重視して戦略をピックアップしました。
齊藤

コンセプト変更で14万字の原稿がボツに……

聞き手
「胸アツ」というコンセプトにはどうやってたどり着いたんですか?
そもそもこの本は編集の松本さんからオファーをいただいて始まった企画なんですが、当初は「歴史上の戦略の緻密さをわかりやすく伝える」ことを重視していて、原稿もいまより硬めの内容で書き進めていました。
ただ、サンクチュアリ出版さんの社内で「一般的なビジネスパーソンがもっと楽しく読める内容にしたほうがいいんじゃないか」「歴史好きの著者の歴史に対する熱い想いを強調して、読者の心を揺さぶる内容にするのはどうだろう」といろんな意見が出て、最終的に「胸アツな戦略」というコンセプトにシフトしたんです。すでに14万字くらい書いていたんですが、大幅にリライトすることに(笑)。
齊藤
聞き手
なんと……! 戦略のピックアップからやり直したんですか?
はい。半分くらい変更しました。緻密さがおもしろい戦略と、心を動かされるような胸アツな戦略って、やっぱり別物なんですよね。
齊藤
聞き手
たとえばどんな戦略がボツになったんでしょうか。
「二・二六事件」(1936年)とか「ロシア革命」(1917年)とかですね。歴史好きとしては興味深い出来事なんですが、胸アツかと言われるとちょっと違うな……と。
フィデル・カストロとチェ・ゲバラで有名な「キューバ革命」(1953〜1959年)は、時代がわりと新しいし、中南米の出来事はほかにピックアップしていなかったので、僕としてはおもしろいと思っていました。でも、最終的にゲバラはカストロと対立して国を去るので、後味が悪い気もしていて。結局、最後の最後でボツになりました。
齊藤
聞き手
「胸アツ」を追求するためにかなり試行錯誤したんですね。ちなみに、掲載しているなかで齊藤さんがいちばん好きな戦略は?
うーん、どれだろう。「刀伊の入寇(といのにゅうこう)」(1019年)かな。刀伊と呼ばれた異民族の海賊が現在の九州に侵攻してきて、藤原隆家率いる九州武士たちが撃退したというけっこうな大事件なんですけど、結局日本は侵攻されずに済んだので、これまであまり語られてこなかったんです。
ただ、九州の特定地域ではずっと語り継がれている戦いで、近年は研究者の間でも隆家を再評価する動きが出てきています。最近の東アジア情勢を見ていても刀伊の入寇から学ぶことは多いですし、貴族が異民族を倒すというストーリー自体おもしろいなと思っているので、僕はけっこう好きですね。
齊藤

大学3年の冬にライター活動をスタート

聞き手
齊藤さんが歴史にハマったきっかけをお聞きしたいです!
小学生のころに遡るんですが、教室に置いてあった児童文庫のなかに、漫画版の『日本の歴史』シリーズがあって。
齊藤
聞き手
あ〜ありますよね、学習漫画。
僕、悪ガキだったので、先生に反抗するために授業中に本を読んでいたんです。そしたら先生に本をとりあげられるじゃないですか。このままとりあげられ続けて教室から本がなくなったらおもしろいなと思って、『日本の歴史』を授業中に読み続けていたら、案の定教室から本が消えて、僕は気づけば歴史好きになっていました(笑)。
齊藤
聞き手
(笑)。歴史に目覚めてからは、どの時代や人物がとくに好きだったんですか?
中高生のころはやっぱり戦国時代。司馬遼太郎をよく読んでいたので、幕末や坂本龍馬も好きでしたね。いまは伊達政宗かな。イケメンとか隻眼のイメージが強いですが、歴史を知っていくとすごく深みのある人物。『伊達政宗の手紙』という本が出るほど手紙をたくさん残していて、それを読むと人間くさい面が垣間見えておもしろいんです。
齊藤
聞き手
子どものころから歴史が好きで、大学は史学科卒。それでも当初は、歴史を仕事にしようとは思っていなかったとか。
歴史ってなかなか仕事になりにくいんです。研究者、学校の先生、博物館の学芸員……限られた道しかない。だから歴史にこだわらず就職しようと思ったんですが、就活中に「1日8時間×週5日」という働き方が自分には合っていないと気づいて、大学3年の冬にフリーライターの活動を始めました。文章を書くことは好きだし得意だったので。
齊藤
聞き手
最初はどうやって仕事を獲得していたんですか?
クラウドソーシングサイトで記事制作の仕事を受けるところから始めました。最初は歴史とは関係ないアニメや映画の記事を書いていましたが、あるとき「歴史上の人物の解説記事」の依頼をいただいて、それがきっかけで歴史関連の仕事が増えていきました。
齊藤
聞き手
「ライター」×「歴史」という強みの掛け合わせが奏功したんですね。歴史関連の仕事のなかでとくに嬉しかったものは?
学生ライターの頃、よく記事を書かせていただいていた歴史メディア経由でオファーを受けて、テレビ番組に出演しました。『クイズ! オンリー1』という特番の戦国武将編に。
齊藤
聞き手
えっ、それ観ていました(笑)。めちゃくちゃゴールデン番組じゃないですか!
歴史好きな有名人の方がたくさんいらっしゃって、とても貴重な体験ができました。あとは大河ドラマ『麒麟がくる』ゆかりの地の公式ツアーに同行して、記事を書かせていただいたことも。歴史関連の観光地に仕事で行けるなんて、最高に楽しかったです。
齊藤

絶対的な「勝つ方程式」は存在しない!

聞き手
ライター未経験、社会人未経験というところからスタートして、大変なこともたくさんあったのでは?
クラウドソーシングサイトで毎月生きていける程度の収入は稼げるようになりましたが、その先にどうやって進めばいいのかがわかりませんでした。取材ライターになるにはどうすればいいのか、大手メディアで書くにはどうすればいいのか。僕のような新卒フリーライターは珍しいので、参考になる情報も全然なくて……。
齊藤
聞き手
その状況をどうやって打開していったんですか?
学生時代の知り合いにフリーライターや編集者がいたことを思い出して、その方々に自分から連絡をとって仕事やメディアを紹介してもらいました。そこから少しずつ実績を積んで、いまに至ります。あと、「歴史ライター」で検索したときに僕の名前が上位にくるようにSEO対策はかなり戦略的にやっていて、検索経由で依頼をいただくことも増えてきましたね。
ちなみに現在は、『Workship MAGAZINE』というフリーランス・副業向けメディアの編集部に業務委託で所属していて、週2、3日くらい編集部で働き、残りはフリーライターなどの活動にあてています。
齊藤
聞き手
まだ20代半ばとお若い齊藤さんですが、これからチャレンジしてみたいことはありますか?
自分のメディアを始めたり、フリーランス向けのFP事務所を立ち上げたり、いろんなことをやっているんですが、今後どこに軸足を置いてやっていくかはまだ決めていません。そのときの自分が興味関心のあることをやればいいと思っているし、これまでもそう。以前の僕からしたら、まさか歴史ライターになるとは思っていなかったし、テレビに出られたのも、本を出せたのも、全部予想外のキャリアなんです。だから、この先僕がどんな道を進むのか、もうひとりの自分が興味津々に眺めているような感覚ですね。
齊藤
聞き手
では最後に改めて、『胸アツ戦略図鑑 逆転の戦いから学ぶビジネス教養』を手にとった方、気になっている方にメッセージをどうぞ!
戦略って本当にいろんな形があって、絶対的な「勝つ方程式」というものは存在しないんだとつくづく思います。少人数で大軍を負かすこともあれば、敵より早くに動き出したことで負けることもある。過去の歴史に学んで失敗することもある。だから現代を生きる僕たちも、目の前の課題に対していかに臨機応変に考え行動できるかが重要だと、この本を通じて感じていただけたら嬉しいです。
あと、人間は本当に愚かな生きもの。どの時代もどこの地域でも「戦い」が繰り広げられています。その愚かさまで感じとっていただき、世の中について考えるきっかけになれば幸いです。
齊藤

(取材・文 三橋温子)


齊藤颯人(さいとう・はやと)
歴史ライター・編集者。
上智大学文学部史学科卒業。「歴史研究の成果を楽しく、わかりやすく伝える」をモットーに、歴史解説や大河ドラマ関連取材、研究者へのインタビューなどを数多く担当。主な執筆・制作協力書籍に『一冊でわかる鎌倉時代』『一冊でわかる江戸時代』(河出書房新社)、『完全解説 南北朝の動乱』(カンゼン)などがある。

胸アツ戦略図鑑 逆転の戦いから学ぶビジネス教養 著者 齊藤颯人/監修 本郷和人・本村凌二

胸アツ戦略図鑑 逆転の戦いから学ぶビジネス教養

著者 齊藤颯人/監修 本郷和人・本村凌二
定価:1,600円(税込1,760円)
詳しくはこちら
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