人は、たった数冊の本に、人生の地図を描いてもらうことがある。
まだ輪郭のあいまいだった自分に、芯を与えてくれた言葉。
迷ったとき、何度でもページをめくりたくなる物語。
そんな「わたしを形づくった3冊」を、サンクチュアリ出版のイベント登壇講師が語ってくれます。
それは本の話であり、同時に「わたし」の物語でもあるのです。
語り手:尼僧 おじゅっさん

融通念仏宗のお寺で住職をしています。
Instagramでは、むずかしい専門用語を使わずに、日々の気づきを短いリールでお届けしています。
「仏教を身近に感じてもらえたら」──その思いが、続ける理由です。
特別な知識がなくても、心がふっと軽くなる瞬間がある。
そんな小さな気づきを大切にしています。
また、書道にも真剣に向き合い、師のもとで学びながら、自分の内側を静かに整えています。
一冊目「おおきな木」作者:シェル・シルヴァスタイン 訳者:本田錦一郎
小学生のとき、教室の本棚にあった『おおきな木』を何気なく読んだ。
読み終えた瞬間、底なし沼に沈むような感覚に襲われた。心がついていかない。
怖くなって本棚に戻したけれど、緑の表紙がずっと脳裏に残った。
宇宙の神秘を見上げるのとは逆に、音も光もない洞窟の中をのぞいてしまった気がした。
──“与える”とは、どこまでを言うのだろう。“愛する”とは、奪わないことなのか。
あの時埋め込まれた問いは、いまも胸の奥で静かに回り続けている。
永遠に完成しないルービックキューブのように。
2冊目「出発点1979〜1996」宮崎駿

https://www.tokuma.jp/book/b503878.html
中学生としてアイデンティティの模索に追われていた頃、私が心を奪われたのは、実在の人物ではなく、アニメ界の巨匠が生んだ“ナウシカ”だった。
彼女の中に“誠実であること”を見た私は、その生みの親である監督の言葉を、貪るように読み続けた。
自分の中に生まれる痛みや迷いをごまかさない姿。
その姿から、「湧き上がる感情を引き受けて生きること」が人としての強さなのだと、幼かった私は学んでいったのだと思う。
今もなお、私のものの見方の奥には、あの頃に出会ったナウシカの背中が、静かに残っている。
・3冊目「璞社書展 作品集」発行:書道研究 璞社
“自分の中にもっと何か軸が欲しい”──そんな時に出会ったのが、書家・阪野鑑先生だった。
もともと書を嗜んでいた私は、Instagramでよく書作品を眺めていた。
ある日、流れてきた一文字の「米」の四画目の跳ねを見た瞬間、雷に打たれたように息をのんだ。
こんな美しい跳ねがあっていいのか。
この方の作品を生で見たい、指導を受けたい──そう願いながら、恐る恐る璞社書展へ足を運んだ。
そこでご縁をいただき、無事に門下生として迎えていただいた。
その時に手にした一冊の作品集は、今も私の原点になっている。
おわりに
幼い日に『おおきな木』で知った、答えの出ない問い。
思春期にはナウシカの“誠実さ”に救われ、
やがて書の世界で、揺れる心と向き合う軸を見つけた。
振り返ると、三冊はそれぞれ違う形で、
「どんなふうに生きたいのか」を私に問い続けてくれた本だった。
迷いながらでも、自分の感情を誤魔化さずに見つめること。
その積み重ねが、いまの私をつくっている。
尼僧 おじゅっさん
融通念仏宗の寺で住職を務めている。
Instagramでは、短い動画で「心の温度が少し変わる瞬間」をテーマに語り、日々の気づきを記録している。
書道にも取り組み、文字の線や間に向き合っている。
Instagram
https://www.instagram.com/tokuyooo_



