サンクチュアリ出版は、
出版社の屋上における「メダカの育成」を黙認しています。
言い出しっぺはメダカを愛してやまない、広報部の山口さん。
実際に飼育しているのも、山口さんおひとりです。
そんな山口さんが勇んで「日本メダカ品評会」に出場し、
爪痕一つ残せず敗退してしまったのは、前回の記事のとおり。
あれから数ヵ月たって、
山口さんをあまり社内で見かけなくなりました。
山口さん、どうしているんだろう?
品評会でこっぴどく負けて、メダカのこと嫌になっちゃったかな。
ついでに、仕事とか会社とかも嫌になっちゃった?
そんなことを考えながら出社したら、
あるものが目に飛び込んできました。
メダカの水槽。
しかも、
メダカの品種がわかる案内板と、
ムービングPOPまでも。.
いつの間にか、メダカの水槽があった。
応接スペースにメダカの水槽。
いいですね。癒やされる。
打ち合わせをしていても、会話がなごみそうです。
お客さん:いやー、今日も実に良い商談がまとまりましたな。
ところで、さっきから気になっているのですが、あの水槽はなんですか?
うちのスタッフ:メダカの水槽です。
なんと、うちの社員にメダカを社内で育てている人間がいましてね。
最強のメダカを育成して、全国大会で優勝させるんだとかなんとか。
お客さん:それはユニークですね。SNSをフォローしちゃおうかな。
なんて、
山口さん本人がいないところでも
勝手にメダカを普及させようとしている。
やるな、山口さん。
あ、山口さん。
まいどのことながら、インパクト大のビジュアルですね。
山口:今日はケイスケさんに見てもらいたいものがあるんです。
ついにタイムマシンが完成しましたか。
私はこれから普通に仕事がありますんで。
また今度見せてもらいますね。では。
山口:どうぞこちらへ。
…。
こちらの話を無視して、山口さんは会社の地下へ。
地下は、元は薬局の倉庫だった場所ですが、
いまはイベントスペースとして使用しており、
連日連夜セミナーが開かれています。
広報部イベントチームである、山口さんの職場でもあります。
「こちらです」
ーー山口さん、これはなんでしょう?
山口:特別に鍛えているんですよ。
ーー鍛えてる? なにかの隠語でしょうか?
山口:人間も身体を鍛えるために、ジムに通うじゃないですか。
ここもジムみたいなところですよ。
よくご覧ください。
ーーあ、メダカか。
そんなことかと薄々思ってましたが、やっぱり…。
このひとは、屋上をメダカで埋め尽くすだけで満足できないのか。
一階にもメダカの水槽を置いて。さらに地下でもメダカの飼育を始めるとは。
しかし、こんな劣悪な環境でもメダカは平気なんですか?
山口:はい。
そのためにヒーターも入れているから大丈夫です。
メダカを飼う水温は25度あたりが最適なので、
そうなるようにこの機械が調節してくれます。
ーーなんかいつの間にか着々とメダカプロジェクトを進めているのですね。
てっきり品評会で負けて意気消沈して、メダカのことは投げ出しているのかと思いました。
よかったです。では、私は仕事に戻…
山口:待ってください。
ーーまだ、なにか?
山口:まずお伝えしたかったのが、この、私の地下飼育場が完成したということ。それから品評会に負けてから、そのあと私がどうなったか、ということです。
今日はそういう記事を書いていただきたい。
出版社でメダカを飼育している山口さんが、品評会で負けた後、一体どうなったか?
ーーいいんでしょうか?
あらためて、記事のタイトルを書いてみましたが、
みなさん興味を持っていただけますかね?
我ながらひどいタイトルだと思いますが。
山口:いいんです。
ーーではお願いします。
山口:まず、メダカ名人のところに取材に行きました。
メダカ品評会の「審査基準」の元を作った、と言われる方がいらっしゃいまして。
その方のところにいって、「どうやったら勝てますか、教えてください」っていう風にいきなりお願いしにいったんです。
ーーそんな大事なこと、いきなり教えてくれるものなんですか?
山口:優しい方でいろいろ教えてくれました。
ーーえー、それは聞きたい。
山口:その内容はですね。この連載の別の回にまた。
マンガにしてみなさんに見ていただこうと思ってます。
しかも、おふたりの名人です。すごい巨匠おふたりに会って、聞いてきたことを、ぼくはマンガにしようと思ってるんです。
ーーすごい力のいれよう。
で、実際に、巨匠に会ってどうでしたか。やっぱり品評会で優勝するまでの道のりは遠いなと感じました?
山口:いやむしろ逆で。もう意識が変わりましてですね。巨匠の一人に言われたんですよ。
「次の品評会は?」って。
次の品評会は4月か5月ぐらいにあるんですけど、「それには出ないんですか?」って言われて。
僕はあわわて言いましたよ。
「あ、いや、屋上って、冬の間はメダカが眠ってて成長ないんで、春は見送るんです」って。
そしたら「いや、とんでもないですよ。春こそ出なきゃ」って言われて。「もう山口さん出るって、運営に言っときますね」って。
冬の間に、秋の品評会に出せなかった魚を、さらに飼い込んで春に出すべきだというんです。
むしろチャンスがあるんだよ、って教えてもらいました。
春の品評会は出ない予定でいた僕はのんびりしてたんですが、そこで意識が変わって、じゃあ冬の間も飼い込んで、魚をおっきくしていかないといけない。
というわけで急遽、地下に「養成ジム」を作ったわけです。
ーー地下に怪しい空間を作っていたのは、そういうわけだったんですね。
ところで、山口さんがよく言う「飼い込む」って、どういうニュアンスなんですか?
山口:ただお世話をするだけじゃなく、積極的に魚をおっきくしたり、模様を出したり。まあ、ボディビルみたいなものです。生き物をかっこよく育てる、しっかり育てあげるといった意味合いもあります。
ーー普通に「飼う」っていうアクション以外に、どうやってメダカに介入していくんです?
山口:餌の回数を増やすとか、水質を一定に保つために、水替えをちゃんとするとか。
あとは、おっきい水槽の中で少数のメダカを入れて飼うと、おっきくなるから、そういうスペースを確保して移してやるんです。
ーーおっきい水槽に、ちっさいメダカを、数を減らして入れれば1匹ずつがおっきくなるんですね。水槽のスペースに対するメダカ密度によって、メダカの成長度合いが変わると。
山口:そうなんです。品評会に勝つには、やはりその大きさっていうか、その魚の身体の迫力が必要なんだ、っていう気づきがあったんで。
ーーなるほど、じゃあ、でかければでかい水槽にするほどいいってこと?
山口:うん、メダカの限界ってのはあると思いますけど、広い方が当然おっきくなります。
広ければ、それだけ水質も汚れにくいので、住みやすい環境と言えます。健康を保ちやすくなります。
ーーじゃあいっそ、池とかで飼えば?
山口:そう、でかくなります。
広い池で飼ってるやつは、すごいおっきいですね。迫力がやっぱりありますね。
ただ、なかなかそう都合よくメダカを育成させてもらえる池はないですよね。
ーーそりゃそうか。
しかし、会社の中で、就業時間中に、メダカを飼い込む?ですか。
そういった活動に対して、いろんな声があると思うのですが、どういう反応が多いですか?
山口:「応援してます」すぐにそんな声いただけるとは思ってなかったんです。
でも記事はかなりバズりましたし(同記事を、サンクチュアリ出版WEBマガジン「ほんよま」でも連載「空とぶメダカ 最強メダカ育成プロジェクト」)
ツイッターとかインスタでも「好きなことを一生懸命やっている姿、いいですね」「この記事のつづきがどうなるのか気になります」みたいなコメントをいただけたりですね。
メダカ好き人以外、見向きもしないだろうなと思っていたら、そうじゃない人の方が楽しんでくれている感じはあります。
ーーネガティブな反応とかって、誰からもなかったんですか。
山口:なかったですね。
ーーぼくだけですか?
山口:ぼくだけ?
ーーいや、なんでもないです。そうか。応援してもらってるんですね。
山口:なんか、もっとこうした方がいいよ、とか。そのやり方、まずいよ、とか。
そういう、こう技術的なダメ出しもなく、まあ、見守っていただいてるっていうところですね。
ーー会社の中の反応はどういう感じですか。
実はですね。
あそこの応接スペースのところに、きれいな鑑賞できるような水槽を置いて。
水草いれて、メダカ入れたら、すごい反応が良くて。
ーーさっき見ました。前回の取材の時は置いてなかったですもんね。
山口:社内のメダカ部員も4人増えました。ぼくをあわせて今7人です。
ーーもう会社の一大勢力ですね。この観賞用の水槽がきっかけで?
山口:これきっかけで、入りますって言われました。
ーーこれのなにが良くて?
山口:アクアリウムの力だと思うんですよね。
水槽の美しさ。水草、砂利、そこに魚が泳いで。
しかもこれは1年間、水を取り替えなくていい水槽なんです。
ーーえ、1年間も。
山口:1万円ちょっとぐらいのもので、アクアリウムセットとでも言うのかな。
しばらく放っておけるなら、自分も飼ってみたい、という人もいるみたいです。
ーーまあ、たしかにこう、ライトアップされた水草の中を泳ぐ姿を見てると、素敵な感じはします。
でもこれはあくまでも鑑賞用なわけですね。
山口:そうです。いわゆる、コンテストとか大会に出すものとは違います。
ーーあくまでも社内の関心を集めるための装置だと。
山口:言い方は微妙ですが、まあそういうことになります。
ーー最後に言いたいことはありますか?
山口:最後に一つだけ。
山口:今、僕のメダカネームを考えています。
ーーメダカネーム?
山口:僕がメダカの活動をするときの異名です。
今のところ考えているのが、“メダカゼミナール”。
永遠に続くゼミナールとして、どうかと。
ーーちょっと、意味がわかりにくいですね。
山口:あとは“メダカでいいのだ”。天才バカボンが好きなので。
ーー悪くないですけど、呼びにくくないですか?
品評会の審査員さんが、
「メダカでいいのださん、メダカでいいのださんのエントリーしたメダカはこちらでいいのですか?」
って言いにくそう。
山口:あとは、メダカの大爆笑、メダカ時代。
ーー昭和ですね。ただ昭和。
山口:それくらいしか、思い浮かばなかった。
ーーメダカの師匠に名付けてもらうのとか、どうなんですか?
山口:それだけはダメです!
ーーえ? なんで。
山口:メダカみたいな名前をつけられそうです。
ーーどういうこと? あ、そうか。「楊貴妃」とか「白メダカ」とか、品種みたいな名前に命名されちゃうってことか。
山口:というわけで、みなさん。
僕にはセンスがないので、僕にふさわしいメダカネームを思いついたら、ぜひ僕宛にDMを送ってください。
よろしくお願いします!
山口さんの挑戦は終わらない!
取材/橋本圭右
山口慶一 サンクチュアリ出版広報部イベントチーム。 本好きが高じて書店に10年間勤めたのち、サンクチュアリ出版へ転職。 営業部→広報部。 メダカ飼育歴3年、3度の飯よりメダカが好き。 好きな言葉は「これでいいのだ」 Instagram:https://www.instagram.com/mountain_mouth_k/ Twitter:https://twitter.com/dousitemedaka