22歳でうつ病を発症し、20代のほとんどをうつ病として過ごしたデラさん。著書『うつ病で20代全部詰んでたボクが回復するまでにやったこと』(サンクチュアリ出版)では、うつ当事者として実際に効果があった方法を紹介しています。ページに並ぶのは、医学的なアドバイスでもなく、「うつのあなたでも大丈夫!」というポジティブな言葉がけでもなく、あくまでも“当事者目線”の切実でリアルなハックの数々———。うつのどん底から回復し、出版に至るまでの軌跡をうかがいました。
目次
5回も再発を繰り返し、ほぼうつ病として過ごした20代
聞き手
現在30歳のデラさん、20代はほぼうつ病だったそうですね。5回も再発したとか?
大学を休学して勤め始めたベンチャー企業で無理しすぎたのがきっかけで、うつ病になりました。心身ともにボロボロになり、トイレにもハイハイで行くような状態。
でも、当時のボクはとにかく「早く元の生活に戻らなくては」と焦りすぎていて、少しよくなったところですぐにバイトを始めてしまったのです。完治はしていないわけですから、少しでも無理をするとすぐに調子が崩れ、うつ病に逆戻り……というサイクルを、気づけば5回も繰り返していました。
でも、当時のボクはとにかく「早く元の生活に戻らなくては」と焦りすぎていて、少しよくなったところですぐにバイトを始めてしまったのです。完治はしていないわけですから、少しでも無理をするとすぐに調子が崩れ、うつ病に逆戻り……というサイクルを、気づけば5回も繰り返していました。
デラさん
聞き手
本の1項目めに「うつ病前の自分に戻ろうとしない」とありますが、デラさんも最初は戻ろうとされていたのですね。
“意識高い系”の学生としてイケイケの就活をして、イケイケで働いていましたからね。そこからの落差はすさまじいもので、自分と周りを比べては焦り、さらには自分の理想とのギャップに絶望していました。
でも、何度も再発を繰り返すうちに、「元に戻ろう」「理想の姿になろう」と思うからこそ回復できないのだと気づき、考え方を根本から変えていくことにシフトしたのです。とにかく生き延びるために、「楽しく生きるためにはどうしたらいいか」を考えていこう、と。
でも、何度も再発を繰り返すうちに、「元に戻ろう」「理想の姿になろう」と思うからこそ回復できないのだと気づき、考え方を根本から変えていくことにシフトしたのです。とにかく生き延びるために、「楽しく生きるためにはどうしたらいいか」を考えていこう、と。
デラさん
聞き手
「週5の正社員」ではなく、生き延びるための「週2のバイト」をしているそうですね。
はい。バイト以外にも細々とした仕事を受けたりはしていますが、それで十分生きていけますからね。「週5でしっかり働かなくちゃならない」というのは、単なる思い込みでした。生きていると、こうした思い込みは数え切れないほどあって、ボクらは思いのほかがんじがらめになっています。これらを一つひとつ紐解いて“常識”から自由になることで、だいぶ楽になりました。
デラさん
聞き手
現在は回復されているとのことですが、本書には、その過程でデラさん自身が実践して効果のあった方法がギュッとまとめられています。ちなみに、今日の調子はどうですか?
最近はだいぶ調子がいいです。うつ病になって以来、いちばんいいと言ってもいいぐらい。ただ、本をつくるのに力を使いすぎて、ちょっと落ちていますが(笑)。
デラさん
聞き手
村人Aとして生きる、消費エネルギーを抑える、心の声を聞く……こうした「楽しく生きるため」のハックは、うつ病の人はもちろん、多くの人に刺さる内容だと思います! そもそも、こうした方法を広く発信しようと思ったのはなぜですか?
「ボクがうつ病から回復する過程で学んだことが、誰かのヒントになるといいな」と思って。「ココナラ」で「うつ病彼氏の恋愛相談」というサービスを始めるにあたり、一度、自分の考えを言語化してみようと思ったのもあります。
デラさん
聞き手
ツイッターでの発信をきっかけに、講演の依頼が舞い込んだそうですね。そのときの率直な感想は?
「え? ボクでいいの?」っていう(笑)。最初に働いていたのは、就活中の学生を相手にセミナーをやる会社だったので、経験はありましたが……人前で話すのなんて7年ぶりとかだし。お話をいただいた頃はまだ回復しきっていなくて、お金もないし、体調も悪いし、元気もない。でもまぁ、やってみるかと。
ボクはPowerPointができないので、資料も写真やイラストを切り貼りして、なんとか手づくりして。話したいことはたくさんあるけど、どういう順序で伝えたらうまく伝わるかな? とか、いっぱい考えましたね。
ボクはPowerPointができないので、資料も写真やイラストを切り貼りして、なんとか手づくりして。話したいことはたくさんあるけど、どういう順序で伝えたらうまく伝わるかな? とか、いっぱい考えましたね。
デラさん
聞き手
手ごたえはどうでしたか?
お客さんはオンラインで見ている人が多かったので、ほぼひとりごとのような状態でした。でも、思ったことを好きなように言えて、なんだかスッキリしましたね。そして、これからは、やったことがないこともどんどんやってみようと思えました。
デラさん
ツイッターは、自分が楽しく生きるためのメモ帳
聞き手
そこから出版の話につながるわけですよね……話を聞いたときは、どう感じましたか?
ちょうどスロットやってる最中にDMが来て。「え、ドッキリじゃないよね?」「お金を取られたりする? 出す出す詐欺とか?」とは思ったけど(笑)、「やります!」と即答でした(笑)。
デラさん
聞き手
ははは(笑)。でも、興味のあることにパッと飛びつくことのできるフットワークの軽さも、著者として必要な才能だと思います。
柔軟性はわりと持ち合わせていると思います。本にも書いたとおり、もし失敗しても、最悪死ねばいいし。無理そうならあきらめればいいんだから、とりあえずやってみる、というスタンスです。
でも、冷静に考えたら、ボク、ただのフリーターですけど? 本を出すって、何をどうやって……? という思いはありました。
でも、冷静に考えたら、ボク、ただのフリーターですけど? 本を出すって、何をどうやって……? という思いはありました。
デラさん
聞き手
デラさんの発信は、うつ病当事者の目線で、治し方を言語化してくれているのがいいですよね。誰でも応用できる内容です。
ツイッターは、自分が楽しく生きるためのメモ帳です。「自分がこうやったらよくなった」という方法を残しておいて、もし、それが誰かの役に立つのなら一石二鳥だな、という。
デラさん
聞き手
できあがった本もそうですが、うつ病に悩む人をへんに慰めたり、元気づけようとしたりせず、伝えるべきことを淡々と伝えています。このデラさんの温度感を、心地よく感じる人も多いのではないでしょうか。
本には、ボクがやってみて効果があった方法をまとめましたが、実際、どれだけの人が実践すると思います? ボクはぶっちゃけ、「どうせやんないでしょ?」と思っています。そもそもボク、うつ病の人を「救いたい」と思ってないですから。「救いたい」というモチベーションで発信をする人も多いですが、それって自己満足ですよね。自分に酔ってるだけ。
デラさん
聞き手
おおお、辛辣ですね……!
他人のことを助ける前に、まずは自分ですよね。とにかく、自分が楽しく生きるために思考を使いたい。だから、ツイッターでの発信にしても、本の内容にしても、「ボクはこうやったらうまくいきました。これを受け入れて実際にやるかどうかは、あなたに任せます」というロジックです。その結果、うつ病が治る人が増えるなら、それは素直にうれしい。
デラさん
うつ病専門シェアハウス、うつの治し方学校
聞き手
無事に本も出版され、この先やってみたいことはありますか?
お金があったらやりたいことはいっぱいあるんですけどね……旅行であちこちフラフラしてみたい。でも、ワンちゃん(ラテちゃん、生後9カ月)を預けないといけないから、なかなか厳しくて。
デラさん
聞き手
あ、ツイッターで「うつ病の人専用のシェアハウスをつくりたい」とつぶやいていましたが、もしかして……!
そう、シェアハウスなら、ラテちゃんを置いていけるかな、と。完全に自分都合です(笑)。うつ病でも親元にいるとなかなか休めないだろ、だったらうつ病同士みんなで一緒に住もうよ、そのかわりラテちゃんのこと頼むよ、ラテちゃんのごはんは旅先からAmazonで送るからさ……という(笑)。
デラさん
聞き手
最近、そのラテちゃんにまつわるものすごい出来事があったとか?
飼い始めて1カ月で、赤ちゃんを4匹産んだんです! 一緒に寝ていて、目が覚めたら布団が血だらけで。「え?」と思ったら、産まれたての仔犬がいる。ラテちゃんがまたブルブルし始めたと思ったら、もう1匹産まれて……で、計4匹。最後のコが産まれる頃にはこちらも慣れてきて、動画にも収めました(笑)。
デラさん
聞き手
妊娠にはまったく気づいていなかったわけですよね? 何の前触れもなく4匹も産まれるなんて……壮絶すぎる体験です!! 一夜にして大家族の主となったんですね。
確かに、ブリーダーが「男のコとちょっと遊ばせちゃった♪」と軽く言ってはいたのですが……まさか、ですよね。でも、産まれちゃったからには、お世話するしかありません。戸惑っている暇もなく、毎日、必死にミルクを飲ませてますよ。こんなレアな経験、もう2度とないでしょうね(笑)。
デラさん
聞き手
もし引き取りたいという方がいらっしゃれば、デラさんのDMまでご一報ください(切実)。ほかにやってみたいことはありますか?
「うつ病を治すための学校」に興味があります。うつ病の治し方って、マニュアルがないんです。だから、学校の文系・理系じゃないけど、タイプ別にロードマップ的なものがつくれないかな、と。性別や育った環境、発症要因などでジャンル分けして、「こういうケースは、こっちを優先したほうがいいよ」などと、取るべき対策がわかるようにする。整理するのにはかなり時間がかかると思いますが。
デラさん
聞き手
「うつカフェ」や「うつスナック」は聞きますが、「学校」というのは新しいですね。
確かに、小さな“居場所”のようなものは、たくさんありますよね。ボクが考えているのは、うつ病の治し方を教材化すること。具体的な治し方をロジック的にツリー化して伝えることは、「うつ病のあなたでも大丈夫だよ」という言葉がけをするよりもはるかに効果があると思っています。結果として、ボク自身の体調もよくなり、再発防止にもつながると思いますし。
デラさん
聞き手
なるほど。必要とする人は多そうですね……!
あとは、うつ病の人に仕事を提供する、ドタキャンOKの会社をつくりたいですね。ボクも、「ココナラ」で恋愛相談を始めてから、「誰かのためになっている」ことを実感して、それが自信につながり、グッと回復した感覚があります。だから、うつ病の人に登録してもらって、仕事を振るようなことができないかと。世の中には、その場に存在しているだけでよかったり、短い動画を見てコメントしたり、能力がなくてもできる小さな仕事がたくさんありますから。ボクの仕事を手伝ってもらうのでもいいですし。まぁ、理想ですけどね。
デラさん
聞き手
やりたいことが目白押しですね。
はい、ほかにも「駄菓子屋をやってみたい」とかね。「これをやるべき」と決めつけるのではなく、そのときに「やりたい」って思ったことをやろうというのが基本的なスタンスなので。小さな波はまだありますが、体調的には今がいちばんいい状態なので、いろいろとチャレンジしてみたいです。
デラさん
聞き手
最後に、本の中で「ここは伝わってほしい」という箇所はありますか。
今年の夏は、本づくりだけでなく、引っ越したり、新しい仕事を始めたり、ちょっと疲れましたね。自分を価値がある人間だと思っていないので、出版だなんていまだにドッキリじゃないかと疑っている部分はあるんですけど(笑)、できあがった本を見て、ようやく信じられました。
本の内容としては、ボクにとっての“当たり前”が入っているだけ。「逆に、なんでみんなやんないの?」みたいな。それが誰かのヒントになるなら、苦労も報われます。特に、「あとがき」には力を入れたので、ぜひ読んでほしいです。
本の内容としては、ボクにとっての“当たり前”が入っているだけ。「逆に、なんでみんなやんないの?」みたいな。それが誰かのヒントになるなら、苦労も報われます。特に、「あとがき」には力を入れたので、ぜひ読んでほしいです。
デラさん
(取材・文 中田千秋)
デラさん ただのフリーター。1992年生まれ。愛知県出身。22歳でうつ病を発症し、現在は9年目。うつ病の感覚や気持ちを言語化したり、回復するためのノウハウを発信している。ココナラにて「うつ病彼氏の恋愛相談」の販売実績は200件を超えて高レビュー。サンクチュアリ出版のウェブマガジン「ほんよま」の人気連載「うつ病になった僕が伝えたいこと」が累計200万PVを超える(7記事/半年間の累計PV数)。 Twitter:https://twitter.com/dera3daze うつ病彼氏の恋愛相談:https://coconala.com/users/513770