連載エッセイ「あの本とカフェへ。」
思い悩んで日が暮れた。暇人の極みである。 正確に言えば、ヒマではない。やらねばならないことは無限にある。物置小屋と化した部屋の片付けや洗濯物の取り込みも。あと、買ったライブ配信の視聴期限も今日までだから観ないと。 なにを思い悩んでいるかと言えば、どうやって今日を効率よく動くか、ということ。まあ、これを書いている時点で今日はもうすぐ終わるけれど。 翳りゆく部屋を眺めて呆然とする。 朝、きちんと7時には起きた。 吉岡里帆似のYouTuber・のがちゃんのモーニングストレッチで寝ぼけた頭に喝を入れ、近所のカフェでモーニング。朝のまぶしい太陽の光をさんさんと浴びながら部屋へ戻り、午前中に仕事を済ませた。 ここまではよかった。完璧である。 その後が問題だ。 今日の気分にぴったりとハマる最上のランチを延々と探してしまう。 おそらく、人より昼ごはんに求める価値のプライオリティが高いため、ご機嫌になれるランチを追い求めてしまうのだ。これは学生の頃からずっとそう。昼休憩は2時間欲しい。スペインのシエスタが理想だ。 「せっかくだから、おいしいものが食べたいな」 午後の限られた時間をいかに有効的に使うか、計画的に考える。考えれば考えるほど、時間がなくなり、さらに有効的な活用法を考えようと頭をフル回転させる。 全国5000軒(ほぼ首都圏)近く保存してあるGoogleマップから、今日の気分にぴったりの店を探しはじめた。 ……見つからない。 人は選択肢がありすぎるとかえって迷ってしまい、決められなくなるとは有名な話だが、ほんとそれ。 そりゃ、5000分の1は決めかねる。 いつか行こうと思っていた店のクチコミを念のため確認すると、より混乱してくる。直感で決めたいのに、日和ってググってしまう。 「孤独のグルメ」原作者でおなじみの久住昌之さんは『面(ジャケ)食い』という本で、自分の勘を信じて店を決める大切さを説いた。 そういえば、この間読んだ『東大教授が教える知的に考える練習(著:柳川 範之)』では、「決めることで自分で判断する軸が生まれる」と書かれていたのも読んだ。 それなのに、なんだか今日は決められないよ。 こうして悩み、気づけば14時。 ランチタイムの営業が軒並み終了する。 観光地や繁華街であれば、通し営業や夕方までランチ提供する店もあるけれど、ふつうの飲食店は14時で一旦クローズするところが多い。 ちなみに高円寺のとあるインド料理屋は、17時までがランチタイムだ。 ここまでくると、ランチの概念が分からなくなる。けれど、これはこれでとてもありがたい。さすが高円寺。様々な職業の人が住む街だからこそ、融通がきいている。 話がそれた。 こうして行きたかった無数の店のランチタイムを逃し、テキトーに入ったところで大当たりを見つけることもあるから、迷うことが悪いことだとも言えない。 考える能力は、危機を回避できるチカラでもある。 たとえば、ネガティブ漫才で人気を博す宮下草薙の草薙くん。 気づけばゴールデンタイムのバラエティ番組にひっぱりだこ。ぽわーんと佇む姿がなんだか可愛らしく見えてきて、女子の人気もうなぎのぼりだ。 テレビで見かけた「結婚式」という漫才では、知り合いの結婚式に誘われたという草薙くんが、宮下くんに相談を投げかける。 「なんで誘われたんだろうな」と手をモジモジさせる草薙くん。「罠だったらどうしよう」と不安がる草薙くん。 「入口で招待状破られてご祝儀だけ取られたらどうしよう」と、不安が不安を呼び、ネガティブ思考あるあるが飛躍する。 そんなことは起きないだろうけど、ここまで想像を膨らませておいたのなら、悪いことがあったとしても想定の範囲内でおさまるはずだ。 ここまでひどくないとはいえ、わたしもそんな風に生きてきた節があるから、見方を広げれば、ネガティブ思考に守られたと言えなくはない。 それに、草薙くんは被害妄想を武器にしたことで一躍人気者になった。ネガティブ思考も役に立つことがあるのかもしれない。 考えすぎるということは、妄想力が巧みだということ。 作家のせきしろさんは、ルノアールで出会った珍妙な客の背景を想像し、『去年ルノアールで』という作品に昇華した。そしてその作品は星野源さん主演でドラマ化された。 また『海辺の週刊大衆』では、無人島に流れ着いた男が、なんの役にも立たない漂流物を見つけて毎日妄想力をフル回転させる。 この場合の「なんの役にも立たない漂流物」は、週刊大衆だ。 おじさんの興味を引きつける、いささか下品なタイトルが並ぶ週刊誌。これしかないという現実を悲観せず、妄想力でここまで遊べるのかと驚くほどの遊びよう。 ただ、これはあくまでも考えすぎることをポジティブに捉えた面での話である。 想像力や分析力、観察眼に長けているといえば聞こえは良いが、わたしの場合、そこからの行きすぎた妄想で自分を苦しめることも多々起こる。 そんな時に気になった本を見つけた。『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方(堀田秀吾・著)』。
迷わずに行動できるようになるノウハウが45個まとめられている。その中から3つ紹介しよう。 その1:「情報がたくさんあればいい選択ができる」わけではない 暇だからって、ランチの選択に延々と時間をかけてしまうわたしへ突きつけられた、身に覚えがありまくる話である。 この本に書かれた、オランダの心理学者・ダイクスターハウスらが行った心理実験を見てみよう。 よく考えるグループ・短時間で決定しなければならないグループで意思決定の正確さを比較した結果、「時間がない分、情報に正しく優先順位をつけて、合理的に選択できた」グループが正しい選択をする確率が高かったという。 時間があればあるほど、小さなことが大きな問題のように見えて混乱するのだそうだ。耳が痛い。 その2:笑うことは生命力も高める これは良い情報である。 なぜならわたしはお笑いライブへ行くのが趣味だから。 本で説明されている実験では、おもしろい映像を見た後では約12時間後も免疫力が上がってるという結果が出たそうだ。(免疫力、という言葉については賛否両論あるようなので、個人的には「なんとなく健康にいいらしい!」くらいに捉えている) でも確かにそう。 その3:とりあえず森へ行け ときどき無性に森へ逃げたくなる日がある。 そんな時は荷物をギュッとまとめて中央線に乗り込み、奥多摩へ行く。 ワイルドな山登りとなると、リフレッシュの前に気疲れしちゃうけど、そこそこ整備されている森での散策は、都会に住む者にとってご褒美の時間だ。 もちろん、時間にも気力にも余裕がない時もある。 そんな時は近所の公園や神社にある大きな木の下でほんの少し深呼吸する。それだけでもいくらか回復できるのでおすすめ。 本によれば、1回20~30分自然と触れると効果が高いという。週に120分以上触れ合っていれば、心身ともに健康な傾向があるそうだ。毎週キャンプ生活したい。 ちなみにわたしが「考えすぎる」ドツボにはまった時に行う対処法のひとつは、本屋へ行くこと。 もちろんどこの本屋でもいいわけではない。 大型書店だと選択肢が多すぎて、何が欲しいのかもわからなくなってしまうから。考えすぎる自分に嫌気がさす。 そんな日は、両国にある「YATO」へ行く。
欲しい本に加えて、知らなかったけど読んでみたい本に出会える確率が非常に高い本屋は希少だ。 それに、ここには奥に小さなカフェスペースがあるのがいい。一番奥の角の席は、端っこが好きな者にとっては安息の地だ。 店主の佐々木さんのこだわりが細部まで表現された空間がなにより落ち着く。
愛のこもった空間は、居るだけで心がほどけるよう。もちろん、コーヒーも美味しい。
本屋へ行けば、また考えることが増えてしまいそうだけど、無駄に考えすぎることは抑制され、深く考えることへのヒントを見つけられる。 探せばなんでも買えるAmazonもいいけれど、運命の出会いが待ち構えているリアル本屋の価値は計り知れない。 余計なことを考えすぎるのはよくないけれど、ものごとを柔軟に広い目で見られるようにするには、考えすぎることだってきっと必要なことなのだ。 ■YATO 著者:チヒロ(かもめと街) この記事は、「最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方」の新刊コラムです。
大人気Webマガジン「かもめと街」を運営する、街歩きエッセイストのチヒロがサンクチュアリ出版の本を持ってお気に入りのカフェを巡ります。
「せっかくだから、行ったことのない店へ行きたいな」
「せっかくだから、その近くのカフェでお茶もしたいな」……etc。
行きたかった店が自分に合わなくてハズれる場合もあるんだし。
いいライブを観た後は「生きててよかった……明日も頑張ろう」とポジティブになれるから。
東京都墨田区石原1丁目25−3
Twitter:@yatobooks
Instagram:@yatobooks
営業時間
平日:14:00~21:00
土曜:14:00~21:00
日曜:13:00~21:00
定休日:水曜・木曜
※緊急事態宣言中は20時閉店。最新情報はTwitterでご確認ください。
かもめと街:https://www.kamometomachi.com
Twitter:@kamometomachi
Instagram:@kamometomachi
最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方
堀田秀吾(著)
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