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飲食店経営まで手がける美容師経営者の「経営者脳」/大河内隆広

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30歳で個室型美容室を開業し、現在は表参道店やイタリアン居酒屋を含め9店舗を経営する大河内隆広さん。経営ノウハウをシェアする有料オンラインサロン『NO LIMIT』も好評です。そんな大河内さんの「経営者脳」とは? 頭の中を大公開!

勉強嫌いの劣等生から、チャレンジングな経営者へ

経営に無駄金は必要である

実は僕、単独セミナーはあまり得意ではないのでいつもお断りしています。でも、人生で最初に出会った経営本がサンクチュアリ出版の本で、それ以来たくさん本を買わせていただいた大好きな出版社なので、今回セミナーのお話をいただきお受けすることにしました。

普段オンラインサロンでは「財務セミナー」や「経営セミナー」などノウハウ系をお伝えすることが多いのですが、今回は「経営者脳」をテーマに、僕がどう思考してどのように物事を解釈しているかをお伝えできたらと思います。

僕は東京出身。18歳で美容室に就職、24歳でLAに留学、25歳でメーカーに転職して取締役までのぼりつめたのち、30歳のときに個室型美容室『GULGUL(グルグル)』をオープンしました。当時はお客さまもスタッフもおらず、たったひとりで独立。いま考えると無謀ですが、そのころは「行ける!」としか思っていませんでした。

1号店の新小岩店を筆頭に、現在は9店舗を展開。これまでの11年の中でいろんなチャレンジをしてきました。

まだ資金がなかった3年目のときに2号店の妙典店をオープンしましたが、これは懇意にしてくれていた美容メーカーの社長が出資してくれたもの。経営プランからスタッフまですべて僕が提案し、運営も僕。運営委託手数料だけもらって残りの利益は社長の会社へ。数年後に資金力がついたら、費やした金額そのままの価格で僕に売却してください、という相手に不利益のない形で契約をお願いしました。そのときの約束どおり、現在は当社が買い戻して運営しています。

5号店の北千住店は、当時年商7000~8000万円ほどの会社をM&Aしたもの。また、6号店の表参道店も僕にとって大きなチャレンジでした。エントランスに水を流したかったけど費用が莫大だったので、フロントや待合室をなくしてプロジェクションマッピングを導入。歩くと波打ったり音が流れる仕掛けを施しました。

8号店は、『トンガリアーノ新小岩店』という飲食店。美容室と飲食店を同時展開して成功しているブランシェグループとタッグを組んだ事業で、『ガイアの夜明け』にも取り上げられました。そして今年8月にオープンした9号店の小岩店は、カラー特化型の店舗となっています。

いろんなチャンレジをしてきた中で、もちろん失敗もしました。導入したものの稼働していない高価なマシーンなんかもあります。「1円も損したくない」という経営者は多いですが、経営に無駄金は必要。失敗すれば無駄金ですが、投資しなければ成功はつかめません。どれだけ調査分析して臨んでも成否はわからないし、経営する中で理不尽な出費やイレギュラーな出費は必ず発生します。だったら、少しくらい損してもいいから使ってみる。お金が発生しないところに発展はない。これが僕のポリシーです。

だからといって、やみくもに巨額な投資をするのは間違っています。このあたりのお話はのちほど改めてしたいと思っています。

若い頃に影響を受けた本

まず、サンクチュアリ出版創設者である高橋歩さんの自伝『新装版 毎日が冒険』(2001年/サンクチュアリ出版)。カウボーイになりたくていきなりテキサスに行ったり、友達に片っ端からお金を借りて10代でバーを開業したり、自伝を出版するためにサンクチュアリ出版を立ち上げたり…。10代の頃に読んで非常に影響を受けたこの本からは、「考えるより行動」が大事であることを根底から教わりました。

パーソナルファイナンス専門作家のロバート・キヨサキさんが書いた『金持ち父さん貧乏父さん』(2000年/筑摩書房)からは、今までの常識が非常識であること、学校で教わることがすべて正しいわけではないことを学びました。

また、北海道でロケット開発に挑む植松努さんの『NASAより宇宙に近い町工場』(2009年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)や、最近の著書ですが『「どうせ無理」と思っている君へ 本当の自信の増やしかた』(2017年/PHP研究所)も、影響を受けた本。誰かができていることはすべて自分でも可能であり、できなくても時代や環境や他人のせいにしない。なにかが起こったときは「全部自分のせい」「もっとできることがなかったか」をきちんと考えられる人間になりたい、と強く思いました。

子どもの頃の僕は怠け者で、勉強そっちのけで遊び歩いていました。ほかの子がいい学校へ行くために塾で勉強しているのを見て、「こいつら人生損してるな」とまで思っていました。でも、20歳の頃に人生を取り戻したいと思い直し、頭が悪いなりに「本を人よりもたくさん読む」「パソコンに強くなる」「英語を話せるようになる」の3つを目標に掲げたんです。英語は結局話せていませんが(笑)、あとの2つは忠実に守っていまに活かせています。

「仕事よりプライベート」という現代の若者は、勉強せずに遊び歩いていい学校へ行こうとするのと同じ。まあまあの人生でいいならそれでもいいけれど、収入ややりがいを得たいなら、プライベートの時間をどれだけうまく自己研鑽に使えるかが重要です。僕は若い頃にそれに気づけてよかった。気づけなかったら、つまらない人生を送っていただろうなと思います。

「経営者脳」と「美容師脳」

美容師の経営者が陥りがちな罠

美容師の経営者は、大きく分けて2種類いると思います。「生き方」を重視した美容室経営をする人と、「ビジネス」を重視した美容室経営をする人です。

究極の「生き方」を重視した美容室経営者は、ドラマ『ビューティフルライフ』の木村拓哉さん演じる沖島柊二。彼は東京のカリスマ美容師でありながら、最終回では海沿いに美容室をオープンします。海沿いに自分の店をもつのはおしゃれだし憧れますが、儲かるとはいえません。

おしゃれなものに囲まれて、カッコいい生き方・働き方をしたいという理想をもつ美容師は多くいます。それがダメなわけでは決してありませんが、その理想を強くもつほどビジネスとはかけ離れていきます。そこに気づかずに経営している美容師はとても多いのです。

たとえば、セット面3席の美容室をつくるのに2000万円の投資をしたとしましょう。月の売上が100万円で利益20%とすると、税引後の利益は年間160万円。2000万円を返すのに単純計算で12.6年もかかります。ビジネスの世界では投資回収は5年が基本ですから、最初の時点ですでにビジネスとして破綻している。この簡単な計算すらしない経営者は本当に多いです。

「いくらお金と時間をかけてもいいから最高のものをつくってくれ」とオーダーされるのがアーティストなら、「決まった予算と納期の中で最高のものをつくる」のがデザイナー。美容師経営者は「生き方」を重視した時点で、アーティスト的な思考に陥ります。経営者として成功したいなら、「美容師脳」ではなく「経営者脳」をもたなくてはなりません。

物事の本質はビッグデータで見極めよ

この業界には、「ミニマムデータを信じてビッグデータを否定する」傾向があると感じています。

たとえば、共同経営で成功する例はひと握りですが、そのひと握りのケースがまるでマジョリティかのように取り上げられることがあります。インスタグラムだけで集客できる美容師はひと握りですが、ホットペッパービューティーよりインスタに注力すべきという風潮があったりします。

中途採用より新卒採用といわれがちですが、近年急激に伸びている企業は中途採用がメイン。店販比率はどれだけがんばっても平均10%前後だし、成長しているのは高額店ではなく安売り店。たいていの場合、物事の本質はビッグデータが物語っているのですから、そこを無視してミニマムデータを信じてはいけません。

自分のサロンの技術に対する考え方を定める

僕の美容室では、スタッフのスタイリストデビューまでの期間をあらかじめ設定しています。決まった回数のカリキュラムを受け、最終チェックに受かっても受からなくても期限が来たらデビュー。受かった人のほうが給与は高くなりますが、デビュー日は変わりません。

なぜそういうシステムにしたかというと、最終チェック時のこだわりがいつまでも消えなかったから。以前は3~4人でチェックして合格か否かを決めていたのですが、個人ごとに評価にはどうしてもブレが出ます。試験官によっては「似合わせがダメ」とか「再現性がダメ」とか、お客さまを100人担当してもクリアできないようなラインを基準にしてしまい、いつまで経っても合格させられないスタッフが続出してしまったのです。それではスタイリストの数が追いつかず、多店舗展開はできません。

たとえばフィットネス業界でも、圧倒的な結果を出すことを目指している企業は、トレーナーの育成に時間がかかるため出店スピードも遅め。一方で、気軽に体験してもらうことを重視している企業は、店舗を量産しています。自分のサロンの技術に対する考え方をどの方向に定めるかによって、店舗展開や教育のあり方も変わってくるのです。

ちなみに、通販会社からスタートして大成功しているフィットネス企業がありますが、同社はビジネスモデルのいたるところで通販のノウハウを活用しています。以前「美容業界はお客さんの足が遠のいても電話しないんですね」と言われたことがありますが、確かに電話でのアプローチは費用対効果がいいし、喜んでくださるお客さまも一定数いるでしょう。他業界から学べることはたくさんありますが、いまとくにベンチマークするとしたら通販業界だと思います。

経営は本来シンプル

財務を学ぶことは、経営判断に必須

いまでこそ数字は細かく見ていますが、最初の5年間はなんの計算もせずに美容室経営をしていました。やばいと気づいたのは3号店をオープンしたとき。店長から導入したい機器の相談を受け、「なんとなくコレとコレ」という回答しかできなかったのです。内装費もほとんど感覚で決めていたことに気づき、スタッフ20人を抱えていた当時の僕は急に怖くなりました。まるで目隠ししてドライブしているような感覚に陥りましたね。

商売をするなら最低限、損益計算書(PL)と賃借対照表(BS)が読めないとダメ。儲かっているかどうかが把握できないからです。PL・BSは税金計算のためだけのものだと思い、税理士の先生に丸投げしている方も多いと思いますが、その月に使った経費をきちんとその月に計上し、毎月の正確な利益を把握するには、自分で管理・チェックしなければいけません。通帳だけ見ていても、イレギュラーな支払いが多いので正確な状況はわかりません。

財務状況を把握すると、なんでも自分で判断できるようになります。冒頭でお話しした無駄金についても、今月いくら儲かっているかを正確に知っていれば投資可能額もおのずと見えてきます。たまに同業経営者の方から「新しいスタッフを採用してもいいか」「社員旅行に行ってもいいか」といった相談を受けますが、自分で判断できないのは自社の財務面を把握できていないから。

財務を勉強しないのは、パソコンやスマホの初期設定を面倒がってやらないのと似ています。ここさえクリアすれば、経営は本来とてもシンプル。経営者として成功するなら、このフェーズを理解する手間を惜しまないようにしましょう。美容師経営者には、すべてを数値化し、すべてを言語化できる力が求められていると思います。

(画像提供:iStock.com/PeopleImages)

大河内隆広
昭和 53 年 3月 15日生 / 東京都出身 / 国際理容美容専門学校卒業 株式会社 GULGUL代表取締役

30歳の時にGULGUL1号店をオープンさせる。『美容室 社長』で検索すると1ページ目の検索順位1位にブログが出てくる。

2019年に飲食店トンガリアーノ新小岩店をオープン。
ガイアの夜明けに取り上げられて話題に。

独立後、3 店舗目までは順調に出店したが、自分が「決算書」も読めない財務の知識の弱さに気づき怖くなり勉強。
翌年、1年間で財務の勉強、コンサル、セミナーに400万円以上を投資し、独自の「美容室専門財務戦略」を構築。
2016年には、その財務戦略をベースに年商 7000万円の美容室の M&Aに成功。
まったくM&Aの専門家を介入せず、独自の財務知識と戦略をもって交渉にあたり、その会社を1万円で取得する。

有料オンラインサロンNO LIMITを主催。
会員数800人
2019年有料オンラインサロントップ10に選出

現在、表参道、東京千葉で美容室を8店舗。
イタリアンバルのトンガリアーノを1店舗経営。

http://www.hairsalon-gulgul.com/
http://www.t-okouchi.com/

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