ブラックな企業ブランディングの裏側/トゥモローゲート西崎康平

自ら「ブラックな企業」を謳い、ユニークな採用ブランディングを提案するトゥモローゲート株式会社。「ブラックな社員選抜総選挙」を開催するなど斬新な取り組みの裏には、計算し尽くされたブランド戦略がありました。代表取締役社長の西崎康平氏が語ります。

「ブラックな企業」、トゥモローゲートとは?

大学時代に起業を決意

福岡生まれの福岡育ち。人材コンサル会社の大阪支社にいたので、そのまま大阪で独立起業しました。

自営業をしていた親父の影響で、「自分で物事を決めて仕事をつくっていく働き方はかっこいい」「僕もみんなと違うことをやりたい」と小さい頃から思っていました。起業を決意したのは大学4回生のとき。就職サイトが主流の時代だったので僕も登録したんですが、5分でやめてしまった。毎朝満員電車に揺られて、上司から小言をいわれて、仕事後は先輩から愚痴を聞かされてという、所詮学生のイメージではありますが、でも自分の人生が想像できてしまったんです。

そこそこ有名な会社に入って、30代でマイホームを建てて、年収1000万円くらいもらって……という世間で「幸せ」といわれるような人生は、僕の価値観には合わなかった。だったら、それとは180度違う会社を自分でつくろう、と決めました。

起業のノウハウを学ぶためにはまず就職すべきと考え、新規営業をする「営業会社」であること、人脈や経験を養える「経営者相手の仕事」であること、そして起業資金を貯めるために「稼げる仕事」であることを条件に就職先を探しました。

人材コンサル会社に入ったのはたまたまでしたが、スタートアップの要となる「人」に深く関わることができたのはラッキーでしたね。そこで5年勤めて、2010年、27歳のときにトゥモローゲートを設立しました。

企業の採用のブランドをつくる会社

弊社の主な事業は、企業の採用ブランディング、人事交流コミュニティ「関西人事交流会」の運営、求人媒体「WORKEY」の運営。なかでも採用ブランディングが売上の9割を占めます。スタッフは現在21名で、大阪と福岡に拠点があります。

一言でいえば、「企業の採用のブランドをつくる会社」。大手や人気企業は、学生が会社を見つける前から「入社したい」と思っていて、内定が出れば喜んで入社するような会社です。一方で中小企業は、会社を見つけた段階では「なんかおもしろそうだな」「でもちょっと怪しそう」くらいにしか思われていません。大企業と同じような選考をしても志望度は上がらないんです。そこで、採用コンセプトから企画デザインまで、学生に魅力が伝わるような仕掛けを考えることが僕たちの仕事です。

具体的には、ホームページ・映像・パンフレットなどの制作、SNS運用、就職サイト掲載原稿のストーリー設計や作成、ときには事務所の改装までご提案することもあります。人材業界では珍しく、スタッフの半数は企画やデザイナーなどのクリエイター。これは他社と差別化を図るための意図的な構成です。

僕は人材コンサル会社の営業時代、めちゃめちゃ売っていましたがクレームも多かった。たとえば100万円で発注してくれていたところを2000万円に引き上げると、クライアントは20倍の費用対効果を求めます。確かに応募数や採用効率は上がるけれど20倍にはならないし、「採用はできたけどすぐに辞めた」という問題も起こりやすくなりました。

どれだけ高いお金を払って外見をよくしても、中身が変わらないといい採用ができないし定着もしない。営業時代に学んだその経験から、弊社では専門スタッフをそろえ、見かけ倒しではなく「企業づくり」から始める採用ブランディングを提供しています。

「ブラックな会社」というのは、初めて自社で新卒採用をしたときのブランディングコンセプト「おもしろいブラックな会社」から来ています。競争が激化する市場で勝ち抜いていくには、誰も思いつかなかったアイデアで僕たちにしかできない付加価値を生み出していかなければなりません。そのためにはいろんな個性が必要で、いろんな色を混ぜたら黒になる。黒、つまり自分たちの哲学は、何色にも染まらない。そういった意味を込めてコーポレートカラーをブラックにしました。

トゥモローゲート=ブラック。そうイメージしていただけるように、オフィスの内装や企画書からさまざまな取り組みにいたるまで、ブラックを軸に打ち出しています。

ブランディングの第一歩は、「自分たちは何者か」を明確にすること

ビジョンマップの策定

「企業づくり」から採用ブランディングを始めるうえで、僕は「自分たちは何者か」をはっきりさせるところから提案していきたいと考えました。そのためには理念やビジョンを明確にすることが大事です。

弊社の場合、
◆ミッション(=存在意義)
「世の中にきっかけを。」
◆ビジョン(=目指す方向性)
「世界一変わった会社で、世界一変わった社員と、世界一変わった仕事を創る。」
◆バリュー(=守る価値観)
「私たちは仕事に対して、初恋のようなドキドキと映画のようなワクワクを忘れないことを約束します。」
ただ、これだと抽象度が高い。社員10人くらいまではうまくやってこれましたが、それ以降は違和感が出てきてしまいました。社員によってポジティブに捉えたりネガティブに捉えたり、同じメッセージなのに伝わり方が変わってきたのです。

そこで策定したのがビジョンマップ。ミッション・ビジョン・バリューを掘り下げ、「自分たちはなんのために存在しているか」「どんな世界観をつくろうとしているか」を明確にする作業をしました。策定は1泊2日の役員合宿でほぼ寝ずに行い、その2カ月後に全社員で合宿をして共有しました。

たとえば、ビジョンのなかにある「変わった会社・社員・仕事」とは、具体的にどういうことなのか。定義を明確にしたことで、社員の「やるか・やらないか」という判断基準がすごくはっきりしました。

「変わった」とは、「『おもしろい』を発想の原点に、『今までにない』を世の中に生み出す」こと。では「おもしろい」とはなんなのか。僕たちは「ささる×あがる=ひらく」という方程式を考えました。「ささる」は心に突き刺さるという意味で、「今までにない」「感動する」「涙がでる」などの10項目を設定。「あがる」は定量的な成果が上がるという意味で、「アクセス数が上がる」「モチベーションが上がる」「定着率が上がる」などの10項目を設定。それぞれ5項目以上満たすことで、「ひらく」つまりクライアントの扉を開くことができると定義づけたのです。

「世界一」というワードも、いますぐ目指すにはスケールが大きすぎます。そこで中期ビジョン・5カ年プランを策定し、2022年までに「大阪でいちばんおもしろい会社」を目指すことにしました。「サービスがおもしろい」「クリエイティブがおもしろい」「メンバーがおもしろい」「社長がおもしろい」など8つの項目を立て、それぞれに具体的な達成基準を設定しています。

「社長がおもしろい」を例に挙げると、「情熱大陸に出る」「Twitterのフォロワー10万人突破」など。情熱大陸に出たいわけではないんですよ(笑)。フォロワー数がすべてだと思っているわけでもありません。でもこれらを達成すれば、少なくとも大阪のなかでは「おもしろい社長」として認知してもらえます。目標を立てる上でもっとも大事なのは、「期限を切る」ことと「定量的な達成基準を決める」ことです。

Twitterでのブランディング

僕は経営者のみなさんにTwitterをやってほしいと思っています。社員の方々にもぜひ勧めてほしい。なぜなら、自分たちの存在意義や方向性を世の中に宣言することが、ブランディングではとても大事だからです。炎上や情報漏洩などリスクももちろんありますが、それ以上に得られるものがあります。

会社のPRのためのTwitterを社員にもやってもらうには、強制ではなく楽しんでできる環境をつくること。いま弊社では9割5分の社員がやってくれていますが、強制はしていなくて、僕が楽しんでいるのを見て「おもしろそうですね」と徐々に仲間が増えていった感じ。いちばん効果的だったのは「SNS手当」をつくったことでした。お金目的というより、そんなことを始める会社をおもしろがってくれた社員が多かったですね。

「言ってることとやってることが違う」状態が、ブランディングではもっともNG。世の中に宣言したからには行動もともなっていなければなりません。

弊社では6月から「ブラックな社員選抜総選挙」という企画を開催しています。社員一人ひとりが自由なアイデアで自分のファンをつくり、1カ月間のTwitterフォロワー純増数を競うというもの。月末の1週間は、御堂筋線のなんば駅構内の柱18本を広告ジャックし、ひとり1本使ってラストスパートをかけます。

優勝者には、僕が特上の寿司をおごる(笑)。賞金何百万……という案も出たのですが、よくあるアイデアより「寿司をおごる」くらいのほうが僕たちらしくていい、ということになったんです。駅の柱をジャックしてこんなことを堂々とやる会社を、世間の人たちも社員も「変な会社だな」と思ってくれれば大成功です。

参加者からの質問

Q. これから新たに登場しそうな採用手法はありますか?

採用手法とは少し違うかもしれませんが、個人的には近い将来、新卒と中途の枠組みはとっぱらわれると考えています。働き方が多様化していますし、新卒一括採用を見直す流れも出てきています。

そこで重要なのが、若いファンをつくること。「来春に10人採用しなきゃ」といった目先のミッションにとらわれるのではなく、いかに早い段階からファンを育てるかを考える必要が出てくると思います。

弊社では高校生インターンを始めました。また、大阪の小学校で配られる「おやこ新聞」に広告記事を載せ、オフィス見学ツアーも実施する予定。「会社は大人が集まる場所」という固定観念を壊すため、いずれはオフィスにすべり台などのキッズスペースを設置したいと考えており、そのためのクラウドファンディングも行うつもりです。

これらはファンづくりの一環ではありますが、子どもたちがトゥモローゲートと出会うことで「仕事ってこんなに楽しいんだ」と感じることができたら、日本の未来にとってすごく価値のあることなのではないかと思っています。

Q. アイデア出しの秘訣はありますか?

企画のブレストをするときは、まず「量を出す」ことを意識しています。よく使うのが、「亀」「おばあちゃん」「りんご」などいろんな写真が印刷されたカード。「亀」のカードを引いた人は、亀にまつわるアイデアを出さなければいけない、というものです。関係のない切り口から考えてみることで発想を飛ばすことができるんです。

あとは、「いっせーのーせ!」で全員一斉にアイデアを出すのも効果的。順番だと前の人の意見に引っ張られたり躊躇したりしますが、一斉なら思いきったアイデアを発信しやすくなります。

Q. 社員のチーム力はどう高めていますか?

「言いたいことはなんでも言う」「決まったことは一緒にやる」という企業文化を根づかせています。だから会議ではめっちゃ喧嘩しますね(笑)。けなすとかではなく、お互いに遠慮なく意見をぶつけ合う。そしてそれらの意見をふまえて、最終的にはマネージャーが全部まとめる。みんな思いきり議論したあとなので、納得して実行に移すことができています。


西崎康平
トゥモローゲート株式会社 代表取締役社長

<経歴>
1982年生まれ 福岡県出身
2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社
2007年 史上最短で同社大阪支社長に就任
2010年 27歳でトゥモローゲート株式会社を設立

会社の理念やビジョンを可視化し、WEBやグラフィック、映像を駆使して、企業の魅力を最大化する採用ブランディングを提案。「ブラックな企業」というブランディングでわずか社員3人の会社に7000人の学生から応募を集める。その斬新で徹底した黒の事業戦略は日経新聞・読売新聞など多数のメディアから注目される。

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