人生を変えてくれた「スパイスカレー」を日本の家庭料理に!/印度カリー子

印度カリー子

発売から1週間で増刷決定、すでに計2万1000部のヒットを飛ばしている『私でもスパイスカレー作れました!』。著者のひとり、印度カリー子さんはなんと現役女子大学院生。毎日スパイスカレーを食し、メディアからも引っ張りだこの彼女の「スパイスカレー愛」に迫る!

スパイスカレーとの衝撃的な出会い

カレールウではなくスパイスを使って作る「スパイスカレー」。小麦粉や油がたっぷり入ったルウを使わないため、ヘルシーで胃もたれしにくく、食材本来の味を楽しめるのが特長だ。「でも、いろんな種類のスパイスをそろえなくちゃいけないんでしょ?」「どうせ料理上級者向けでしょ?」という声が聞こえてきそうだが、それらがまったくの誤解であることを教えてくれたのが、スパイス料理研究家の印度カリー子さんだ。

ブログでスパイスカレーのレシピや情報を発信しながら、オリジナルスパイスセットの開発・販売、料理教室の運営、テレビなどのメディア出演、書籍出版…と幅広く活躍しているカリー子さん。販売商品は地元宮城県の社会福祉法人で作られており、障がい者の自立支援にも携わっている。

そんな彼女は驚いたことに、この春から東京大学大学院に通っている22歳の女の子。大学院で香辛料の研究をするかたわら、印度カリー子としての活動にも勤しむ多忙な毎日を送っているという。生活の大部分をスパイスカレーが占めるようになったのは、いつ頃からなのだろうか。

「スパイスカレーを知ったのは19歳のとき。もともと料理が好きで、一緒に住んでいたインドカレー好きの姉のためにカレーを作ろうとしたのがきっかけでした。ネットで作り方を探して、ターメリック・クミン・コリアンダー・チリペッパーなどのスパイスで作ってみたんですが、植物をすったものがちゃんとカレーになったことにびっくり! 味もおいしくて、そこからハマってしまったんです」

当時はスパイスカレーの作り方を載せているサイトが少なかったため、自らブログを立ち上げてレシピを掲載するようになったカリー子さん。それが大学2年の春のこと。日本語だけでなく英語のサイトからも情報を集めながら、興味の赴くままにさまざまな種類のスパイスカレーを作り続けた。

スパイスカレーの主役はスパイスじゃない!

『私でもスパイスカレー作れました!』は、イラストレーターのこいしゆうかさんがカリー子さんにスパイスカレーの作り方を教わるマンガ形式の本。ここで紹介されているのが、3種類のスパイスと気軽に手に入る食材だけで作るスパイスカレー。スパイスの分量もすべて小さじ1で、「大変そう」「難しそう」というイメージが覆る目からウロコのレシピである。

実はこのレシピ、本書を作り始めてから思いついたものなのだとか。誰でも簡単に作れるスパイスカレー本を目指し、シンプルさを極限まで追求したという。

「世に出ているレシピには、8:8:2:1:1…というように材料の細かな比率が書かれていますが、これはレシピ製作者の研究の先に生まれたものであって、必ずしもそうしなければいけないわけじゃない。たとえばターメリックは、どのインドカレーのレシピを見てもだいたい小さじ1/2ですが、明確な根拠はありません。日本の市販ルウはターメリックが主原料ですしね。細かい味の違いにこだわるより、とことん覚えやすくしたほうが『作ってみよう』と思っていただけるのではないかと思い、この本のレシピにたどり着きました」

初心者のためのスパイスカレーイベントの様子

レシピを製作する際は、まず頭の中で試作をするというカリー子さん。どの材料をどれくらい使えばどんなカレーになるか、難なく想像できるという。まるで神業だが、「誰にでもできますよ」とカリー子さんは笑う。

「たとえば食べ慣れている煮物だったら、醤油や砂糖の量を変えるとどんな味になるかだいたい想像がつきますよね。それと同じで、スパイス一つひとつの香りをきちんと理解していれば、頭の中でシミュレーションすることは可能なんです」

本書執筆のために初めて作ったスパイスカレーもあるという。なかでも「厚揚げカレー」と「なめこ&ほうれん草カレー」のおいしさには感動したとか。厚揚げやなめこがカレーと好相性とは驚きだが、味噌汁と同様に食材はなんでもOKなのだそう。

ただし、食材の種類を増やしすぎるのは禁物。本の中でも紹介されているが、主役は1〜2つに絞るのがおいしく作るカギ。自分でスパイスカレーを作ってみたが失敗したというサンクチュアリ出版のスタッフから写真を見せてもらうと、明らかに具の種類が多かったという。

「食材を入れすぎると、特徴のない同じ味になりがち。鍋やスープが似たような味になってしまうのと同じ理由です。スパイスカレーのメインファクターはスパイスではなく食材。スパイスで食材を食べる料理、と言ってもいいかもしれません。この本の出版を通じてスパイスカレーについて改めて考えることができ、最高に楽しかったです」

平日は大学院、週末は仕事

本書のマンガを担当したこいしさんとは、知人の紹介で昨年知り合ったという。イラストレーター兼キャンプコーディネーターのこいしさんは当時カレーにハマっており、カリー子さんが出演したテレビ番組を見て「ぜひ会いたい」と言ってきてくれたのだそう。

「こいしさんはとても気さくな方で、好きなことに思いきり情熱を燃やしているところが私と似ていて意気投合しました。私のことを多方面にPRしてくれていて、こいしさんからつながった仕事もたくさんあります。いわば運命の人ですね。今後一緒にキャンプにも行ってみたいな」

共著のこいしゆうかさんと

大学院では、香辛料と脂肪燃焼の関連性について研究しているカリー子さん。平日は大学院、週末はスパイスカレーの仕事をこなす多忙な日々で、休日はほとんどないというが、「好きなことが学業であり仕事なので、まったく苦じゃありません。カレーを作っているときや食べているときが休息の時間」と笑みを見せた。

「大学院での研究と仕事、2本柱でやっているいまの状態が私には合っているんです。どちらかが行き詰まったときの気分転換にもなりますし、精神的にも身体的にも負担なく過ごせています」

スパイスカレーは毎日お弁当にして大学院に持参している。「スパイスで食材を楽しむ料理」というだけあって、食材や組み合わせを変えれば毎日食べていても飽きることはないという。彼女のSNSにアップされるカレー弁当の数々は、眺めているだけで食欲がそそられる。

スパイスカレーのほかに好きな食べものがあるか聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

「パフェが大好きです。どこの角度から食べてもおいしいし、混ぜてもおいしい。自分だけの味を楽しめるのはカレーと同じですよね。まさにグラスの中の小宇宙!」

スパイスカレーが教えてくれた大切なこと

カリー子さんの人生に欠かせない存在となったスパイスカレー。「大げさではなく、スパイスカレーと出会って本当に人生が変わった」と彼女は言う。

「私、スパイスカレーを食べ始めてから1年で7kg痩せたんです。スパイスの効能もあるかもしれませんが、それ以上に食べ方が変わったことが大きいと思います。以前はおいしいものをただ『おいしい』と食べていました。舌の味覚でしか味わっていなかったので、単にお腹が満たされるだけで、本当の意味での満足は得られていませんでした」

いまの姿からは想像がつかないが、以前は太っていたというカリー子さん。子どもの頃から食べることが大好きで、人の何倍もの量のごはんを食べ、おやつやデザートまでたいらげていた。しかし、スパイスカレーを食するようになり、一度の食事の満足度が格段に高まったのだとか。

「それまで味が想像できるものしか作ってこなかった私にとって、スパイスカレーとの出会いは未知の体験。味覚はもちろん、嗅覚や視覚など五感を使ってスパイスカレーを味わうようになりました。舌だけでなく脳で食事をするようになったことで、『たくさん食べなくても満足度はこんなに上がるんだ!』と気づき、間食やデザートへの欲も次第になくなっていったんです。また、以前は嫌いだった豆やかぼちゃ、なすなどの食材も、カレーにしてみたことで本来の味を知り、好きになりました」

「食事はお腹を満たすだけのものではない」ということをスパイスカレーから教わり、カリー子さんの食への向き合い方は一変したようだ。さらに、自分の好きなものが明確になり、人生の充実度もぐんとアップしたという。

「なんとなく料理をしたり、得意だからなんとなく物理を専攻したり、思いきり情熱を注げるものがないままなんとなく人生を過ごしてきました。でもスパイスカレーに夢中になり、好きなものを研究材料や仕事にできたことで、人生がとても楽しくなりました。毎朝カレー弁当を作って写真を撮っているいまは、朝起きるのでさえ楽しい。最近は一眼レフを買って、自宅にスタジオも作っちゃいました(笑)」

スパイスカレーを日本の家庭料理にしたい

スパイスカレーを通じて人生の幅が広がったカリー子さん。本場のインドカレーやスパイス料理を食べにインドにも足を運ぶそう。スパイスカレーを作るきっかけとなったお姉さんは今年の春から海外に留学しているが、「家のカレーがいちばんおいしい」と、カリー子さんが開発したスパイスセットを日本から持参していったそうだ。

大学院修了後のことはまだ具体的に考えていないというが、「2年後、大学にいられないくらいスパイスで忙しくなっていたい」と思いを語ってくれた。そのためにもまずは修士論文を書き上げ、信頼の土台を築くことが直近の目標だという。

「50年前の日本の家庭では、スパゲッティはほとんど食べられていませんでした。でも、スパゲッティの魅力を発信する料理家がいたことで少しずつ浸透し、いまでは日本風にアレンジした和風パスタまですっかり定着しています。そんなふうに、スパイスカレーを日本の家庭料理にすることが私の夢。『今日のごはんはスパイスカレーだよ』という声が日本の家々から当たり前に聞こえるようになったら、こんなに嬉しいことはありません」

日本にスパイスカレーという新しい食文化が生まれ、食卓がさらに豊かになる。そんな未来の到来を夢見て走り続けるカリー子さん。彼女はまだ22歳。若く情熱あふれる料理研究家のチャレンジは、たったいま始まったばかりだ。

(取材・文/三橋温子)


印度カリー子
スパイス料理研究家。
「印度カリー子のスパイスショップ」代表。19歳の時にスパイスに出合い、これまで作ったカレーは500種類以上。
「インドカレーをおうちでもっと手軽に」をモットーに、初心者のためのオリジナルスパイスセットの開発・販売をする他、商品開発マーケティング、コンサルティング、料理教室運営など幅広く活動。また、東京大学大学院で食品科学の観点から香辛料の研究中。著書に『おもくない! ふとらない! スパイスとカレー入門 』(standards)など。


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