NHK「すくすく子育て」元キャスターが語るAIに負けない育児とは/天野ひかり

天野ひかり

子どもとの会話について、悩んでいる人は多いでしょう。「今日は学校どうだった?」「お友だちと仲よくしてる?」と尋ねても、「忘れたー」の一言。こんな返答に、やきもきしていませんか?今回はそんなお母さんたち必読の、天野さんからのメッセージです。

親のいないところで一体何をしているんだろう?
学校でみんなと仲よくできているのだろうか?
子どもとの会話が続かない……。

そんな悩みを抱えるお母さん、お父さんが集まる場所があります。
それが天野ひかりさん主宰の「親子コミュニケーションラボ」。略して「おやこみゅ」です。
「親から子への言葉かけを学ぶ」をコンセプトにしたNPO法人です。
今回は、テレビ局のアナウンサーからキャリアをスタートさせ、現在は「おやこみゅ」を主宰する天野ひかりさんにお話を伺ってきました。

親子の会話のコツは? AIに負けない大人になるには?
など、いろいろなお話が飛び出します。

天野さんが「おやこみゅ」をスタートさせるきっかけとなったのが、NHKの人気番組「すくすく子育て」。
当時フリーアナウンサーだった天野さんは司会役として抜擢され、2005年から3年間、タレントのつるの剛士さんとともに番組を盛り上げました。
「すくすく子育て」は、子育てに関する悩みや疑問をテーマにした育児応援番組で、医師や教育者などの専門家を交えながら育児について考えるという、子育て中のお母さん、お父さんにはおなじみの番組です。

2002年に娘こころちゃんを出産する前までは、とにかく仕事一筋。東京のテレビ局で文字どおり、バリバリとアナウンサーの仕事をこなしていたそう。
そして妊娠・出産を経て現場に復帰した天野さんが感じたこと。
それは「野性になった」でした。

「妊娠中は、頭で考えて、美しく産もう!と思っていました。
そして美しく子育てして、美しく仕事をしようと考えていましたね(笑)。
でも、陣痛が始まって、本で学んだとおりに頭で考えても、全然産まれてこない。
今でも覚えているのだけど、お産の最中に、理性で考えるのは、もうやーめた!って吹っ切った瞬間があったんです。
あなたが産まれたいタイミングで出ておいで。お母さん、あなたに合わせるよって決めたんですね。
そうしたらその瞬間に、生まれました。そして、私は野性になったのでしょうね。
それから1年くらい番組の台本が論理的に読めなくなりました」


天野さんと夫、娘さん3人の母子手帳。へその緒と一緒に大切に保管しているそう。

 

出産後も変わらずアナウンサーの仕事を続ける予定だった天野さん。
でも野性に戻ってしまった心と体。産まれたばかりの娘・こころちゃんを預けて仕事へ向かうことは、体を引き裂かれるくらいに辛いことでした。

「声を出して、涙をボロボロ流して、泣いたことがあります。
娘と離れたくない一心でしたね。だから仕事量をどんどん減らしました。出産前にはまったく想定していなかった心の変化でした。
子育てと仕事は簡単に両立するって思い込んでいましたから」

担当マネージャーが提案する朝の帯番組、夜の帯番組、すべて嫌だと首を横にふり続けた天野さん。本当にわがままだったと当時を振り返ります。
そんななか、自らの意志で「やりたい!」と思い手を挙げたのが、NHKの「すくすく子育て」でした。そのころ娘こころちゃんは2歳。

自分と同じ悩みや疑問を抱くお母さん、お父さんがたくさんいる!
それに対して、医師や専門家の先生たちが親身になって答えてくれる!
子育てについて学びながら、仕事の充実感も味わえる最高の現場でした。

「とにかく専門家の先生たちのお話がおもしろいんです。
子どもを20時に寝かしつけることが、なぜ脳科学的に大切なのか?
人は言葉をどのように獲得していくのか?
赤ちゃん言葉や喃語(なんご)を話す意味は何か?
赤ちゃんのしぐさとコミュニケーションの関係性は? などなど、とにかく知って得することばかり。

でも先生たちのお話って、基本はとても難解なのです。
あたり前ですが、先生たちは専門家の方々。専門用語を使ったり、難しい表現をされたりします。
そこで私が意識したのは、お母さん目線の通訳者になることでした。
お母さんの知りたいことや疑問を、わかるまで先生にお聞きして、テレビの前にいるお母さんたちに伝わるように努めたんです。
子どもの成長について、先生たちの専門書をたくさん読んで勉強もしました」


こころちゃんと一緒に表紙を飾った「すくすく子育て」のテキスト。左はこころちゃんに読み聴かせた、思い出深い絵本。

 

こうして3年間、「すくすく子育て」の司会を務め上げます。
そして天野さんがわかったこと。
それは「親は子どもの邪魔をしない」だったと言います。
一体どういうことでしょうか?

「それまでは、親は子どもに何かを教えてあげる存在だと思っていたんです。
そっちじゃないよ、こっちだよ。
ありがとうって言おうね。ごめんなさいは?
こんなふうに指示する存在ですね。

でも先生たちのお話を聞くと、全然違った。
子どもは赤ちゃんのときから、自分で考える力を持って産まれてくる。
でも指示すればするほど、子どもが考える機会を失っていくんです。

だから極論ですが、親は子どもの邪魔をしない。これが大切なのだとわかりました。
それは本当に大きな学びでしたね。子育てに対する考え方ががらりと変わりました」

そしてその考える力を発揮するために、大きなキーワードになるのが「自己肯定感」であると天野さんは続けます。

「自己肯定感とは、ぼくはぼくだから大丈夫。わたしは愛されている。ぼくはぼくのことが好き。こんなふうに思える心です。

私はこの自己肯定感を育むことを、“器を大きくする”と表現しています。

子どもが身につけるべき知識や情報、ルール、コミュニケーションを“水”とするなら、それを受け止める“器”は大きくて深くて丈夫であってほしいですよね。

怒られたり、失敗したりしたら、ヒビが入ってしまう器や、すぐに水がいっぱいになってしまう小さい器では、もったいないと思いませんか?
だから親がすべきことは、この器を大きくすること、つまり自己肯定感を育むことなのです。水を注ぐことではないんです」

たしかに「自己肯定感」は、最近よく耳にするキーワードです。
それでは自己肯定感を鍛えるには、どうしたらいいのでしょう?

天野さんによると、それは「親の言葉かけ」が鍵を握っているそうです。

「いいよ!」
「そうだね!」
「すごいねえ」

こんなふうに、子ども自身をそのまま丸ごと認める言葉をかけることが、自己肯定感を育むのだとか。
えっ? そんな簡単なこと? 我が家はすでにやっています……などと思うかもしれません。
でも実際のお母さんたちの発言に耳を傾けてみると

「そうじゃないでしょ!」
「違う、違う」
「言うとおりにしないから、そうなるのよ」

など、良かれと思って知らず知らずに子どもを否定する言葉をかけている親が多いのだそうです。

多くのお母さんが、子どもの器を大きくする前に、水(知識、情報、ルール)を注ぐことに一生懸命になっていて、栄養価の高い水、有名な水、みんなにほめられる水……。いろんな水を汲んできて器に入れるけれど、器が小さいからすぐにあふれてしまう。
そしてまた汲んで、あふれさせて……とヘトヘトになっているお母さんたち。
そんな現状を見て、天野さんは「親子コミュニケーションラボ」、略して「おやこみゅ」の設立を決意します。

「重要なのは、幼いときから英語スクールに行かせたり、算数を習わせたりなど、“やらせる”ことではないのです。
しかも、今の子どもたちが大人になる頃には、人工知能が台頭して、大体のことはAIが可能にしてしまうでしょう。
だから親は、子ども自身が自分で考えて行動できるようになる言葉かけをしていくことが大切です。つまり、自己肯定感を育むことばかけですね。

でも当時は親子のコミュニケーションを教えてくれる場所なんて、どこにもなかった。
じゃあ、私がその場所をつくらないと! という使命感で、仲間とおやこみゅをつくりました」

「おやこみゅ」では、0歳児から参加できる講座もあり、毎回、大にぎわいです。
天野さんが参加者のお母さんたちに必ず伝えているのは

「おやこみゅ」のルール
●講座中は他のお子さんと比べたりせず、我が子だけを見ましょう
●子どもにやらせようとせず、お母さんが思いっきり楽しみましょう
●「〜しなさい」指示、「〜しないで」禁止は言わずに、子どもとコミュニケーションしましょう

ということ。
それだけでお子さんたちの振る舞いにも、変化が表れるそうです。


天野さん自身も目一杯楽しみながら、「おやこみゅ」のクラスを進める。

 

「おやこみゅ」の運営メンバーは現在10名。
東京都杉並区を中心に講座を開設しています。
そして、歌舞伎、バレエ、オペラなど一般では未就学児お断りの芸術を、赤ちゃんや子どもこそが真剣に楽しめる力を、お母さんお父さんに発見、実感してもらうイベントを開催しています。最近ではお父さんの育児参加を応援する「父子手帳講座」なるものも。
今では天野さんの講座を受講した人数は2万人を突破し、多くのお母さんから支持を集めています。

これだけの人気を集める天野さん。
なぜこんなにも多くの人を魅了するのでしょうか?

「人気かどうかはわかりませんが(笑)、テレビ局のアナウンサーだったことが大きいと思います。
“聴く”“伝える”ことを学び、一般の方々から専門家、芸能人、子どもからお年寄りまで、多種多様の人たちとコミュニケーションしてきたことが、今、活きていると感じますね」

現在は「おやこみゅ」を中心に活動されていますが、社会人としてのスタートはテレビ局からでした。上智大学卒業後、テレビ愛知のアナウンサー一期生として入社します。
結婚後は、東京メトロポリタンテレビ(MXTV)アナウンサー一期生として転職。その後フリーアナウンサーに転身し、出産。
それからは冒頭で触れたとおり「すくすく子育て」のキャスターに抜擢されます。

そもそも天野さんは、なぜアナウンサーになったのでしょうか?
ここからはアナウンサー人生についてのお話です。

「高校1年生の体育祭のリハーサル。これがアナウンサーを意識したきっかけだったかもしれません」

小学生のころから、式典の司会をまかされることが多かったという天野さん。入学式や卒業式などで、誓いの言葉や司会をよく任命されていたそうです。

「高校に入学してからも、体育祭のリハーサルで司会をまかされたんです。これより○○高校体育祭を開催します! 選手、入場! などと言う役ですね」

でもリハーサル後、担当の先生に呼ばれてこう言われます。
「天野、司会を降りろ」
大きな衝撃だったそうです。

「天野の声は高くて聞き取りにくいって言われたんですね。恥ずかしいし、ショックで……。自信のある役割だっただけに、本当に悲しい思いをしました。
それで、アナウンサーの仕事になって見返そう! と思ったのが始まりかな」

そして東京の大学へ進学します。
入学してすぐに天野さんは、先輩アナウンサーに会う機会を得て

“どうしたらアナウンサーになれるのか?”
“女性が仕事をしていくうえで、アナウンサーはやりがいのある仕事なのか?”

など、丁寧に教えてもらえたことで、やっぱりアナウンサーになりたい! と決意。
当時はメールがない時代。友人や先輩に紹介してもらって、素敵なアナウンサーにたくさん会いに行って直接お話を伺ったそうです。

当時、アナウンサーの採用試験は7次試験まであり、中盤になると実技試験も課されたそう。

「外で1時間の取材をして、まとめて1分間でリポートしなさいとか、10枚のパネルから2枚選んで、それを組み合わせてお話を作りなさいとか、方言を使って、親族紹介をしてみてくださいとか、とても楽しかったですね。
試験を受けながら、私アナウンサーに向いているな、と思いました(笑)。
でも現実は厳しくて……。最終までは行くけど、落ちてしまうんです」

そんな中、

「もし キー局の最終選考に落ちたら、うちに来てくれませんか?」

こう声をかけてきたのが、テレビ愛知の担当者でした。
しかもそれまでのテレビ愛知は、アナウンサーはいませんでした。もともと愛知県出身の天野さん。「初のアナウンサー」という言葉に魅力を感じて、入社を決意しました。

しかし入社しても、教えてくれる先輩アナウンサーも同期もいないため、失敗の連続だったそうです。

「中継に行かされても、中継の意味を理解していないので、途中で話せなくなってしまうし。話せなくなったときの対応もわからなくて黙ってしまう……。ひどかったですね。
最初の1か月間、悔しくて毎日泣いていました。ディレクターや記者の先輩がいろいろ教えてくれるのだけれど、アナウンサーとしてのアドバイスではないので、混乱していました。
先輩アナウンサーがいないって、こういうことか……と、そのとき初めて気づいて焦りましたね。
今考えても、現場の皆さんはよく私を起用し続けてくれたなあと。それがなかったら、今のわたしはないなあと。
思い出しただけで、ありがたいし、恥ずかしいし、今でも泣けてきます」

そんなつらい経験のなか、転機が訪れます。
夕方のニュース番組を開始するにあたって、男性キャスターも必要だということになり、別の局から男性アナウンサーがヘッドハンティングされて入社します。

「私よりも年上で経験も知識も豊富。
その方からたくさんのことを教えてもらいました。
原稿の読み方やインタビューのコツなど、アナウンサーの基本になることです。そのときのテキストは今でも大切にしています」


当時のテキスト。穴が空くほど読みこんだそう。ストップウオッチはアナウンサーに欠かせないアイテムで、今でも講演や司会業でフル活用中。

 

それをきっかけにスキルアップをしていった6年間。さらに結婚もして、充実した日々を送ります。
そんなとき、知人からFAXが届きます。東京に新しく誕生するテレビ局、東京メトロポリタンテレビ、通称MXTVのアナウンサー募集のお知らせでした。

すでに職場結婚していた天野さんですが、思い切って夫を名古屋に残し、単身、東京に行こうと、MXTVのアナウンサーとなります。テレビ愛知でも一期生。MXTVでも一期生でした。
天野さんは自らの手で、人生を切り開いていったのです。


局アナ時代の天野さん。華やかな舞台の様子からは想像できない多くの経験をした。

 

その後は、遠距離結婚生活も経験します。
当時は女性が仕事と家庭を両立するのは、まだまだ珍しい時代。
しかも夫は名古屋、天野さんは東京在住の遠距離結婚生活に、周りの反応は決して良いとは言えないものでした。

それでも、天野さんは試行錯誤で手段を考え、実行に移し、社会のためになること、そして自分のやりたいことを実現していきました。
熱意と行動力が天野さんの魅力。それがお母さんたちからの人気の秘密かもしれません。

最後に「夢は何ですか?」という質問を投げかけると

「子育ての概念を変えることですね。
先ほどもお話ししたように、言われたことをやって褒められて育った子どもは、上司に命令されたことしかできない大人になります。
でもこれからは人工知能、いわゆるAIが人間の仕事を担っていく時代です。
そのなかで、人間がやるべきこと。
それはみんなとコミュニケーションをとり、問題設定をして、みんなで答えを探していくこと、良い方法を導き出すことだと思っています。
そんな世の中に変わっている今、AIに負けない世代をつくっていかないと! と強く感じています。
それが私の夢ですね」

AIに負けない世代をつくる。
「ちょっと大きすぎる夢かな?」
と微笑みながら語る天野さんですが、「おやこみゅ」をとおして育っていく子どもたちは、きっと自分で決めて自分で行動できる大人になっていくのだと、あらためて感じました。

写真 米玉利朋子(G.P.FLAG)

天野ひかり(あまの・ひかり)

上智大学文学部卒業。テレビ愛知アナウンサー(1989~1995)。現在はフリーアナウンサーとして活躍中。フリー転向後はNHKの番組を中心に出演し、2008年3月まで教育テレビの番組『すくすく子育て』でキャスターを務める。
多くの専門家に取材してきた知識、情報を、やさしくかみくだいた形で、一般のお母さんたちにも知ってもらいたいと願い「NPO法人 親子コミュニケーションラボ」を立ち上げる。著書に『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版)がある。

NPO法人 親子コミュニケーションラボ
http://www.oyakom.com/

天野ひかり公式サイト
http://www.amanohikari.com/

 


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