わたしを切り替える、1分の空

ふと空を見上げてみると、急がなくてもいいのだなと感じた。

#連載エッセイ
#わたしを切り替える、1分の空

たった1分でいいので、
よかったら、空を見上げてみてください。

忙しい日常の中で、
呼吸が少し整い、
世界との距離がふっと変わる瞬間があります。

読み終えるころ、
あなたが空を見る回数が少し増えていたら、
それだけで十分です。

雨上がりの空に現れる虹

雨上がりの夕方、
見慣れた道を歩いていると、
空気の匂いが少し変わることがあります。

濡れた土の匂い。
水を含んだアスファルトの匂い。
通り過ぎた雨と、まだ残る雨雲の気配。

その混ざり方が、
「いまは、いったん息をつきましょう」
と語りかけてくるように感じられることがあります。

そんなとき、
ふいに虹が現れます。

虹は、特別に選ばれた人へのご褒美ではありません。
がむしゃらに努力した人だけが
やっと手にする報酬でもありません。

物理現象としての虹は、とても淡々としています。

太陽の光が雨粒に入り、
屈折し、
雨粒の内側で反射し、
もう一度屈折して外へ出てくる。

その過程で、
白い光が波長ごとにほどけ、
色として見える。

ただそれだけです。

自然は、比べません。
急かしません。
評価もしません。

でも、虹を見た瞬間、
あなたの呼吸が少し深くなることがあります。
胸の奥で固まっていた力が、
ゆっくり抜けていく感覚が生まれます。

私たちが救われているのは、
虹そのものではなく、
心がほどける、その感覚なのかもしれません。

虹は特別な現象ではありません。
条件が整えば、日本の空でも、
ビル街のすき間でも、
交差点でも、
里山でも、
海の上でも、
同じように現れます。

むしろ、
「こんな場所で?」
というところほど、
何事もなかったように、
平然と現れます。

写真を撮るときは、
まず一枚だけ。
撮りすぎると、
虹よりスマホを見る時間が長くなってしまいます。

虹は逃げません。
こちらが落ち着いたときに、
ちゃんと見えてくれます。

虹が教えてくれる、静かなスピリチュアルメッセージ

仏教で虹が語られるとき、
それは派手なサインではありません。

何かを「得る」前に、
まず心が澄み、
場が静かに整う。

そんな方向で意味づけられます。

私たちは、つらいときほど、
早く答えを出したくなります。
気持ちが宙ぶらりんのままだと、
落ち着かないからです。

だから、
「これにはきっと意味がある」
と急いで区切りをつけてしまうこともあります。

でも、
あまりに急いで「大丈夫」と思い込もうとすると、
心が休まる場所を、
かえって見失ってしまうことがあります。

痛みは、
すぐには消えません。
形を変えて、
心の奥に残ることもあります。

そんなときは、
無理に片づけようとせず、
そのまま感じながら、
通り過ぎていく。

雨も、
しばらく降り続くことがあります。
でも、必ず上がります。

濡れている自分を、
いったんそのままにしておく。
無理に元気にならない。
無理に正しい言葉を探さない。

その時間を許すと、
心の中の空気が、
少しずつ入れ替わっていきます。

虹は、
その変化が空に可視化されたものです。

世界が急に変わったのではありません。
こちらの目が、
少し澄んだのだと思います。

まとめ

虹の本当の姿は、
弧ではなく円です。

私たちが地上に立っているから、
地平線の下が見えず、
半分だけが見えている。

高い場所や、
飛行機の窓から雲の上を見ると、
円い虹に出会うこともあります。

虹は、
いつも「自分の立ち位置」と結びついています。
だからこそ、
見えたとき、
他人ごとではなく、
自分ごととして胸に入ってくるのだと思います。

ハワイには、
No Rain No Rainbow
という言葉があります。

雨がなければ、虹は出ない。
それは自然の話であると同時に、
人生の話でもあります。

雨の一日が、
すぐに報われるとは限りません。
でも、
雨が通り過ぎたあとにだけ見える光があります。

その光を見つけた瞬間、
人はきっと、
「大丈夫、まだ生きている」
と思えるのだと思います。

だから、
そっと空を見上げてください。

どこにいても大丈夫です。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。
心の中で唱えながら、
空の折り目を探してみてください。

急がなくてもいい。
未完成のままでいい。

その空の下に、
きっと、
少し違ったあなたがいます。


西谷尚之(にしたに ひさゆき)

株式会社イーハトーヴ代表取締役/プラネタリウム映像作家・写真家 1964年神戸生まれ。

幼い日に見上げた夕焼けや星空、夜明けの光を原点に、空と宇宙の美しさ、そしてそれが人の心に及ぼす力を50年以上にわたり観察・撮影してきました。プラネタリウム番組の制作は約50本にのぼり、代表作『ゴッホが描いた星空』は全国25施設で上映。写真シリーズ「見たことのない空」では、オーロラ、彩雲、幻日、環天頂アーク、環水平アーク、グリーンフラッシュなど希少な光の現象を世界各地で記録しています。12年前、苦難のさなかに出会った環水平アークが心を支えた体験を節目に、科学と感性を結ぶ表現を深めてきました。誰の上にも広がる空を通して、見る人がほんとうの自分と自らを生かす本来の時間を取り戻す瞬間を届けることを使命としています。

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