脳みそしたたるイイ女

パンツを脱がない性行為の幅が広ければ広いほどよい

#連載エッセイ
#脳みそしたたるイイ女

キスやセックスだけが性行為の男はつまらない、と思う。

いや、つまらないと言っても別に友達には全然なれるけど、男として見るなら、彼氏やら夫というひと枠に選ぶ人材としては、私なら物足りない。

少し前に、「彼女と温泉旅行に行ったけど、温泉から上がって部屋に戻ったらそっと布団が離されていて、暗にセックスを拒絶され、それがすごくショックで、その後ゲームやらをしたけどずっと上の空だった」みたいな投稿が話題になっていたけど、こういう人ってまさにキスやセックスだけが性行為って思っているタイプなんだろうなーと感じてて、その視野の狭さは、性的にかなり青臭い。

パンツを脱がせることもなく仕掛けてくる夫

私が妊娠出産を経て、性欲がエグれた生き物となって、一筋縄ではよがらせることができなくなった頃から、夫はあの手この手で、私をよがらせに掛かってくるようになった。

たとえば、ぜんぜん飲食をする予定ではないタイミングで、とてつもなく魅惑的な食べ物を用意して、誘ってくる。

それで私が「今は仕事中だから食べないよ」とか「もう歯磨きをしたからいらない」とか「さっきご飯を食べたばっかりだから別に食べたくない」などと断ると、私の仕事場に座り込んで食べ始めて渾身の食レポをかましてきたり、匂いで誘えるような調理法を選び家中にいい匂いが漂うようにしたり、あの手この手で気を引いて、そうしてまんまと「やっぱちょっと食べる」となり、食べたら最後「何これうま!!」となり、食べる気がないところから一人前を平らげおかわりまでする私を見ながら、邪悪な顔で「俺は美咲ちゃんの理性が壊れてブヒブヒしてるところを見るのが好きなんだ。ハハハハ」などと言う。

とんだ変態だな、と思う。

大半の男性が、性技で女をよがらせた時にのみ感じてる感情を、夫はブヒブヒと食べてる私を見ることでも満たせる領域にいっている。私はこうこう時、この人は私のことをパンツを脱がせることもなく、でも全力でイカせにかかってきてる、と思う。

あの手この手で快楽を渡してくる夫

また最近は、私が深夜まで飲んで帰ってきた翌日、二日酔いやら寝不足で原稿を書けていない様子を察知すると(私は万全な体調でしか原稿を書けない、かなり軽症な二日酔いでも書けない)、嬉々として「よし、どうせ仕事にならないんだから、今日は俺とランニングに行くぞ」と言い出す。

初ランニングの日、私は出だしに早く走りすぎてすぐに気管支だか肺の辺りが痛くなってしまい、血反吐を吐きそうだと思いながら「ち、ち、ちへ」などと言った。

すると夫は「何、ち?ちが何?」と聞き返してきて、「ちへ…血反吐」と言うと「ちへど?」とよく分かっていない様子で、ランニングを終えた後に「血反吐を吐きそうって言ってたのよ!」と説明して「ああ、血反吐か」などと状況を把握してもらったのだけど、その日、血反吐を吐きそうになるほど自分を追い込んだことが効いたのか、途中から私の体には全身を恍惚へと導くホルモンが噴出されて(エンドルフィン)、それは背骨の辺りから広がって脚全体にも及び、途中から「なんか全身が気持ちいい!なんかちょっとムズかゆい感じで、それが気持ちいい!何これ!」などと、少し前を走っている夫に叫ぶと「ランナーズハイだ。ランニングは気持ちいいだろう」と、完全に、性行為で新記録を叩き出してる時の顔で言っていた。

出会った頃、というか、今でもそうだけど、夫は定期的に性行為で私に「なにこれ!!!」という感動や衝撃をもたらそうとしてくる人なのだけど、性行為以外でも、同じテンション感でそれを狙ってくる。

ベッドで潮を吹かせようとする男のテンションで、食卓で脳汁を出させようとしてくるし、運動で限界突破させてこようとする。あの手この手で快楽を渡そうとしてくる。そしてまんまと恍惚としている私を見るたび、「理性がぶっ壊れて快楽を貪ってる姿を見るのが好きだ」とほくそ笑んでいる。

今は、私の性欲がエグれているから、そんなハードな性行為はしないのだけど、新婚の頃に「コスモ」と呼んでいた夫独自のテクニックがあり、最終的に宇宙が見える境地にいくからそう呼んでいたのだけど、コスモを起こすために大事なのが「もう無理!ストップ」と言う私を決して逃さず、その先にあるコスモ地点まで特定の部位に刺激を重ねることだったのだけど、二度目のランニングに連れ出された日、夫は完全にコスモをする時の顔だった。

血反吐を吐いた翌週、またまた二日酔いで仕事を休んでいた私に、「今日は血反吐を吐かないタイムを測ってあげるから俺について走って。苦しくならないギリギリのスピードを俺が見極める」などと言い、またしても私をランニングに駆り出した。

スマートウォッチで細かくタイムを見ながら「このペースなら血反吐は吐かないはずだ」などと言い、結果まさかの7キロも走らされたのだけど、もうこの街に住んで2年半が経つけど行ったこともないところまで辿り着き、「この道、気持ちいいだろう」と取っておきの夜景を紹介するテンションで言い、川辺に佇む鳥を見つけたら「見て、白鷺」などと言ってきて、3キロ超えたあたりで「てか、これ何キロ走ろうとしてるの?!そろそろ無理なんですけど」と言うと、「止まるな!止まってはいけない!足だけは動かすんだ!」などと言いながら私の背中を押して走り出し、押されるとだいぶ楽にはなるんだけど、それでもそのうちまた限界が来たから、クルンと回って夫の手から外れて歩こうとしていると、今度は腰を抱くようにして私の上半身をロックして、半分抱えるようにして走り出し、私は持っていかれる上半身に合わせてただ足を回転させる生き物となり、「どういう状況よ!休憩したいわ!」などと言うと「限界を超えた先に、あの気持ちいいホルモンが出てくるんだから、とにかく走る!!遅くてもいいから走る!走るのをやめない!」と言いながら、最後の二キロは私のことを抱えて走っていて、帰宅後に「やべえ、抱えて走ったら体がおかしなことになった…」と言いながら倒れていた。

パンツは脱いでいないし、公然猥褻になるような事も当然してないけど、これが性行為じゃなかったらなんなのだろう、と思う。夫は私以外の女性を2キロも抱えて走る努力は絶対にしないだろうし、私自身が他の人とこれほどのコミュニケーションを取ったら、やはり不倫した気持ちになる。

ランナーズハイに導こうとする夫は、コスモを起こそうとしている時の夫とそっくりだった。限界突破した先にある快楽を私が掴むために全力で力添えしてくる感じ。一人だとつい逃げちゃって超えられない限界を「俺が超えさせてあげる」っていうスタンス。