仕事

共感と驚きを生む、評価されるアイデアのつくり方/いしかわかずや(@issikazu20)

#仕事

デザインコンペ受賞率9割越えのアイデアクリエイターが、普段行なっている発想法を完全伝授! アイデアが生まれる発想法、アイデアが生まれやすくなる環境、アイデア脳が鍛えられる習慣など、これらを実践すれば誰でも最強のアイデアマンになれます。

僕は日々、たくさんのアイデアを考えています。そのなかで、いいアイデアが生まれるのは、ベストなタイミングで、ベストな考え方がマッチしたときだということに気づきました。そこで今日は、アイデアを「いつ・どこで」、「どんなふうに」考えればいいのか、つまりアイデアを生み出すための環境と発想法についてお話ししたいと思います。

アイデアが劇的に生まれる環境

結論から言いますと、アイデアは自分がリラックスしているときに考えることが大切です。リラックスというのは、自分がいちばんぼーっとしている時間のこと。ランニング、お風呂、料理、なんでもかまいません。ぼーっとしている時間は、アイデアを考えることだけに頭を使えます。

逆に、リラックスできていない状態というのは、他のことに気を遣っている、つまりプレッシャーを感じている状態です。これでは、アイデアを考えることに本当の意味で集中することはできません。

たとえば、「2時間あげるので、アイデアを考えてください」と言われたとき。リラックスしていれば、2時間をフルにアイデアを考えることに使えます。一方、期日やタスクの確認、チームメンバーとの会話などに時間を取られるといったリラックスしていない状態だと、本当にアイデアを考えるのはものの20分程度でしょう。

他にも、無意識のうちに感じるプレッシャーというものはたくさんあります。
・「明日までにやらないと」と、期日に追われるなかで考える
・ワークショップなどで「残り20分」と時間に縛りがあるなかで考える
・「あいつはすごいな。なのに自分は全然ダメじゃん」と他人と比較して落ち込む
・すごいアイデアを生み出そうとして、それが自分に対するプレッシャーになる

リラックスできる環境を「アイデアを考える時間」にするには、「ながら発想」がおすすめです。ランニングしているとき、電車で移動しているとき、散歩しているときにアイデアを考える。そうすれば、24時間すべてを発想の時間に使うことができます。

とはいえ、仕事など、グループで考えなければいけないシーンも多いですよね。グループで考えるというのは、時間制限がある、人の会話を聞かなければならない、沈黙がプレッシャーになるなど、ストレスまみれの環境です。

おすすめなのは、みんなが集まってからアイデアを考えるのではなく、ひとりのときに考えたアイデアの種を持ち寄って、それをみんなで育てること。こうすると、話し合いが一気に活性化します。

アイデアが劇的に生まれる発想法

発想法の考え方には2つあリます。それは、手順(アプローチ)と手法(発想法)です。僕がよくダウジングとスコップにたとえるのですが、「どこを、どういうふうに考えていくか」が大切で、「どこを」を間違えると、いくらいい発想法でもしょぼいアイデアにしかなりません。どこにいいアイデアが埋まっているか、という最初の鉱脈探しが重要なのです。

幅広いアイデアを生み出すための2方向からのアプローチ

まずは手順(アプローチ)の話をします。
手順には、テーマから考える手順と、テーマから離れて考える手順があります。
「こういうテーマで考えて」と与えられたものに対して、そこから考えるやり方と、そこを忘れて関係ないものから考えるやり方です。テーマから考えると「なるほど」という共感を生みやすく、離れたところから考えると驚きや独自性が生まれます。この2つのアプローチを行うことで、アイデアに幅が生まれます。

たとえば、あるコンペで「OPEN」というテーマが与えられました。テーマから考えて、わかりやすく解釈して思いついたのが「ページをめくる」「使い道を広げる」。一方、テーマから離れて考えるときは、あえて身の周りの物事を取り上げます。吊り革、ビニール傘、旅行、郵便ポスト、箸……目に入ったものとテーマとかけ合わせてアイデアを考えるのです。

前者の「ページをめくる」から「ページをめくるのが楽しくなるアイデア」。後者の「身の周りのもの」のなかから「お米」。この2つをかけ合わせることで、ねばねばしたお米で本のページをめくる「コメクレル」という米粒の形をした両面テープのアイデアが生まれました。共感と驚きをうまく取り込めたアイデアといえるでしょう。

幅広いアイデアを生み出すためには、発想のスタート地点を変えることも大切です。人が考えなさそうな場所の発見ができれば、そのアイデアは誰ともかぶりません。映画を見るにも、あらかじめ空いている映画館を選べば、「混むから早めに行ったほうがいい?」「見やすい席はどこだ?」などを考える必要がなくなりますよね。

アイデアもこれと同じで、「場所選び」が重要です。多くの人が考えそうなところでたくさん考えるよりも、人があまり考えないところで少しだけ考えるというのが、最短時間でいいアイデアにたどり着く方程式です。

質の高いアイデアを生み出す「深堀り」と「客観」

ここまでは「幅広くアイデアを考える」ことをしてきましたが、次は「質の高いアイデアを考える」話です。これには、「深堀り」と「客観」の目線が必要です。

ブレストをする際、「拡散」はするけど、深堀りはしないケースが多いように思います。拡散をすると共感度は低くなっていきます。一方、深堀りをすると説得力が上がっていきます。なので、あまり広げすぎず、深く考えるといいアイデアが生まれます。

ブレストは、最初に出てくるキーワードが結局いちばん強いです。「えんぴつ」から思い浮かぶものとして、「木材」、「2B・2H」、「六角形」が出てきたら、それ以上広げず、ここから深堀りしていきます。「えんぴつはなんで木材なんだろう?」「なんでこういう表記が当たり前なんだろう?」「なんで六角形なんだろう?」。この先に、ありそうでなかったアイデアが生まれます。

そして、質の高いアイデアには客観性が欠かせません。アイデアが思いついたらメモをして、次の日に客観的な目線で見返してみましょう。そこで「全然大したことないじゃん」となることもありますが、この繰り返しが大切です。客観的に需要が発見できているアイデアじゃないと、いいアイデアとは言えません。見返すときは、自分で自分のアイデアを審査する感覚で見ること。

目指すべきアイデアの2つの絶対条件

このアプローチを踏まえた上で、目指すべきアイデアには2つの絶対条件があります。
みんなが共感する課題を解決しているか
→マイナスをプラスにするアイデア
既存の製品をさらに可愛く面白くしているか
→ゼロをプラスにするアイデア

このどちらかを満たしていないと、いいアイデアではありません。客観的目線で、みんなが納得するアイデアかどうかをジャッジする必要があります。

アイデアを生み出す2つの手法「見立てる」「ちょっとだけ変える」

次に、2つの手法についてお話しします。

①既存の要素と既存の要素を組み合わせる方法
これは、いわゆる「見立てるアイデア」ですね。たとえば、セロテープやハサミに動物を組み合わせることで、見た目だけで機能が説明できるようになり、コミュニケーションが早くなります。親しみや愛着が生まれやすくなるという効果もあります。

この「見立てるアイデア」を生み出す方法のひとつめは「課題解決型」。既存の製品の課題点、使いづらい点を見つけます。たとえば、ガムテープだったら「転がってしまう」、付箋なら「のりがどちら側に付いているかわかりづらいので、逆に書いてしまうことがある」。これに対する解決法を「転がらないように」「間違えて書かないように」と素直に考えた上で、何かに見立てることで解決できないか考えます。

付箋の「なんのために貼ったのかわからなくなる」という課題と、「勉強をやらない」という別の問題をかけ合わせ、「付箋で焦らせる」というアイデアから生まれたのが、『課題炎上付箋』です。

「見立てるアイデア」のいいところは、かわいいだけでなく、課題も解決しているので、そのギャップに驚きがあります。

「見立てるアイデア」の生み出す2つめの考え方は、「もっと便利に、可愛く」。まずは、形、色、匂い、動きなど、既存の製品の物理的な特徴を書き出します。そして、その特徴が当てはまる他事象に見立てるのです。

たとえば、人気の「富士山消しゴム」は、使っていくうちに山なりになっていく消しゴムを富士山に見立てています。僕のアイデアでいうと、先ほども話した「コメクレル」は、両面テープの「両面でくっつく」という物理的な特徴を、他事象の「お米」に見立てたもの。

こうした見立てるアイデアは、ゲーム感覚で考えられるのがいいところですね。昔「マジカルバナナ」というゲームが流行りましたが、「バナナと言ったら黄色、黄色と言ったらひよこ……」と、途中で出てきたキーワード同士を組み合わせれば、それがアイデアになります。

②既存の製品をちょっとだけ変える方法
手法の2つめは、既存の製品をちょっとだけ変えること。これは、ありそうでないものが生まれる最短の考え方です。「それをこれに変えるだけで課題が解決したの?」と驚きを与えるアイデアが生まれ、「ちょっと変える」だけなのでコスパがよく、実現性も高いです。

例としては、
・ガムテープの形を四角にしたら、転がらなくなり、長さもわかるようになった
・蚊取り線香の渦巻きの先を数字の形に変えて、燃焼時間がわかるようにした
・印鑑を手書きサインにして、世界にひとつの印鑑を実現

こうした「ちょっと変えただけなのにすごくよくなった」アイデアは、どこに出しても高く評価されます。というのも、アイデアは「コスパ」を見られるので、「ここまで変える必要ないんじゃない?」というのはNG。「こんなに大きな問題が、これだけの変化で解決するの?」というのが評価されます

「ちょっと変えるアイデア」の考え方も、「見立てるアイデア」と同じです。まずは「課題解決型」。既存の製品の課題点、使いづらい点を書き出して、形、匂い、色、素材など「ちょっとだけ変える」ことで解決できないか考えます。

先ほど例に挙げたガムテープであれば、「転がっちゃう」「等間隔に切れない」という課題に対して、「形を四角にする」とちょっとだけ変える。蚊取り線香は、「持続時間がわからない」「最後まで使い切らない」という課題に対して、「形を数字に変える」ことで、用途に合った時間を買えばいいという解決策が生まれました。

2つめの「もっと便利に、かわいく」は、既存の製品の使用シーンを書き出して、「もっとこうなればなぁ」を考えます。

四隅で光っている画鋲をひし形にすれば、掲示物がもっとキラキラ光ってるように見えるんじゃないか。ビニール傘を、どんな年代のどの性別の人も使いやすくするために、取っ手を杖や剣の形に変えたらどうだろう……。

すべてのアイデアは、現在の「ちょっと先」にある

世の中には、「ちょっと変えたこと」で生まれた価値であふれています。たとえば、お皿は仕切りをつければプレートになり、深くすればどんぶり、小さくすれば小鉢、さらに小さくすればおちょこになります。ベースがあって、「ちょっと変えるだけ」の連鎖が、便利なアイテムを生み出し、世の中がさらに便利になっていく。いつの時代も、受け入れられるアイデアは、現在よりも「ちょっと先」にあるのです。

アイデア脳が鍛えられる習慣術

考えようとしなくても勝手にアイデアが溢れてくる状態、つまり「アイデア脳」に進化するための3つの習慣をお伝えします。

①リラックスできる環境をつくる

先ほどお話しした「ながら発想」がおすすめです。

②既存のモノ(当たり前)を疑う

「郵便ポストって赤じゃなきゃいけないのか?」「付箋は四角い必要があるのか?」「ジップロック使いづらくないか?」など、すべてのものは完成していないと思い込みましょう。そこからアイデアは生まれます。

③既存のモノを少し変えてみる

既存のものを「もっと便利に」「もっと使いやすく」「もっと面白く」、少しアップデートしましょう。具体的には、色や形、素材を変えます。例としては、
・定規の長さをポストの投函口の長さにする
・駄菓子屋で売っている動物ヨーチの形を都道府県の形にする

この3つの習慣が身につくと、日常にあるすべてのものが題材に変わるので、アイデアが無限に生まれます。おすすめは、ロフトや東急ハンズに行くこと。物がたくさん置いてあるところに行って刺激を受けましょう。ガチャガチャコーナーもおすすめです。

評価されるにはアイデアだけじゃない

評価されるには、アイデア以外にも考えなければいけないことがあります。
評価されるのに必要なのは、「調査8:閃き2」。つまり、事前の調査が重要なのです。

①企画募集の「開催目的」とテーマの「設定理由」を考えよう

「なんで今この企画が求められているのか」という部分ですね。たとえば、3大文具コンペは開催コンセプトがそれぞれ異なります。当然、ウケるアイデアも異なるので、それぞれに響くものを考える必要があります。

そして、コンペのテーマを決める会議での会話を想像してみましょう。そうすることで、主催者が求めているアイデアを一発で出せるようになります。なぜこの企画が始まったのか、なぜこの商品がお題なのかを考えれば、的を外すようなアイデアは出なくなるはずです。

②アイデアの「評価者」を考えよう

アイデアを評価するのはいつでも「人」です。好みや価値観で評価されることが多く、いくらSNSでバズっても、評価者が「好みじゃないな」と言えば終わり。だから、評価者の好みや考え、評価者が想像するターゲット像や課題を読み取ることが大切です。

③「見せ方」をわかりやすくする

そして、アイデアは大事ですが、見せ方をわかりやすくすることはもっと大事です。コンペでひとりあたりの作品を見る時間はせいぜい5秒から10秒程度。だから、企画書全体で理解してもらうのではなく、タイトルとメイン画像だけ見て5秒でわかってもらうことを意識しましょう。

印象のいいレイアウトというのは、どこから見ればいいかわかります。メリハリをつけて、少ない要素で構成するようにしましょう。そして、タイトルは、アイデアを端的に伝えるためのフレーズにすること。これらを考えれば、ほぼほぼ100%相手の心を掴むことができます。

「あれ? アイデアを生み出すのって意外と簡単かもしれない」と感じてもらえたでしょうか。頭で考えられるようになると、自転車に乗るような感覚でどんどんアイデアを生みだすことができるようになります。ここでお伝えした習慣を、ぜひ隙間の時間でやってみてください。

(画像提供:iStock.com/3DSculptor )


いしかわかずや |アイデアクリエイター

SNS総フォロアー13万人のアイデアクリエイター。
大手IT企業に勤めながら、斬新なアイデアやアイデアが生まれるまでの流れをSNSで発信している。デザインコンペ受賞率9割越え。2023年1月に発想本を2冊出版し、アイデアクリエイターを育てるためのオンラインコミュニティを開設

デザインコンペ受賞実績(一部)
・第24回サンスター文房具アイデアコンテスト 審査員特別賞
・第25回サンスター文房具アイデアコンテスト グランプリ
・コクヨデザインアワード 2020 ファイナリスト
・12th SHACHIHATA New Product Design Competition 準グランプリ
・13th SHACHIHATA New Product Design Competition 準グランプリ
・14th SHACHIHATA New Product Design Competition 原研哉賞

★ 著書「ありそうでなかったアイデアのつくり方」
http://amazon.co.jp/dp/4295407909

★ 著書「なんとかするアイデア」
http://amazon.co.jp/dp/4048975013