慎重になりすぎた俺は、今までやらなかった「1ペア飼育」ってやつを始めた。
小さい容器でオス一匹とメス一匹をペアリング。これが、絆を育むには最高だって聞いたんだよ。朝昼晩、挨拶してエサあげて、「今日も産んでくれよ~」なんて声かけたりしてよ。
でも今年、雨が来ねぇ。
梅雨がブッチ。太陽が本気出してきて、いきなり気温がドーム満員の熱狂レベル。
炎天下デスマッチ。
結果?
親魚、煮えました。
いやもう、笑えねぇよ。
容器見たらさ、湯豆腐みたいになってて。こっちは震えたね。
最強ペアのつもりが、おでんセットだよ。
慎重にいけばいくほど、空回る。メダカ育成、完全に逆転負け。
残ったのは…そう、稚魚だけ。元気だよ。小さいけどな。
秋の大会?無理だよ無理。サイズが足りないんだ。出場資格ゼロ。
もうさ、これ書いてる今も思うよ。
「俺の1年、何だったんだ?」
だけどな――俺は降りねぇ。
来年の春、この稚魚たちを育てて、栄光を獲りに行く。
これは、メダカ道を歩むサラリーマンのリアルだ。
次の相手は、自分自身の慢心。
──以上、真実だ。
これは全部、サンクチュアリ出版の屋上で起こっていることだよ。




山口慶一 サンクチュアリ出版広報部イベントチーム。 本好きが高じて書店に10年間勤めたのち、サンクチュアリ出版へ転職。 営業部→広報部メダカ係。 メダカ飼育歴3年、3度の飯よりメダカが好き。 好きな言葉は「これでいいのだ」
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