『何をするにもやる気がでないので 30秒でモチベーションを上げる方法を教えてください…』は、著者の吉本ユータヌキさんが、モチベーションのすごい人に自ら取材、実践をしたルポ形式の実用書。
この本を書くまでは、焦りばかり募って動けなかったり、逆に無理をしすぎたりということもあったといいます。
そんな吉本さんの、著者としてのモチベーションへの向き合い方や、出版に至る経緯などをおうかがいしました。
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目次
「ルポ形式」だからこそのこだわり
編集 鶴田
ルポ形式のモチベーションの本というめずらしい本ですが、吉本さんのこだわりをたくさん詰めていただいていると思います。特にこだわった部分はありますか?
実際にやってみた「リアルな感想」ですかね。80コンテンツありますが、全部が全部、誰にでも100%の効果があるわけではないと思うんです。実際僕にとっても、10の効果のものもあれば、100の効果があるものもある、という感じでした。でも、自分には合わなかったけど、これ合う人いるんじゃないかなと思ったものもあるので、1から100のグラデーションある描き方をしたというところがこだわった部分。
吉本
編集 鶴田
たしかに他のモチベーションの本にはないですよね。
そうですね。実用コミックって方法を聞いて、それを漫画にするものだと思うんです。でも、ただ方法を書くだけじゃなくて、本当にちゃんとリアルで試した感想を書きたかった。そこはほかの本とはちょっと違う部分だと意識しましたね。
吉本
編集 鶴田
自分には100は効かないけど、こう使えば効果あるかもしれないよとか、提案してくれるルポタイプの本ってないですよね。本のレビューでもそこを褒めてくださっている人いましたね。
「専門家の人が言うから効果あるだろう」って思って読む人なら、たぶんその専門家の方々の著書を読んだほうがいいと思うんですよ。なので、この本はただの寄せ集めにはしたくなかったんです。
吉本
編集 鶴田
たしかにレビューを見ていても、自分はこの人の考えが合ったとか、この考えが良かったとか、けっこう人によってばらつきがあって、そこがむしろいい本だなと思いました。
たどり着いた原稿につぶされないやる気術
編集 鶴田
吉本さんはこの本の制作をとおして何か変わりましたか?
これまでは忙しくて切羽詰まったり、今までやったことないことに挑戦してみるみたいな場面になると、モチベーションのギアをいきなり強いのにしちゃうところがあったと思います。けどこの本でいろいろな人の方法を聞いているうちに、そこのギアの、段階のコントロールがうまくなったんじゃないかなと思います。
吉本
編集 鶴田
つぶれないモチベーションの出し方みたいな。
そうですね。前まで5段階だったのが10段階になったみたいな。細かい調整ができるので、必要以上にがんばらなくてよくなった、という感じですかね。
吉本
編集 鶴田
たしかに……。制作中、印象的だったのが、吉本さんの働き方でした。けっこう無理しすぎちゃう著者さんとかもいると思うんです。でも吉本さんは、もちろん子育てとかあるから休まざるを得ないということとかもあると思うんですけども、土日はしっかり休む時間に充てていらっしゃいましたよね。
そうですね。でも昔は、休みは取っていても、結局ごはん食べながらでも進めるみたいなことをして、無理しがちで、よくなかったなーと思ったんで改善しました。
吉本
編集 鶴田
それはやらなきゃいけないという思いから?
そうですね。休んでいる場合じゃないと思っちゃうみたいな。
吉本
編集 鶴田
それはマンガ描きはじめるのが20代後半と遅かったからとか、そういうところからくる強迫観念みたいな感じでしょうか?
どっちかというと、自分の中の評価基準の問題かもしれません。けっこう極端だと思うんですけど、たとえば漫画を描いて発表しなければそもそも読んでもらえなくて、何も始まらない。何日もこの漫画出せてない自分はダメだみたいな評価基準になっちゃうみたいなのはけっこうありました。
たとえば、同じページを何回もやり直すみたいなことって、厳密にいえば、そこを何回も磨いて、作品としては良くなっているかもしれないんですけど、結局世に出ていないので同じだなということとか、進めている気がしないという焦りとかっていうのがあったり。
SNSを見ると次々作品を発表していっているという人がいるので、余計焦りましたね。
たとえば、同じページを何回もやり直すみたいなことって、厳密にいえば、そこを何回も磨いて、作品としては良くなっているかもしれないんですけど、結局世に出ていないので同じだなということとか、進めている気がしないという焦りとかっていうのがあったり。
SNSを見ると次々作品を発表していっているという人がいるので、余計焦りましたね。
吉本
やる気に悩む漫画家が、本を書き上げるまで
編集 鶴田
ところで、「やる気がわからない」と言っている吉本さんが、なんでこの本を描き上げられたのかという疑問もあると思います。それはやっぱり「本当か?」と疑いながら、実験していったところが大きかったのでしょうか。
そうですね。今までネットで調べたり、なんとか術みたいな本を読んでも、読んだだけで、実行してないことばっかりだったんだろうなって思います。けど、今回仕事でということとかがあったおかげで全部1回はやってみようとなりました。そしてやってみたら、これってなんか自分が思っていた以上に効果があるものなんだなとなったんです。
吉本
編集 鶴田
正直面倒くさいですもんね、多くのモチベーションの本は。こういう手順を取って次はこうしてみたいな。
そうですね。大谷翔平選手がやっていたことで有名なマンダラチャートとかあるじゃないですか。これは何回挑んだことか……。けど、全部のマスが埋まらなくて。人に「これがいいよ」といわれたりとか、テレビでこれがあったから大谷翔平選手は夢を叶えられたみたいなことを見ると、やってみようかなと思うんですけど、本当に埋まらないし、2、3日したらマンダラチャートつくったこと自体忘れちゃうみたいな。
吉本
編集 鶴田
吉本さんも、そういう失敗はあったんですね(笑)。
めっちゃありますよ。ほかにも、毎日のTo Doを書くスプレッドシートをつくって、毎日チェックしていこうとしたこともありましたけど、つくりきるまでに心折れちゃうみたいな。
吉本
編集 鶴田
けっこうたいへんなTo Doのつくり方をしようとしていましたね、そのときは。
たぶん不慣れなことをしたり、正解がわからなかったから難しかったのかも。逆に今回は30秒でいいといわれたらまあこれでいんだろうって、ある意味許せたり、妥協できる部分もあるし、それでうまくいかなかったって、まあ30秒やしなと思える。
この本のいいところって、30秒というところだと思っていて。本を出しているような方に取材をしたという形式上、調べたら簡単に出てくる方法も多いと思うんですよ。でも何が目新しいかというと、たぶんみんな見たことはあるけど、それが30秒というコンパクトさになっているということだと思います。挑戦しやすくなってるし、とりあえずだまされたと思ってやってみれるはずです。
この本のいいところって、30秒というところだと思っていて。本を出しているような方に取材をしたという形式上、調べたら簡単に出てくる方法も多いと思うんですよ。でも何が目新しいかというと、たぶんみんな見たことはあるけど、それが30秒というコンパクトさになっているということだと思います。挑戦しやすくなってるし、とりあえずだまされたと思ってやってみれるはずです。
吉本
編集 鶴田
気楽に読めるというレビューを書いてくれている人もいましたね。
そのために、やっぱり情報のバランスには苦労しましたよね。最初は説得力があったほうがいいかと思って説明的でしたけど、でもそれはこの本じゃないなって思うようになって。説得力ももちろん大事ですけど、というよりかは、僕がどう感じたかみたいなことのほうが、この本にとっては重要かなと、途中から気づいていったりしたので。
この本って開いたときに情報の圧が多いと読みにくくなっちゃうというか、しんどくなっちゃう本だと思うんですけど、それが減らせたのはけっこう大きいかなと思います。
この本って開いたときに情報の圧が多いと読みにくくなっちゃうというか、しんどくなっちゃう本だと思うんですけど、それが減らせたのはけっこう大きいかなと思います。
吉本
編集 鶴田
今も毎日やられたりしていますか、30秒で。
やってますよ。To Doつくってますし、ゲームは毎朝10分やってます、30秒じゃないですけど。散歩もやってますし。鈴木先生(7章)の話を聞いて、散歩中もちょっと上を見るようになったりとか。
あとは、僕今まで、フリーランスなので平日は全部働こう、毎日8時間は働こうと思っていたんです。でも川崎さん(8章)の「休んでいいんだよ」とかっていう話を聞いて、よくよく考えたら、会社員って有休あるよなって思い出して。なので、自分も有休のつもりというか、平日でも半日くらいリフレッシュできるように温泉行ってみるとか、ちょっとごはん食べに行くみたいなことをしてもいいかなと思えるようになったので、2、3週間に1回午前休を自分の中で取ったりするようになりましたね。
あとは、僕今まで、フリーランスなので平日は全部働こう、毎日8時間は働こうと思っていたんです。でも川崎さん(8章)の「休んでいいんだよ」とかっていう話を聞いて、よくよく考えたら、会社員って有休あるよなって思い出して。なので、自分も有休のつもりというか、平日でも半日くらいリフレッシュできるように温泉行ってみるとか、ちょっとごはん食べに行くみたいなことをしてもいいかなと思えるようになったので、2、3週間に1回午前休を自分の中で取ったりするようになりましたね。
吉本
好きなことを続けていくためには、本を出す
編集 鶴田
さてここから、吉本さんがどうやって著者になっていったのかをお聞きできればと思うんですけど、そもそも小さい頃から本って読んでいましたか? というか、本を書くようになると思っていましたか?
いやいや、思ってないです。思ってなかったですし、元々全然本を読まないんですよ。野球漫画しか読んでこなかったんで。でも20代の中盤くらいで音楽をやめて、社会に置いていかれているなと感じて落ち込んだタイミングで、めっちゃ自己啓発本にはまった時期があって。
吉本
編集 鶴田
そこで初めて本を……。
そうですね。たぶんその時期はすることもなくて、めっちゃ暇やったんですよ。会社行って帰って、自己啓発本読んで、酒飲んで、寝るみたいな、どないやねんみたいな生活だったんですけど。でも、そこからブログとかを書きはじめて、なんとなく憧れを持ったんですよ。『夢をかなえるゾウ』みたいな本をつくりたいとか。なのでそんな本を出したい憧れがあったかというと、音楽をやってたときにCDを出すことにすごい憧れがあって。結局音楽をやってたときに全国流通できたのは1回だけだったんです。
吉本
編集 鶴田
けっこうハードル高いものなんですね。
最初の出版のお話が出たのは、描きはじめて何年後くらいのことだったんですか?
編集 鶴田
それが2013年に描き始めて、2017年に初めて本を出してるんですよ。なので、4年くらいですかね。
吉本
編集 鶴田
その間は、たしか働きながら描いていたという、兼業漫画家をやっていた時期でしたよね。
そうです。けど、自分が漫画の仕事をするとか、イラストを描いて仕事をするということ自体信じられなかったですし、そうなるとも思ってなかったので。仕事一つ一つが、ええ?なんでこんな依頼もらえるんやろうと思いながらやってましたし、実際それが本になるといわれたときに、すごくうれしい気持ちはありつつ、ほんまに本出せるんやみたいな、という驚きの方が大きかったですかね。
吉本
「どうしたら読まれるか」を常に考える
編集 鶴田
今振り返って、本を出せるようになった秘訣ってなんだと思いますか?
秘訣はわからないですけど、たとえば「どうやったら読まれるだろう」みたいなことは常に考えて、一つ一つ試していました。
元々文章のブログを書いていたところから、どうしたらこのブログがアクセス数増えるだろうと考えて、挿絵を入れる。ブログサービス内の人気ブログを読み漁って、漫画の方が伸びるかもしれないと思って、漫画に移る。数多くいる漫画家の中でもどうやったら僕のことを覚えてもらえるだろうみたいなことから、自分のキャラクターをタヌキにしたり、主線の色をみんな黒で描いていたところをちょっと青にしてみたりとか。その次はどういう漫画だったら唯一無二になれるだろうと思って、お父さん目線の育児漫画をやってみたり。その当時はほかにいなかったんです、描いてる人。
こんな感じで、人とは違うというか、どうやったら抜け出せるだろうみたいなことはずっと考え続けてきてはいます。
元々文章のブログを書いていたところから、どうしたらこのブログがアクセス数増えるだろうと考えて、挿絵を入れる。ブログサービス内の人気ブログを読み漁って、漫画の方が伸びるかもしれないと思って、漫画に移る。数多くいる漫画家の中でもどうやったら僕のことを覚えてもらえるだろうみたいなことから、自分のキャラクターをタヌキにしたり、主線の色をみんな黒で描いていたところをちょっと青にしてみたりとか。その次はどういう漫画だったら唯一無二になれるだろうと思って、お父さん目線の育児漫画をやってみたり。その当時はほかにいなかったんです、描いてる人。
こんな感じで、人とは違うというか、どうやったら抜け出せるだろうみたいなことはずっと考え続けてきてはいます。
吉本
編集 鶴田
今と共通して、やっぱり「実験が好き」というか、繰り返していらっしゃるところがあるような気がしますね。
この話、鶴田さんにしましたっけ。なんでここまでやってこれたかって、振り返ってみたんですよ、最近。たぶん、いつか漫画家として大成したいみたいな夢を持っている人や、本を出したいって小さなときから夢を掲げている人は、その夢と今の自分との距離とか、どれくらい夢がかなっているとか、なんとなく客観視できると思うんです。今はまだ連載も持ってないからまだまだだなと思ったりとか、連載がもう3年も続いたからそろそろこういうお仕事をもらえるかもしれないとか。
けど、僕、そもそも漫画家になるつもりでもなくここまできたというところがあるんです。だからその時々に「これ良さそう」と思ったのに飛びついていくことしかやってこなかった。行きたい方向もないから、とりあえず目先のものを追いかけてきただけみたいな感じです。なので、とりあえず今よりなんかこれ良さそうと思ったものを試してみるしかすることがなかったというのに近いかもしれないですね。
けど、僕、そもそも漫画家になるつもりでもなくここまできたというところがあるんです。だからその時々に「これ良さそう」と思ったのに飛びついていくことしかやってこなかった。行きたい方向もないから、とりあえず目先のものを追いかけてきただけみたいな感じです。なので、とりあえず今よりなんかこれ良さそうと思ったものを試してみるしかすることがなかったというのに近いかもしれないですね。
吉本
編集 鶴田
普通の人は目先のものに飛びつくことに恐怖を感じそうだなと思うんですけど、吉本さんはあまり怖がらずに?
いや、でもやっぱり変化みたいなことは怖かったです。たとえばずっと何年も描いていた育児漫画をやめるということとかは、やっぱ大きな決断はありました。
吉本
編集 鶴田
でもその恐怖よりもやっぱりメリットとかやってみたいという思いも強かったから踏み込めた?
そうですね。あまり良くはないかもしれないんですけど、そうしないと続けていけないかもと思ったりとか、そのままずっと同じことをし続けても仕事増えないだろうなとか、飽きられちゃうだろうなみたいなこととか、ある意味強迫観念のようなものがあったので、とりあえず一つずつ新しくアップデートしていかないとやっていけないとは思いながらやっていたと思います。
吉本
編集 鶴田
最後に、今後の目標や、やってみたいことをお聞かせください。
書籍の中のコラムでも書いたんですけど、ストレングスファインダーという、自分の才能の資質の上位がなんなのかっていう診断から、僕は他人の成長を支援するのが向いてるってことがわかったんです。
実際に会社員時代も後輩がメキメキ仕事を覚えていったり、それをサポートしてるときが1番楽しかったし、嬉しかったんです。
自分は漫画家としての技術・実力はすごい低いと思ってるんです。でも、12年続けてこれたんです。だからこそ技術とか実力を兼ね備えてる方々とは違う考え方や経験を積み重ねてこれたと思っています。
そんな知見を活かして、これからがんばっていきたいと思ってる創作者の方のサポートをしていきたいと思っています。壁打ちの相手になったり、編集者的な立場になったり。
また、それと並行しながら、今の活動を続けて、ちょっと人の役に立てるような作品を作っていけたらと思っています。
と言いながらも、1年後にはまったく違うこと言ってるかもしれないんですけどね。
実際に会社員時代も後輩がメキメキ仕事を覚えていったり、それをサポートしてるときが1番楽しかったし、嬉しかったんです。
自分は漫画家としての技術・実力はすごい低いと思ってるんです。でも、12年続けてこれたんです。だからこそ技術とか実力を兼ね備えてる方々とは違う考え方や経験を積み重ねてこれたと思っています。
そんな知見を活かして、これからがんばっていきたいと思ってる創作者の方のサポートをしていきたいと思っています。壁打ちの相手になったり、編集者的な立場になったり。
また、それと並行しながら、今の活動を続けて、ちょっと人の役に立てるような作品を作っていけたらと思っています。
と言いながらも、1年後にはまったく違うこと言ってるかもしれないんですけどね。
吉本
吉本ユータヌキ 漫画家、イラストレーター。1986年大阪生まれ。2020年に「漫画家やめたい」と落ち込んでいたタイミングでコーチングと出会い、雑談を繰り返すうちに「他人の期待に応えるために漫画を描くことに苦しみを感じていた」と気づく。1年かけて「自分の描きたいことを描く」へと少しずつ変化し、それ以降「気にしすぎ」な人が少しでも気楽に生きられるヒントになる作品をつくりたいと思っている。著書に『あした死のうと思ってたのに』(扶桑社)、『「気にしすぎな人クラブ」へようこそ』(SDP)がある。 X(旧Twitter):@horahareta13
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