ライフスタイル

犬は本当に自分を守ってくれる人かどうかを確かめたい

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可愛がっていた犬に突然噛みつかれた!ショックな出来事ですが、実はその行動、犬が人間を試しているのかもしれません。
犬と人との感動ストーリーを20話収録した書籍「犬が伝えたかったこと」より、第9話「グッチ」のお話をご紹介します。

君が好きだから~6歳の柴犬(♀)と出会った45歳男性より~

中学2年の時、通学路の途中にある同級生の家にいた柴犬グッチの話です。
グッチは朝から晩までよく吠える近所迷惑な犬でした。家族以外の人なら誰に対しても大きな声で吠えかかるので、宅配のお兄さんをはじめ、家の前を通る人みんなから怖がられていました。あまりにも激しく吠えるので「変な病気を持っているんじゃないか」なんていう悪い噂もされていたほどです。
ある日、学校帰りにふと見ると同級生の家の門が少し開いていました。猛犬注意というステッカーが貼られ、いつも隙間からグッチが鋭い歯をのぞかせていた門。家の人は留守にしているようです。
ふと気になってグッチに近づいてみると、やっぱり激しく吠えられました。うかつに手を出したら噛まれそうな勢いです。「しー」と言っても、全然吠えるのをやめません。
ところがしばらく吠えっぱなしにさせていたら、だんだんと声が小さくなっていきました。もう少しだけ近づいてみると、今度はうなり声だけになりました。そして手が届く距離まで近づくと、急に静かになりました。さらに勇気を出して背中をなでてみると、グッチは完全におとなしくなりました。
目を見ると、甘えたそうな目つきです。その瞬間に僕は確信しました。
グッチは怒って吠えていたんじゃなくて、ずっと寂しくて、かまってほしくて吠えていたのだと。
その事実に、僕だけが気づいたのかもしれない。そう思ったら興奮が止まらなくなって、それから1時間ぐらいずっとグッチを触っていました。

思った通り、その日以来グッチは僕にだけは吠えなくなります。
学校の帰りに立ち寄れば、まるで一日ずっと待っていたような顔で、しっぽを振って迎えてくれました。
同級生のお母さんは「うちの家族にも、そんな風になついたことないわよ。すごいね」とほめてくれました。
僕はますます誇らしい気持ちになり、毎日欠かさずグッチと遊んでから帰るようになりました。
そしてグッチと仲良くなってから、1ヵ月ほど経った頃だと思います。
いつものように、学校帰りにグッチをかわいがっていると、その日のグッチはいつもに増して甘え方が激しく、体全体で喜びを表現しようとしていました。
どうしたの? よしよし。僕も嬉しくなって、いつも以上にゴシゴシ触ってあげていると、いきなり手に鋭い痛みが。
いててててて! グッチが僕の手を噛んだのです。同級生のお母さんがあわてて家から飛び出してきました。なにがグッチの気にさわったんだろう。僕は血だらけの手をおさえながら呆然としていました。僕にだけはずっと怒らなかったのに。触り方が下手だったのかな。たまたま機嫌が悪かったのかな。同級生のお母さんがすぐに傷の手当てをしてくれました。病院でも治療を受けたので傷は早く治りましたが、グッチに噛まれたショックはしばらく尾を引きました。

そのことがあってから、なんとなく友だちの家には寄りづらくなりました。学年もちょ
うど3年になり高校の受験も控えたこともあり、同級生の家の前を通ってもまっすぐ家に
帰る日が多くなりました。
家の前を通ってもグッチはあいかわらず僕にだけは吠えず、門の奥から寂しげな目で
こちらの様子を見ていましたが、僕はだんだん目を合わせるのも辛くなってきて、その
うち違う道を通って帰るようになりました。
僕とグッチとの交流は、その時点でおしまいとなります。

そんなことがあってから、もう何十年と経ちました。
そして最近、犬に詳しい人からこんなことを聞いたのです。
「犬は最も頼りにしている人に対して、本当に自分を守ってくれる人かどうかを確かめることがある」
その話を聞いた瞬間、忘れかけていたグッチとの思い出が一気によみがえりました。
と同時に、グッチが僕を噛んだのは脅かしではなく、嫌だったのでもなく、ただ単に僕のことを、心から信頼したがっていたんだと気づいてしまったのです。
どうしてわかってあげられなかったんだろう。今では申し訳ない気持ちでいっぱいです。

ただ今では、グッチの顔を時々思い出すようにしています。
それは僕にだけ甘えてくれていた時の、おっとりとした優しい顔です。
「犬は死んだら、虹の橋を渡って天国に行く」と言いますが、グッチも虹の橋の向こうで、ずっとそんな顔をしてくれていたらいいなと思います。

信頼したいから、傷つけてしまうこともある。

 

 

(著者・ドッグライフカウンセラー 三浦健太さん解説)

犬は群れを作る動物です。そして群れの仲間は、基本的に私たち人間の家族です。
群れはリーダーを筆頭としたタテ一列の順位で構成され、その順位が確定するまで、犬はずっと「リーダは誰?」「誰に従えばいい?」「生きる術は誰から教わればいい?」を考え続けます。

人間の場合は、家庭という最小の群れの中でも、会社でも、学校でも、ひとりひとりの価値観は変わります。
したがって、喜怒哀楽の感情は別々ですし、自分の行動の決定権も自分にあります。
ところが犬の場合は、群れの価値観が「同化」するので、喜怒哀楽の感情も同化します。
そして自分の行動の決定権は、上位のものが持つことになるのです。

こんな風に自分の一生にかかわることなので、犬のリーダー選びは非常に慎重です。
犬は幼犬期からいろいろなことを試しはじめ、時には3歳くらいまで試していることがあります。
たとえば散歩中に飼い主の行く方向と反対に引っ張ってみたり、いつも食べているものを突然嫌がってみたりといった行動がそうです。飼い主の手を噛んでみることもあります。
その時の飼い主の反応や行動を見て、犬は「この人についていっても大丈夫か?」を判断するのです。

ではどうすれば、犬からリーダーと認めてもらえるのでしょうか。
犬がリーダーを選ぶポイントは主にふたつ。
ひとつは「自分を外敵から守ってくれる力があるかどうか?」です。
リーダーの力が弱いと群れが崩壊してしまうからですが、犬の世界でいうところの〝守れる力〟とは格闘力ではなく、精神力のことをさします。つまり「絶対に守ってやる」という強い意志を持ってくれているかどうかが、犬にとっては重要なのです。
もうひとつは「自分のことを大切に思ってくれているかどうか?」です。
おいしい食べ物をくれたり、体をやさしくなでてくれたり、笑顔で名前を呼んでくれたりするのも愛情かもしれません。しかし、犬はそれだけでは満足に愛されているとは認識できません。
犬にとっては「自分の将来のために心を鬼にしてしっかり叱ってくれる」という愛情も必要
なのです。
つまり表面だけではなく、心の底から愛情を伝えられる人間だけが、犬のリーダーになれるのです。

(画像提供:iStock.com/Anna_Pakutina)


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