動物オタク漫画家と上野動物園元園長が夢の動物談義!/メセグリン×小宮輝之

動物が好きすぎる漫画家・メセグリンさんのデビュー作『もしもキリンと恋に落ちたら デートでわかる どうぶつ図鑑』。その監修を務めた上野動物園元園長・小宮輝之さんと、このたび夢の対談が実現! おすすめの動物園や、今いちばん見てみたい動物とは?

動物の生態がまるわかり! いい飼育展示の例

多摩動物公園、上野動物園、井の頭自然文化園を経て、2004年〜2011年まで上野動物園の園長を務めていた小宮さん。この道40年の大ベテランで、動物に関する著書や論文も多く、まさに動物のエキスパート! 幼い頃から動物が大好きなメセグリンさんは、そんな小宮さんに聞きたいことがあったそう。

メセグリン
これまで多くの動物の飼育や展示をされてきた小宮先生から見て、すごいと思った動物の展示方法はありますか?

小宮輝之(以下:小宮)
今はいろんな動物園がオリジナルの展示に力を入れているけど、いい展示をするならやっぱり野生を見ていないとダメだよね。日本は土地が狭いから、アメリカの動物園でやっていることをそのまま持ってきてもミニチュアになってしまう。

以前、上野動物園で行なったカナダヤマアラシの新展示は、ニューヨークの子ども動物園で5mくらいの丸太の上に展示されていたカナダヤマアラシをヒントにしつつ日本に合わせてアレンジしたもの。東園と西園をつなぐループ状の橋の真ん中に植えてあった高さ15m以上のケヤキをそのまま展示場にして、木の上にのぼったヤマアラシを橋から眺められるようにしたんです。真似をしても規模を拡大すれば、真似には見えないんですね。自然の中のヤマアラシをトゲ1本1本が見えるくらいに間近に見られる。ユニークな展示にできたなと思います。

宇都宮動物園のキリンもおもしろいよね。餌やりができるから、顔や舌を近くで見られるでしょう。子どもたちも嬉しそうだし、市民の憩いの場になっていて、そういう動物園はいいなと思います。実際に客足も伸びているそうですよ。来場者の餌やりはよくないという話もあるけど、管理さえきちんとすれば問題ないし、宇都宮のキリンの繁殖成績はトップクラスなんです。

メセグリン
動物園といえば「檻の中で飼う」「餌はあげちゃダメ」という固定観念がありましたが、必ずしもそうではないことがよくわかります。上野動物園では、ナマケモノを自由に過ごさせた展示も話題になりましたよね? お客さんの頭上の木を渡ったり。

小宮
それまではゴリラの空き室で展示飼育していて、昼夜や気温の変化がわからない状態でした。でもナマケモノは本来夜行性だから、外に出して時間帯や気温の差を感じさせるようにしたんです。もともとよく脱走していたので(笑)、どうせ逃げるなら安全な範囲で自由に過ごさせてあげたいと。その展示に変えてから初めて出産にも成功したんだよね。

メセグリン
それはすごいですね! いかに自然に近い環境で飼育できるかが大切なんですね。以前、上野動物園に行ったとき、見たかったフォッサが寝ていて一瞬がっかりしたんですけど、よく眺めたら寝姿がすごくかわいらしくて。肉球の上に頭をのせるような格好で、まわりのお客さんも「かわいい〜!」と盛り上がっていました。そういう自然体の姿を見られると嬉しいです。

小宮
実は動物も8時間勤務。多摩動物公園に就職したとき、週1〜2日のペースで宿直があったんだけど、お客さんも職員もいない時間帯の動物はまさに自然の姿でした。キリンの子どもが脚と首を折りたたんで、頭を腰にのせて眠っていたりね。だから動物園で24時間ゾーンをつくるのは理想といえます。

上野動物園ではクマの冬眠の展示もしました。冬になると眠たそうだから、最初は上司に内緒で冬眠させてみたんだけど(笑)、心配になってときどき餌をやってしまったせいでうまくいかなかった。餌をきちんと絶ったり、物音が鳴ってしまう覗き穴ではなくモニターでの展示にしたり、都立大(現:首都大)の工学部の先生が貸してくれたレーダーで脈拍数や呼吸数を把握したり、いろいろ工夫しましたね。

マナティーに会うならどこがおすすめ?

動物をこよなく愛するメセグリンさんは、実はちょっぴり(かなり?)出不精なタイプ。各地の動物園をめぐったり、野生動物を見に海外へ出かけたり…といったことはあまりしてこなかったという。そんなメセグリンさんに、彼がいちばん好きなマナティーを見られるおすすめの施設を教えてくれた小宮さん。

小宮
熱川バナナワニ園は、日本で唯一アマゾンマナティーを飼育展示しています。ゆっくり食事するところや、水槽の水を抜いてアカスリをするところも見られるので、マナティーが好きならぜひ行ってみてください。

メセグリン
はい! 僕、大学時代の同級生とソフトウェア開発会社をやっていて、その支社がバングラデシュにあるんですけど、近々シュンドルボン(バングラデシュとインドにまたがる湿地帯)にも行ってみたいと思っています。トラ、シカ、ワニなどいろんな動物がいるみたいなので。先生の好きな動物はなんですか?

小宮
子どもの頃はゾウが好きだったけど、今はなんだろう。見たことが見たい動物なら、世界で55頭しかいないジャワサイ、ベトナムやラオスの山に棲むウシ科のサオラ、チベット高原に棲むウシ科のチルーかな。とくにチルーは、白い毛と長い角がとても美しいんですよ。

日本の動物園は全部見たので、最近は水族館によく行きます。昨日もサンシャイン水族館にゾウギンザメが入ったと聞いて行ってきました。今、水族館は勢いがあるよね。宿泊ツアーがあったりして。夜に色が変わる魚なんかもいるからおもしろいと思います。

メセグリン
僕は朝がめちゃくちゃ苦手なので、夜に見られる水族館や動物園があったら嬉しいです(笑)。園長を引退されて、最近はどんなお仕事をされているんですか?

小宮
現役時代にやりたくてもできなかったことがたくさんあるので、その実現のためにいろいろと動いています。全国の動物園から相談を受けて、新しい展示方法について提案したり。川崎市の夢見ヶ崎動物公園では、学芸員を目指す学生たちの授業の一環で運営をよりよくするための企画発表を行ない、その企画を動物園にお渡ししたこともありました。授業の日は「シマウマの前に10時集合!」という感じでね(笑)。

シマウマといえば、最近は『シマウマのしまはサカナのほね』(メディア・パル/2018年)という本を出しました。シマウマの背中の模様を上から見ると魚の骨みたいなんだよね。そんなふうに動物の模様にフォーカスした写真集で、私がこれまで撮りためてきた実際の写真を使っています。

シマウマの背中は実は魚の骨のよう!

メセグリン
僕は先生の『Zooっとたのしー!動物園』(文一総合出版/2017年)が好きです。ふつうの図鑑には載っていないリアルな情報が満載で。

小宮
読んでくれているんだね、ありがとう。図鑑だとたいてい1種類しか描かれていないけど、動物の姿は性別によっても季節によっても変わってくる。そういう実態をしっかり伝えたいと思いながらいつも本をつくっています。

生態を知るほど、その動物が好きになる

『もしもキリンと恋に落ちたら デートでわかる どうぶつ図鑑』では、メセグリンさんが描いた原稿を小宮さんがチェックし、よりリアルな動物の姿を追求した。メセグリンさんの描く動物たちを見て、小宮さんはどう感じたのだろうか。

小宮
「こんなことまで知ってるんだ」とびっくりしました。ティティモンキーが夫婦で長いしっぽをつなぐことや、クモザルに親指がないことなど、みんなが知らない動物の実態がうまく描かれていて、おもしろいなと思いましたよ。

メセグリン
ありがとうございます、嬉しいです。先生には細かいところまでチェックいただいて、絵と実態が少し違う場合にはお手持ちの参考写真を送ってくださったりもしました。ウォンバットの四角いうんちの写真や、ゾウから抜け落ちた歯の写真なんかも!

小宮
あとはチスイコウモリのページも好きですね。悪いイメージを持たれがちな動物ですが、彼らは血を吸う相手が生きているからこそ食事をし続けられるので、相手の命を奪うことなく共生の関係になるんです。さらに、唾液には血液が固まるのを防ぐ成分が含まれていて、それを脳卒中の薬に使えないかという研究も進んでいます。

メセグリン
以前読んだ本に、鳥の血を吸うチスイコウモリのことが書かれていました。彼らは鳥の胸の羽毛に潜り込んで血を吸い、鳥もそれを雛と勘違いして嫌がらないのだそう。血が足りていない仲間には一度吸った血を分け与えるなど、仲間思いの一面もあるんですよね。生態を知れば知るほど、その動物に興味が湧いたり好きになったりする。この本がそのきっかけになってくれたらいいなと思います。

受け皿に入れた血を飲むチスイコウモリ

小宮
動物園で飼育できる動物は限られています。人間に近い生き物はなんとかなっても、無脊椎動物は自然環境が残っていないとほとんど飼えません。だからこそ、飼育できる動物は可能な限り自然に近い環境で過ごさせてあげたい。

たとえば日本の動物園に多いトラは、ロシア極東に生息するアムールトラですが、暖かいところで飼育するとだんだん毛が短くなってしまうかもしれません。温度調節の必要性をなくすという省エネの観点からも、本来は北海道の動物園で飼うのがベター。どこでも同じ動物を見られるのはいいことだけど、その地域その地域に合った動物を飼育するという動物園のあり方が、本当の意味では理想なんじゃないかと思います。

最後に小宮さんは、部屋にあったキャビネットの中から動物の足あとを写し取った足拓を見せてくれた。ゾウやサル、鳥類などの実物大の足あとが、1段1段に丁寧にしまわれている。それを見ながら楽しそうに語り合う、まるで少年のような小宮さんとメセグリンさん。

二人の共通点は、動物が純粋に大好きで、ありのままの動物たちの姿をみんなに知ってほしいと願っているということ。小宮さんのこれまでの仕事にも、メセグリンさんの著書にも、その思いがありありと表れている。そんな二人のコラボレーションが再び実現する日は、意外とすぐにやってくるかもしれない。

この記事は、”もしもキリンと恋に落ちたら デートでわかる どうぶつ図鑑” メセグリン(著)・小宮輝之(監修:上野動物園元園長) の新刊コラムです。


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