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頭のいい人は「交渉術」を使って、人間関係の悩みを全クリしている!?

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誰とでも対等に渡り合いすぐに問題解決してしまう、そんな対人的知能の高い人たちは、対人関係のあらゆる場面で「交渉」を仕掛けているのだそうです。書籍「頭のいい人の対人関係  誰とでも対等な関係を築く交渉術」から、本文を一部抜粋してご紹介します。

無茶な要求でも確実に受け入れてもらう交渉テクニックとは

人の心理は不思議なもので、こちらに都合のよい仮定を勝手につくり、それを前提として相手に要求を提案すると、なぜか受け入れられる確率が上がります。
これは「アサンプティブ・クローズ法」と呼ばれるテクニックです。「アサンプティブ(assumptive)」 とは「 仮定の」、「 クローズ(close)」とは「合意に達する」の意味です。相手が自分のオファー(依頼)を受け入れるという前提(みなし)で話を進めると、約束を取り付けることができるのです。

このテクニックの具体的な使い方は、まず相手が自分の要求を受け入れた状態(仮定)を出発点とした質問をします。

たとえば、

・後輩や部下が仕事の依頼を受け入れることを前提として、
「この案件、いつまでにできる?」

・お客さんがその商品(車)を買うことを前提にして、「乗るとしたら、何色がいいですか?」「この車種、何色が好みですか?」

 

人は質問されると、その答えを頭で考えてしまい、本来考えるべきこと(そもそもの前提を受け入れるかどうか)をあと回しにしてしまうのです。

「質問」のポイントは、相手の「都合」や「希望」を聞くことです。相手にとっては自分自身の「都合」や「希望」なので、回答しやすいのです。
たとえば、気になる相手をデートに誘うとき、

・「どの路線だったら、帰りは楽?」
→相手は場所の都合を回答できる

・「アレルギーのある食材や苦手な料理を教えてもらってもいい?」
→相手は自分の食べたくないものを回避できる

 

このように、デートをすることを前提にして話を進めることで、回答した相手はそのあとの自分の本来の要求(デートの依頼)を受け入れやすくなるのです。

なお、質問をしないという方法もあります。たとえば、相手と何らかの契約を交わしたいときに、契約書のサインの記入を促すテクニックを紹介します。
やり方は簡単です。ペンを差し出しながら、「そろそろ、こちらのほうにサインを」と伝えるだけ。すると、相手はついついサインをしてしまうのです(Bettger,1960)。これは、相手が契約書にサインすることを前提(仮定)にして、契約を取りつけているのです。

「一貫性の原理」を使って相手の「YES」を引き出す

相手は、こちらの仮定を前提にした質問に回答してしまうと、その回答内容に沿った言動を起こしやすくなります。これは、「一貫性の原理」という心理が働いているためです。一貫性の原理とは、「人の行動には、一貫性を保とうとする動機づけが働く」というものです(Heider,1946)。交渉では、自分の要求を受け入れたという「前提」をこちらでつくった
状態で話を進めることで、相手はその前提を受け入れたと認識します。その結果、「要求を受け入れた」という状態を無意識のうちに保ち続けようとしてしまうのです。

さらに、そのような前提の中、自分の「都合」や「希望」を一度でも口にしてしまうと、それをどうにか守ろうとしてしまいます。ここには「コミットメント」という心理も関係しています。

自分の都合のいい仮定をつくって話を進めるというのは、気のいい人にとっては勇気のいることでしょう。躊躇する気持ちも非常によくわかります。ただ、それでも、あなたの人生を自由にするためにアサンプティブ・クローズ法を使うべきです。勇気を持って、自分の都合のよい仮定をつくりましょう。

たとえば、会社勤めの方が、休暇を取りたい旨を上司に相談(交渉)するかどうかを悩んでいるとします。このとき、上司に「来月の○日から○ 日まで休暇を取る予定なので、みなさんにご迷惑をおかけしないようその間の業務の代行問題ないでしょうか?」と自分が休暇を取ることを前提にして質問をするのです。

コツは、自分の都合のいい前提(仮定)をもとにして相手と話すことへの勇気を持つこと。「自分が自分を大切にしないで、誰が自分を守ってく れる?」と自問自答することで、アサンプティブ・クローズ法を使うための勇気が湧いてくるはずです。

使い方を間違えると反感を抱かれてしまうリスクも

捉え方によってはアサンプティブ・クローズ法はかなり強引なやり口です。相手の受け取り方次第では、相手との関係性にダメージをあたえかね ません。また、相手に負担をかけるような要求を何度もくり返すと、反感を抱かれることもあるでしょう。

そのため、このテクニックを使うときの注意事項は長期的な関係性の構築には不向きだと意識しておくこと。「ここぞ!」というときだけに使う、 もしくは、「もし……だとしたら」と仮定もしっかり添えて伝えるようにしましょう。そうすることで、相手にはソフトに伝わります。たとえば、

「もしお受けいただけるなら、いつまでにできそうですか?」
「もし仮にいらしていただけるようでしたら、○○(場所)あたりはご都合いかがでしょうか?」

なお、ここで提示する「仮定」は、相手が自分の要求を受け入れることで行う「行動(Do)」よりも、それを受け入れた「状態(Be)」で伝えるほうが効果的です。相手は、行う行動(Do)よりも、そうなった状態(Be) のほうがイメージしやすいからです。

もし逆に、アサンプティブ・クローズ法を相手に使われそうになったら

質問から入られると、非常に逃げにくいですよね。特に、目上の方から問い詰められると回答を避げがたい状況になるかと思います。
そんなときに身を守るためのポイントは、「即答しないこと」です。回答を先送りにしていいかのお伺いを立てましょう。そこに「正当な理由」 を付加すると、相手のアサンプティブ・クローズ法の出鼻を挫くことができます。
「現状を確認したうえで、改めて連絡する形で大丈夫ですか?(お伺い) 現在、同時並行で進めている急ぎの案件があるためです(理由)」

それでも「今、返事がほしいんだけど」と相手が回答の先送りに承諾し ない雰囲気を出してきたら、やや強引ではありますが、以下のようにこちら側で回答の先送りを決定してしまいましょう。
「今、手元にスケジュール帳がないので、このミーティングのあと、スケジュールを確認してなる早でお伝えします」

また、もし可能であれば、相手の質問に質問で返して、相手からの要求内容の情報をできるだけ引き出すようにします。こちらから承諾(合意) をするよりも、先に交渉材料となる情報を集めるのです。
たとえば、相手から「このあと、ちょっと時間取れる?」と聞かれた際、

「その前に確認させていただきたいのですが、……」
「時間がどれくらいかかるかによりますので、先に用件のほうを教えていただいてもよろしいでしょうか?」

このような質問から得た相手の情報をもとに、交渉に持ち込むことができます。対面では慣れるまでに時間がかかるかもしれませんが、メールやチャットであれば、回答までの準備時間を確保できるため、たとえば「バトナ(交渉が決裂したときの最良の代替案)」をじっくりと設定することもできるでしょう。

(画像提供:iStock.com/ A Mokhtari )


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