仲野孝明 健康

ずっと調子がいい体は「正しい姿勢」から作られる/仲野孝明

#健康

痛みを和らげる対処療法だけでなく、「座り方」や「立ち方」など日常的な体の使い方を徹底的にレクチャーする治療方針で、人気の仲野整體(せいたい)東京青山の院長・仲野孝明さん。腰痛や頭痛など不調の原因は、間違った姿勢のせい? 疲れやすい人、必見!

運動不足の人が、いきなり運動を始めるのは危険?

地下鉄・表参道の駅から青山通りに沿って、高級スーパーやお洒落なカフェを横目に歩くこと約10分。JR渋谷駅からも徒歩10分弱の一等地に、仲野整體東京青山はある。完全予約制で顧客には企業経営者も多く名を連ねる、人気で予約の取りにくい治療院だ。

人気の理由は、単に痛みを解消する技術の高さだけではない。

初診では約90分の時間をかけ、幼少期の体の使い方にまでさかのぼる問診からスタート。背骨や関節、筋肉の動きなど、100項目以上に及ぶ検査で全身の機能を細かくチェックする。

「痛みや不調に悩まされるのは、人生の無駄な時間です。不調の根本原因を取り除かない限り、永遠に症状を繰り返してしまう。そうならないための最短治療を行っています」

特に注力しているのは、立ち方や座り方などの基本姿勢のレクチャーだ。さらに、患者個々人にあった自宅でもできるストレッチや体幹トレーニングなど、セルフメンテナンス方法を実践しながら丁寧に伝えていく。

「人間本来の構造どおりに、体を使えていないことが不調の原因になっていることが多いんです。
立ち方や歩き方、座り方、街中を見ても正しい姿勢だと感じるのは、100人に1人ほど。大半の人が、体の使い方を間違っていますね」

ふだんは「姿勢がいい」と自負する筆者も指導してもらったところ、立ち方、座り方ともにかなりの修正を受けた。自覚症状はほとんどなかったが、股関節は危機的レベルに固く動かなくなっているらしい。「典型的な座りすぎの運動不足」と指摘された。

正しい姿勢になるよう仕事環境を整え、教えられたセルフメンテナンスを繰り返すうちに、慢性的に悩まされていた腰痛はピタッと治まった。

筆者同様、現代人に大きな問題となっているのが、長時間のデスクワークだという。日本人は平均して1日7~8時間を座ってすごす。世界的に見ても、かなり長時間の部類だ。

「そもそも、人間は動物なんです。動物は立って動き回っているか、横になって寝ているのが自然な姿。座る姿勢は、骨格からすると不自然なんです。だからこそ、少しでも負担の少ない正しい姿勢が大事なんです」

電車で立っているのがツラい、階段を使わずエスカレーターやエレベーターばかりを使う、車移動が中心でほとんど歩かない。そんな運動不足の人が座りっぱなしの生活を送るのは、かなり危険水域だという。

「『走れない犬』は、不自然ですよね。老衰か怪我をしているはず。骨格からすると、人間も本来、同じぐらい当たり前に走れるんです。むしろ、持久力でいえば他の動物よりもかなり長いほうなんですよ」
運動不足が体に悪いことは、何となくわかっている。かといって、たまに一念発起してもジム通いは続かない。その原因も「間違った姿勢」が原因だと仲野さんは教えてくれた。
「あまりにも長く運動不足が続くと、体の様々な機能が衰えています。そんな状態で、しかも体の使い方や姿勢を間違ったまま、いきなり運動を始めても、痛みが出たり故障するのは当然です。それで運動を辞めてしまう人が多いのは、本当に残念でなりません。
いきなり運動を始める前に、まずは徹底的に姿勢と体の使い方を見直して、調子のいい体を取り戻してほしい。今回の出版ではそんな思いを込めました」

書籍を手にする仲野さん。「今の僕の集大成です」と言い切れるくらいの自信作とのこと。

仲野さん6冊目の著書となる新刊『調子いい! がずっとつづく カラダの使い方』は、イラストが中心で分かりやすさを重視。座り方や立ち方、歩き方などの基本姿勢から、料理や洗濯など日々の動作に至るまで、「疲れない例」「疲れる例」を交えながら分かりやすく説明している。

「無理に運動しようとしなくても、歩き方や座り方など、正しい体の使い方ができるようになると、自然と体を動かしたくなってくるはずです。疲れにくくなるし、持久力も集中力も増し休日も楽しめる体になりますよ。平日の仕事で疲れ切って、休日はずっとベッドで過ごすような人に、ぜひ手に取ってほしい一冊です」

創業大正15年。代々にわたり藍綬褒章2度受章。旭日小綬章1度受勲。老舗治療院の4代目

仲野さんは、1973年に三重県四日市市で生まれる。実家は大正15年創業、曽祖父から3代にわたり、のべ180万人以上の臨床実績を持つ仲野整體四日市本院に4人兄弟の長男として育つ。

2代目の祖父は、戦後、西洋医学一辺倒に傾く医療業界において、鍼灸や療術(主に手技による治療)など、東洋医学の重要性を説き、その地位向上や国家資格の導入にも尽力してきた。

父の弥和は73年にアメリカに留学し、当時、まだ日本ではめずらしかった米国政府公認のカイロプラクティックドクターを4年間学び取得。解剖学や生理学など人体の構造を徹底的に学び、アメリカでは医師資格と同等以上の知識を有し、高度な治療が認められる国家資格だ。

「育った環境もいま思えば、特殊でしたね。子どものころから当たり前のように、青汁や当時ではめずらしいジューサーで絞ったフレッシュジュースを飲んでいました。おやつはにぼし。弁当は玄米と野菜炒めで、全体的に茶色と緑。友だちの弁当に入っている赤いウインナーがうらやましかったのを覚えています」

自分がこの仕事に就くなんて全く思っていなかったという仲野さんは、昔はファッション大好きな普通の学生だったという。

幼稚園の頃から「治療するから降りておいで」と、兄弟で順番に父の治療を受けていました。視力が低下しかけたときは、鍼灸療法と目の使い方のトレーニングで回復。視力はいまでも2.0をキープしている。

「家族で外食をすると必ず誰かが父の元へ、『先生、こないだはありがとうございました』と挨拶にいらっしゃり、子ども心に父が人に感謝される仕事をしているんだと感じていました」

父の口癖はいつも、「好きなことをしなさい」。家業を継ぐことを一切強制されたことはないものの、最終的に兄弟4人、全員が同じ臨床の道へ進んでいる。

生と死。自分の使命を考えたインド旅行

実は、大学4年生まで、家業を継ぐことは一切考えていなかった仲野さん。転機となったのは、卒業旅行で友人に誘われたインド旅行だった。これまでアメリカや香港への旅行経験はあっても、バックパックで旅するのは初めてだった。

「93年のインドはまだまだ発展途上の国。降り立った国際空港では、蛍光灯がチカチカと切れかけ、床のタイルも所々はがれているほど。空港内の両替所でも、しっかり確認しないと金額をごまかされる。今までの自分の常識が全く通用しない世界があるんだと到着そうそう衝撃を受けました」

憲法上は廃止されたカースト制度が、まだまだ根深いのも目の当たりにした。たまたま乗った自転車型リキシャを引いていた同じ年齢ぐらいの青年と話をしてみると、「親の職業以外に選択肢はない。リキシャを引くのが生まれながら自分の職業だ。他の職業に就くなんて、そもそも考えたことがない」と言う。
「日本で何不自由なく育ち、職業選択の自由がある。努力すれば、大抵のものは手に入る。当たり前だと思っていた境遇のありがたさに初めて気づきました」

インド旅行中の仲野さん。「あらためて見ると姿勢悪いですね」と笑いながら渡してくれた。

インドを旅行する間、ずっと自分の将来を考え続けた仲野さん。旅の終盤、ガンジス川で死体が焼かれるそばで、何ごともないかのように洗濯をしている人たちがいた。

人は生きて、死ぬ。

自分は何をすべきか。
他のどの家庭でもない、臨床を代々生業として来た仲野整體に自分が生まれてきた意味は何だろう。代々、試行錯誤しながら受け継がれている臨床哲学の行く末は……。帰国する頃には、「父と同じ臨床の道」以外考えられなくなった。

姿勢が変わると、人生が変わる。伝える大切さを痛感した修業時代

大学卒業後、専門学校に入り勉強をしなおし、国家資格の柔道整復師を取得。2番目の弟・広倫の鍼灸大学卒業とタイミングが重なり、99年4月、兄弟2人で父の元で修行をスタートした。子どものころには気づきようがなかった、父の知識と技術に圧倒される日々だった。
「専門学校の教科書には『坐骨神経痛や椎間板ヘルニアのしびれが見られるときは、病院に行くように指導する』とあるんです。ところが、父の元には長年そういった症状で悩む患者たちが、病院からの紹介状を持って来院している。これまで学校で学んできたこととレベルがまったく違いました」

技術がおぼつかない自分でもできることを探す中で、現在の礎となる「なぜその症状が起きたか、どうすれば症状が起きないようになるか」を伝えるパートに注力をするようになる。

ただ治療するだけでなく、どうすれば症状が出にくくなるかをきちんと伝える。そうしないと症状を繰り返してしまう。それが長年の臨床実績からくる仲野整體の方針だった。

ある日、60代の男性が腰痛で来院。聞けば、20歳の頃から長年腰痛に苦しんでいるという。
治療後、いつものように仲野さんは正しい姿勢を伝えた。患者は、やはり座り方が間違っていた。すると、「この姿勢を20歳のときに知っていたら、自分の人生は違ったかもしれない。もっと早く先生に出会いたかった」と悲しそうな表情でしみじみと訴えられた。

出張や転勤の行く先々で評判の治療院に通っても、正しい姿勢を教えてくれたところは皆無だったという。今までどれだけツラかったのだろう。いまでもこの患者さんを思い出すたびに、涙がこみ上げる。

「完全に故障してからでは遅いんだ。故障する前の段階で、正しい体の使い方をできるだけ多くの人に伝えたい。そう決意した瞬間でした」

その後、父の元で約10年修業し、仲野整體東京青山を開院。姿勢治療家®として書籍やラジオ、ブログなどで情報発信を続けている。
少しでも分かりやすく、正しく伝えるために、気になることは、とことん追求し実験する。その道の専門家にもどんどん会いに行く。昔から、性格は凝り性だった。
かなづちで25メートルすら泳げない状態から、半年でトライアスロンにチャレンジ。世界一過酷なレースと呼ばれるサハラ砂漠マラソン257㎞など過酷なレースに次々とチャレンジし、完走している。意外なことに、小学校の体育の成績は3。もともと運動が得意だったわけではない。

サハラ砂漠マラソンに参加する仲野さん。今でも休日になれば、山を登ったり、走ったりしているそう。

 

「正しい姿勢で自分の体を使えれば、少しの練習量でもトレーニング効果もぐっと高まる。運動音痴でも過酷なレースを完走できる、という実験なんです」

日々ストイックにトレーニングを重ねているのかと思いきや、同レースを完走する他の選手に比べ、レース前でも仲野さんの練習量量は格段に少ないのだそう。
「人間本来の体の使い方ができれば、中学生の頃のような疲れにくい状態をキープできるんです。当然、仕事の集中力も持久力も高まります。80歳でも90歳でもその状態をキープすることは、決して夢物語ではないんですよ」

仲野さんが危惧するのは、人生100年時代を迎えても、体の使い方を間違ったまま過ごし、終末期をずっと介護や医療に依存して過ごす人が増えるだけの未来だ。

38歳が分かれ道、どう過ごすかで健康寿命が決まる。

「自分にはまだまだ先の話だと思うかもしれませんが、体力は20歳をピークに年2%ずつ下がります。残念ながら、完全に下がり切った後で後悔しても遅いんです。
まずは1日に5分でも10分でもいいので、姿勢を意識したり早歩きをしてみたり、体と向き合う時間を持つことから始めてみてください。体を見直す時間は、そのまま人生を見直す時間につながりますよ」

(取材・文 玉寄麻衣)

プロフィール

仲野孝明(なかの・たかあき)

姿勢治療家®。仲野整體東京青山院長。柔道整復師。柔道整復師認定スポーツトレーナー。介護予防運動指導員。
1973年三重県生まれ。大正15年創業、のべ180万人以上の患者数と、合わせて3度の褒章受賞・綬章受勲を誇る仲野整體の4代目。自身もこれまで0歳から108歳まで、のべ18万人以上の患者を治療する。2008年仲野整體東京青山を開院。“人間本来の正しい体の使い方”から治療することで、全く運動をしてこなかった女性が、3ヶ月後にフルマラソンを完走するなど、人生が変わる患者が続出。現在国内外から多くの人が訪れ、予約のとれない治療院となっている。
治療の経験を自身のスポーツにも応用し、鉄人レース完走や世界一苛酷といわれるサハラ砂漠マラソン250km完走など、姿勢の可能性を探究。モットーは「姿勢が変わると、人生が変わる。」で、姿勢から生産性を高める、健康経営法人向けセミナーやラジオ番組など啓蒙活動も話題となり、メディアでも多数紹介され注目されている。
著書に『一生「疲れない」姿勢のつくり方』(実業之日本社)、『長く健康でいたければ、「背伸び」をしなさい』(サンマーク出版)などがある。

仲野整體 東京青山
https://senakano.jp/


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