大河内薫 お金

有名人になりたかった僕が、スーツを着ない税理士になったワケ/大河内薫

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仮想通貨など最新の税金事情にも精通する新時代の税理士・大河内さんは、日本大学芸術学部出身という珍しい経歴の持ち主。スーツは纏わず、髪型はツーブロックにパーマ。税理士のイメージとはかけ離れた彼が心に秘める、「世の中を変えたい」という思いとは?

日芸演劇学科から士業の道へ

「生まれてこのかた、有名人になりたいと思って生きてきたんです」

税理士になった理由を尋ねると、大河内さんは爽やかにそう言った。有名人になりたいから税理士になる、なんて話はあまり聞いたことがない。

「子どもの頃から目立ちたがり屋で、まわりに『すごいね』と言われるのが大好きでした。かけっこでは絶対1位になりたかったし、サッカーでは女の子にキャーキャー言われたかった(笑)。有名になるなら芸能人、芸能人になるなら上京、そう考えて東京の大学に行くことに。おもしろそうだったので日芸(日本大学芸術学部)の演劇学科を選びました」

大学時代には大人気映画の舞台イベントにも出演したが、卒業後に進んだのは演劇の道でも芸能の道でもなかった。保険会社やコンサルティング会社に勤めながら、有名人になる前にまずはお金を稼ごうと思い立ち、難易度の高い資格を取得することにしたという。

「いちばん難しい資格を取れば人より稼げるんじゃないかと思って、士業の中でも最難関国家資格に目をつけました。どれも仕事内容はよくわかっていなかったんですけど(笑)、なかでも働きながら取れそうだったのが税理士だったので、税理士を目指して勉強を始めたのが24歳。そこから4年で資格を取得して、税理士法人で働き始めました」

なんとも軽い口ぶりで語った大河内さんだが、突然なろうと思い立ってなれるほど容易い職業ではないはずだ。勉強はもともと得意だったのか尋ねると、少し控えめに「頭は悪くなかったです。中学までは成績はほぼオール5」という答えが返ってきた。

「だから、人の3倍やれば今からでも受かるはず!と信じてがんばりました。ここまでちゃんと勉強したのは生まれて初めて。休みの日は資格の学校に朝7時に行って、夜10時までずっと勉強していましたね」

税理士として世の中を変えるきっかけをつくりたい

2016年に株式会社ArtBizを設立した大河内さんは、勤めていた税理士法人から独立。日芸出身というキャリアを活かし、芸術・芸能分野に明るい税理士として活動をスタートした。現在は会社設立や経営支援といった事業のほか、セミナーや大学授業で登壇することも多いという。

「独立してからTwitterやブログ、個人を株式化して売買できるVALUというプラットフォームなどを活用し、税金や仮想通貨についての情報を発信するようになりました。SNSを使って情報発信する税理士って、当時も今もほとんどいないんですよ。そのためか見てくれる人が急増して、Twitterのフォロワーも500人から1万4000人(2018年11月現在)まで増えました。だから『SNS活用術』とか『好きを仕事にする』といったテーマで登壇のオファーをいただくことも多いです」

SNSを駆使し、一般的な税理士とは一線を画す活動を続ける大河内さん。スーツではなくラフな私服で仕事をするのも、刈り上げパーマのヘアスタイルをキープするのも、税理士の「お堅い」イメージを変えたいという思いからだという。税理士になり、昔から思い描いていた「有名人になる」という夢はもう忘れたかと思いきや、いまの目標は税理士としてテレビに出演することだと教えてくれた。

「昔はなんでもいいから有名になりたいと思っていましたが、いまは税理士として影響力のある存在になりたい。税金は僕たちの生活に深く関わるものなのに、学校でも会社でも詳しく教えてくれません。だからフリーランスになりたての方は確定申告に苦労しますし、天引きや年末調整を会社がやってくれるサラリーマンの方は、なにがいくら引かれているか知らない人も多いでしょう。そういう状況をいっぺんに変えることはできないけれど、少しでも変えるきっかけをつくることなら僕にもできるかもしれない。メディアに出て大勢の人の前で発信すれば、その思いを少しずつ形にすることができるんじゃないかと思うんです」

漫画家と二人三脚でつくりあげた、初の著書


大河内さん初の著書となった『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』。出版のきっかけは、サンクチュアリ出版のイベントでの登壇だった。

「僕のSNSなどを見てくれたサンクチュアリ出版の方から、税金をテーマに登壇してほしいというオファーをいただいて。『誰も教えてくれないことをぶっちゃける税理士』という僕のキャラにも興味を持ってもらえたんだと思います。イベントは満員御礼で、その後に出版のお話をいただきました」

税金にまつわるアレコレを漫画仕立てで送る、フリーランス向けの本。出版の内容を聞いたとき、最初に思い浮かんだのが漫画家の若林杏樹さんだった。若林さんは元大学職員のフリー漫画家。以前Twitterで知り合い、若林さんがレギュラーを務めていたネット配信番組にゲストで出演したこともあったという。税理士・大河内薫と漫画家・若林杏樹の共著プロジェクトは、こうしてスタートした。

「もし本を出す機会があれば、表紙や挿絵はあんじゅ先生(若林さんの愛称)にお願いしたいと思っていたんです。あんじゅ先生の漫画はジェットコースターみたいにコミカルでおもしろくて、難しいことをわかりやすく伝えるのにぴったりだと感じていたので」

「難しいことをわかりやすく伝える」は、書籍全体のテーマにもなった。フリーランスになったばかりの人が税金について楽しく理解できるように、とにかくハードルを下げることを意識したという。また、税理士として単に一般論を語るのではなく、可能な限り「ぶっちゃけた」こともポイント。たとえば、どこまで経費として計上できるかは正解が決まっているわけではないため、各々で判断する余地を残すような解説の仕方を心がけた。

発売後はSNSを中心に反響が拡大

原稿制作の場に使われたのは、主に大河内さんのオフィス。二人で顔を突き合わせ、若林さんからの「これどういう意味?」という質問にその都度答えながら、丁寧に原稿をつくりあげていった。

フリーランス初年度は、サラリーマンだった前年の収入に基づいて住民税などの額が決まる。独立したてで思うように収入が得られなかった場合でも、多額の税金を支払わなければならない。その経験を実際にした若林さんは、漫画のなかで税金の負担を「税死」と表現している。

本をつくるなかで、そういった若林さんの漫画家としてのセンスに何度も感心したという大河内さん。ゲラチェックの際は、二人で「漫画になってる!」と大興奮したそうだ。発売後の反響も上々で、とくにSNS上では大勢の人からコメントが届いているという。

「いただくメッセージ一つひとつに感動しています。好きなページの写真を撮ってメンションをつけてくれる方も多いですね。ラストシーンで泣いたなんていうコメントもあったりして、『僕たちの本がついにできたんだな』としみじみ実感しています。初版の部数が1万1100部とかなり多いので、ちゃんと売らなきゃというプレッシャーも大きいですけどね(笑)」

大河内さんの不安を吹き飛ばすかのように、本書は発売10日で重版が決定。税金問題に頭を抱える多くの人たちにしっかりと響いているようだ。

フリーランスをはじめ、税金を知らないすべての人へ

「あのとき税理士の道を選んでよかった」と、大河内さんは24歳の自分を振り返る。

「企業や個人の成長を税務面からサポートできる税理士は、とてもポジティブな仕事。クライアントの夢を一緒に見て、一緒に大きくなっていくことができる、やりがいのある職業だと思っています。たとえば僕には漫画は描けませんが、あんじゅ先生のサポートを通じて、売れっ子漫画家になるという夢を一緒に追うことができる。根がポジティブな僕には合っていると思いますね」

ただ、税理士はまだまだ私たちにとって身近な存在とはいえない。自身が支払う税金についてきちんと理解している日本人が少ないのと同様に、税理士への認知度もまた、決して高くはないのが現状だ。

「テレビで活躍する弁護士はたくさんいて、『知っている弁護士の名前を挙げてみて』と言われればすぐに何人か挙げられるのに、税理士だとどうでしょう? ひとりも思い浮かばないという方は少なくないと思います。だから僕は、『税理士といえば大河内』と第一想起される存在になりたい。税理士・大河内の影響力をもっと高めて、世の中を変えるきっかけをつくりたいんです。SNSでの情報発信も、テレビ出演の夢も、そして今回の出版も、それを実現するための大事な布石です」

今回の著書は主にフリーランスになったばかりの人に向けて書かれているが、ベテランのフリーランスにも、サラリーマンにも、学生にも、税金のことをよく知らないすべての人に読んでほしいと大河内さんは語る。SNS上で実施したサイン入りの本をプレゼントする企画では、学生からの応募も目立ったそうだ。

「税金について知る前と知った後とでは、人生が変わります。いくら仕事をがんばって稼いでも、知識がないばかりに損をしていてはもったいない。国民一人ひとりが税金の仕組みをきちんと理解し、納税の重要性を自覚することは、国にとっても有益なはずです。日本国民必読の入門書にしたいくらい、この本には大事なことが詰まっています」

人当たりのいい笑顔で、税理士としての熱い思いを語ってくれた大河内さん。有名人になりたいという幼い頃からの夢は、天職と出会ったことで社会的意義を持つようになった。スーツを着ない税理士・大河内薫の名を誰もが知る日がくるのは、そう遠くないかもしれない。


大河内薫

税理士。株式会社ArtBiz代表取締役。
日本大学芸術学部卒。最新メディアサービスやSNSでの発信を得意とし、アフィリエイター、ブロガー、WEBマーケターなどのクライアントが多い。
また、日本では稀な芸術学部出身の税理士として、クリエイターや芸術・芸能系のクライアントに特化・支援。
スーツを着ないのがモットーで、「お堅い」などの税理士のイメージ打破を目指す。自称「日本一フリーランスに優しい税理士」。


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