本間朝子 私が著者になるまで

家事嫌いだった私が、時短家事のエキスパートになるまで/本間朝子

#私が著者になるまで

「知的家事プロデューサー」としてテレビや雑誌で活躍する本間朝子さんは、実はもともと家事が大の苦手で、部屋の片付けも思うようにできない日も多くあったとか。仕事と家事を両立できない自分から抜け出すための一歩が、今のキャリアにつながっているという。

仕事と家事の両立に苦しんだ会社員時代

本間さんが提唱する「知的家事」とは、無駄な時間と労力を省き、ストレスなく家事をするためのメソッド。セミナーやメディアを通じて、家事が苦手な方や仕事との両立に苦労している方から大きな支持を得ている。

「掃除の時間はわざわざ設けない」「布団は外で干さなくてもいい」など、家事=こうあるべきという思い込みを根本から覆すメソッドの数々は、すぐに実践したくなるものばかり。家事が得意だからこそのひらめきかと思いきや、実はそうではないのだという。

本間さんのご自宅。今はこんな素敵な暮らしをされているけれど……

「私はもともと家事が苦手で、特に掃除が大嫌いでした。あまり家事をしたことがないまま一人暮らしや結婚をしたので、やり方がわからなかったというのもあります。今も好きとは言えないけれど、自分で知的家事のメソッドを考えるようになってからは、苦ではなくなりましたね」

結婚した当初は、不動産会社の企画営業として働いていた本間さん。残業続きの毎日で休みも少なく、心身ともに疲れきっていたが、「家事は妻がきちんとしなければ」という思い込みから掃除も料理も一生懸命やっていたという。

「仕事から帰ってきてなんとかご飯をつくるんですけど、疲れているし時間もないのでうまくできないんです。料理はわりと好きだったのに、思うようにできないのがすごくストレスで、おたまを投げたくなることもよくありました。家の中も散らかっていましたし、当時は夫も家に帰ってきたくなかったと思います」

ビジネスからヒントを得て始めた「家の環境整備」

そんな自分が嫌で、家事をうまくこなす方法をネットでひたすら調べる日々。しかし当時はまだ、家事の悩みを根本的に解決するようなアイデアはネットに転がっておらず、参考になりそうなものは見つけられずにいた。

「包丁に爪楊枝を貼ってキュウリを切ると、包丁にくっつきにくい…とか、小ワザみたいなものしか載っていなくて。そういうものって他に応用がきかないし、私が抱えていた問題の根本的な解決にはなりませんでした」

本間さんのヒントになったのは、好きでよく読んでいたビジネス書だった。たとえば工場の生産性を上げるには、作業ごとの動線をいかに短くするかといった環境整備が重要。家事も、定型の作業を繰り返し続けていく、いわばルーチンワーク。一つひとつの作業にかかる時間を短縮するために、まずは環境を変えようと思い立った。

「少しでもやる気を出すために、好きな料理に関する環境整備から始めることに。一気に変えると時間も労力もかかるので、まずはキッチンの一番上の引き出しを整理してみました。たった15分くらいの作業でしたが、効果はてきめん。見た目も使いやすさもよくなって、料理中のストレスが減ったんです」

少しの工夫でも効果があることを知った本間さんは、残りの引き出しも1段ずつ、1回15分と決めて整理することに。その後は、料理中に移動する手間を少しでも減らすために、冷蔵庫の位置を何度も変えるなど自分なりに工夫を続けた。

「いろいろと試していくうちに、今まで気づかなかった“無駄”や“不便さ”に気づくようになりました。それはつまり、自分を苦しめていた原因に気づけたということ。その喜びを知ってからは、苦手意識の強かった掃除に関しても積極的に改善を試すようになりました。床にものを置かないとか、掃除用具をしまいこまずにすぐ出せる場所に置くとか、簡単なところからとにかくやってみました」

本間さん宅のキッチン。効率よく作業できるよう、すべてが計算されている。

マイルールをつくることで生まれた、心の余裕

徐々に家の中の環境を変え、本間さんの家事にかける時間と労力は目に見えて減っていった。なかでも一番のメリットは、心に余裕が生まれたことだという。

「私は臨機応変に物事を進めたり、優先順位を見極めることが苦手で、目の前のことですぐに頭がいっぱいになってしまうタイプ。洗濯しているときに宅急便が来たりすると、焦ってしまってやるべきことがわからなくなるんです。でも、それぞれの家事の一番効率的なやり方を見つけて、毎日繰り返し続けていくと、自分の中でルールができあがっていく。決まったことをやるだけなら余計なことをごちゃごちゃ考えずに済むので、心がとても穏やかになりました。私が変わると家庭内の雰囲気も変わり、夫婦仲も以前よりずっとよくなりましたね」

自分と同じように家事で困っている人たちに、この体験を伝えたい。そう思った本間さんは、興味を持ってくれた何人かの知人を招いて小規模のセミナーを開いてみた。参加者からの反応は想像以上によく、「もっと話を聞きたい」「定期的に開いてほしい」といった声が続出。何度か開催するうちに、遠方から夜行バスで来てくれる人も出てくるようになり、「家事の悩みを本気で解決したい人がこんなにもいるんだ」ということを肌で感じたという。

当時はまだ、それを本職にすることはあまり考えていなかった本間さん。不動産会社を辞め、夜間の調理師学校やデザインスクールに通い、もともと好きだった料理に携わるためフードプランニング会社に転職。食品メーカーに対し、スーパーに置くレシピカードやフードイベントなどの販促企画を提案する仕事に就いた。

「その頃の飲食業界ではコンセプトレストランが流行っていて、企業も一般消費者も、いかにお金をかけて華やかなものにするかという考え方が主流でした。私の得意としていた“時短”や“無駄カット”はそこまで求められていなかったように思います」

「知的家事プロデューサー」としての大きな一歩

世の中のニーズが変化しつつあると感じたのは、ちょうど有名レシピ検索サイトが浸透し始めた頃だった。料理の時短テクニックや、ラクしておいしく仕上げるコツが広く共有されるようになり、自分の得意分野との親和性を感じずにはいられなかったという。家事の時間と労力を省く方法を自身のブログで公開していたのもその頃だ。

そんな本間さんに、次々と大きな転機が訪れる。

「最初は、テレビ局からの番組出演オファーでした。私のブログを見て、“時短ショー”のようなコーナーのひな壇ゲストとして呼んでくださったんです。さらに、その番組を見ていた出版関係者の方が“知的家事プロデューサー”という私の肩書きに興味を持ってくださり、出版のオファーまでいただいて、2012年に初めての著書を出版しました。雑誌の巻頭特集に掲載していただいたこともありましたし、時代のトレンドに私の考えがうまく合致したのだと思います」

知的家事プロデューサーとして独立し、テレビ・雑誌・書籍・セミナーなどで幅広く活躍するようになった本間さん。独自の肩書きで成功を収めた背景には、こんな思いもあったという。

「料理の専門家も、掃除の専門家も、洗濯の専門家もたくさんいる。みんなその分野を究めているプロだから、私は到底かなわない。でも、“知的家事”というテーマを軸にそれらすべてを縦断するようなポジションなら、私にしかできないことがたくさんあるのではないかと思ったんです」

セミナー、商品開発、企業研修… 広がる活躍の場

家事ができない自分を変えるため、家の中をコツコツ整備し始めたあの日から10年近く経った現在。本間さんの活躍の場はさらに広がっている。

当時から地道に続けているセミナーは、月1回の無料開催に。参加者の自宅に十数名集まり、本間さんの講義や、みんなで家事のアイデアを出し合うグループワークなどを実施している。家事だけでなくライフスタイル全般の悩みを解決する会になっており、かつて本間さんのセミナーを無償で手伝ってくれていた人を講師として招くなど、恩返しの場としても活用しているという。

知的家事を広めるための商品企画にも携わっている。ホームセンターと共同で開発した『立つほうき』は、収納場所に困りがちなほうきをスタイリッシュにデザインしたアイデア商品。玄関にそのまま置いておけて、通ったついでにサッと掃除できる手軽さがヒットし、発売後すぐに完売になるほどの大人気商品となった。

本間さんが開発に携わったほうき。玄関を掃いたら……

そのまま玄関に立てて置ける!

他にも、雑誌が主催する収納コンテストの審査員、キッチングッズメーカーの新商品発表会のナビゲーター、仕事と家事を両立しやすくするための企業研修など、活動は多岐にわたる。

「知的家事を実践してくれた方から報告を受けることがよくあるんですが、そのときのちょっと得意げな笑顔が大好きで。最初の一歩を踏み出す勇気を持つだけで、人はこんなに前向きになれるんだと実感するんです。“あれ? 私ってけっこう家事できるかも”という、いい勘違いができればこっちのもの。あとは、寝る前に気づけば歯みがきをしているような無意識の領域まで持っていければ、家事の悩みとは無縁になれるはずです」

知的家事の領域を超えて、新しいことにチャレンジしていきたい

まだ細々とセミナーを開いていた頃は、会社員時代の先輩をはじめさまざまな人に支えられ助けられた。無償で運営を手伝ってくれた人、講師を引き受けてくれた人、会場を貸してくれた人…。思うように集客ができず落ち込むことも多々あったが、まわりの温かい支援のおかげでここまでやってこれたのだと、本間さんは振り返る。

「“なにも恩返しできていなくてごめんなさい”と言うと、みなさん“そんなのいらないよ”って言ってくださるんです。だから、自分が昔いろんな人に支えてもらったように、今度は私が次の世代の人たちを支えていきたい。私のセミナーを使って自分の得意分野の講義をしてもらうのも大歓迎だし、なにか役に立てることがないかといつも考えています」

常に新しいことを考え、画期的な解決策で人を驚かせたい。そんな本間さんは今後、知的家事の領域からさらに範囲を広げて活動していきたいという。

「私の家事嫌いはそもそも、複数の物事を臨機応変に並行して進めることが苦手という、頭の使い方の癖みたいなところに原因がありました。私のように自分の思考に振り回されて思うように生きられていない方はたくさんいると思います。そういった方々に対して、もっとラクに生きられる頭の使い方を提案していけたら…というのが今の目標。まだ模索段階ですが、近々具体的なコンテンツにして発信していきたいと考えています」

家事が苦手な自分を変えるために、キッチンの一番上の引き出しの整理という小さな一歩を踏み出した本間さん。その一歩はやがて自信になり、心の余裕になり、知的家事プロデューサーとしての大きな一歩になった。本間さんのサクセスストーリーは、家事に悩む人だけでなく“自分を変えたい”と思っているすべての人にとっての、大きなヒントとなるだろう。

(取材/文 三橋温子)

プロフィール



本間朝子(ほんま・あさこ)
知的家事プロデューサー。
フードプランニング会社のチーフディレクターを経て独立。
自分自身が仕事と家事の両立に苦労した経験から、時間と無駄な労力を省く家事メソッド「知的家事」を考案。「時間がない」「家事が大変」と嘆く多くの主婦の悩みを解決している。日本テレビ「ヒルナンデス! 」、NHK「あさイチ」などのテレビ、「クロワッサン」「ESSE」「レタスクラブ」「CHANTO」ほか雑誌・新聞でも活躍。
著書に『家事の手間を9割減らせる部屋づくり』『写真でわかる! 家事の手間を9割減らせる部屋づくり』(青春出版社)などがある。
Evernote コミュニティリーダー。

オフィシャルサイト: http://honma-asako.com/
Amebaブログ: http://ameblo.jp/titeki-kaji

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