分蜂シーズンがやってきた。女王蜂が巣分かれをして、新しい巣を見定める時期だ。チャンスは約1ヵ月。その期間に捕獲できないと、来年まで待たなければならない。なんとしても捕まえたい。「居酒屋お決まりですか?」「カラオケいかがですか?」そんな気持ちで花の季節、根津を舞い飛ぶハチたちを見守る。
2日目。曇りときどき雨。寒い。 いまのところ、なんの変化もない。 … … ただ眺めていても仕方ないので、近所の根津神社に行くことにした。 これだけ緑があるのだから、ハチの1群れや2群れはいそうなものだが、あたりを見渡してもそんな気配はない。まだ春は訪れていないのか。寒いせいか、観光客の外国人も口数が少ない。 ハチがくることを願って、参拝をした。お賽銭として100円を奮発した。少しはご利益がありそうだ。賽銭箱をよく見てみると、蜂の巣によさそうな形状だと思った。実際、賽銭箱に蜂の群れが棲みついて困ったことはないのだろうか。 会社に戻ったらもう一箱、注文していた巣箱が届いていたので、新たに設置することにした。巣箱に同封されていた紙に「最低でも5箱を3ヶ所に置くべき」といったようなことが書かれていたので、せめてもう1箱だけでもと、追加することにしたのだ(先に教えてほしかった)。 「箱と箱は10メートル以上離さないと無意味」だという。できれば「200メートル以上離すべき」とも。そんなに離して設置できる場所はない。2箱が限界だ。 社長が使っている灰皿の脇 禁煙ブームに追いやられ、社長の灰皿は屋上のすみっこにやってきている。もしハチがきてくれたら、ハチがたばこの煙に耐えられるか、社長がハチの存在に耐えられるか、我慢比べになるだろう。 小さい室外機の前 苦肉の策である。屋上は本当に室外機だらけなんだと、おわかりいただけただろうか。それでも写真にうつっている室外機は比較的パワーが弱く、使用頻度も少なめな方である。向きを変えることも考えたが、室外機はがっちり地面に固定されていた。 雨が降ってきた。巣箱が雨に濡れてはまずい。せっかくのルアーが流れてしまいそう。灰皿のわきは半分屋根の下だが、室外機の前はまったくの野ざらしだ。なにか雨除けになるものはないか。 ダンボールしかなかった これが養蜂と言えるのだろうか。もしこの巣箱が笠地蔵だとしたら、きつい天罰が下るだろう。風も強い。ダンボールをおさえないといけない。手にはなんとなくガムテープを持っていたが、ガムテープで一体どうしようというのか。 もうこうなってくると、ただの開封後の宅配物、あるいはゴミである。ゴミ置き場が屋上にあるから、このままにしているとアルバイトさんに間違えて捨てられそうである。 とりあえず雨にさらされてもいいから、今日のところは巣箱をむき出しにして見守ることにする。 飼育員 橋本圭右
耳を当ててみるが、羽音はしない。室外機から吹き出す風の音がするだけだ。
こんど神主さんに会ったら聞いてみよう。