私が著者になるまで

不登校の経験から、分身ロボットOriHimeを開発し自身のミッション「孤独の解消」に挑む 吉藤オリィ

#私が著者になるまで

小学校5年生から延べ3年半にわたり不登校を経験し、その痛烈な孤独の体験から「孤独の解消」を人生のミッションに掲げた吉藤オリィさん。2010年に分身ロボットOriHimeを開発し、2021年にはそのOriHimeと120cmでものを運ぶことなどができるOriHime-Dで接客をする「分身ロボットカフェDAWN(ドーン)Ver.β」を日本橋にオープンさせた。今回発売された著書『ミライの武器 「夢中になれる」を見つける授業』(サンクチュアリ出版)には、特に若い世代に向けた未来を切り拓くヒントが綴られている。オリィさんの半生と、現在の挑戦を追った。


人生のミッションは「孤独の解消」

聞き手
「分身ロボットカフェDAWN(ドーン)Ver.β」に行ってきました! 寝たきりなどの外出困難な方々が遠隔で分身ロボットOriHimeやOriHime-Dを操作して、接客してくださいました。このカフェはオリィさんのミッション「孤独の解消」の実証実験の場なのですよね?

寝たきりや外出困難になっても、仲間と共に働ける世界初のカフェ。2021年6月、東京日本橋にグランドオープンした。

そうです。私は小学5年生の頃から学校にいきにくくなり、中学校に入ってひきこもりました。何もする気力が湧かずただただ天井を眺める日々を送っていたんです。その時に感じた痛烈な孤独体験から、テクノロジーの力で孤独を解消しようと決意したんです。
オリィ
聞き手
不登校の時は、どんなことを考えていたのですか。
もともと体調不良で2週間ほど休んだのがきっかけで、学校に行きにくくなり、不登校になりました。だから、「なんで体は1体しかないのだろう。2体、3体とあれば自由に動けるのに」と思っていました。
オリィ

 

聞き手
オリィさんが開発した「分身ロボット」の発想につながりますね。ちなみに、再び学校に行くきっかけは何だったのですか。
両親が「学校に行かなくてもいい」と期待値を下げて、「子どもが元気そうにしているのが親にとって一番大事」と伝えてくれたことで気持ちが楽になりました。あとは、私が夢中になれるものを一緒に探してくれたことですね。
オリィ
聞き手
その時は、何に夢中になったのですか。
「虫型ロボットコンテスト」を母親が申し込んでくれて、地域の大会では優勝。全国大会では準優勝したんです。思えば、ロボットを開発する楽しさに出会った瞬間でした。
オリィ
聞き手
いきなり全国準優勝ですか! すごいですね。
いや、私は悔しかったんです。その場で、「くそぅ!」と拳を握りしめたほどでした。でも、結果的にこの挑戦があったから、後に「師匠」とあおぐ工業高校の久保田先生と出会うことができました。先生に弟子入りするという目標を達成するために、受験勉強を始めました。
オリィ

 

「この研究のために生まれてきた」というものを見つける

聞き手
オリィさんは不登校の時代に夢中になれるものに出会ったんですね。でも、「自分が何が好きなのかわからない」という人も多いですよね。
中学校の頃、忘れられないことがあります。不登校で中1、2年生をほとんど休み、中学3年生で受験勉強のために学校に戻ると、ほとんどの子が理科嫌いになっていたんです。私が不登校になる前の小学校4年生の頃は、フラスコの水が沸騰するのを観察するだけでみんなあんなにワクワクしていたのに、私が学校にいけなかった間にいったい何があったんだと今でも謎です(笑)。小さい時にはみんなが持っている好奇心は、いつの間にか失われていくのかもしれません。
オリィ
聞き手
誰もが子どもの頃は好奇心を持っているのに、次第にそれを失ってしまっている……。だとすれば、本来持っている自分の好奇心に気づくことができれば、すごいパワーを発揮するのかもしれませんね。
そうだと思います。高校の時に、ISEF(International Science and Engineering Fair)という80以上の国や地域から約1,800人の高校生が参加して科学の自由研究を競い合う世界大会に出場しました。そこで「俺はこの研究のために生まれてきた」と語る高校生たちと出会ったんです。
オリィ

 

聞き手
まさに好奇心に従って生きていますね! オリィさんは彼らに出会ってどのようなことを感じたのですか。
「この研究のために生まれてきた」というものが見つかれば、これから死なないための理由を探す必要がなくなると気づいたんです。
オリィ
聞き手
死なないための理由、ですか?
私は昔から学校の勉強など、「なぜやっているんだろう」と目的がないと納得できないし頑張れないタイプだったんです。それは生きることに関しても同様です。ISEFでの体験から、「私は何をやりたいのだろう?」と自分と向き合いました。当時は車椅子の開発をしていたのですが、「楽しいけれど、これは一生は続けられない」と思いました。そして、不登校時代の自身の孤独を思い出します。「人間の孤独が解消されていないのは、まだその福祉機器がないだけなのではないか」と考え、「孤独の解消」を人生のミッションにしたのです。
オリィ

我慢を捨て、誰もが発明家になれる時代

聞き手
オリィさんの発明のアイディアはどこから生まれるのですか。
私は気合いと根性と我慢が嫌いなんです。メガネをかければ、視力が低い人も周囲をよく見ることができるようになりますよね。それと同様に、新たなツールを作ることで課題を解決する視点を持つとよいと思うんです。私は孤独を解消するためのソリューションとして、OriHimeや「分身ロボットカフェ」を作りました。他にも、課題があるたびに、それを解決できるツールをどう開発するか考えます。
オリィ

 

聞き手
誰でも開発はできるものですか?
はい、できますよ。よく「これができないで困っているので解決するものを作ってください」と言われることがあります。でも、今はインターネットでたくさんの情報を得られますし、安価に使える道具も増えています。だから、誰でも発明家になれます。
オリィ
聞き手
「できない」というと「頑張れ!」と励まされて、根性を試されますがそうではなくて、解決できるものを開発するという視点を持てるといいですね。
その根性が趣味ならばいいんです。例えば、私は大好きなコーラを半年間たったのですが、その根性は趣味です。でも、自分が好きでやっていることでないならば根性で乗り切ろうとするのではなく、むしろ何を開発して解決していくかを考えられるとよいですよね。だから、「できない」ことには価値があるんです。
オリィ
聞き手
できないことに価値ですか?
はい、「できない」から「わかる」ことがある。例えば、私はコミュニケーション非ネイティブです。だから、どうやったら人とコミュニケーションを取れるかを真剣に考えました。
オリィ
聞き手
どうやって考えていったのですか?
例えば、大学時代はたくさんのサークルに入っては辞め入っては辞めを繰り返しました。そこで人とのコミュニケーションを学ぼうと思ったのです。
オリィ
聞き手
どんなサークルに入ったのですか?
例えば、「社交」とつくからには、きっと社交性が身に付くはずだ!と思って社交ダンスサークルに入りました。
オリィ
聞き手
社交ダンス! オリィさん社交ダンスしていたんですか!?
していましたよ。それはそれで楽しかったのですが、社交性はやっぱり身につきませんでした(笑)。でも、「折り紙が得意ならあだ名はオリィだね」と言われて、名前を得ることができました。
オリィ

 

 

聞き手
ちなみに他にはどんなサークルを体験したのですか。
パントマイムとかファイヤーダンスも。
オリィ
聞き手
すべてを掘り下げたい気持ちがいっぱいですが……(笑)それらのサークルを体験する中で何を得たのですか。
雑談中、みんないいリアクションをもらうとテンションが上がるということに気づいたんです。つまり、雑談とはリアクションの応酬。雑談にゴールはなく、ゴールがあるとしたらお互いに楽しければいいのだということに気づきました。とはいえ、理解とインストールはまた別の話。雑談の実践練習として、東京から実家に帰る道すがらヒッチハイクをしてトラックに乗せてもらい、ドライバーと雑談することを繰り返しました。話を聞き続けていたら「こいつ何も言わないな」としらけてしまったり、私が話し続けたら「うるさい!」と言われたり。非ネイティブだからこそコミュニケーションをインストールしようとし、遠隔で対話ができるOriHimeの開発に結びついたのです。
オリィ

構想を練り続けた「分身ロボットカフェ」常設展をオープン

聞き手
いよいよ2021年6月から「分身ロボットカフェDAWN(ドーン)Ver.β」の日本橋常設展がオープンしましたね。オリィさんのミッション「孤独の解消」の実現につながる大きな一歩なのではないでしょうか。
そうです。私は孤独とは、「誰ともつながりを感じられず、この世界に居場所がないと思う状態」と定義しています。だから、OriHimeの開発に加えて、居場所の設計につながる実験店「分身ロボットカフェ」を作りました。
オリィ
聞き手
「分身ロボットカフェ」はOriHimeで働ける場になっていることが特徴ですよね。
そうです。居場所を持つためには、「役割」を設計することが重要だと考えたからです。親友で私の秘書であった番田雄太は4歳で交通事故に遭い頸髄損傷を負い、28歳で亡くなるまで寝たきりですごしました。ある日、彼に「OriHimeに入って会社にいれば?」と勧めた時のこと。「みんなが忙しそうに働いてるオフィスに何もやることがない状態ではいにくいよ。俺は役割がほしい」と言い、さらに「オリィは学校に戻りたいと思っていたんでしょ。でも俺には戻りたいと思える場所もないんだよ」と続けました。
オリィ

https://note.com/ory/n/n0c75992aaa13
(番田雄太さんに関する記事~「今は亡き寝たきりの親友と語り合い、実現させてきた現実と目指し続ける未来」)

聞き手
番田さんの言葉から、「役割」とセットで居場所を作ることを考えたのですね。
そうです。思えば、私も不登校だった時に「役割」の重要性を感じていました。学校に居場所がなかった私に、先生が「吉藤の工作力で図書館のしおりを作ってほしい」と役割を与えてくれたのです。私だけが自由に使える「吉藤専用ルーム」を設けてくれたこともあり、少なからず居場所と感じることができました。
オリィ
聞き手
分身ロボットカフェの実験は2018年から行われてきましたよね。特に、今回の常設展に込めた思いを教えてください。
これまでの「分身ロボットカフェ」で働いたことにより、他の企業への就職が決まったOriHimeパイロットのメンバーもいます。こうした輪をさらに広げていきたいですね。そして、今回の常設店では「継続」が鍵となると考えているので、たくさんの人に愛されて、何度も訪れてくれるリピーターの方が出てくることを目指しています。
オリィ
聞き手
ありがとうございました。これからもオリィさんの実験がますます楽しみです!

 


吉藤オリィ

1987年、奈良県生まれ。株式会社オリィ研究所 代表取締役所長。小学校5年から中学校2年まで不登校を経験。工業高校にて電動車椅子の新機構の開発を行い、国内の科学技術フェアJSECにて文部科学大臣賞、ならびに世界最大の科学大会ISEFにてGrand Award 3rdを受賞。その際に寄せられた多くの相談と自身の療養体験がきっかけとなり、「人間の孤独を解消する」ことを人生のミッションとする。 その後、高専で人工知能の研究を行い、早稲田大学創造理工学部へ進学。在学中に分身ロボットOriHimeを開発し、オリィ研究所を設立。著書に、『「孤独」は消せる。』(サンマーク出版)、『サイボーグ時代』(きずな出版)、『ミライの武器  「夢中になれる」を見つける授業』(サンクチュアリ出版)がある。

取材/文 佐藤智

ライター/編集者/レゾンクリエイト執行役員 横浜国立大学大学院教育学研究科修了後、ビジネス系出版社の中央経済社へ入社。その後、ベネッセコーポレーションを経て、独立。ライティングや編集を担うレゾンクリエイトを設立。著書に、『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』(共著/翔泳社)がある。

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