AKBの国民的ヒットソングの歌詞に隠された、巧妙な「言葉の仕掛け」

AKB48グループを筆頭に次々とヒットを生み続ける秋元康氏ですが、あの国民的ヒットソング「ポニーテールとシュシュ」には、聴衆を引き込むための巧妙な仕掛けが隠されていることをご存知ですか? 書評ライターの三宅香帆さんが詳しく解説します。

裏切られると感情を動かされる

てっきりそうだと思い込まされていたけど、実はぜんぜん違った。
思いがけない裏切りは、ミステリーだけにとどまらず、ホラーでも、友情でも、感情を大きく動かされます。
「ごん、おまえだったのか。」
「ブルータスよお前もか。」
お笑いであれば「じゃなかったんかーい!」というツッコミが入るやつです。
私、読み手としてはしょっちゅう気持ちよく裏切られます。でも書き手にまわった場合は、どんな風に裏切ればいいのでしょうか? 構成がコンパクトにまとまっている、アイドルソングをヒントにしたいと思います。
私の大好きなAKB の国民的ヒットソングです。よかったらぜひ、実際に曲を流しながら読んでください。

一見、単なる甘酸っぱい世界観に見えますが、実は巧妙な仕掛けが隠されています。まずは歌い出しの「カレンダーより早く シャツの袖口まくって 太陽が近づく気配 僕の腕から衣替え」は、少し考えると“カレンダーをめくること”と“シャツの袖をまくること”を掛けてるのだと分かります。

そろそろ太陽の陽射しが降り注ぐ季節がやってくる。カレンダーよりも早く長袖をまくり、衣替え気分を味わいたい。でもどうして主人公は、カレンダーよりもはやく衣替えをしたいのか?ちょっとこの謎を覚えておいてくださいね。

そして次は「青い海波打ち際で 君と会いたい 裸足の水しぶき」からはじまり「振り向いた 君の笑顔 僕の夏が始まる」まで、ポニーテールの彼女と夏の砂浜ではしゃぐような描写が続きます。キャッキャ、ウフフってたのしそうだ。聞き流す。

しかし2番になると急に様子が変わります。
「教室に陽が射して 夢の気温が上がった」という首を傾げる一文。さらにこう続く。「斜め前の君を見てると 胸が苦しくなってくる 好きなんて 言えやしない 後ろ姿に 気持ちをつぶやく」……斜め前?好きなんて言えやしない?後ろ姿?おい!きみは彼女と砂浜で遊ぶ仲ではなかったのか?つーか、斜め前ってどこ?「ポニーテール(切なくなる) 夢の中君のすべて(僕のすべて)一人占め ポニーテール(切なくなる) 片思い 瞳と瞳合えば 今はただの友達」っておいおい、夢では君をひとりじめ〜って、さっきの砂浜キャッキャ遊びは「夢」だったんかーーい!とツッコミをいれる。
そしてその瞬間、はっと気付かされる。主人公は教室にいて、斜め前に座る“君”を見てたんだ、って。妄想していたからこそ、現実の季節よりも早く、夏の気分を味わいたくて、袖まくりをしていたのかって。

思いがけない展開が、面白さを生む。

それから、何度も繰り返された“ポニーテール”という言葉は、彼女を特徴づける髪型であると同時に、いつまでもつかめない「恋の尻尾」だった。
今はただの友達で、片思いなんだけど、これからもずっと片思いをしていたい。触れたいけど触れられない。でも、触れられなくてもいい象徴。そのままでいてほしい象徴。それこそが主人公にとっての「ポニーテール」なんだと、歌の最後になってようやく判明します。

すごい仕掛けがなされてるんですね。 「リア充男子イメージ」からの、「実は純情無垢な男子だった」展開が、心をわしづかみにするのです。
このように〈てっきりそうだと思い込まされていたけど、実はぜんぜん違ったオチ〉の破壊力は抜群です。
歌詞のように特別な表現じゃなくても、この法則はどんな文章にも応用できます。心優しい人を、冷たい人のイメージで描いておく。悪人を、善人のイメージで描いておく。優秀な人物を、変人のイメージで描いておく。美味しいお店を、全然期待できないイメージで描いておく。便利なサービスを、まったく使えないイメージで描いておく。
先に反対のイメージを植え付けておくと、読み手に与える感動が大きくなります。

まとめると…

1、予告としての、「現実」を書いておく。
ぼくは袋を握りしめている。袋の中にはきびだんごが入っている。

2、突然、妄想をスタートさせる。
猿、キジ、犬とは笑顔で別れた。鬼「おのれ桃太郎め、まんまと奪っていきよって」姫「いいえ桃 太郎さんは、なにも奪ってませんわ」鬼「いや、やつはとんでもないものを奪っていきました。あ なたの心です」

3、ふと現実にかえり、妄想とのギャップを語る。切なく…
囚われた姫のことを思うと胸が苦しくなる。袋の中のきびだんごは冷えてカチカチだ。鬼ヶ島になんてとても行けやしない。だって鬼、めちゃ怖いもん。

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(画像提供:iStock.com/FREEGREEN)

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