日本代表選手を多く排出した名将が40年かけて辿り着いた指導法

「図解モチベーション大百科」大ヒット記念企画「名監督インタビューシリーズ」。第2回目は春高バレーでチームを優勝に導き、木村沙織選手や大山加奈選手など多くの日本代表選手を輩出した下北沢成徳高校の小川良樹監督にインタビューさせていただきました。

コーチ15年目で気づいた「間違い」

(インタビュアー:図解モチベーション大百科 著者・池田貴将)
池田 下北沢成徳高校のバレー部はこれまで、大山加奈さんや荒木絵里香さん、木村沙織さんといった日本を代表するバレーボール選手を数多く輩出してきました。小川先生の著書を拝読していると、その時その時の選手にしっかりと向き合われているように感じます。指導者としてのスタンスが今のようになったのは、いつ頃からですか?

小川 「鬼の大松」と呼ばれた大松博文先生(1964年の東京オリンピックで全日本女子チーム『東洋の魔女』を率いて金メダルを獲得。享年57)に代表されるように、昔の女子バレーは、カリスマ性のある監督が「右を向け!」と言ったら選手が右を向くような、そんな世界でした。高校でも、統率力のある監督が率いるチームがチャンピオンを取っていた。実際、私もそこを目指していました。だけど、自分とはまったく合わなかったんです。やめる選手が続出しました。東京の代表にもなれない私たちが有名校と同じような厳しい練習をやっても、選手はついてこないんですね。自分が進んでいる道は違うなということを、34、35歳の頃に気づきました。

池田 指導者になられてどれくらいですか?

小川 19歳でコーチになっているので、15年くらいですね。その間、先輩諸氏からは、「女子の指導はこうやらなきゃいけない」という決めつけの指導論をたくさん教わりましたよ。だけど、同じようにやっても選手はやめていくし、勝てなかった。結局、有名な指導者の真似ばかりをして、選手がどう思っているかなんてこれっぽっちも考えていなかったんです。

池田 ビジネスパーソンの中にも、活躍している社長さんのやり方が正しいと思い込んでいる人は多いですね。そこから、その時その時の選手に合わせたやり方に変えていったのですか?

小川 大山や荒木がいた時に、春高バレーで初めて優勝しました。2002年のことです。だけど、それから何年も経って選手も入れ替わっているのに、勝った時のやり方に戻ろうとするんですね。一人一人の能力も違うのに、勝った時の指導が正しいと思いがちになった。ある程度は自分の考えがあっても、一度勝ったがために、しばらくは後ろを向いて指導するようになりました。

監督の思い通りに動く選手=いい選手ではない

池田 先生の著書の中には、選手たちに「どういうのが君たちにとっていいチームなのか」を聞くとありました。

小川 教員というのは難しい職業で、自分が思った通りに動く生徒が“いい生徒”だと思いがちなんです。逆に、自分がしてほしいことに逆らう生徒は“嫌な生徒”。結局は、自分の判断基準でその生徒の評価をして自己満足しているだけなんです。だけど、それはやっぱりおかしい。ようするに、自分に気に入られるような態度をとった生徒が“いい生徒”ということでしょう? それは指導者として、正しく生徒を見ていることにはなりません。そうではなく、「選手にとってのいいチームって何だろう」と考えるようになりました。あとは、晩年にいいチームを作りたいということ。それが、50歳を過ぎて勝てなくなった頃だったと思います。

池田 今から10年ほど前ですね。そこからしばらくして、また全国で勝てるようになりました。1月の春高バレーは2013年に優勝、さらに2016、2017年と2連覇を達成しています。指導に対してそういう視点を持つようになって、プレッシャーが少なくなったというのもあるのでしょうか?

小川 言われてみればそうですね。たしかに、プレッシャーは強くかからなくなったかもしれません。

池田 とはいえ、勝って当たり前という中で、相当なプレッシャーもあると思います。その中で、どう平常心を保っているのですか?

小川 監督の“勝ちたい”という気持ちが選手よりも上回っている時は、チームとしていい状態ではないと思うんです。その状態だと、監督はとてもストレスを感じます。イーブンくらいが一番いいのかな。あるいは、監督の方が下で、優勝したいという選手に対して「ちょっと待て」というくらいのバランスの方が、チームとして機能しているかもしれません。監督が勝つことにこだわって焦り出すと、選手の成長を邪魔するような言葉がけをするようになって、ろくなことがないんです。

池田 たしかに焦りから出た言葉は、選手から考える力を奪ってしまうかもしれませんね。

小川 結局、私たちにできることは、選手たちに言葉でどう伝えるかなんです。55歳になってからは、練習でボールを持つこともやめました。監督がボールを持つと、選手たちをコントロールしようとしてしまうからです。場合によっては選手が恐怖心を持つこともある。そういう関係はよくないですよね。そうではなく、“君たちが主役なんだ”ということを伝えられるようにしたいと考えるようになりました。

池田 試合に出るメンバーは選手たちが決めると伺いました。本当ですか?

小川 はい。ただ、メンバーに関しては、毎日の練習の中で、選手たちの間ですでに出来上がっているんです。一番いけないのは、選手たちが信頼している選手を監督が外し、信頼していない選手を入れること。それは、女子チームの場合、一番ギクシャクする要因になります。

優勝する代ほど、合宿所をキレイに使っている

池田 高校生活は3年間ですから、毎年選手が入れ替わります。強い年とそうでない年に違いはありますか?

小川 体育館の上が合宿所になっているんですけど、優勝した代はそこがすごくきれいです。過去には、力のある選手がそろっていながら勝てない時期もありました。その時は、合宿所が汚かった。そんなのバレーとは関係ないと思われるかもしれないけど、そこは考えるべき点かもしれません。そういう話は、選手にもします。日本一になるには、コートの中で一つ一つのことをきちっと積み重ねていかなければいけませんから。

池田 合宿所もチェックされるのですか?

小川 いえ(笑)。私が実際に合宿所を見に行くことはありません。OGが来た時やコーチが上に行った時に、「先生、今年の子は合宿所をすごくきれいにしていますよ」とか「今年はダメですね」って教えてくれるんです。だから、私が合宿所のきれいさについて評価することもない。「なるほどね」って聞いているだけです。その上で、どうすれば相手にちゃんと言葉が届くかは考えます。たとえば、「こういう言葉でアプローチすれば、合宿所がきれいになるかもしれないな」とか。自分が投げたものがうまく届かない時も、自分への評価として受け止めるようにしています。

池田 言葉がちゃんと届いている時は、うまく意思も伝わっていますか?

小川 うまく当たる時もありますよ。だけど、聞いている子の性格にもよるし、理解力には個人差があります。それに、選手も人間ですから、誰がどこで成長するかわかりません。特に多感な時期なので、急激に伸びる子もいるんです。一人の選手が急にリーダーシップを発揮して、それによって思いがけない形でチームが成長することもある。だけど、これが私たちの醍醐味ですよね。人と関わっていく中で、そうやって選手が変わっていく様子をそばで見られるというのが、私たちの仕事の楽しいところです。でも、仙人ではないので、私だってはじめからそんなふうに思っていたわけではないですよ(笑)。30代の指導者は、選手の中に入って汗をかいて、自分の影響力を磨いた方がいいと思います。私は教員として晩年を迎えているので、そう感じるのでしょう。

コートに立てない選手のモチベーションの高さこそ大事

池田 先生からご覧になって、モチベーションが高い選手は何が抜きん出ていますか?

小川 おそらくポジションの違いがあると思います。レギュラーでエース、レギュラーでセッター、控えの一番手、ユニフォームを着ていない人…。自分のプレーで勝ち負けが決められない人は、コートに立てない可能性が高いですよね。だけど、その子たちがチームのことをどれだけ真剣に考えているかが、そのチームの一番大きな課題だと思っています。

池田 自分で勝ち負けを決められない選手ですか。

小川 はい。自分の存在がどれだけチームにとって大事か。そう考えてチームに関わろうとしている選手が多いほど、そのチームの深さが出てきます。コートに立っている選手は、結果が自分たちに返ってくるので、私が何も言わなくても自分でフィードバックできる。でも、チームとして大事なのは、レギュラーがミスをして負けた時に、コートに立っていない人たちが「自分がもっとうまくこの子に関われていたら、こんなミスをすることもなかった。これは私たちの責任だ」と感じられるかどうか。それが感じられる代は強いです。

池田 お話を伺っていると、選手自身が気持ちいいと感じられる環境を作ることが大事だと感じます。

小川 上手におっしゃいますね(笑)。私もそれを願っています。経営も同じではないでしょうか。短期的に会社を大きくすることはできても、100年継続させる力というのは、経営者の方々の様々な苦労や社員に対する思いやりがないと成り立たない。単純に利益を上げて社会に貢献すればいいと考えていると、どうしても経営者の上から目線になるので長く続く企業にはならないと思います。

池田 たしかにそうですね。

小川 私たちにとっての原点は、バレーボールを通して仲間と一緒にどう幸せな時間を過ごすかです。選手たちに「このチームでバレーボールをやれてよかった」と思ってもらうこと。でも、チャンピオンシップスポーツなので、どうしても勝ち負けが出てきます。技術的な向上や試合の結果も重要です。負けてよかったと思う選手はいません。だから、そこが一番難しい。モチベーションを上げると同時に、激しさが入ってこなければいけないですから。

池田 なるほど。激しさというのは、僕の中で抜けていた視点かもしれません。

小川 プレーの中での激しさはどう説明したらいいか…。たとえば、点を取り合うとか、相手に打ち勝つとか、ボールが床に落ちるギリギリのところ。そこを自分たちで身につけていくというのは、選手にとっては一番苦しいことかもしれません。ただ、チームの中にそうした激しさが浸透していかないと、勝負に勝てる強さは出てこないんです。

池田 言われてみると、ビジネスでも仕事の数を増やすことの激しさを感じることがあります。その視点から見ると、僕の世界も広がります。今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

プロフィール

小川良樹(おがわ よしき)
1955年10月29日生まれ。愛知県出身。早稲田大学高等学院、早稲田大学法学部卒業後、早稲田大学教育学部教育学科体育学を専修。早大1年生のときに「指導者として頂点を目指したい」という思いから、下北沢成徳高校バレーボール部のコーチに就任。1981年より下北沢成徳高等学校で勤務し、同年バレー部監督に就任。就任以降30年以上チームを牽引し、大山加奈選手、荒木絵里香選手、木村沙織選手など、数々のオリンピック選手を輩出している

池田貴将(いけだたかまさ)
早稲田大学卒。リーダーシップ・行動心理学の研究者。 大学在籍中に世界No.1コーチと呼ばれるアンソニー・ロビンズから直接指導を受け、ビジネスの成果を上げる「実践心理学」と、東洋の「人間力を高める学問」を統合した独自のメソッドを開発。 リーダーシップと目標達成の講座を開始すると、全国の経営者・役職者からたちまち高い評価を得た。 また安岡正篤、中村天風、森信三の教えを学び、東洋思想の研究にも余念がなく、中でも最も感銘を受けた吉田松陰の志を継ぐことを自らの使命としている。 著作に『覚悟の磨き方』『{誰かに教えたくなる}人の動かし方大百科』『動きたくて眠れなくなる。』(サンクチュアリ出版)『未来記憶』(サンマーク出版)などがある。

 

(画像提供:iStock.com/vgajic)

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