筑波大学・蹴球部を躍進させた「感情のレバレッジをかける3つの約束」

「図解モチベーション大百科」大ヒット記念企画「名監督インタビューシリーズ」。第1回目は、2017年天皇杯でJクラブチームに3連勝という偉業を成し遂げ世間をあっと言わせた筑波大学蹴球部・小井土正亮監督にインタビューさせていただきました。

大切なのは集団としての空気感


(インタビュアー:図解モチベーション大百科 著者・池田貴将)

池田 今年、プロも参加するサッカーの天皇杯でベスト16に進出。Jリーグのクラブを3チームも破るなど、大きな注目を集めました。その筑波大学を率いる小井土監督は、どのようにチーム作りをしているのですか?

小井土 サッカーというのは、監督の色によって、いかようにもゲームをコントロールできるんです。「どういうチームにしようか」から始まって、「今いる選手はこうだ」「この選手がいればこんなサッカーができる」「この選手のここが成長すればこういうこともできる」と考えていきます。とはいえ、いつまでたっても答えは定まりません。安定してきたと思ったら、ケガ人が出ることもあるからたいへんです。

池田 体はもちろん、心も休まらないですね。

小井土 大学サッカーのシーズンは4月から12月までですが、その間は休まる感じがしないですよ(笑)。ずっと頭をフル回転させています。

池田 昨年は全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)で優勝。これくらいレベルが高くなると、入部してくる選手の中にはすでに高校生の段階で完成してしまっている選手も少なくないと思います。失礼な言い方かもしれませんが、大学生になってもサッカーはうまくなるのでしょうか?

小井土 もちろんです。もっと上があるんだと常に感じ、トライできる環境にいられるか。そういう条件は必要ですが、多くの選手が大学に入ってからも伸びていきます。たしかに伸びる幅には個人差があり、周囲の環境が与える影響も大きい。練習の質はもちろん、みんながよりよくなっていくんだという集団としての空気感も大切です。何より、大きく伸びる選手は本当にハングリーです。言い古された言葉かもしれませんが、それに尽きると思いますね。

池田 僕は日ごろ、ビジネスマンや経営者に対して研究してきたことを伝えているのですが、たしかにハングリー精神が強い人は放っておいてもどんどん質問してきます。小井土監督はどうやって選手のハングリー精神、言い換えるならモチベーションを養っているのですか?

小井土 幸いなことに、筑波大学のトップチームには「プロになりたい」とか「日本代表になりたい」という選手がそろっています。私自身もプロの世界にいたので、「ここが基準だよ」ということを示せば、みんながついてきてくれる。そう考えると、選手のモチベーションを上げるという意味では苦労を感じたことがありません。

池田 基準という言葉が出ましたが、小井土監督はチームが示した基準に達していない選手には厳しく指導するとか。

小井土 そうですね。ただ、サッカーの技術や戦術のことも基準の一つではありますが、私が一番伝えたいのは、サッカーに向き合う姿勢であったり私生活のところなんです。選手に対していつも言っているのは、「今日の練習でケガをしてサッカー選手としてのキャリアが終わることになっても、後悔のない準備をしてピッチに入ってこい」ということです。つまり、それが基準。プロというのは足一本で飯を食って、家族を養っています。これからサッカー選手として世界に羽ばたいていこうとしているのであれば、たとえ今日の練習で大ケガをしたとしても、それまでしっかり準備をしてきた上でのケガだからしょうがないと思えるかどうかが大事です。それなのに、「あ〜あ、夜ふかして寝不足で練習にくるんじゃなかった」と思うようなら、ピッチに立つ資格はありません。

選手自らが運営するパフォーマンス局とは?

池田 筑波大学の蹴球部にはパフォーマンス局という組織があると聞きました。どういうものですか?

小井土 私が監督に就任した年に立ち上げました。選手自身が考えて自らのパフォーマンスを上げられるようにする組織で、相手チームのスカウティングをするゲームアナライズ班や世界中のリーグ戦を分析するビデオ班など、9つの班で構成されています。たとえば普段から練習内容は私が考えますが、練習の立案に際してほしいデータ、たとえば「この練習をした時の運動量がどれくらいかを出してくれ」とお願いすると出してくれます。本当にありがたいですよ。

池田 素晴らしいですね。それならば、トップチームの選手だけでなく、すべての選手がやりがいを感じながらサッカーに打ち込むことができる。

小井土 私自身、今も勉強中なんです。考えれば考えるほど、知れば知るほど、本当に何もわかっていなかったんだなと痛感することばかりです。コーチングの勉強をしていても、実際に現場で指導したら失敗ばかり。毎日が反省の連続です。自分にサッカーの知識があると思ったこともありません。「これは何かの本に載っていたな」と思うことがあったら、古い運動生理学の本を引っ張り出してきて読んだり。そういうことばかりです。

池田 小井土監督をそこまで突き動かすものは何なのでしょうか?

小井土 それを3年前に思いました。120年の歴史がある筑波大学の蹴球部が、戦後初めて関東大学リーグの2部に落ちたんです。私が筑波大学に赴任した年でした。あの壮絶な雰囲気は、想像に難くないと思います。だけど、次の年も自分がやるしかない。そう考えた時に、「どうして自分はこの役目をやるのだろう」と考えることがありました。でも、世界中で自分にしかできない仕事がある。そこに使命感があるし、ここでやらなきゃかっこ悪い。

池田 かっこいいか、かっこ悪いか、ということですね。

小井土 もちろん、かっこいいと言っても顔の話じゃないですよ(笑)。男として、自分に嘘をついているヤツはかっこ悪いと思うんです。たしかに、Jリーグだったら翌年の年俸が上がったり、いいクラブに移籍できるということもあるでしょう。だけど、大学の監督は、お金は出ていくばかり。休みなんてありません。当時は「自分が投げ出したらどうなるんだろう」と思いましたけど、本当に投げ出してしまったら、これほどかっこ悪いことはないですよね。「自分がやるんだ」。ただ、それだけでした。

池田 その覚悟が、今の細かい指導に反映しているんですね。

小井土 私なんて指導者としては本当に下っ端ですから。まだ39歳で、監督としても3年目。今年はたまたま天皇杯で勝ち上がったから話題になった。筑波大学のサッカー部がいいらしいと、テレビで取り上げてもらう機会も増えました。だけど、パフォーマンス局にしても、私が「こういうことを知りたいんだよな」と言ったら、それを出してくれるのは学生である選手たちです。試合に関しても、特に緻密な戦術を練っているわけでもありません。私が選手たちによく言うのは、「お前ら、頼むぞ。よく頑張ったな」というようなことばかり。選手がすごいというのが本音です。

感情のレバレッジをかける「3つの約束」

池田 選手が目標を掲げる際も、「嘘をつかない」ということを重視するそうですね。

小井土 選手には、「3つの約束」を書かせています。一つは、「自分はどうなりたいか。それに向かって努力することに嘘をつかない」。もう一つは、「ピッチに立つ準備のところで、やると決めたことに対して嘘をつかない」。そして最後が、「周りに感謝して、迷惑をかけるようなことをしない。それに対してやるべきことに嘘をつかない」というものです。要するに、「ToDoリスト」です。やっぱり、自分に対して嘘をつくヤツはかっこ悪いですよね。男として、自分で決めたことはやる。やらないと決めたことはやらないと、決めてほしいと思っています。

池田 なるほど。約束というのは専門的な言葉で「感情のレバレッジ」と言うんです。レバレッジは、レバー(てこ)のこと。つまり、最小の労力で最大の結果を出そうとしたときに、自分を見てくれる人に対して約束をすると、強制的にモチベーションが上がらざるを得ないんです。小井土監督が選手に書かせているという3つの約束は「どんな選手になりたいか」「どんな準備をするか」、そして「恩返し」ですね。研究の中でも、パフォーマンスが高い人は、最後に恩返しという要素を持ってくることがわかっています。それがあると、何があってもブレません。

小井土 勝負の世界でも、お世話になったことのある人、チームに勝つことを、いわゆる「恩返し」と言いますからね。

池田 小井土監督にとって、指導者としての原点はどこにありますか?

小井土 筑波大学の役割は、日本のサッカー界を引っ張っていく人材を供給していくことです。そこには自負を持っています。私も大学院の2年生の時に初めて蹴球部のヘッドコーチをやらせてもらいましたが、当時は24歳でした。2歳下の学生は、まだ現役の4年生です。1、2年生の頃から試合に出ていた選手を、今度はコーチという立場で指導しなければいけない。そこが自分にとっては原点でしたね。

池田 現在の筑波大学も、大学院生がコーチとして在籍しているそうですね。

小井土 はい。相手は年下とはいえ、自分よりも能力がある選手です。知っている仲間だし、こいつらと一緒に戦ってどうやって勝つか。そこで自分も鍛えられました。今は監督という立場ですけど、指導者になりたいとか、コーチングを磨きたいとか、コーチとして食っていきたいと思っている人材を鍛える場を作ることが大事だと思っています。勝敗には必要以上には固執しません。もちろん筑波大学は強いチームであり続けたいし、あり続けなければならない。強くあり続けるために、コーチの卵である大学院生たちがもがき続けることが、筑波大学のあり方だと思っています。コーチ陣もパフォーマンス局の学生も、みんな目の前のことを一生懸命やる。それが当たり前の集団になっていくためにどうしていくのかを、今は考えているところです。

池田 監督自身はこれからどういう指導者を目指しますか?

小井土 どうなんでしょう(笑)。私もコーチングの分野で研究を続けなければいけないというのが一つのタスクとしてあります。けっして自信過剰なわけではありませんが、自分がナンバーワンだと思って指導も研究もやらないと、ついてきてくれる選手や院生がかわいそうじゃないですか。日本で一番サッカーのことを理解し、考え、アウトプットできる人間になる。筑波大学の教員であるということはそういうもことだし、私もそれを見て育ってきました。そこを目指し続けるしかないと思っています。どこを目指すかと聞かれたら、一番いい指導者ということになりますね。

池田 これからのご活躍が楽しみです。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

プロフィール

小井土 正亮(こいどまさあき)
1978年生まれ、岐阜県出身。岐阜県立各務原高等学校を卒業後、筑波大学体育専門学群に進学。在学中は大学3年次と4年次に全日本大学サッカー選手権大会で準優勝の実績を残す。卒業後は大学院に進学しながら、水戸ホーリーホックで1年間プロ生活を送った後、現役を引退。修士2年次より筑波大学蹴球部のヘッドコーチとして活動。修了後の2004年には柏レイソルのテクニカルスタッフ、翌2005年からは清水エスパルスのアシスタントコーチ、2013年にはガンバ大阪のコーチとして活躍。筑波大学蹴球部のヘッドコーチに就任した2014年には2部降格を経験するが、1年で1部昇格を果たした。2016年12月に行われた全日本大学サッカー選手権大会では13年振りの優勝にチームを導いた。現在、筑波大学体育系助教、筑波大学蹴球部監督。

池田貴将(いけだたかまさ)
早稲田大学卒。リーダーシップ・行動心理学の研究者。 大学在籍中に世界No.1コーチと呼ばれるアンソニー・ロビンズから直接指導を受け、ビジネスの成果を上げる「実践心理学」と、東洋の「人間力を高める学問」を統合した独自のメソッドを開発。 リーダーシップと目標達成の講座を開始すると、全国の経営者・役職者からたちまち高い評価を得た。 また安岡正篤、中村天風、森信三の教えを学び、東洋思想の研究にも余念がなく、中でも最も感銘を受けた吉田松陰の志を継ぐことを自らの使命としている。 著作に『覚悟の磨き方』『{誰かに教えたくなる}人の動かし方大百科』『動きたくて眠れなくなる。』(サンクチュアリ出版)『未来記憶』(サンマーク出版)などがある。

 

(画像提供:iStock.com/Pixfly/melis82)

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