3日で”人”と”チーム”を変えるディズニートレーナーがやっていること/櫻井恵里子

いつ行っても、心からのおもてなしで迎えてくれるディズニーキャストたち。
実は、たった3日の研修で表舞台にデビューしています。
このコラムでは、たんに褒める、叱るだけでない、ディズニートレーナーの「魔法の育て方」について紹介します。

①守るべきことは、4つ以内に抑える

ディズニーのキャストたちが、臨機応変にホスピタリティを発揮し、いきいきと働いているのを見て、「いったいどんな教育をしたらこんなふうに動けるのか」と驚く人は多くいます。
しかし、自らの企業理念である「ゲストのハピネスを提供する」ということを実現するための行動基準は、実はとてもシンプルなもの。それが、ディズニーのキャストならまず知らない人はいない、「SCSE」という行動基準です。

S:安全(SAFETY)
ゲストや施設はもちろん、キャスト自身の安全も含め、もっとも重視されています。フードなどの品質管理基準も国の基準よりはるかに厳しくなっています。

C:礼儀(COURTESY)
作法だけではなく、相手の立場に立ったホスピタリティも含まれます。研修では特に、挨拶、笑顔、言葉遣い、アイコンタクトについて重点的にチェックされます。

S:ショー(SHOW)
「目に触れるものはすべてがショー」という考え方から、身だしなみや立ち振る舞いを常に意識します。清掃からゲスト対応まであらゆるシーンで求められます。

E:効率(EFFICIENCY)
ゲストのためにチームワークを発揮し、より効率的に動くという考え方です。ゲストに待ち時間を長く感じさせないための工夫などが、ここにあたります。

4という数字は、実は心理学的にも理にかなったものです。人が一度に処理できる情報量には限界があり、どうやらそれが4つであるということが明らかになってきました。
そうしたことから、最近の心理学では、短期記憶において4が「マジカルナンバー」と言われています。この発想は、メンバーに仕事における原理原則を伝える際にも活用できます。

ですから、ルールをつくったり、理念や守るべき原則を示したりする時には、最大でも4つに絞ったうえで伝えたほうが、より深く浸透し、実行度も高くなるでしょう
また、仕事を与える際にも、ひとつの案件に対して「AとBを注意して、Cを確認してから、Dを実行してほしい」というように、タスクを4つ以内に収めると、より成果が上がりやすいはずですから、意識してみてください。

 

②マニュアルは暗記させなくていい

ディズニーのキャストには、実はマニュアルが存在しません
どのボタンを押せばアトラクションが動くか、止まるか、といったような動作を記した手順書はあります。しかし、「お辞儀の角度」「笑顔のつくり方」というようなサービスマニュアルは存在せず、キャストは企業理念である「ゲストのハピネスを提供する」ことと、「SCSE」という行動基準以外、ほぼ従うべき事柄はないのです。

以前、パーク内のレストランのキャストが、男性のゲストからこんな相談を受けたことがありました。
「サプライズでプロポーズしたいから、婚約指輪を料理に隠してくれませんか」
キャストは、基本的にゲストから物を預からないということは共通認識になっています。これはもちろん、万が一無くしたり、壊したりしたら大変だからです。
しかしそのキャストは、婚約指輪を預かり、ディナーコースの締めくくりであるデザートの中に忍ばせました。

そして結果的に、プロポーズは大成功。後日、その男性ゲストからキャスト宛に一通の手紙が届きました。
「あなたのおかげで、私たち夫婦にとって一生忘れられない思い出になりました。もしよければ、結婚式に出席してもらえませんか」と、そこには感謝の気持ちが綴られていたのです。
このキャストがなぜこのような行動をしたのかといえば、ディズニーの企業理念である「ゲストにハピネスを提供する」ことを優先させたからに他なりません。
そして、それをリーダーに事後報告したところ、大いにキャストは褒められたといいます。つまりリーダーもまた、同じ価値観を持っているのです。

あなたが人を育てる時にも、サービスマニュアルを暗記させるのではなく、まずはディズニー流に「スタッフとしてこうあってほしい」という理念と、大切にすべき「行動基準」をしっかりと伝え、そのうえで判断を任せてみてはどうでしょう。

 

③頼みごとをする時は、理由も添える

ディズニーでは、キャストのモチベーションを何よりも大切にしています。だからキャストに対し、指示を押し付け、頭ごなしに従わせるようなことは行いません。どうやって指示を出しているかといえば、必ずその行動の裏にある、理由も合わせて伝えるようにしています。
たとえば、パーク内の清掃を担当するカストーディアルキャストは、「チリトリは、腰骨のあたりに着けて持ちましょう」と先輩から教わります。なぜかといえば、走ってきた子どもなどにチリトリが当たることを防ぐためです。
このように指示に理由を合わせて伝えることで、メンバーも納得してそれに従うことができるのです。

アメリカの心理学者エドワード・デシは、リーダーはメンバーの「内発的な欲求」を満たすことがモチベーションにつながると説いています。この内発的な欲求を要約すると、次の3つとなります。
・自分の意思で自発的に行動を決定したいという「自律性の欲求
・自分の持つ能力を発揮して目標を達成したいという「有能さへの欲求
・周囲との結びつきを得、自分の価値を認められたいという「関係性の欲求

では、具体的にどのようなことを意識すればいいか。冒頭で登場した、「指示する時には理由を添える」というのは、本人が納得した上で行動してもらうための手法であり、「自律性の欲求」を満たします。その他に、モチベーションアップにつながるノウハウとして、「うまく目標設定を行う」ということがあります。
まず、できるだけ具体的に目標を設定することで、それを達成したいという「有能さへの欲求」が刺激されます。やるべきことに対し、リーダーが「とにかくがんばろう」と言ってばかりでは、目指すべきところがわかりません。「今期の目標は○○円で、あと○○円で達成できるから、がんばろう」というように、数字や事実などで明確に伝える必要があります。
なお、目標を定める際は、簡単にクリアできるものではなく、少し高めに設定すると「有能さへの欲求」がより高まります。
さらにいうと、この目標を本人に定めてもらうように計らうことができれば、「自律性の欲求」を満たすことにつながります。また、目標を仲間の前であらかじめ発表することで「関係性の欲求」も上がります。

これらをうまく組み合わせれば、あなたのメンバーもディズニーのキャストのようにモチベーション高く働いてくれるでしょう。

(画像提供:iStock.com/monkeybusinessimages)

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